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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第31話

前世の部屋を飛び出て数分、漆黒の空間の先に光を確認して突き抜けると、視界に広がる戦闘光景。

世界各国の戦闘機、軍艦、それらを撃破していく『白騎士』つまりは織斑千冬。話は聞いていたが、現実に見ると能力差が歴然としている。こんなことを篠ノ之博士は仕組んだのか、ただただ自分のISを誇るために。その結果に理不尽さを感じるが、今はゼロの探知が先とセンサーで位置を探っていると、白騎士と目があった。あってしまった。

(ヤッベェ…)

心中で深刻な事態に慌てるが、白騎士も動かない。あ、そうか。本来は自分以外IS何ていないから、同じような格好の俺に戸惑ってるのか。

だが、白騎士は向かってきた。排除の方針は変わらないようだ。しかし、

「追い付けると思うな!」

即座に直上に上昇、一気に振り切る。福音と融合した新生ヴァンガードは、超高機動の名に恥じぬ出力を有しており、ほぼ一瞬で最高速に達し、抜群の機動力を持つ。ただし、小回りが効きづらく、空中制止も苦手な一面を併せ持つ。

追い付けないと判断した白騎士はまた戦闘機を狩り始めた。早くゼロを見つけないと悲劇は防げない、どこだ…!?

「見付けた!そうは…させるかぁー!!」

センサーが示した位置には、走っている幼いゼロの姿。しかしそこに戦闘機が墜落しつつある。ゼロの元に高速で推進し、パイロットが脱出し無人の墜落する戦闘機を殴り飛ばす。吹っ飛びながら爆散する戦闘機を背に、躓いたゼロを助け起こしたゼロの両親と思われる男女に話しかけられた。

「あ、ありがとうございます!貴方が居なければ今頃…」
「礼は良いですから急いで!近道しようとしないで誘導に従ってください!」

上から見たら良くわかったが、ゼロ達はかなり危険なルートを選んでいた。安全な道を選ばせてあげれば、心配はないだろう。

「貴方達の誰かでも無事じゃなければ、皆後悔しますよ!此処からならあっちの大通りへ!」

行き先を指示して何度も何度も頭を下げる両親から、ゼロとその後ろの女の子、妹さんだろうか?が駆け寄ってくる。危険だって言ってるのに…!

「おっちゃん!」

おっちゃん!?ああ、この年頃のゼロなら俺はおっちゃんか…ショックだ。

「おっちゃん何したんだ!?スッゲーよ!ヒコーキブッ飛ばすって!オレにも出来るかな?」
「おじちゃん、『ミラ』にもできる?」

ちっちゃい子だから仕方無いが、傷つきます。うん、彼等は純粋に凄いって感激してくれているんだ、そうだ。そして、問いには答えなければ。

「出来るかどうかはわからないけど…、やりたいと思うなら、絶対に諦めないで、自分を信じること。」

自分なら出来る、そう言い聞かせる。そして、

「自分一人で抱えないで、頼ること。ご両親と良く話し合ってね」
一人では出来ないことも、誰かと力を合わせれば出来る。大層な事を言っているようで実は当たり前の事を言っている。

だと言うのに、眼前の二人は目を輝かせている。

「よっし、ミラ!サッサと避難しておっちゃんみたくならないとな!行くぞ!」
「うん!バイバイおじちゃん!」

無邪気に手を振って、ゼロ達はようやく安全なルートで避難しはじめた。
さて、次は退場する番か、とは思うが、センサーが周囲の反応を拾っている。どうやら白騎士を諦めて俺に狙いを変えるようだ。

「悪く思うなよ、正当防衛ってヤツなんだ。」

景気良く離陸し、追ってくる戦闘機の大半を背後にまとめ、さらに加速。 一気に超高高度まで上昇し、身を翻し、戦闘機目掛けて赤くなったエネルギーを纏って体当たり、赤い一筋の光線になった俺は、戦闘機を破壊しながら、この場から消えていった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

その日、本来ならば白騎士事件と呼ばれるその出来事は、突如として出現した謎の存在が、多数の戦闘機を瞬く間に破壊してまた突如として消え去った一大事として取りざたされた。

世界が情報収集に奔走した結果、その存在も白騎士同様ISの可能性があることと、戦闘機を破壊した時の光景からこう称され、事件をこう命名した。

『空駆ける彗星』、『彗星事変』と。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「よっ…、と!日付とかは…、大丈夫そうだ!」

白騎士事件の現場から攻撃的に撤収し、俺は無事に試験会場の前に立っていた。少し前に一夏が歩いている、何気無く試験の話を振って接触するかと足を向けたその瞬間、

『危ない!!』

誰かの声の方を見てみれば、固まっている制服姿の、恐らく中学の制服の葵が居た。すぐ近くまでダンプカーが迫っている、運転手は…居眠りしてるのか!?普通にやってたら間に合わない…、ああもう!!俺の人生ダンプカーと縁ありすぎだろ!

迷う暇なくヴァンガードを展開し、葵とダンプカーの間に飛び込み、ダンプカーを受け止める。ええい重たいな、チクショウ!

「き、君は…!?ISは女性しか…」
「そんなことはどうでもいい!!安全を確保しろ!」
「こ、腰が抜けて…動けないんだ…」
「そりゃ大変だ、なっ!!!」

ヴァンガードのスラスターを噴かせば容易くダンプカーは押し返せるが、後ろには葵がいるのでそれは出来ない。なら、力ずくでやるしかない!

「こぉぉんんのぉぉぉ!!やぁぁっってぇぇぇ!!!やるぜぇぇぇ!!!」
「ダンプの前を持ち上げた!?ISなら不可能ではないが、彼は一体…?」

葵が何か呟くが、気にしている暇はなく、前を持ち上げられて姿勢が変わった運転手がお目覚めのようで、ビックリしながらもブレーキをかけてくれて、なんとか大事なく済んだ。…葵は。

周りは盛大な騒ぎになっていて、俺を指差したりしている。

「男がIS!?」
「何処の国のかしら?」

ざわめきは広がるばかりで、落ち着く気配はない。結局、騒ぎを聞き付けたIS学園の教師に俺が連行されるまで、騒動は収まらなかった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

教師、つまりは山田先生と織斑先生なわけだが、その二人に両脇を固められて、人気のない一室に連れてこられた。事情聴取、だろうか。

「…長々前置きを語るのも無意味だろう。お前の名前、IS、その他諸々話せるだけ話せ」
「お、織斑先生、そんな乱暴にしてしまうと萎縮してしまうんじゃ…」
「是も否もなく大型車を押し止めるような人物がそうはならないでしょう、山田先生。で、どうなんだ?」

誤魔化しは許さないと目で語る織斑先生。話せるだけと言われてもなぁ…。

ひとまずは所々ぼかしながらも、正直に話していく。時折質問されるが、当たり障りのない返答をしておいた。

「つまりは、その開発者の執念の塊がお前のISだと?」
「『男がIS使えたって構わないだろう、やってみるのは自由なんだから!』の一念で開発したらしいです。又聞きですが」
「現在確認されているISのコアの総数が増えた、と言う話は聞かないが?」
「把握出来ないだけで何処かにあったのではないですか?」

何気無く会話しているが、その裏の言葉は簡単に訳すと、

『何やったんだ、お前のISの開発者。何処かの国からコアくすねて改造したんじゃないのか?』
『俺が知るか!』

となる。可能な限り情報を集めようとするその姿勢、お疲れ様です。

「この線でのこれ以上の情報は出ないか…、次だ。お前のIS、ヴァンガードの詳細を聞きたい」

踏み込んできた。お答えしましょう。

「広高空域における超機動戦闘を主観に置いたISです。武器は…説明するより、見てもらうのが手っ取り早いですが…」
「披露する相手、か?」
「まあ。無理は言いませんが。」

本当に新しいヴァンガードのメイン武装は独特なので、見せるのが一番楽なのだが、ここで問題なのは、素体が『軍用IS』の福音であること。

性能を見せるからには手は抜けないし、だからと言って専用機持ち以外とでは相手が危険になるかもしれない。

「余程自信があると見える。丹下と言ったな、お前の存在はかなり特殊だと言える。監視と保護の意味も込めて、IS学園の試験を受けろ」
「織斑先生!コレは一度上に掛け合っても…!」
「結論が早いか遅いかの違いです、山田先生。それに、もうかなり騒ぎが出回っている、少しすれば此方にも各国から連絡が殺到するでしょう」

一夏より先に男のISを見せてしまったから、世界も躍起になって俺を調べているのだろう。一夏もまた使えるとなれば、その勢いは誰にも止められない。卒業するまでは何処からの干渉も受け付けない学園しか安全な選択肢はない。それ以外はよくてモルモットが関の山だ。

「お話はわかりました。それで、俺はどこで何をすれば?」
「今日試験を受けているヤツ等と同じだ。相手はコチラで見繕う。」

山田先生とかではないのか?チラと織斑先生を見るが、表情は変わらない。が、

「専用機持ちだからと図に乗るなよ、若造。最適な相手を用意してやろう」

表情は変化しなかったが、織斑先生はそう言った。 
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