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マイ「艦これ」(みほちん)

作者:白飛騨
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第45話<頭垂れる山城さん>(改1.2)

 
前書き
鎮守府の概要説明を受けた後、司令と参謀たちは構内の視察に回る。しかし食堂で司令が山城と対面したとき、ある事件が起きた。
 

 
「ここは本当に鎮守府か?」

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マイ「艦これ」「みほちん」
:45話<頭垂れる山城さん>(改1.2)
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 午後になると日差しが少々強くなっている。風も出てきているが、さほど気温は下がらない。

「美保鎮守府の概要は以上になります」
 祥高さんの説明も終わった。何事につけても彼女は手際が良い。
 しかし参謀たちは講義から解放された学生のように気持ちが緩んでいる。普段は難しい作戦を立案するような彼らだが結局は他人の話を聞くのは苦手なのだろう。

「では続きまして鎮守府内を実際に、ご案内致します。どうぞ」
 資料をまとめた祥高さんが出口まで先導する。各参謀と私は立ち上がると執務室を後にした。

 廊下を歩きながら祥高さんは言った。
「作戦司令室は省略して、まずは食堂から参りましょうか」

「そうだね」
 美保鎮守府の特長の一つといえば、やはり食堂……かなぁ?

 鎮守府本館の階段を下りて廊下をまっすぐ行く。建物の東側に大きな窓のある広い部屋があった。
 祥高さんが案内をする。
「こちらが美保鎮守府の隊員食堂です」

 彼女を先頭に私たちは食堂に入る。数人の艦娘がキャッキャ言いながら食事をしていたが私たちが入ると直ぐに立ち上がって参謀たちに敬礼をした。彼らもまた返礼をした。この辺りは堂に入っている。

「ん……やはりここは軍隊だな」
 確認するように呉が言う。
 だが改めて食堂内を見渡してみると彼の言葉が覆されるようだった。

 まず室内には木製の長い食卓が軒並み並んでいる。

「木製……」
 呟いたのは舞鶴。そうだろうな、普通の軍隊ならログハウス張りの調度品なんてあり得ないだろう。

 食卓に平行するように設置されている椅子もまた同じく細長い。これは個々に分かれた椅子よりは、こちらの方が艦娘が一斉に効率良く座って食事が可能になるということもある。一組のテーブルセットでかなりの艦娘が……特に駆逐艦娘なら座れそうだ。
 また部屋の壁や窓際には洋風のテーブルも置かれていた。そして天井には大きな扇風機がゆったりと回っている。

『ほお』
一瞬、呆気に取られていたような一同だったが直ぐに感嘆の声を上げた。

 海辺だから風が気持ちよく通り抜ける。そもそも美保鎮守府の建物自体が比較的小さい。それが功を奏して海辺側の窓を開放すれば廊下まで一直線に風が通る構造だ。だから晴天の多い夏の山陰であってもここでは空調は、ほとんど必要無い。

 食堂の外側を見れば白い手すりのあるウッドデッキが備えられていていた。そこにも白い机と椅子が並んでいて、その気になれば海を見ながら食事をすることも可能だ。現に龍田さんがノンビリと紅茶を飲んでいる。

 まずは呉が口を開いた。
「ここは本当に鎮守府か?」

「まさにリゾートですね」
 神戸が気の利いたことを言う。

「やはり艦娘だけの鎮守府だと、こういう砕けた雰囲気になるのだ」
 舞鶴もそう言ったが、それは決して批判している口調ではなかった。

「もし今が戦時下でなければ美保の辺りも、そういう場所になるかも知れません」
 私も妙な補足を入れてしまった。

 祥高さんが説明する。
「ここも、さほど広くありません。現在は70名近い艦娘がいますから利用する際は班ごとに時間をずらして食事を取るようにしています」

 私は先日の夜戦の時間を思い出していた。あの夜戦バカ、元気になったかな?

「司令……」
 突然、私の背後から小声で誰かが声をかけてきた。振り返ると、そこに居たのは山城さんだった。戦闘後にすぐに入渠したのか体はもう元に戻っていた。

「ああ、君か」
 山城さん……最初に執務室で出会った時とは印象がガラリと違うな。

「あの……」
何か言い難そうだ。私の周りに参謀たちが居るからだろうか? ちょっと間を空けて小さい声でモジモジしている。

「どうした?」
参謀たちの案内の時間もあるから、ちょっと急き立てる私だった。大人(おとな)気ないか?

 すると彼女は意を決したように頭を下げた。
「司令……その……有り難う御座いました」

 いきなりの言葉で驚いた。さほど長くはない彼女の髪型だが、なぜか柳のように垂れ下がるんだな。
 ちょうど食堂に斜めに差し込んだ日の光。その陰影が彼女の場合は鬼気迫る。

私は腰砕け気味に応えた。
「あぁ無事で良かったよ」

 山城さんは、ゆっくりと顔を上げる。私は今度はギョッとした。

 目が潤んでいる!
 その瞳は日光に乱反射してギラギラしているのか? ……ちょっとコレはヤバい気配が漂う。

「いったん屋外へ出ましょう」
 直ぐに機転を利かせた祥高さんが、私たちをウッドデッキの方へ促してくれた。

 やれやれ……助かった!

 それでも気になった私が振り返ると数人の艦娘が肩を震わせている山城さんを囲んで、なだめている。 ……まさか泣いているのか?

『おい誤解するなよ! 別に私が虐めて泣かせたんじゃないからな!』
 ……と内心、叫んでいた私。参謀たちも無口になった。

 もし私たちが、あのまま留まっていたら? 感情的な山城さんだ。本当に何をしでかすか分からなかった。
 でも彼女の意図した『お礼』って何のことだろうか? 今朝の美保湾の戦いで私が思わず叫んだ『引き返せ』という撤退命令のことかな?
 山城さんは一途な子だ。それに基本的な火力は備わっている彼女だから……今までも、ずっと特攻に近い作戦しか経験が無かったのだろうか?

 そういえば彼女は無線でも『私を顧みず……』とか叫んでいたな。
 きっと今までの指揮官は山城さんに「引け」という命令は出さなかったのだろう。彼女自身も長らく自分は特攻専門だと考えていたのだろうか? 可哀想に。

 ……あれ? 私の後ろの舞鶴が複雑な顔をしている。その表情は少し人間っぽい感情が混じっていた。
今まで私は舞鶴の彼は気難しいだけのロボットみたいな奴かと思っていた。
 しかし今日の彼は今までの私が感じていたものとは違った印象を受ける。お互い少しは成長したのだろうか?
 私はふと、そんなことを感じていた。

「せっかくですから、このまま外へ参りましょう」
 祥高さんが先導して一同はそのまま埠頭へ向かった。

 美保湾の海風と潮の香りが心地良い。ポチャポチャと埠頭に打ち寄せる波の音が断続的に聞こえてくる。参謀たちは海軍の男だから動く波を見ると一様に生き返ったような顔をした。

「海は良いですなぁ」
 呉が言った。

「向こうに高い山が見えるというのがまた、良いですね」
 コレは神戸。確かに大山がよく見える。
 舞鶴も改めて「ほぉ」と感心した様子だ。

「ときに」
 急に先頭の呉が振り返る。

「先ほどの艦娘、誰です?」
「あ……」
 ちょっと不意を突かれた私。

「彼女は戦艦『山城』です。この鎮守府の主軸の一人です」
祥高さんが助けに入った。

「あれが山城ですかぁ」
呉は海を見ながら腕を組んで顎をしゃくっている。

「確か、うちにお姉さんが居たような気がするなあ。扶桑だっけ……」
彼は何を呟いてるのだろうか? 

 
 

 
後書き
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/

最新情報はTwitter
https://twitter.com/46cko/
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PS:「みほちん」とは「美保鎮守府」の略称です。  
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