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殺人鬼inIS学園

作者:門無和平
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第十話:転校生と殺人鬼2

 クラス代表トーナメントが終わり、梅雨の足音が近づく6月の頭。IS学園周辺の街でささやかな修羅場が起きていた。普段一般人が入らない裏路地や廃ビル。倒産した商店跡からは微かに血の匂いが漂っていることに気付く者は果たしているのだろうか。

「襲撃予定のリストはこれで全部か……女権団もつまらんことをする」

 ラシャはライフルを構えていた男の背中をナイフで刺しえぐりつつため息を吐いた。織斑一夏抹殺を掲げる女権団、身柄の確保を企む研究機関の走狗共を容易く血祭りに上げた彼は、久方ぶりの至福を感じつつも一抹の不安を感じていた。
 それは、織斑一夏の不用心さにあった。学園の護衛もつけずに単独で外出する様は鴨がネギと鍋一式を背負って居るようなものであった。そんなグダグダな危機管理のおかげで、ラシャは6人の刺客を暗殺する羽目になっていたのだ。

「刀奈ちゃんにでも指導してもらおうかなあ……」

 無事に目的地と思われる食堂に入っていった一夏を見届けると、ラシャは後続の人員に監視を任せて帰投した。しかし、彼は知らない。愛する弟分がさらなる厄介事を持ち込んでくることに。


 数日後、苗木の間引きを行っていたラシャのもとに、一夏が息を切らせて走ってきた。時刻は放課後直後丁度である。よほど急いできたのだろう。それに加えて、彼同様に息を切らせている存在が居た。
 蜂蜜色のブロンドを束ねた、触れば折れてしまいそうな線の細い生徒。だが、履いている制服は男子用のそれであった。詰まる所、一夏以外の男子生徒が転入してきたこと以外にほかならない。

「ラシャ兄!遂に、遂に!俺以外の男子が転校して来たんだよ!!」

「落ち着け、相方が死にそうだぞ」

 ラシャは引っ張りまわされて顔色が徐々に紫色になりかけている転校生に、自販機で勝ったアイスティーを手渡し、呼吸を整えるのを確認すると、ハンカチを手渡した。

「こいつで汗を拭くと良い。弟分が無礼を働いてすまない」

 転校生の少年は喉を潤すと、丁寧に額の汗を拭った。

「い、いいえ……その……洗って返しますね?」

 こっそりとポケットにハンカチを仕舞い込もうとする転校生の手を、ラシャは止めた。

「構わんよ、数少ない男同士遠慮はいらない」

「そうそう、遠慮はいらないぜシャルル」

「お前はもうちょい遠慮を覚えろ」

 ラシャのチョップをモロに食らった一夏はつんのめって転校生を押し倒してしまった。

「わっわっ!?わひゃあああああああああぁぁぁ!?」

「いたたた……大丈夫かシャルル?」

「良いからどいてよ一夏ぁ!!」

 必要以上に狼狽の色を見せる転校生に、ラシャは疑問を浮かべた。声があまりにも高すぎる。そう思えば思うほど、転校生の外見に不可思議な面が見えてきていた。骨格や喉仏の有無。佇まいや態度がどう見ても女子のそれにしか見えないのだ。これに良からぬ思惑の匂いを嗅ぎ取ったラシャは、転校生シャルルを危険人物にカテゴライズすることに決めた。

「兎に角ラシャ兄、俺以外にも男性操縦者が見つかって良かったぜ!!」

 屈託のない笑顔で笑う一夏の隣で微笑むシャルルの表情には僅かな陰りが見えた。ラシャの中で、この転校生の怪しさは更に肥大化していく。
 間諜にしては、感情を殺すのがあまりにヘタだ。と、ラシャは感じたのと同時に、この様なバレバレの変装をする人間が男を装って転校してくることに関して疑問を持った。今のままでは如何様にも判断することが出来ないとラシャは考え、この場は転校生シャルル・デュノアの自己紹介と、一夏の他愛のない話の聞き手に終始回る事にした。


 その日の夜、ラシャは轡木理事長に緊急招集され、フランス・ドイツの二国から転入してきた生徒に関しての説明を受けた。
 フランスからは、放課後一夏が連れてきたシャルル・デュノア。ドイツからは、IS運用特殊部隊の隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒが転入を果たした。双方、国家の代表候補生の肩書を持っており、将来のブリュンヒルデとなるために一目置かれている存在であった。

「怪しいですね、このシャルル・デュノアという少年」

 ラシャはシャルル・デュノアの肩書に一通り目を通すと、あまりにも多くの疑問点にため息を吐いた。二人目の男性操縦者にしては肩書の付与や専用機の準備が整いすぎている。
 更に、フランス本国でさえ、彼について全く取り沙汰されていない。パパラッチでさえその存在の片鱗さえ掴んでいないのだ。人の口に戸は立てられないという言葉がある通り漏洩しないほうがおかしいビッグニュースだ。
 オマケに、彼の実家はIS開発で世界に名を轟かせているデュノア社だ。自社の宣伝にとっておきの素材をわざわざ発表しなかったのはどういうことだろうか。二匹目のドジョウとはいえ、宣伝効果は莫大なものになるのは火を見るよりも明らかなのに、敢えて徹底的に秘匿させた。
 考えられることは一つ、この少年にはとても後ろめたい事情があるのだ。下手をすれば今回の騒動自体を揺るがすほどの何かが。

「シャルル・デュノアも怪しいですが、ラウラ・ボーデヴィッヒも同じくらい怪しいですねえ」

 十蔵のいうことももっともだった。このドイツの代表候補生は15歳という異例の若さで少佐の地位に君臨しているばかりか、『シュヴァルツェア・ハーゼ』というIS専門の特殊部隊の隊長まで兼任している。年齢の割には肩書が不相応だ。

「ドイツで噂になっているデザイナーズ・チャイルドの線がありますねえ」

 十蔵の一言にラシャは眉を顰める。

「人工授精された強化人間ですか?」

「この経歴からして濃厚でしょう。転校早々織斑一夏に暴力行為を働いたのも頷けます」

 十蔵の言葉に、ラシャの瞳の色が変わった。

「聞き捨てなりませんね、一介の少佐にあるまじき行為です。軍属なのかどうかも怪しいものだ」

 十蔵は今にもナイフを抜き放ちそうなラシャを片手で制すと続けた。

「ISを取り扱う部隊はワンマンプレイが基本だと伺っています。チームプレイを敢行するにも如何せんモノが少ないから出来ない様ですね。少なくともISの操縦技術や総合的な戦闘能力においてはトップクラスですね」

 十蔵は頭を痛めつつ、再度ラウラ・ボーデヴィッヒの資料に目を通した。

「まあ、軍属ゆえに一般市民には手を上げないと信じたいのですが…早速例外が出来てしまいましたからねえ…まあ代表候補生というものは国家が威信をかけて送り出してくるもの、昨今の代表候補生が実力偏重になっている傾向は否めませんが、最低限の礼儀作法は弁えているでしょう」

「入学初日に堂々と人種差別宣言をしでかした代表候補生が居たと聞いてますが?」

 ラシャのツッコミに、十蔵の顔色が益々悪くなったように見えた。

「時々思うんですよ、此処は問題児の左遷先か流刑地か何かじゃないのかって」

「貴方は少なくとも問題児ではないでしょう。第一そういう歳でも無いですし」

「褒め言葉として今は受け取っておきましょう。ああ胃が痛くなってきた……」

 この度の招集は、シャルル・デュノアをメインに監視をしていくという点で話がまとまり、解散となった。ラシャには日々の業務の傍ら、織斑一夏とシャルル・デュノアの護衛と監視をメインに続行するという流れになり、ラウラ・ボーデヴィッヒについては大きな問題行動を起こすまで一旦保留という結論に落ち着いた。
 しかし、この判断は後に大きな事件の火口となってしまい、編田羅赦の生命を大いに脅かす大事件に発展してしまうことになるなど、だれも予想していなかった。
 
 

 
後書き
 次回、原作に亀裂が入ります。 
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