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第三章

「本当に」
「オーディションに受かった」
「そのことがですか」
「そう、あの時オーディションに受かったから」
 デビューとなったヒーローのオーディションにというのだ。
「だからだよ」
「今があるから」
「それでなんですね」
「そう、俺は運がよかったから」
 こう唯と夏織に話す。
「合格してだから、運が悪かったら」
「ヒーローになってない」
「そうなんですね」
「そうだよ、ヒーローになれたのは」
 まさにというのだ。
「運がよかったからだよ」
「じゃあ運が悪かったら」
「今の柿屋さんはないですか」
「そうだよ、確かにヒーローになれて嬉しかったし」
 憧れの存在だっただけにだ、なれて嬉しくない筈がない。
「今も言ってもらってることがね」
「嬉しいんですね」
「そうなんですね」
「そうだよ、本当に嬉しいよ」
 実際にというのだ。
「今もそう思ってるよ、けれど運がよかっただけだから」
「あのヒーローになれたことは」
「そうだっていうんですね」
「そうだよ、俺はヒーローになったんじゃなくてね」
「運がよかったからなれた」
「なったんじゃなくて」
「そうだよ、そう思ってるよ」 
 こう話すのだった、二人にいつもそうしていた。そしてある収録の日にだ、収録現場の録音の人が徹也を含めた声優陣に言った。
「外暗くなって雨だからね」
「そうなんですか」
「さっきから急に降ってきてね」 
 それでとだ、徹也にもした。
「だから男の人は女の子達送ってくれるかな」
「帰りですね」
「うん、暗いし雨だから」
 だからだというのだ。
「そうしてね」
「わかりました」
「そうさせてもらいます」 
 徹也以外の男性陣も録音の人に答えた。
「じゃあそうして」
「帰りはボディーガードですね」
「頼むよ、暗いだけでも危ないし雨だとね」
「視界が余計に悪くなって音も聞こえないし」
「余計に危ないですから」
「女の子達を守ってね、皆ね」
 録音の人はここで女性声優陣を見た、見ればどの娘も若くて可愛らしい。その中には唯と夏織もいる。見れば着ている服も可愛い感じだ。
「可愛いから余計にね」
「はい、ガードしないと」
「何かあったらよくないですから」
「宜しくね、あと送り狼にはならないでね」
 録音の人は最後の言葉は笑って言った、そしてだった。 
 女性声優陣は帰り道は男性声優陣が守ってそれぞれの家まで帰ることになった。徹也は唯と夏織を送ることになったが。
 この時にだ、録音の人に言われた。
「二人は実は同じマンションに住んでてね」
「あっ、そうなんですか」
「しかも同じ階だから」
「マンションのその階までですね」
「送ってくれるかな」
「わかりました」
 徹也は録音の人に笑顔で答えた。
「それじゃあ」
「頼むね、柿屋君はヒーローだから」
 録音の人もこう言うのだった。 
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