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さよならイエスタディ

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第一章

                     さよならイエスタディ
 私は夏の砂浜で彼に言った。もうすぐ一緒になる彼に。
 砂浜は白く海と空は青い。太陽の陽射しは痛い位。白い光が容赦なく私達を照らして焼いてくれる。
 私は黄緑のビキニを着て海パン姿の彼と並んでビニールの上に座っている。その中でこんなことを言った。
「あなたと付き合う前にもこの海に来たのよ」
「学生の頃だよな」
「ええ、高校生の頃にね」
 もう何年の前のことだ。本当に昔のこと。
「来たのよ。皆で」
「高校のクラスメイトと?」
「いえ、テニス部に入ってて」
 テニスは今でもしている。今の彼ともいつもしている。
「その集まりでね」
「この海に来たんだな」
「そうなの。それで皆で水着になって泳いで」
「その時の水着姿も見たいな」
「駄目よ。何年も前よ」
 だからだと。私は彼に笑って返した。その間も陽射しがサングラスに日焼け止めクリームで武装している私達を照らしている。
「もう古いデザインの水着だから」
「だからか」
「そう。だからね」
 駄目だと。私は彼に言った。
「見せられないわ」
「それは残念だな」
「今の水着で満足して。スタイルだって今の方がずっといいから」
 胸とウエストには自信がある。特に胸には。
「それでね」
「わかったさ。それで高校の時にか」
「そう。この海に来て」 
 その時のことを思い出しながら彼に言う。
「遊んだわ。泳いでビーチバレーもしてね」
「高校生らしいな」
 丁度目の前でその頃の私達と同じ様に遊んでいる子達がいた。海で泳いでビーチバレーをして楽しく遊んでいる。
「楽しかっただろ」
「凄くね。それでね」
「他にもあったんだな」
「あなたも私もそうだったけれど」
 このことはお互い知ったうえで交際している。結婚もする。
 隠しごとはない。だから言えた。
「はじめてじゃないわよね」
「じゃあここでか」
「そう。この海でね」
 その高校生の時だった。
「同じテニス部の男の子とね」
「成程な。この海がな」
「私のね。そうなった場所なのよ」
「だったんだな」
「あなたは高校の卒業式の時よね」
「付き合ってた娘とな」
 彼も笑って自分のことを話してくれた。私がもう知っている話を。
「そうなったさ」
「何か歌みたいな展開ね」
「だよな。青春だよな」
「私もそうだったわ」
 彼だけじゃなくて私も。そのことも言う。
「本当にね」
「青春だったんだな」
「だって。真夏の海で同級生とよ」
「おいおい、本当に歌になりそうだな」
「そうでしょ。岩場の物陰でね」
「岩場?」
 岩場と聞いて彼は左手のかなり先の方に見える岩場を指差した。そこはあの時のまま私の目にも入ってきた。
「あそこか?」
「あの時のままね」
「あそこでか」
「そう。夕方に二人で行ってね」
「よく見つからなかったな」
「見つからないようにするものでしょ」
「まあな。それはな」
 それでもこっそり誰かに見られていたりする。こうしたことでそうしたことを知ったのは高校を卒業してからだった。物陰でのことの後だった。
 そのこともだ。彼が話してくれる。
「見つかるんだよな」
「こっそりと誰かに見られて」
「俺はそうはならなかったみたいだけれどな」
「卒業式の時に?」
「理科室にこっそり入ってな」
 場所はそこだという。 
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