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大淀パソコンスクール

作者:おかぴ1129
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二人は順調
  夜

 その後は特に何事もなく授業は終了。Excelの中では比較的難易度の高いグラフ作成だったが、ソラール先輩の暖かい指導の元、神通さんは何かコツを掴んだらしい。練習で作成したグラフは、ことごとく綺麗に仕上げた後、タムラさんたちと共に談笑しながら教室を後にした。

 やがて日没を向かえ、ソラール先輩は『太陽……俺の太陽よぅ……』などとぶつぶつ呟きながら、うつろな眼差しで(兜で見えなかったけど、多分そんな目だったと思う)帰って行った。今事務所には、川内を待つ俺と大淀さんの二人だけだ。

 川内がやってくるのを戦々恐々で待ちながら、俺は今日の授業の進捗をAccessで記録していった。

「インデントの調整方法を確認。留意点は特に無し……と」

 フと気になって、神通さんの備考欄を覗いてみる。神通さんは、俺にとっての川内と同じで、ソラール先輩が専任のようになっている。ゆえに神通さんのデータは、ソラール先輩しか書き込んでないのだが……

――気分的には太陽メダルを5枚ぐらいあげたいところ。
  制約の決まり故に一枚しか進呈出来ないのがもどかしい。
  太陽は愛情に満ち溢れているが……それを許してはくれないだろうか。

 相変わらず意味不明だ。進捗はちゃんと書いているから問題ないのだが……先輩なりの賛美の仕方なんだろうなぁ。頭の中のはてなマークは消えないけれど。

「カシワギさん」
「はい」

 唐突に大淀さんに声をかけられ、俺は慌てて神通さんのウィンドウを閉じる。別にやましいことをしているわけではないのだが、いきなり声をかけられると、不思議と今開いているウィンドウは閉じなければならない衝動にかられる。

「業務基幹ソフトの進捗はどうですか?」
「ああ、ただいま勉強中ですが……おれはAccessは持ってないので、どうしてもここでの開発がメインになります。そうなると、中々進まないですね」
「なるほど」

 俺の言葉を受けた大淀さんは、マウスをカチカチといじり始めた。今俺と大淀さんはさし向かいの状態だから、彼女がパソコンで何をやっているのか見えない。

「……あ」

 パソコンの画面をジッと見つめる大淀さんが、小さく声を上げた。何を見つけたんだろう……なんか不安になるな……。

「カシワギさん、2013でいいなら、ライセンスが一つ余ってるみたいです」
「そうなんですか?」
「勉強用のパソコンにインストールしますんで、今度持ってきてもらっていいですか?」

 それは助かる……そうすれば家で勉強もできるし、開発の進捗も劇的に上がるぞ……!!

「わかりました。じゃあ明日にでも持ってきます」
「はい。お願いします、これでAccessの勉強も出来ますし、開発も出来ると思います」
「ですね。ありがとうございます」
「いえいえ。こちらはやってもらってる側ですから。ああ、それとあとひとつ」
「はい」
「そろそろ授業も問題ないと思いますので、次回の川内さんの授業からは、一人でクローズまでやってもらいたいのですが……」

 そういやもう一ヶ月だもんなぁ……まぁこの間にクローズ業務は何度もやらせてもらってなれたし、そろそろ一人で担当してもいいかもしれないな。仮に授業で分からない事があったとしても、今ならすぐに探し出せる自信もある。

「わかりました。じゃあ次回からは、川内の授業は一人でやりますから」
「はい。おねがいしますね」

 ニコッと微笑む大淀さんに癒やされ、俺は嵐の来訪を待つ。時計を見ると、午後7時5分前。そろそろヤツがやってくる頃なのだが……

「……!?」

 突如、背中にゾクッと走る悪寒を感じた。

「何事ッ!?」

 慌てて入り口のドアを見る。ドアノブがひねられている。ついに来るのか!? 来てしまうのか!? この平和な時間が、終わってしまうというのかッ!?

「……やッ!」

 ドアはまだ、隙間程度しか開いていない。にもかかわらず、大きな声がドアの向こうから聞こえてくる。ゴウンゴウンという音とともに、重々しく開かれていくドア。幻覚だろうか。開いた隙間から、ドライアイスのような煙が立ち込めているのが見えた。

「……せッ!!」

 今までは、自身の重みで開閉に抵抗していたドアだったが、ついに白旗を上げたようだ。限界までドアは開かれ、その向こう側にいる人物が姿を表す。このフラッシュライトのような眩しい笑顔……つやっつやのツーサイドアップの黒髪……そして何より。

「んんんんんんんんんんん!!!」
「おあああああうるさいぞ川内ッ!!」

 こちらの鼓膜にクリティカルなダメージを与えてくるこの絶叫……来てしまった……川内が来てしまった……ッ!?

「せんせー!! 今晩も来たよ!! 夜戦しに来たよ!!!」
「だから夜戦じゃないって言ってるだろうがッ!!」
「ぇぇええええ!!? だって夜のパソコン教室なんだから夜戦でしょっ!?」
「夜は合ってるけどOfficeは戦いじゃないんだバトルじゃないんだコンバットじゃないんだッ!!!」
「違うの!? 夜戦じゃないの!?」
「だから違うって言っとるだろうがっ!!」
「え……ほ、ほんとに……?」

 俺の全力の否定を受けた川内の顔から、血の気がどんどん引いてきた。あれだけ眩しかった川内の笑顔が消え、ギラギラと輝いていた瞳からは少しずつ確実に、ハイライトが消えていく。え……そんなにへこむことなのこれ……。

「そ、そんな……夜戦じゃないだなんて……」

 血の気だけじゃない。輝きがみるみるくすんできた川内の顔は、目に見えて表情が落ち込んでいく。瞳からはハイライトが完全に無くなり、無駄に生命力にあふれていた全身から生気が抜けてきているのが、手に取るように分かる。

「お、おい……」
「ダメだせんせー……夜戦じゃなかっただなんて……ショックだ……」
「あの……」

 やばい……なんだこれ。俺は何も間違ったことは言ってないはずなのに……川内のこの様子を見てると罪悪感が半端ない。俺の良心にマチ針がグサグサと刺さってくる。

 見ていて痛々しいほどに意気消沈した川内は、がっくりと肩を落として猫背のまま教室に向かってフラフラと歩をすすめる。ちっくしょ……いつもみたいに元気いっぱいじゃないと、こっちもなんだか調子が出ない。

 いつもの席に座った川内のパソコンに電源を入れ、OSを選択してあげる。その間も川内はうつろな眼差しでOS立ち上げ中の画面をぼんやりと眺めている。なんだこの生ける屍は……まるで生気が感じられない。呼吸してるかどうかも怪しい。その目は、悪い意味で瞳孔が広がっていて反応がない。ここに医者がいれば、確実にこいつの瞳孔をライトで照らして『ご臨終』の三文字を突きつけているはずだ。

 川内の周囲の空気が、どんよりしてて黒寄りの灰色に曇っている。じとっとしてて、沈み込んで淀んでいる。川内の消沈した気持ちが漏れ出しているのか……。

「……」
「……」
「……」
「……」

 ……ぁあくそッ!! 我慢できないっ!! この、沈み込んで痛々しい空気に耐えられないッ!!

「……わかったよぉおお!!」
「……へ?」
「夜戦でいいよ夜戦で!! 俺の負けだ負け!!」

 俺の白旗宣言を受けた川内の瞳に、直後ハイライトが戻った。

「ほんとに? ホントに夜戦でいいの?」
「いいよ! だから機嫌直せよ耐えられんっ」
「ぃぃいいいやったぁぁあああああ!!! 夜戦だぁぁああああああ!!!」

 ……いいのか? 俺の夜戦認定を聞いただけで急に空気が軽くなった……表情の明るさが1000ワットほどアップして、灰色に淀んでいた空気が途端に暖色寄りの透明を取り戻した。……こんなことで機嫌治すのか? ちょっと素直過ぎない?

「よぉぉおおおし! 今晩も夜戦がんばっちゃうよぉぉぉおお!!」
「はいはい……」

 いささかの疑問がないわけではないが、機嫌が治ったのならいいとしようか。これだけパワフルなこいつの元気がないと、こっちのペースがとてつもなく乱れるということもわかったし。

「んじゃせんせー!! 今日は何を作ればいいの?」
「昨日の続きではがきだ」
「今まで散々作ってきたのに?」
「そう。だけど今日は、お手本はない。この前みたいに自分で文面を考えて、自分で一からはがきを作ってみ」

 授業ではスキル習得のために、どうしてもお手本通りに作らざるを得ないのだが……やはりそれではトラブルシューティング的なスキルしか身につかない。自分で文面や構成を考え、それに合致した機能を自力で選べてこそ、スキルが身についたといえる。

 だからこの教室では、単元のどこかで、お手本無しで自分で一から文書を作る時間を設けてある。今日の川内がそれだ。今回の授業では、自分ではがきの文面を作成し、それに合うイラストを入れて、完成までを自力で行う。

「なんでもいいの?」
「なんでもいいぞ。好きなはがきを作れ。わからなかったら聞いてくれて構わない」
「横書きとか縦書きとかも好きにしていいの?」
「おう」
「りょうかいっ」

 先ほどの意気消沈っぷりから随分とかけ離れた眩しい笑顔で、こちらに敬礼をする川内。顔がべっぴんなだけに、こんな普通のことをされると可愛くて仕方ない。川内のくせに。

「と、とりあえず作れいっ」
「?」

 くっそ……こんな夜戦バカに照れてる自分が嫌だ……。

 川内は俺の様子に疑問を感じつつも、はがきの作成に入ったようだ。紙のサイズをハガキに変更し、余白を『狭い』に変更する。ここまでは大丈夫。まったく問題ない。

「んーと……」

 しばらく考えた後、文章は縦書きで、印刷方向は縦を選択したようだ。古式ゆかしい、日本のハガキの様相だな。

「や、せ、ん……」

 そして、ほぼこちらの予想通り『夜戦へのお誘い』というタイトルを入力し、続く文面で、読む人をめくるめく夜戦ワールドに勧誘しはじめる川内。一体夜戦の何がお前をそこまでかきたてるんだ……。

 『文書作成は、何はともあれまず入力を済ませる』の鉄則に従い、川内はまず入力を済ませていく。時々『んー……』と考えこみながらではあるが、Wordの授業の中でいつの間にか作文能力も上がってきたらしい。いっぱしのはがきの文面が出来上がっていた。

「せんせー、文面これでどお?」
「んー……いや、いいんだけど……」
「ふん?」

 くそっ……だからその、きょとんとした顔で相槌打つの止めろって……なんかグラッてくるから……!

「いや、文章としてはまったく問題ないんだが……『過ごしやすい夜の時分に夜戦などいかがでしょうか?』ってのが、お前らしいなぁって思ってさ」
「だってさ。夏こそ夜戦でしょ!!」

 あー……だからはがきの文面に『6月』って入れたのね……今は11月なのに……夜戦の旬って、6月なのね……初耳だわ〜……。そら川内も、鼻の穴を広げて水蒸気を吹き出すわー。

 夜戦の旬の季節という、至極どうでもいい情報を俺に教えてくれた後も、川内のはがき作成作業は続行される。『夜戦へのお誘い』という魅惑のタイトルのフォントサイズを大きくし、フォントを毛筆体に変更した川内は、続いて本文の部分の文字を14ポイントに設定したところで、眉をハの字にした。

「ん?」
「……」

 画面を覗き込む。14ポイントに設定された本文は、行間が開いてとんでもないことになっていた。はがき一枚分では収まらず、二枚目に突入してしまっている。

「あー……それな。14ポイントで行間が一気に開くんだよな」
「そういやタイピング練習の時も14ポイントでやってたね。あの時は『隙間が開いて見やすくていいわー』て思ってたけど……どうすりゃいいの?」
「方法としては、フォントサイズを12ポイントにするか、隙間を詰めるかのどっちかだな」
「隙間ってどうやって詰めるの?」
「『段落グループ』のとこにちっちゃい四角マークみたいなのがあるだろ?」
「どこ?」

 本文がちゃんと選択されてることを確認したうえで、俺は胸ポケットからボールペンを取り、それで段落グループのところの小さい四角を指し示してあげた。他のボタンに比べてとても小さい上に、隅っこにあるから見落としやすいんだよな、これ。

「これ。クリックしてみー」
「うん」

 言われるまま素直にクリックする川内。ダイアログが開き、見慣れない小難しい項目が並んでいて、川内のヤル気を削いでくる。

「うへぇ〜……難しそう」
「その中に、『文字を行グリッド線に合わせる』て項目があるだろ? そこクリックして、チェックはずしてみ。そしたらOKボタンをクリックだ」
「りょうかーい」

 言われるままにその部分をクリックし、チェックを外してOKボタンを押した川内。次の瞬間、さっきまであんなに開いてた行間が、みちっと詰まった。

「ぉお!?」
「これで一応、隙間は詰まる」
「ありがと! これで夜戦もバッチ……リてわけでもなさそうだね」

 確かに隙間は詰まったが……それでも、二枚目にはみ出しているのは解消されなかったようだ……。

「……まいっか! サイズは12ポイントで我慢しとくよ!!」
「んー。そうしとこう」

 無理矢理詰める方法もないわけではないが……素直に12ポイントにした方が楽だしな。

 続いて川内は、はがきの差出人の部分の編集に入る。はがきの差出人の部分は基本的に下揃え。郵便番号と住所は、氏名よりもやや上に上げのが定石だ。インデントをずらして一行一行調整していく方法もあるが……

「んーと……よしっ」

 川内は、一度すべてを下揃えにした後、郵便番号と住所の行だけ、スペースを入れて調整する方法を取ったようだ。いい感じだ。下揃え→スペースの順番もきちんと守ってるし、機転も効いてる。

「イラストも入れる?」
「入れちゃえ」

 キラッキラの瞳で『了解っ』と言った川内は、迷うことなくオンライン画像で『夜戦』の画像を検索していた。だが、やはりそんなものは見つかるはずもなく……

「見つからないなら他のイラストでも入れたらどうだ?」

 という俺のアドバイスを受け、蚊取り線香のイラストを挿入していた。なぜ夜戦でそのチョイスなのかは意味不明だが、サイズ変更も文字列の折り返し設定も問題なし。はがき作成は、問題なく終了した。

「できたー!!」

 川内、お疲れ様でしたー。

「詰まることもなかったし、スムーズに出来たなー」
「やったよせんせー!!」
「印刷して保存しときな。俺が取りに行くよ」
「ありがと!!」

 川内が印刷ボタンをポチッと押したのを確認して、俺はプリンタの元へと向かう。がっちゃガッチャという音と共に、プリンタから吐き出されたはがきには、先ほど川内が作成した『夜戦へのお誘い』という、なんとも川内らしい力の抜けるタイトルが、力強く印刷されていた。

「どうですか? ……ぶっ」

 様子が気になるのか、大淀さんも完成したはがきを覗き込む。はがきを一目見た大淀さんは、上品に口を右手で隠しながら、プッと吹き出していた。

「せ、川内さんらしいですね」

 ひとしきり笑いをこらえた後、やっと出てきた感想がそれだった。このはがき、確かに出来はいいのだが……いかんせん、文面がコチラの力を抜いてくる。……まさかこれが狙いってわけじゃないだろうな。こうやって、相手を油断させるのが目的ってわけではないよな……?

「まぁ……よく出来てます」
「ですね。これなら問題なく次に進めるでしょう……ぷっ」
「どおどお?」

 待ちくたびれた川内も、俺達のもとにやってくる。俺の左隣に来て、ちょっと背伸びしてはがきを覗き込んできた。

「ほれ」
「んー?」

 くっそ……こいつ、思ってる以上にパーソナルスペースが近いぞ……おれのパーソナルスペースを平気で侵食してきやがる……ッ!! しかも見ての通りべっぴんだから、普通のことをされると、それだけでもうやたらとよろしくない……ッ!?

「おっ! いい感じ!!」
「だな。文面以外は完璧だ」
「ぇえ~! 文章これじゃダメなの?」

 読んでる人の力を抜いてくる文章がイイとは言えん。大淀さんを見てみろ。お前のはがきを読んでからこっち、笑いをこらえるのに必死じゃないか。

「ぁあ、そうだそうだ。2人にちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」
「俺の寸評は無視かッ!?」
「はい。どうしました?」
「神通を担当してくれてる先生のことなんだけど……」

 ああ。あの、人格的には素晴らしいけど、お前に負けず劣らずの変態太陽戦士のソラール先輩か。……とは口に出せず……。その言葉を喉元で必死に堪える俺に変わり、笑いがある程度収まった大淀さんが応対してくれた。

「ソラール先生がどうかしました?」
「好きな食べ物とかあるの? 神通が知りたがっててさ」

 昼間の神通さんの反応を思い出す俺。彼女、ソラール先輩が自分を担当してくれると知って、花開いたかのように笑顔になったもんなぁ。

――今日もよろしくお願いしますソラール先生!

「ほーん。神通さんはあの変態太陽戦士ソラール先輩にやられっぱなしか」
「? 太陽戦士?」
「お前に負けず劣らずの変人っぷりだ。鎧兜に身を包んでるが、それぞれに作画担当ソラール先輩のシュールな太陽のイラストを載せてる」
「そうなんだ」
「太陽みたいにでっかく熱くなりたいんだと。お前そっくりだけど、そこだけは正反対だな」
「負けてられないね!!」

 いや、対抗意識を燃やすところじゃないだろう……? そこは、人の振り見て我が振り直すところだろう……? 今俺の目の前で、ファイティングポーズを取りながら戦闘意欲を前面に押し出す夜戦バカは、そんな社会人として当たり前のことにも、気がついてないらしい。

「そうですね……考えてみれば、ソラール先生が好きな食べ物って何なんでしょう……聞いたことないですね……」

 大淀さんがそういい、自分の顎に手を当てて考え込む。

「そなの? 確かあの人、この教室が始まったときからいるよね?」
「ええ。でもお昼を一緒に食べたりしないですから。いつもお日様の下でエストを飲みたいって言って、外出しちゃうんですよ」

 その『エスト』とやらに対する疑問は尽きないが……それ以前に、大淀さんがソラール先輩の個人情報を知らないことが驚きだ。飯を一緒に食べる機会がなければ、確かに好きな食べ物の話題なんて、出ないのかもしれないなぁ。

 でも、あの人なら何だって『うまい! まるであの眩しい太陽のようだ!!』とか言って、何だって食べそうな気がするけど。あの性格だし。もらったものを邪険に扱うような風には見えん。

「あの人は、多分好き嫌いはないと思うぞ?」
「そうなの?」
「おう」
「んじゃ神通にはそう伝えておくね。二人共ありがと!」

 俺からはがきを受け取った川内は、そう言って俺たちに対し、屈託のない無邪気な笑顔を見せた。不思議とその時の笑顔は、暗くもなければ眩しすぎもない、見ていて温かい温度だけが伝わる、心地いい笑顔だった。

「……!?」
「ん?」
「バカやめろ……ッ」
「何を?」

 口には出せん……色々とよろしくないなどとは、口に出せんッ!!

「ちなみにせんせーはさ。何か好きな食べ物はあるの?」
「俺か?」
「うん」
「そうだなぁ……」

 人間不思議なもので、面と向かってそう言われると、自分の好物が何かわからなくなる。俺も不思議とこの時、頭に何も思い浮かばなくて、さっきの大淀さんよろしく、顎に手を当てて眉をハの字にして、考え込んでしまった。

「んー……」
「ん?」

 ……あ、おはぎ。きなこのやつ。

「おはぎが好きだな」
「男の人で甘いものが好きって珍しいね」
「俺は甘党だからな。特にきなこが好きだ」
「へーめずらし」
「……」
「……」

 ……会話、終わりかいッ!?

「神通がそのうち何か差し入れ持ってくるかも。『お世話になってるみなさんに何かお返しを……』てよく言ってるから」
「了解です」
「あいよん」

 神通さん……いい子だなぁ……こっちは仕事でやってるんだから、お礼なんて別にいいのに……それに引き換え……

「よぉぉおおおし! んじゃ次だぁああああ!!」

 両手を大きく上に突き上げ、そう吠える川内の背中を見守る。あいつはいつもあんな調子で……頭が痛い……。

「クスクス……カシワギさん?」

 何とも言えない気持ちで川内の後ろ姿を見守る眺めていたら、とても優しい大淀さんの声が俺を読んだ。振り返ると、彼女は口を押さえ、くすくすと笑いながら俺を見ている。何か言いたいことがあるのか?

「どうしました?」
「いえ……プッ……この後も、授業よろしくお願いしますね」
「はぁ」

 なんか意味深だなぁ……大淀さんの言葉に若干の疑念を感じつつ、新たなテキストを手にとって、俺は川内の後を追って教室に入った。

「んじゃ授業に戻るぞー」
「はーい。次は何やるの?」
「もう一枚はがきを作った後、表の作成方法を学ぶ」
「りょうかい! じゃあ夜戦参加者の一覧表を……!!」
「あのハガキで本当に夜戦に人を招待するつもりかッ!?」

 
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