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花火と犬

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第一章

                 花火と犬
 東谷家は犬を二匹飼っている、一匹は黒い甲斐犬で名前をタロという雄犬だ。もう一匹はブロンドの巻き毛のブリアードでワラビという雌犬だ。
 先にタロを里親で貰って次にワラビをやはり里親で貰った。タロを貰って一年後にワラビも貰ったのだが。
 その二匹を見てだ、家の主東谷権造は妻の早百合に言った。
「同じ犬でも性格が全然違うからな」
「そうなのよね」
 早百合は権造にその犬達を見つつ話した、二匹は家のサンルームにそれぞれいる。どちらも既に去勢と不妊手術を施している。
「これが」
「人間と一緒でな」
「タロは結構やんちゃでリード外したら何処に行くかだけれど」
「ワラビは外してもわし等と一緒にいるからな」
「しかも凄く大人しいから」
「本当に違うな」
 同じ犬でもというのだ。
「そもそも種類が違うしな」
「外見は特にね」
 タロは比較的小柄で黒地でやや虎模様が入っている。耳は立っている。 
 ワラビは大柄でブロンドの巻き毛で耳は垂れている。全体的にむくむくしている。
 その二匹を見てだ、早百合は還暦にしてはまだ張りのある肌が印象的な楚々とした顔でがっしりとした大柄な夫に言った、見れば岩の様な顔だ。若い時よりその顔立ちは厳しく怖そうであるが定年前の職場でも今の仕事でも家庭でも温和で知られている。
「違うわね」
「犬や猫は本当にそうだな」
「しかも性格も」
「そこも本当に違うからな」
「正反対って言っていい位よ」 
 タロとワラビはというのだ。
「私もそう思うわ」
「わしもだ、しかしな」
「ええ、それでもね」
「どちらもいい子だ」
 権造はこのことは素直に笑って言った。
「タロもワラビもな」
「そうよね、だから私達もね」
「二匹共好きなんだな」
「そうよね」
「どっちも人懐っこくて優しくてな」
「家族が好きでね」
「一緒にいて楽しい」
 厳しい顔を綻ばさせてだ、権造はこうも言った。
「とてもな」
「私もよね。だから毎日二回のお散歩も」
 朝と夕方のそれもだ、夫婦でそれぞれのリードを持って散歩に行っている。夫婦にとってかけがえのない時間だ。
「楽しいのよね」
「そうだな、それでだけれどな」
「それでって?」
「今度花火大会だけれどな」
 彼等が今いる街で行われるのだ、和歌山県のある地方都市のそれだ。二人はその都市の静かな一角に家を構えているのだ。
「タロは何か興奮していたな」
「去年ね」
「ああ、ワラビはどうだろうな」 
 権造はサンルームの中で気持ちよさそうに寝ているワラビを見て言った、寝ているのはタロも同じである。
「去年の秋にうちに来てな」
「花火大会ははじめてだけれど」
「花火は家から見られる」
 家の窓からだ。 
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