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その日はいつかやって来る

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12


 現在、2隻の逆天号が衝突し、壊れたベスパの逆天号を、新しい方が吸収している。 この煙の中から出るのは1隻だけと言ったあいつ。 パピリオの席は空席だが、ベスパはどうなる、殺すなと言ってはいたが…

「ハニワ兵っ、妖蜂を出しなっ、宇宙でも魔力と根性で飛ばせろっ! 逆天号も駄目なら自沈させて、ポチの逆天号も道連れにして異界に沈めてやれっ!」

「だめでちゅ、もう勝手に動いてまちゅよ」

「何っ? コントロールを奪われてる? どうやって」

 やがてデッキに上がったベスパ達がモニターに映され、周りを見回して驚いている表情が見えた。

「ベスパちゃん、あれ」

「何だ、あれは? 妖蜂じゃない」

 雲霞の如く周囲を飛び交うアンドロイドを見て、呆然としている二人。

「くそっ! ポチの奴余裕かっ? どうして攻めて来ない、妖蜂と戦わせろっ」


「違う、妖蜂はこっちに来い、その船はもうすぐ吸収される。 おまえ達が帰る場所はここだ」

『発進する妖蜂を確認、回収します』

「待てっ、お前らどこへ行くっ!」

 古い逆天号から、こちらにに移って来る妖蜂達。 ベスパより強い念波を送る神無か、死んだ逆天号に代わって、こいつに操られているようだ。

「ベスパさんとパピリオさんですね? 横島君が待ってますから、どうぞこちらへ」

 そこで二人の前に、大昔のセーラー服にエプロンという、大気圏外では有り得ない服装の女が転移、いや、目では追えない速度で現れた。

「何者だっ! 人間じゃないな? 宇宙でも平気で… そうか、お前も報告にあったアンドロイドかっ」

「はい、私は小鳩っていいます、凄い旧式ですけど、これでも2500マイトぐらいありますから、大人しくしてて下さいね」

「「2500マイト?」」

 手伝いと性処理用のセクサロイドが2500マイト… その程度でなければバラバラになるのかもな。 よく生身の神無や朧が持っていたものだ。

「せやっ、よう言うた小鳩っ、お前はもうドジでノロマな亀やないでぇ、これからは魔界で大輪の花咲かせるんやっ」

「あ、これは友達の貧ちゃん、福の神なんです」

「そんな事はどうでもいいっ、ポチはどこにいるっ!」

 コバトの胸倉を掴み、恫喝しているベスパ。 現状を認識していないようだが、そいつはお前より強い。

「ええ、これからご案内します。 でも私には余り触れないで下さいね、私の力は機械でも魔物でも壊してしまう「破滅の手」ですから」

「ひっ!」

 ほの暗い手の闇を見せられて、本能的に距離を取ったベスパ。 確かシルクにも同じような事を言っていたな「機械に触るだけで壊すタイプ」だと。

「じゃあ、パピリオさんはこちらへどうぞ、ベスパさんは少しお待ち下さい」

「は、離すでちゅっ!」

「パピリオッ!」

 パピリオを小脇に抱えると、また消えたコバト。 ベスパも成すすべも無く見送っていたが、気を取り直して、こちらに向かって飛び始めた。

 ビュウウン!

「ぐああっ!」

 飛び立って間もなく、古い逆天号の上に叩き落されたベスパ。 そこで画面のノイズだと思っていた所から神無が現れた。

「お前は待っていろと言われたはずだ」

「クソッ! その触角? アタシの妖蜂を盗んだのはお前かっ!」

「人聞きの悪い事を言うな、古い宿主が死んだので、新しい宿主に移っただけだ、下を見て見ろ」

 神無に指差され、吸収されて行く逆天号の結合部を見ているベスパ。 神無への警戒は怠っていないようだが、見えない所から攻撃されるような相手なら、戦いにもならない。

「あれは… どうして繋がっているっ?」

「さあな? ヨコシマはこう言っていた、「逆天号とアシュタロスの魔体は同時に2つ存在してはならない」と、そして「俺達が交代する時、あいつも沈む、重なって影となって消える時だ」とな」

「何だって?」

 理解出来ない言葉に困惑するベスパ、私の報告を読まなかったな。 それとも故意に聞かされずに送り込まれ、ここで死ぬ運命なのか。

「分からないか? ではこれも教えてやろう。 ヨコシマは「俺はアシュタロスだ」とも言った、「どこの誰だか知らないが、俺達を切り分けて、中身も外見も使命も、全部逆にした奴がいる」と」

「ふっ、バカな、あのポチがアシュ様だと、笑わせるんじゃないよっ!」

 神無の口を塞ごうと、エネルギー弾を打ち込むベスパだが、そんな物はかすりもしなかった。 2度目は無駄だと教えるように、掌の中で握り潰され、掻き消された。

「認めたくないようだな。 だが魔体、逆天号、南極基地、全ての符号が重なり合っている、それも正反対に。 では私にも教えてくれないか? お前のアシュタロスは、南極で基地を犠牲にしてまで、何を取り戻したかったのかを」

 そう聞かれ、驚いているベスパ。 戦いにもならない状況に絶望する奴ではないが、目の前の見知らぬ女が、アシュタロスとベスパしか知らない、千年前に行われた儀式の目的を聞きたがっていたからだろう。

「知らんっ! そんな物は無かったっ!」

「そうか、殺すなとは言われたが、口を割らせる方法はいくらでもある」

 ベスパの全ての攻撃を、虫でも払うようにして、ゆっくり近付いて行く神無。

「おっ、お前は何者なんだっ!」

「横島神無、あの人の妻だ」

 神無も、月神族とも警官隊隊長とも名乗らなくなった。 迷惑をかけないためか、それとも他の肩書きは全て不要になったのか。

「友人達の遺言を叶えようとしたのか? それとも摩擦を生み出して、この世界の破滅を防ごうとしていたのか?」

「違うっ、違うっ!」

「そうか、時空の彼方に消えた恋人の、魂だけでも取り戻そうとしていたのだな?」

「言うな~~~っ!!」

 狼狽して、何の方策も無く、ただ突っ込んで行くベスパ。 図星だったのだろう、分かりやすい奴だ。

「お前の目と表情が全てを語った、ゆっくり眠るがいい」

「う… あ……」

 首の後ろに手刀を打ち込まれ、ベスパが崩れ落ちて行った。 神父のように吹き飛ばなかった所を見ると、手加減はできるらしい。


「横島君っ、パピリオちゃんを連れて来たわっ」

「離すでちゅ!」

「ああ、ご苦労さん、危ないから離れててくれるか?」

「はいっ」

 パピリオを置くと、また消えたコバト。 あれを目で追えるようになれば、超加速など問題では無くなるだろう。

「よくも逆天号を壊したでちゅねっ! もう許さないでちゅ!」

 ハヌマンの所で修行して、多少の力は付けたようだが、旧式と言ったコバトにさえ、易々とさらわれるようでは問題外だ。 さあ、どう戦う?

「よ~う、パピリオ~、久しぶりだな~、直接やり合うのは何年ぶりだ?」

 こちらは当時の弱かった頃が嘘のように、恐ろしいオーラを発散している。 船の中からでも、あいつがどこにいるか、どんな力を持っているか感じられる程だ。

「ひっ! お前、本当にポチでちゅか?」

「そうだ、ルシオラと混ざった後、バンパイアの力と、不死の魔法を教えて貰ったけどな」

「人間のくせに、そんな力が付くはずないでちゅっ!」

「どうした? かかって来いよ、お前に借りがある奴が、どうしても戦いたいらしくてな」

 そう言って、また魔装して行くあいつ。 パピリオ如きにその必要は無さそうだが、これも遺言か? いや、カオスと同じで経歴まで調べて、叶えたかった夢は全部叶えようとしているのだろう。

「それ、あたちに南極でグチグチと細かい攻撃した弱っちい奴」

「覚えてたか? 昔は女の前で一発でやられて、恥をかかされたそうだからな。 今度はタイマンでやって勝ちたいらしい」

「何回やっても同じでちゅ… そんなの怖くないでちゅ!」

 そう言いながら、どんどん後ろに下がって行くパピリオ。 そうだ、逃げられるなら逃げた方が懸命だ。 ベスパのように簡単にはやられるなよ。

「来ないなら、俺から行くぞ」

「ガッ、ガアアアアアッ!!」

 そこで恐怖感に負けたのか、獣のような声を上げてパピリオが巨大化して行った。 ハヌマンに教えられた術か? だがどれだけ力を出しても、あいつには及ばない、大人と子供以上に差がありすぎる。

「行くでちゅっ! ポチーーーーッ!!」

「やれるもんならやってみろっ」

 ドンッ! ガアアンッ!

 発光しながら巨大な如意棒を振り回すパピリオ。 術と言うより、如意棒を持った者を巨大化させる効果があるのだろう。 そして力の源は、皮肉な事にこの逆天号らしい。

「どうしたっ? まさかその程度じゃないだろうな。 本気を出してみろっ」

「ガアアアッ!!」

 超加速はしているが、何とか私の目で追える程度だ。 隊長のようなとんでもない速さではないが、あの破壊力は… この船が先に壊れるんじゃないか? それに一発でも食らったら、あいつもただでは済むまい。

「まだまだだな… ダンピールフラッシュ」

「グオオオオッ!」

 如意棒はかすりもしないで、パピリオの手の上に立ったあいつが、ダンピールフラッシュを放った。 小さな傷口から血が噴き出し、その血を受けた逆天号が光っている。 これが儀式、あいつらが生贄なのか?

「ウオオオオッ!」

 自分の髪の毛を千切って、周りに撒くパピリオ。 ハヌマンの数多い技の一つ、分身か。

「へえ、そんな事もできるようになったのか、俺には教えてくれなかったのに、よっぽど気に入られたんだな」

 元の大きさのパピリオや、巨大なパピリオの分身に取り囲まれ、霧になって消えたあいつ。 そこまで追い詰めただけでも立派なものだ。

「あんまりちょこまか動くなよ、間違えて本物を真っ二つにするかも知れないからな」

「ゴオオッ!」

 神通棍を鞭にして、順番に分身を倒して行くあいつ、そこで怯えたのか、雲を呼んで逃げるパピリオ。 いや、速度を上げてこちらに突っ込む気だ。

「それでいい、もし逃げてたら、殺す所だった」

「ガアアアアアアッ!」

 一息で十万八千里を飛ぶと言われた雲、それが今、全力で突っ込んで来る。

『警告! 超高速の飛行物体が接近! 当該目標に対し、迎撃は許可されていません、耐ショック姿勢を取って下さい!』

 逆天号の警告まで出た、パピリオは以前に近い力を持っている。 それを待ち構えるあいつは、魔装を巨大化させた… これは人間の霊力では不可能だ、それにこの力、魔体その物じゃないのか?

「かかって来いっ!」

「ウォオオオオオオオン!!」

 ズドンッ!! ゴゴゴゴゴゴッ!

 逆天号から離れて迎え撃ったあいつだが、それでも相当な衝撃波が襲って来た。 直撃されていれば、逆天号も沈んでいただろう。

「強くなったな。 ちょっと惚れ直したぞ」

「ガ… グウ……」

 如意棒を払われ、鳩尾に肘を打ち込まれて倒れたパピリオ。 素晴らしい、下級魔族の身でありながら、よくぞそこまで自分を鍛え上げた。 負けたとは言え、相手は魔神だ、恥ずべき事ではない、賞賛に値する。


 やがて、元通り小さくなったパピリオとベスパを連れ、あいつと神無が戻って来た。

『パピリオ、ベスパ両名の血により、融合のキーワードを受け取りました、間もなく完全体に変化します』

「本当なら「破瓜の血」の方が良かったんだけどな」

「では私の血を使えっ、この体は「新品」なんだろ? コード7を解除して、昔みたいに血が出て擦り剥けるまでしろっ」

「じゃあ私も。 デッキの上でして、終わったら裸で歩き回って、逆天号血だらけにしてあげる」

 ベスパ達と浮気されそうで、あいつを睨んで下品な言葉を使う神無と朧。

「いや、先代の乗組員の血でないと、あっちのパスは解除できないんだ。 お前達は魔界に行った後、たっぷり可愛がってやるからな」

「えっ? うん」

「分かった…」

 真っ赤になって、また騙されている二人。 周囲に男がいないと、ここまで免疫が無くなるものなのか?

 ベスパとパピリオをゲストル-ムで休ませ、暫く経つと逆天号からの放送があった。

『逆天号Aと融合完了、融合の効果により損傷は全て修復されました。 妨害用の雲海より出ます、通信可能になるまで暫くお待ち下さい』

「そうか、ワルキューレ、頼んだぞ」

「うっ…」

 名前を呼ばれただけで、何を要求されたかすぐに分かった私。 多分、しもべとしては優秀になったのだろうな。

《聞こえるか?》

《どうなった、報告しろ》

 無線鬼を持ち、本隊と連絡を取る。 ほんの少し躊躇したが、私は何故かこう言ってしまった。

《状況終了! ベスパの逆天号が勝った。 偽の逆天号は断末魔砲を被弾して炎上、残骸は異界に沈んだ。 我々は脱出した所を回収され、ヨコシマも確保した、これより帰還する!》

《そうかっ! ベスパ達はどうした?》

《戦闘中に負傷した、ハニワ兵が治療に当たっているが軽傷だ》

《了解、よくやったと伝えてくれ》

 誰がこんな馬鹿な報告を信じるのだ? 特に神族は信じるはずが無い。 魔体を操り、惑星規模の浄化を成し遂げた魔神、いや、大天使と言ってもおかしくない奴が、アシュタロスも乗っていない逆天号に負ける訳が無い。 隊長1体でも勝てただろう。

「ご苦労さん、これでやっと任務完了だな」

「本当か? まだ何かするつもりだろう」

「そうだな、第4ラウンドがあるけど、これはすぐだ、船も動かさないで済む」

 まだあるのか…… もう、いい加減許してくれ…
 
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