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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
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第十一話 熱戦 ―エキサイト―

 
前書き
 もう今後は投稿できそうとか言うのやめようかなw フラグになって余計に忙しくなってる気がするw

 さておき。では、バトル後編です。新技モリモリの超豪華版!w 

 
 ニヤリと笑った疾風はリラを自分の体の前に突き出し、柄の部分を連結した。すると刃が延長され、両端に刃を持つ両剣へと変形する。“アンビデクストラスモード”、リラ第四の変化形態だ。

「両剣ですか、また珍しい変化形態ですね……どうしますか?」

「受けて立つのがお前の務めじゃないのか?」

「ふ……そうですね。それが私達の務めです」

「行っくぜぇえええ!!!」

 疾風はアンビデクストラスモードのリラを振り回し、片手で握る。そのまま回転させながらショウに突っ込んでいった。その後ろに紗那が張り付き、同時に向かっていく……と思いきや、途中で分身を出してシュテルのほうに向かった。それを見たシュテルは瞬時に紗那とその分身に対応することを選択。疾風の方はショウに任せることにした。両剣を武器とした疾風の攻撃は先ほどと間合いや手数に違いがあるので、自身よりも近接戦のプロであるショウの方が適任だと判断したのだ。近接戦の技能において、シュテルはショウに全幅の信頼を置いている。

 そしてこちらは対戦中の二人。二刀流対両剣という、なかなかに面白いカードになっていた。さて、両剣というのは、柄の両端に刃がついている武器だ。そのためいままでのように受け止めて弾いてしまうと、逆方向から柄の反対側についた刃から斬撃が返ってきてしまう。しかも自分が力強く弾けば弾くほど、だ。つまり自分の攻撃の威力や勢いといったものが利用されてしまい、距離を詰められると非常に厄介と言えるだろう。

 とはいえ一歩間違えれば自分の足を切ってしまうような危うい武器であり、本来扱いには槍や薙刀といった武器を使うような技量も必要になってくる。だが疾風にはその技量が身についているようで、それを見事に扱っている。

「まぁ……」

 ショウはボソッと言葉を漏らす。疾風のように一人で珍しい武装ばかりを使いこなすデュエリストは少ないが、ショウにはそれらの武器ひとつずつであればその全てと対戦した経験がある。それ故、両剣の捌き方は心得ていた。両剣は性質上、斬るためには普通の剣よりも大きな円運動が必要になる。勢いを利用して威力を増幅するということは、一度それを止めてしまえば攻撃の威力が激減するということも意味している。また攻撃を返せば別方向から刃が来るという点。それは一見トリッキーな攻撃に思えるが、二刀の時ほど軌道の変化を持たない。加えて移動速度は白刃の騎士の雷切に劣り、斬撃の速さはあの武人に劣っている。捌くことができない理由がない。

 そんな一方。シュテルは紗那の対応をしながら考えていた。

「さて……」

 二人の戦闘にフォローを入れることもできるが、特段その必要性は感じない。どれだけ敵に密着していようが忠告もなく唐突だろうが、今の相方ならば確実によけることができると信じているからだ。当然後で小言を言われるであろうが、彼女の場合それも自分たちなりのスキンシップ、などと考えていそうだ。

 シュテルはそんな思考と並行しつつ、自分の務めを考えていた。紗那の分身に纏わりつかれている状態ではあるが、彼女はロケテストで全国一位となった実績を持つデュエリスト。今までに闘ってきたデュエリストの中には紗那よりも速く、残像を残して高速移動する者もいた。その者にも勝ち越している経験があるのだから、どうすれば効率よく対応できるかということも理解している。

 しかし、シュテルは強者であると同時に先導者でもある。デュエルに負けたくはないが勝ち負けだけではなく、対戦相手に楽しんでもらうこと。そして実力のすべてをぶつけてもらうことが務めだ。故に、ただ勝利だけを求めた戦いをするつもりはなかった。

「……あれを使ってみますか」

 シュテルの口元にかすかに笑みが浮かぶ。そして自身の中に浮かんだ案を実行するために、デバイスを使った槍術と体術を駆使して紗那の分身を潰していく。しばらく分身を消し続けるが、本体は見つからない。だがシュテルはそれまでの状況を踏まえ、冷静に観察と分析を行っていた。

(これだけ分身を潰して一度も本体を引かないとなれば、近距離に攻めてくる素振りを見せているのはおそらくすべて分身の偽物。……となれば、本体はむしろ“遠方で遠巻きに見ている姿”のはず)

 無論それがフェイントという可能性もなくはないが、ここまで何もないとなれば確率は低い。たとえ更なる手があるとしても、それは今ではなく先にあるのだろう。逆境に立たされることになろうとも、それすらも楽しめてこその強者。その信念のもとに疑念を抱きつつも相手の策に乗ろうと考えたシュテルは、分身を消しつつ遠くにいる紗那を注視する。

(……そこですか)

 そして無数にいる紗那の一体と、明らかに“目が合った。”紗那は発見されたと身を強張らせるが、その時には接近しつつシュテルがスキルカードをロードしていた。自身のデバイスを、肩の高さで限界まで引き絞るように構える。灼熱の炎が渦を巻き、杖の先端部に凝縮されていく。

「それは……!?」

「さすが、よくご存知です」

 そう言いながらシュテルは一気に身体を連動させるようにを回転させてデバイスを撃ち出す。それはまさに、真紅の業火を纏った一閃。

 ショウの愛用するスキル、“ブレイズストライク”。本来はフェンサータイプが使用する近接用のスキルだが、分類で行けば突き技。シュテルは槍術にも長けており、かつデバイスにカードが適応していたので相応の威力で使うことができるのだ。

「くっ……!」

 気づかれたことを察していた紗那はリンクの刀身で受け流すが、勢いを殺しきることは当然できず、撃ち込まれた方向にビルをいくつも突き破りながら吹き飛んでいく。クリーンヒットしたという手ごたえまではなかったものの、一定のダメージはあったようで分身も消えた。これで終わりではないだろうと思いつつも、それに乗ると決めていたシュテルは紗那に砲撃で追撃を掛けようとする。

「……っ!」

 が、背後からの魔力弾が迫ってきてモーションを解除させられた。その出所は、今もショウと闘い続けている疾風。アンビデクストラスモードは両剣でありながらリラの形状はほぼ維持しているので、そのままの銃撃も可能であるらしい。

「残念だが、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

「忘れてはいません。ただショウが抑えてくれると信じていましたので」

「お前……俺を何だと思ってるんだ。完全無欠のヒーローとかと勘違いしてないか」

「していませんよ。あなたはあなた……それは今も昔も変わりません」

 今この場にいる人間で、シュテルの言葉の意味をきちんと理解できた者はいない。それは付き合いの長いショウでもだ。どんなに付き合いが長くても彼女の胸の内の中には読めないものがある。そのへんをはっきりさせてくれないこともあって彼は苦労している部分もあるのだが……

「さすがに二人は余裕だねぇ、話してる余裕があるとはな!」

「それほどでも」

「別に褒められてはないだろ……といか、何でお前はボケッとしてる」

「私の相手は彼女でしたし、楽しく斬りあっているところを邪魔するのもどうかと思いまして」

 相方からの見捨てるような発言にショウはげんなりとした顔をする。だが、ショウの相手をしている疾風の方こそそんな顔をしたくなる気分だった。

 はたから見ればショウが防戦に回っているように見えるかもしれないが、それはつまり決定打を与えられていないということも意味している。こちとら必死こいて打ち込んでいるというのに、かわされるわ防がれるわ……しかも返しての攻撃ができないような受け止め方をされてしまっているのだ。時折魔力弾も交えているのだが、当たるものはなく四方八方に散って行ってしまっている上、軽口まで叩かれてしまっている始末。もう泣けてくる。

 シュテルは飛来する魔力弾こそ回避するが、こちらに介入する素振りは見せない。先ほど言葉にしたように、紗那が出てくるまでは傍観に徹するようだ。客観的に見れば舐められているような気がするだろうが、疾風にしたらそんな感想を抱いている暇すらない。何しろ今相手にしているショウの技量が技量だ。全力で挑んでいるというのに徐々に疾風の方が押され始める。

 こちらの攻撃のパターンを覚え、最適化されていくかのように回避や防御は最低限のものへと変わり、そのぶん疾風に飛来する刃が増える。直撃こそもらってはいないが、掠るようなダメージは入るようになってしまった。どうにかこらえようと奮戦したが、それも限界が来た。

 ショウの二刀での振り下ろしを、疾風は受け止めた。だが、ショウは月面宙返りのようにその場で回転すると、下からリラを蹴り上げる。そこからガラ空きになった脇腹に蹴りを叩き込まれた。

「ぐおっ!?」

 さすがにそこで体術が来るとは思わず脇腹にモロに食らってしまい、疾風は体を折り曲げながら吹き飛んでいく。しかしショウは表情を険しくしながら疾風を追った。自分が思っていたよりも手ごたえが薄く、かつ想定よりも遠くまで疾風が飛んで行ったからだ。

「まったく……」

 アバターではなく本人が強いタイプはこれだから困る。そんな風に苦々しく思ってしまったショウ。想定外の攻撃手段であったはずなのに、疾風は動物的な反射速度で自分からショウの蹴りの方向に飛び、威力を可能な限り軽減したのだ。だからこそ疾風はとてつもない速度で飛び去り、今現在ビルの一つに激突していくほどの速度になっていたのだろう。

 ここまで打ち込む時間がありながら紗那があれから姿を見せていないことから考えるに、おそらくここまでは彼らの作戦通りに進んでいるのだろう。そんなことを考えつつ覚悟を決めて疾風を追跡していると、突っ込んで大きな穴が開いたビルから当人が出てくるのが見え、ショウはスピードを上げ……ようとした。だが。

「っと……!?」

 その進路を遮るように目の前に光の風が割り込み、ショウは急ブレーキをかけて静止せざるを得なくなる。通り過ぎて行った光の方を見ると、そこには複数人の紗那がいた。“フォースチャージ”で突っ込んできた後、外したと判断した瞬間にスキルを切って分身を発生させたのだ。

 そこに迫りくる業炎。気が付いた紗那は回避に成功したものの、おそらく直撃を受ければ丸焼きにされていただろう。紗那が姿を現したことでシュテルも行動を再開し、ショウへと合流する。

「はぁ……お前とのタッグは別の意味で疲れるな」

「そうは言いつつ楽しんでいるのは丸分かりですよ。本当にあなたは素直ではありませんね」

「それに関してはお前もだろ」


 今まで以上に複雑な動きをする紗那の分身に惑わされているように見えるが、ショウとシュテルの内心にはこの先の策に打ち勝とうという思いがある。足止めを食らっているようで、二人が合流するのを待っているのだ。

 それを叶えるように疾風が魔力弾を撃ちながら合流してくる。その口元を、疾風は吊り上げた。

「さぁて、クライマックスだ! いくぜ紗那!」

「うん!」

 隙を突いて疾風はスキルカードをリードさせる。その瞬間、疾風の姿が赤い残像を曳きながら掻き消えた。ショウはその爆発的な加速に驚いたものの、次の瞬間には視界の端から迫ってきた攻撃を剣で弾く。しかしその時には既に疾風の姿は消えていて、別方向からの攻撃が迫ってくる。疾風が“タキオンマニューバ”を使ったのだ。

「……素直に言って速いな」

「残像が残るのが少々厄介ですが……」

 ショウとシュテルの脳裏にはふたりの少女の姿が浮かぶ。疾風や紗那は風のように速いが、ふたりには雷の如く空を翔ける知り合いが居るのだ。この程度の速度ならば目で追うことができる。

「私もいるよ!」

 声が聞こえた前方上方にショウが目を向けると、両手を後ろに回した紗那が猛スピードで迫ってきているところだった。

(あれだけの分身を発生させておきながら向かってきているのが一人……)

 そのことに違和感を覚えたショウだったが、紗那はショウにたどり着く直前に回転しながら自身に密着させるように分身を発生させた。高速移動しながらの分身にショウの中にも迷いが生じる。が、二人の紗那の片方が逆手に右手から、もう片方が同じく逆手に左手から刀を抜いたところを見て、咄嗟に左手で抜いたほうを右手の剣で突いた。

 先ほどまで右手を使っていたから右手を使っている方が本物、というのはあまりにも単純だろう。という思考のもとに攻撃したのだが、攻撃が当たった瞬間に分身が掻き消えた。

 しかしショウは二刀流。もう片方の剣は空いている状況であり、もう片方を迎撃する時間は充分にある。そして左手の剣で、さらに接近してきていた紗那を切り払った。……の、だが。

 その紗那も消えた。

「っ!?」

 そして“下”から聞こえてきた風切音。ショウは両手の剣を引き戻して対処しようと考えるが、それでは間に合わない。そう判断した彼は紗那による一撃をもらう直前、身体を逸らせることで直撃を避けた。しかし、剣先が掠ってジャケットの一部が破ける。

「油断大敵ですよ」

「あのな……少しは心配したらどうなんだ?」

「御冗談を。もしも今のが逆の立場だった場合、あなたは私の心配をしましたか?」

 その問いに対しての答えはノーだ。今の状況は自分達から望んだこと。シュテルの付き合いでとも言えるが、自分がそれに同意したことには変わりない。何より……ショウとシュテルにとって互いは最強のライバル。それ故に互いへの信頼が揺らぐことはない。

 とはいえ、直撃へと繋がりかねない確かな一撃を食らったことは事実だ。思考を邪魔するかのように間断なく疾風からの攻撃も行われている。

(さて……)

 この状況をどのように打破すべきか、とショウは思考する。紗那の自身の速さと分身を併用した攻撃は予想以上に厄介だ。それを疾風の高速移動スキルと近接攻撃や銃撃が後押ししている。

 カウンターで返すことはできているが、どちらかが吹き飛ばされてももう片方によるカバーがすかさず入る。それ故に追撃ができず、均衡を崩すことができずにいた。

 疾風がショウに斬りかかり、ショウが刃を止める。その瞬間にリラを回転させて離脱しつつ、疾風は魔力弾を放つ。ショウは回避し弾は後方に飛び去っていくが、その延長線上に現れた紗那は疾風が放った魔力弾をリンクでシュテルに向かって“打ち返す”。返す刃で苦無を放ち、防いだシュテルが攻撃を返そうとしたときには分身の中に紛れている。そして本体を探していると疾風の方が現れ……というような波状攻撃が続き、いつの間にかショウとシュテルの二人は背中合わせの状態にまで移動できる場所を制限されてしまう。

「何かこの状況を打破する良い案は浮かびましたか?」

「お前の中にある考えを全否定していいならあるが?」

「では却下で」

 すんなりとそう言うあたり、ショウの相方は筋金入りだ。まあ彼も返ってくる答えは分かっていただけに落胆はしていないのだが。

 そんな防戦が続いた頃、疾風たちの動きに変化が見え始めた。彼らを吹き飛ばすことのできる回数が増えてきたのだ。気のせいか分身の数も減り、疾風の曳く赤い残像も薄れてきている。つまり、彼らの魔力が切れ始めていることを示していた。

 保有する魔力量は人によって異なるわけだが、高速移動しながらの銃撃や分身を発生させながらの苦無の射出。一発撃つだけでも消費するというのに、彼らは惜しみなくそれらを使い続けていた。当然の結果が訪れたともいえる。

「「…………」」

 ショウとシュテルの間に軽口はあったものの、互いに作戦を口にすることはなかった。それどころか、アイコンタクトすらなかった。それは今も変わらない。

 それでも二人は相手が自身と同じことを考えているという確信があった。それは幾度も同じ戦場を潜り抜け、時にはお互いに闘ってきた経験と信頼のなせる業である。面と向かってショウに聞いてもシュテルが相手の場合、即否定しそうなところではあるが。

 そんな時、紗那はリンクの刀身を鞭のように振るった。その瞬間リンクの刃が大幅に伸び、刃を持った鞭のような形状に変形する。“チェーンソードモード”と呼ばれるリンクの鎖鎌形態だ。それを振るいながら二人の位置を固定しにかかる紗那。とはいえ今まで二人で対応していた相手を一人で抑え切れるはずもなく、さすがに動きに無理が出ている。が、それはただの時間稼ぎだ。

「食らえ!」

 声が聞こえた直上を仰ぐと、ショウとシュテルの上部に移動した疾風がブラスターモードに変形させたリラを構えていた。すかさず砲撃を放った疾風は直撃を確信した。……だが。

「……っ!!」

 鋭い視線が向けられたかと思うと、漆黒の剣士は右手の剣を引き絞り、刀身に灼熱の炎を纏わせる。彼の得意とするスキル、“ブレイズストライク”だ。先ほどはシュテルが使ったが、今度は本家。放たれた業火は威力を見せ付けるように砲撃とぶつかり合っても微動だにしていない。そんな中、自身の奇襲をいなされた疾風は……

“口角を吊り上げていた”。

「今だ!」

「はぁっ!」

 疾風の声に応えて紗那が叫んだ瞬間。疾風の砲撃によって位置を下げられたショウとシュテルの周囲の……ビルの窓ガラスがすべて吹き飛び、無数の魔力弾や苦無、手裏剣などが顔を出した。その光景にさすがの二人も驚愕の声を漏らす。疾風の策とはこれだったのだ。

 単純に言えば、魔力弾を仕込んで例のスキルを使うこと。しかし最初に使った時のように空中に浮遊させただけでは明らかに不自然過ぎ、策を看破されてしまう可能性がある。しかし、前回と違って今回はステージの利点があると疾風は目を付けた。そう、辺りにはおあえつらえ向きの障害物が……多数のビルがあったのだ。

 疾風と紗那はショウやシュテルによって強烈な一撃を受けるたび、わざと“ビルを貫通するように飛ばされて”内部に侵入し、その度フロアの中に弾を撃って無数の魔力弾を仕込んでいたのである。だからこそ紗那と疾風は魔力弾の維持にも魔力を裂き、自分へのクリーンヒットを避ける以外のスキルによる攻撃をしてこなかったのだ。

「魔力もギリギリ、細工は流々……あとは結果をごろうじろ、ってな!」

「行け!!!」

 裂帛の気合いを持って紗那はスキル、“スターダスト・フォース・ウィンド”を発動させた。あちこちのビルに配された無数の魔力弾が、一斉に二人に向けて殺到する。だが、そこで動揺して固まったままの二人ではない。すぐさま互いにデバイスを構えた……のだが、その先どうなったのかを確認することはできなかった。

 今までよりいっそう背中合わせで密着したところまでは見えたのだが、魔力弾が殺到し直撃したことによる煙でその後の姿が隠されてしまったのだ。

 タイミングとしては直撃したように見えたが、二人は気を緩めることができないでいた。あの二人なら、という良いのか悪いのかわからないような予感があったこともあるが、それよりも……

「……デュエルが終わらないってことは……」

「……仕留め損ねたな、こりゃ」

 そして、その言葉に“正解”と答えるように。

 煙を切り裂いて、ショウとシュテルが姿を現した。先ほどの場所から微動だにしていない。

「……まさかあれ全部迎撃したのかよ……」

「……なんて……」

「予想していたものより素晴らしい奇襲でした……ですが、あれでは足りません」

 彼らのバリアジャケットは、所々が擦り切れていた。それは多少なりともダメージが入ったことを示してはいる。が、完全に決めるつもりで行った二人はその程度の損傷に留められてしまったことに“足りていない”という言葉をまざまざと見せつけられ、口元を引き攣らせずにはいられなかった。



 ここから先は疾風たちには見えない部分だったので知る由もないが、魔力弾に囲まれたショウとシュテルは、まず回避は無理だと判断した。その後の行動は単純にして明快。互いに可能な限りの魔力弾を生成して迎撃し、そのあとは背中合わせの状態を維持しつつ回転しながらデバイスを使って可能な限り魔力弾を破壊する。それが限界だと判断すると、最終的にショウの防御魔法を覆う形でシュテルが防御魔法を展開したのだ。



 さてそんな二人を相手にしている疾風と紗那はというと。一応互いのデバイスを相手に向けて構えてはいるものの、内心では冷や汗ダラダラだった。

「さてさて……さすがの俺もそろそろネタ切れだぞ……」

「この後どうしようか?」

「まず砲撃戦は無理だな。あちらさん相手じゃ当たる気がしないし、そもそも撃てるだけの魔力も残ってない。ぶっちゃけ飛ぶだけで精一杯って感じだ……そっちは?」

「私も結構カツカツ。たぶん、分身とか煙幕とかの攪乱はもう無理だと思う。突進系の攻撃も。苦無とか手裏剣くらいなら……なんとか……」

「いよいよ万事休すって感じだな」

 やれやれと囁き交わしつつも、疾風はリラをロングソードモードに変形させた。紗那も彼に寄り添うように立ち、リンクを構えて立つ。これだけの策を弄しても打ち破ってきた相手だ、もはや勝てる可能性はゼロに近いと二人とも嫌になるほどわかっている。しかしそれでも、彼女たちは構えた。最後まで諦めないという姿勢と意地を、示すかのように。

 それを見たシュテルとショウは少し驚いたように目を瞠り……そして、微笑んだ。

「良い気迫です。戦闘技能といい、先ほどまでの戦術といい……久しぶりに滾らせてもらいました」

「良いコンビネーションでしたよ。お二人とも予想外の方向から攻めてきたり回避したり……まあそれ以上にその諦めない闘志が何よりも素晴らしいんですが。だからこそ……」

 俺達は先ほどの攻撃を最低限の魔力で防ぐ道を選んだわけですが。その言葉に、疾風と紗那は驚愕する。何が起こったのかは分からなかったが、防ごうと思えば無傷で防げたと言われたようなものだ。にわかには信じられないが、それを嘘だと断じることもできない強さをあの二人は有している。

 そう、実は先ほどのスターダスト・フォース・ウィンド。このスキルには誘導性があるため、移動すればその方向に魔力弾のコースが変わる。つまりある方向に動けば、その方向に向かう自分が視認できる範囲にある程度魔力弾を誘導できるのだ。だからこそ直進しながら同線上にある弾を排除し、後方から迫り来る魔力弾を砲撃で粉砕するという手もあった。

 だが、敢えて魔力を使うこの方法を選ばなかったのは……

「故に……全力全開であなた方を撃ち滅ぼします」

 この後の一撃のため。

 ショウは黒剣を、シュテルは紫槍を平行にして構える。二つのデバイスに魔力が溢れ出たと思うと、それは炎へと姿を変えて逆巻いていく。ここまではシュテルの得意砲撃“ブラストファイア”だろう。

 だがしかし、ここで終わるならばそれはシュテルのみで行えばいいことだ。あの炎は二人で作り出されているものであり、必然的にシュテルのみの砲撃とは異なる。デバイスの先端に形勢された炎の球体は、渦巻くようにして大きさを増していく。だが消費されているであろう魔力量にしては、その大きさは小さい。まるで収束され、圧縮されているかのように……。

 明らかな最後の一撃の気配。しかし紗那は、それに気圧されるどころか微笑んで彼らに答えた。

「……そこまで言ってもらえるなんて、光栄です。私は、貴方達のおかげでこの世界に来れた。この空を知ることができた。……彼と、ここに来れた。感謝しています。……でも、私も……負けませんから」

 そう言った紗那が疾風に振り返ると、疾風もニヤリと笑って頷いてきた。彼女も笑い返し、刀を腰にしまってロングソードモードのリラの持ち手を彼と一緒に持つ。リラの刀身に紗那の魔力が流れ込み、その輝きが強くなっていく。

「……もうこうなりゃ一か八かだ……あの砲撃、ぶった切ってやろうぜ……!」

「うん……!」

 俺はもう動けないから刃の姿勢維持を全力でやる、移動と魔力収束は任せたぞ……という疾風の思考を柄を握る手から感じ取り、紗那は了解の意味を込めてさらに体を密着させた。リラの刀身は周囲の魔力を引き寄せて収束され、その輝きは眩いものとなっていく。

 だがそれを打ち消さんとばかりに、ショウとシュテルの業火も燃え盛る。最強デュエリストと名高い二人が、残った魔力を炎熱変換し収束しているのだ。その威力は想像すらできない。

 その光景が少しの間続き、双方の周囲から魔力のリソースがなくなって輝きが目を潰さんほどになった瞬間……

 最後の一撃が、放たれた。

 ショウとシュテルによる合体炎熱砲撃“レディアントインフェルノ”。それに向かって、疾風と紗那の二人は刃を前面に立てて突進していった。

「「はぁあああああ!!!!!」」

 叫びながら進む彼らの意地の魔力が込められた刃は砲撃を切り裂きながら、シュテルたちに向かっていく。凄まじい勢いを正面から受け止めているので、一瞬でも気を抜けばリラを弾き飛ばされてしまうほどの衝撃が二人の両腕に伝わってくる。しかし二人は懸命に柄を握りしめ、疾風は刃の向きを、紗那は魔力とシュテルたちへの飛行を維持していく。

 ……だが……

 彼らに刃が届こうかという距離になった時、リラの刃の輝きが揺らいだ。限界を迎えた二人の魔力は突進と刀身への魔力供給を維持できなくなり、対して砲撃の威力は微塵も弱まることなく……やがて砲撃が疾風と紗那を捕らえ……



 業火に飲み込まれて、疾風と紗那はステージから消滅した。







「あーあ、やっぱ勝てなかったかぁ」

「ねー」

 バトルの後。コミュエリアに戻った四人は先ほどのバトルの熱気の余韻を引きずりつつテーブルを挟んでいた。疾風のぼやきに、紗那も苦笑しながら同意する。

「勝利こそこちらが掴みましたが、お二人とも素晴らしい腕前でした」

なんとか面目を保つことはできましたが、正直なところ危ない瞬間は何度もありましたし。

 なので謙遜することはありませんよ、とシュテルは言った。ショウも口にこそ出していないが同意見のようで頷いている。さらにシュテルはそこで先ほどまでのデュエルを思い出すように目を閉じ、声に満足感を滲ませながら言葉を発した。

「今思い返しても……とても心の踊るデュエルでした。これほど充足感のあるデュエルをできたのはいつぶりでしょうか」

 もちろん正式リリース以降のデュエルでも質の高いデュエルは何度もすることができていたが、それはあくまでも所属チーム“ダークマテリアルズ”の一員としてのもの。一人のデュエリスト“シュテル・ザ・デストラクター”として闘うことのできる機会というのは、実はそう多くなかったのだ。

 だからこそ真正面から自分の持てる技量をぶつけ合えたのは喜ばしいことであり、それに最後まで付いてきた疾風と紗那に彼女は驚き、同時に興奮を感じていた。そしてそれは、対戦した山彦の二人も同じようであった。

「……確かに。俺たちも、スッゲー燃えたし楽しかった」

「うん。負けちゃったけど、すごくワクワクしたし熱くなれた……!」

 二人の顔にも、密度の濃いデュエルをすることのできた満足感が溢れていた。負けてもなお楽しかった、戦えて良かったという感想を持つことができるのは、自分が満足できる戦いができてそれが充実した内容であったという証だ。

 そんな中シュテルが紗那に目線をまっすぐに合わせてきて、反射的に紗那は緊張して体を固くしてしまう。そして口から出たのは、紗那の思いもよらない言葉だった。

「小野寺さん。……いえ。紗那さん、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「ははは、はいっ!? あの、そんな、勿体ない……」

「……ダメでしょうか」

「めめめ滅相もないっ!? むしろ嬉しすぎて恐れ多いというか! ぜひお願いします!」

 心なしか肩を落としたシュテルに慌てた紗那。とはいえいきなり憧れの人物に名前呼びしてもらうなんて……と、恐縮していたのだが、そこからの上目使い&潤んだ瞳のコンボにやられてしまったようで、すぐに承諾した。そんな女性陣の様子を見て男二人は顔を見合わせ、同時に苦笑しながら肩をすくめる。

(君も大変なんだろうな)

(大丈夫ですよ。俺にはああいうことしないんで)

 的なやりとりである。まぁさておき混ざろうと、疾風は紗那にニヤニヤしながら話しかけていく。

「おー、良かったじゃん紗那。……まぁお前に関しては最初から二人に対して名前呼びだったような気もするけど」

「たっ、確かに!? い、今思えば失礼なことを……!」

「初めから気にしていませんから。私も、彼も」

「えぇ、俺も基本的に身近な連中には名前呼びされてますから。大丈夫ですよ」

「だとさ。ついでに俺もいいかな?」

 構わない、と首肯する二人に感謝する疾風。純日本人にとっては馴れ馴れしいとも取れる態度だが、相手の二人に気にした様子はない。二人が外国暮らしの経験があることも理由かもしれないが、やはり同じゲームを一緒にプレーしたということが大きいのだろう。

 しかも彼らは先ほどあれだけ濃密な戦いをしたのだ、お互いにお互いのことを気に入ってしまうのも当然なのかもしれない。……ちなみに敬語も抜いていいと言われたところ、“それは追い追い!”とさすがに遠慮していたが。

「ということで、せっかくだしまたやろうぜー。……そうだ。どうせならペアシャッフルしたりいろいろやらね?」

「いいですね、楽しそうです。ではまず……紗那さん、一緒にやりませんか?」

「は、はい! ぜひ!」

「んじゃこっちは野郎同士で組もうか、ショウ君?」

「えぇ、いいですよ」

 そう言い合って四人は立ち上がり、再びシミュレーターへと歩いていく。その足取りはこれから先のデュエルを想像し、とても軽く、弾んだものであった。





 この後四人は組み合わせを変えたり一対一で戦ったり、いろいろなルールを使ったりしてブレイブデュエルを楽しんだ。なお途中でこれに気付いた花梨が騒ごうとしたが、四人の説得によってどうにか阻止されたことを追記しておく。



 ……口止め料として、疾風がアイスを奢る羽目になったことも。
 
 

 
後書き
 ってことで、いかがでしたでしょうか。今回はせっかくのクロスオーバーバトルってことで奮発しようと思って、現時点でのリラとリンクの全形態を出しました。今後増えるかは……どうでしょうw まぁユニゾンリライズってものもありますし、可能性は……? アンビデクストラスは最初の構想段階から考えてあって、やっとこさ出すことができました。

 紗那が分身使いまくったのは、書いてる時に映画のカムイ外伝を久しぶりに観たせいですw ていうか途中でショウに向かってくのはモロに変移抜刀霞斬りを意識してますw まぁホントは本家みたいに二人だったんですけど、良く考えたらショウ二刀流だから返り討ちやんけ! って気付いたのであんな感じに。

 ショウとシュテルの最後の技は当初ただの合体技だったのですが、月神さんに元データをお送りしたところ有難いことに新技をご提案いただきまして。そのまま使わせて頂きました。カッコよさと共に圧倒的な感じも出せていたので……あれに敗れたのであれば紗那たちも本望でしょう。

 このあとは日常を一回くらい挟んで、イズミが言ってたテストデュエルって流れになると思います。その後はグランプリに参加する流れに……なるのかな? その前にチーム組ませなきゃですがw 
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