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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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美保鎮守府NOW-Side B- PART9

 ある愚かな男の末路

~横須賀大本営・元帥執務室~

「ククク、邪魔な金城提督は封じた。美保提督の始末は失敗したようだが……まぁ概ね順調といった所か」

 時刻は午前7時を回った所。元帥の執務室の椅子に腰掛け、邪悪な笑みを浮かべる『大佐』。自分の企てたクーデターが上手く行き、陸軍の協力もあって大本営の内部は掌握した。軍令部に命じて金城提督を更迭する旨の指令書も発効したし、奴の鎮守府も現地の陸戦隊が封鎖しているはず。自分の才能が恐いと酔っていた。と、執務机に備え付けられた電話が鳴る。

「はい、こちら元帥執務室ですが?」

『大佐、私だ』

「か、官房長官!こちらは順調です。順調過ぎて恐いくらいですよ」

『そうかね。ならば残念だが私はここで舞台を降りさせてもらう』

「……は?仰っている言葉の意味が解りかねますが」

『結論から言おう。私はこの計画から外れる……いや、関わってすらいなかった事にする』

 『大佐』の目の前が一瞬真っ白になる。待て、電話口の老人は何と言っている?理解が、追い付かない。

『先程君が出した金城提督の更迭に関する文書がブルネイ届いて数分後、首相官邸に連絡が入ったのだよ。どこからだと思うね?』

「…………」

 『大佐』は黙り込む。金城提督が更迭されたから何だというのだ、あのような粗暴な男一人提督の座を追われた程度で。

『ブルネイ国王自らが電話して来たのだよ。総理に、直接な』

「は?」

 『大佐』は再び、目眩に襲われた。





『国王陛下は総理に声を荒げてこう仰ったそうだ。「レイジ=カネシロは私の大事な友人であり、ブルネイ・日本両国の国防を担う重要人物である。彼を不当な理由により更迭するのであれば、我が国は日本国に対して石油の禁輸措置を取る用意がある」とね』

 官房長官は諦めのような色が混じった声色で尚も続ける。

『ブルネイはアジアでも数少ない産油国……深海との繋がりが疑われるシナを除けばほぼ唯一と言っていい。今ブルネイの石油を我が国は失う訳にはいかんのだ』

「つまり、私達を切り捨てると?」

『その通りだ。君達も諦めて投降したまえ、助命嘆願位はしてやるぞ?』

「ふっ……ふざけるな貴様ぁ!私が何の為にこれまで」

『さて、この電話も傍受されている可能性がある。金輪際連絡はしてこないでくれたまえよ?精々頑張ってくれたまえテロリスト諸君』

 ブツリ、と電話が切れる。先程官房長官は【テロリスト】と言っていた。つまりはテロリストとして処理されるという事だ。投降の意思が無いと判断された場合、武力制圧も已む無しと特殊部隊が乗り込んできたら……待っているのは破滅だ。

「クソがっ!」

 『大佐』は当初の冷静さを失い、頭を掻き毟る。その脳裏を過ったのは、元帥の言葉。

『奴(金城)は獣……いや、化け物の類よ』

「金城を敵に回したせいで私が負けるというのか?認めん……認めんぞ!」

 『大佐』は拳銃を握り締め、元帥と三笠が軟禁されている部屋へと駆け出した。





 大本営の中に設置されている、数ある会議室の一室。そこに元帥と三笠が閉じ込められていた。拘束などされているのかと思いきや、そこは海軍のトップ。抵抗の意思が無いと解ると、部屋の前の見張りだけで縛り上げられたりはしなかった。

「さて……儂等が捕まって約半日。早ければそろそろかの?」

「そうだね、あの子は手が早いからそろそろ……」

 等と会話を交わしている所に、バン!と勢いよく扉を開けて『大佐』が飛び込んできた。余程焦って走ってきたのか、顔は真っ赤になりフゥフゥと肩で息をしている。

「ほっほ、噂をすれば影という奴じゃの」

「このクソジジィがぁ……こうなる事を読んでやがったな!?」

「はて、何の事じゃろうな?」

 逆上する大佐に、惚けてみせる元帥。

「とぼけるな!金城の奴がブルネイ政府どころか国王にまで人脈を拡げていたのを知っていた筈だ!」

「なんじゃと?あ奴は何をやらかしとるんじゃ……」

 元帥も寝耳に水である。そもそも、自分が失脚しかけているという情報を掴めば、金城提督は嫌々ながらも動くと半ば確信めいた物があったからこそ、元帥は大人しく捕まっていたのだ。何かしらの手は講じているとは思っていたが、まさかのブルネイ国王の登場である。

「ふざけるな……お前たち保守派がこの国に停滞をもたらし、戦線を膠着状態にしているんだろうがぁ!」

「甘いな、若造」

 尚も逆上する大佐を睨み付け、三笠が鋭い言葉を放つ。

「そもそも、膠着している事自体が奇跡的状況なのだぞ?敵は万どころか億にさえ届くかも知れないと言われている数……彼我の戦力差は大東亜戦争以上だ。その中でどうにか戦線を膠着させ、和平の道を探っているのだ」

「…………」

「そんな事も解らず、築かれた平和の中で膠着に不満を感じ、無闇に兵を死地に送り出せだと?恥を知れ」

「うるさい……うるさいうるさいうるさーい!」

 大佐の苛立ちが頂点を迎え、拳銃を抜いて元帥に向けたその瞬間。窓から飛び込んできた銃弾が大佐の頭に直撃。その弾丸の威力からか、爆散に近い形で弾け飛んだ。三笠は咄嗟に元帥を庇うように覆い被さったが、二射目が飛んでくる事は無く、明らかに大佐を狙った狙撃であった事を物語っていた。

「まさか、君か金城……?」

 呆然とした三笠は誰に言うでもなく、自然とそう呟いていた。





 横須賀大本営庁舎から1500m程離れたビルの屋上。そこに不釣り合いな光景が広がっていた。コンクリートで塗り固められた屋上にうつ伏せで寝転がる少女の姿があったのだ。明るいブラウンの髪はショートに切られ、前髪が垂れてこないようにカチューシャを付けている。服装は白と赤のセーラー服のような格好で、その顔にはオドオドとした自信の無さが浮かんでいる。しかし、そんな彼女の異質さを際立たせているのは傍らに置かれた鉄の塊だ。おおよそその少女が使いこなすような物に見えないそれは、【XM109ペイロード】……一般的にアンチマテリアルライフルと呼ばれる大口径の狙撃銃である。と、彼女のスカートのポケットに入れられたスマホがブルブルと震える。慌てた様子で電話に出る少女。

『どうです?首尾は』

「はっ、はい!やりました」

『流石ですね……では、遠征部隊の娘達に気付かれないように合流してください』

「わ、解りました!じゃあ……私はこれで」

『はい、お帰りをお待ちしてますよ名取さん』

 電話を切った長良型3番艦の名取は、ふぅと息を吐き出した。電話の相手は大淀……密かに頼まれた『掃除』をこなした所だった。

 ブルネイでの陸軍との一悶着が終わった直後からただならぬ騒動の予感を感じていた大淀は、独自に情報収集を開始。その流れで元帥夫妻が拘束されている事を知る。そこで一計を案じ、たまたま横須賀付近まで遠征に向かっていた名取に連絡を入れたのだ。

 名取は、ブルネイ鎮守府No.1のスナイパーである。普段から自信の無い言動とは裏腹に、その影の薄さと射撃の正確さで隠れ潜んでの狙撃が得意だった。しかし、その事実は提督には徹底的に隠されている。政敵も多い金城提督の為の掃除人(スイーパー)として、大淀が切り札として温存している為でもあり、何より名取本人がそれを望んでいた。名取は提督を愛していた……しかし、その引っ込み思案な性格が災いして思いを告げられずに偏愛的に歪んでいく。そんな時に声をかけたのが大淀だった。

『提督のお役に立ちませんか?』

 提督本人には気付かれない、しかしそれは間違いなく提督を助ける仕事。そして自分にしか出来ない仕事だと告げられた。名取に迷いなど無かった。そこで狙撃の腕をひた隠しにして、大淀からの指令を受けて動く闇の住人へとなったのだ。

「ふふ……提督さん、喜んでくれるかな…♪」

 彼女のその思いは狂気的なまでの強さを持っていたが、自らそれを提督に告げる事はしない。まるで暗がりに自らの中の鬼を隠すかのように。

 『大佐』の計画は悪くはなかった。寧ろ、クーデターの計画としてはよく練られていたのだろう。ただ、誤算としては金城提督の力を見誤っていた事、そしてその彼を慕う狂った死神に見つかってしまった事だろう。それさえ無ければ、頭部が粉々に吹き飛ぶなどという惨い最期を遂げる事も無かったのに。




  
 

 
後書き
 名取スキー提督の皆さん、ごめんなさいm(_ _)m 
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