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決して折れない絆の悪魔

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バルバトスと天使

一週間、時間はあっという間に過ぎた。クラスの代表決めの際の騒ぎ以降1組の空気はある程度は良くなっていたが元には戻っていなかった。理由としてはクラスの大半を占める日本人を差別したセシリアの発言や織斑 千冬に対する幻滅などがあった。一夏の言葉は正論で的を射ていた、あの場面で動かずに唯立っていただけの千冬にがっかりした生徒が多かった、そしてセシリアは謝罪の言葉もないまま再教育プログラムに従事した為である。

教室に彼女はいるが誰とも喋らずただ口を閉ざしながら強く拳を握り込んでいるだけだった、なぜ自分がこんなことになったのか理解できていない。軽い怒りに乗り勢いのまま喋り続けた挙句の結果だというのに、それが解らず如何してエリートの私が再教育を受けなければならないのかと、女尊男卑に染まり過ぎている女の典型とも言える。

百春もそんな教室の中で居心地悪そうにしつつ一夏が居ない事に不満を持ちながら自分に興味を持って近寄って来て友人未満程度に仲良くなった女子や幼馴染の箒と大人しく過ごしていた。代表戦になるまでに箒にISの訓練を仰いだが訓練機は予約制な為に使用出来ず、精々授業の復習を箒と共に行う程度だった。そして彼には専用機が用意される事になり今それを待っているのだが……

「来ない……」

何時まで経っても専用機が来ないのだ、もう直ぐ試合開始時間になるというのにも拘らず。如何にも調整に時間がかかったらしく搬入が今日になるのは聞いていたがまさか此処まで遅れるのは予想外だった、しかも同じくセシリアと対戦する二人もいまだに来ない。

「ど、如何しよう箒……」
「訓練機使えばいいだろう」
「ええっ……」

悩んでいる自分に対して割とあっさりとした解決方法を提示する箒に思わず変な声を出してしまう。そんな時に真耶と共に一夏とミカ、そしてオルガとサムスが共にピット内へとやって来た。

「ええ、そういう訳ですので今日は見学させて貰います」
「はい解りました、どうぞ見て行ってください。そ、それとサムスさんサイン有難う御座いました!」
「私程度のサインでそこまで喜ばれると私もした甲斐があった」

ピット内に入るとオルガは百春の方を見て一夏にあいつか?と耳打ちする、一夏はコクリと頷いてオルガはあいつが……と小さく呟いた。百春は見られている事に気づきそちらへと近づいていった。

「遅かったじゃないか、少し心配してたよ」
「お前に心配される義理ないけど」
「だな、んで対戦の順番は?」

アッサリと受け流された上に即座にスルーし出す二人にショックを受ける百春。

「織斑君の専用機はあと少しで来るそうです、ですがもう直ぐ始まる時間ですし……お二人の準備が宜しければ先に出て貰っても良いでしょうか?」
「解りました。ミカ、どっちが行く?」
「俺行くよ」

珍しく自分から行くという意志を見せるミカに一夏は少し驚きつつ先発をミカへと譲った。ミカはカタパルトの前へと来ると兜のような装飾がされた指輪を取り出して指に嵌めた、そして囁くように

「―――起きろ、バルバトス」

名を告げた。そして瞬時にミカの身体を機械の肉体が包み込んでいく。バルバトス、ソロモン72柱の魔神の1柱、悪魔の名を冠する物へと三日月が成っていく。白いボディに刻まれたマークは決して散らない鉄の華、黄色く輝く兜は相手への威圧と死を象徴している。背中に背負った巨大な武器二つは人で成らざる物を狩る為に準備されたような物に見える。

「全身装甲型!?これはまた珍しいタイプですね!」
「ミカ存分にやって来い」
「うん、行って来るよ母さん」

カタパルトへと足を乗せようとした時オルガが声を張り上げた。それに足を止める三日月は頭部装甲を開放してそちらを見た、そこには笑っているオルガがいた。そして指を立てて口を開く。

「やってこい。未来院を侮辱したアマに、いっちょかまして来い。頼むぜミカァ!」
「任せてオルガ」

その声に従う。自分はいつだってオルガの期待、言葉に応えて来た。これからだってそうする。否、未来院の皆の期待全部にだって答えてみせる。愛情を、家族をくれた院長の為にも。

「んじゃバルバトス、未来 三日月。出るよ」

火花を掻き立てながら高速で動くカタパルト、唸りと振動が機体を通して体に直接響いてくる。

―――否、俺はIS《バルバトス》だ、IS《バルバトス》は俺だ。

そう自己暗示をかけるようにしながらも身体は進んでいく、そして勢いよく放り出されるように射出されると身体はふわりと浮遊した。勢いのままどこまでも飛んでいけそうな気もするけど無意識にブレーキを掛けつつ停止すると対戦相手であるセシリア・オルコットが鼻を鳴らしてISを纏っていた。

「逃げずに出ていらっしゃいましたか」
「悪いね、待たせて」

青鮮やかな機体色、網膜に直接データが映し出されているように敵影の情報が反映される。『ブルー・ティアーズ』、自分と同じく大型の武器を持っているのは親近感を感じる。

「最後のチャンスを差し上げますわ、今すぐに棄権しなさい。そうすれば先日の無礼はある程度許してあげても宜しくてよ?」
「何それそれでチャンスのつもり?言っとくけど―――俺は、アンタより強い」
「減らず口を……!!ならば、調教して差し上げますわ!!!」

試合開始のブザーが鳴り響いた。開始と同時にセシリアは先制攻撃を仕掛けて来た、レーザーライフルを構えて頭部目掛けて放って来た。だがミカはそれを一切避けずに左腕で弾くように払った。

「な、なんですって!?」
「それ、攻撃してるつもり?」

一気にバーニアを吹かしながら背負っていた武器を起動させた、左脇下から上がってくるそれをマニュピレータ越しに握り照準を付けて発射する。レーザーが弾かれた事で動揺しているのかセシリアは反応が遅れ直撃を受けた。対IS用滑腔砲、その一撃は大きく体勢を崩すほどの衝撃を齎す。

「こ、このわたくしに傷を……!!キャア!!」
「騒いでる暇あったら避けろよ」
「こ、このぉ!!!」

移動しながらどんどん打ち続ける三日月、遅れながらもセシリアも移動を開始しながらレーザー射撃を開始するが先程の動揺が残っているのか狙いが荒くなっており中々命中しない。三日月の射撃の腕前はそれほどではないが容赦無く頭部や心臓を狙っての射撃は激しい。

「如何して、何故攻撃が利きませんの!!?」
「威力無いからじゃないの」
「キィィィィィッッッ!!!」

通常のISの防御は機体を守るシールドエネルギーに依存している、それは身体を動かすのに邪魔な装甲を出来るだけ排除し柔軟性を上げる為にあるが逆にそれは防御性能を下げている事にある。だがバルバトスは全身特殊な装甲で覆っている、特殊装甲はSEを利用し瞬間的な衝撃に対して極めて高い耐性を有する為、射撃兵装では致命傷を与えるのは難しく、レーザー兵器などによる攻撃も装甲表面で拡散・反射させてしまう。

「もう容赦などしませんわ!!」

そう叫ぶとISから何かが飛んだ。周囲から新しい視線を感じた三日月は滑腔砲を背中に戻しつつ回避行動をとると真後ろからレーザーが襲い掛かって来た。そこには宙に浮きつつこちらに向かって銃口を向け続けている砲台があった。

「子機か……オールレンジって奴が出来るのか」
「恐れ戦くがいいですわ、このブルー・ティアーズの真の力に!!!」
「恐くないし、母さんに対処法叩き込まれてるし」

そう言いつつ右腕を左手で掴むような体勢を取ると背後へと腕を向けた、右腕の装甲が一部スライドするように展開しそこから銃口が露わになるとそこから銃弾が射出された。それは一直線にバルバトスの背後に陣取ろうとしたティアーズの一機に着弾し爆発させた。

「な、んですってぇ!?」
「まだまだ」

息も付かせぬまま三日月は周囲に斉射すると残った子機も纏めて叩き落してしまった。その光景はセシリアにとって悪夢でしかない、現実のものとは思えなかった。これがIS操縦の初心者!?熟練の操縦者ではないのですか!?と。

「あ、貴方本当にIS操縦の初心者なのですか!?」
「一応母さんに特訓付けて貰ってたからね、調整も兼ねて」
「あ、あ、貴方のお母様はいったい何者なのですか!!?」
「母さんは母さん、それだけ」

三日月は武器を取った、背中に背負っている武器の中でも最も大きい大型メイス。それを握り締めた三日月はそれを思いっきりセシリアへと投擲した。

「ぶ、武器を投げるのですか!!!?イ、インターセプター!!!」

凄まじい勢いで迫ってくる武器の圧力と迫力に恐怖を感じつつ近接用ブレードを展開し攻撃を防御する。防御によってメイスは上へと弾かれた、武器を投げた事でセシリアは接近が苦手と思いライフルを向けるが其処には既にバルバトスの姿はなかった。どこだと焦るとハイパーセンサーに反応、上だ。そこでは弾かれたメイスを持ち直し思いっきり振り下ろして来る悪魔の姿があった。

「い、いやああああああ!!!!!」

緑に光るツインアイが酷く恐ろしく思えたのか悲鳴を上げながらライフルを向けるがメイスはそのライフルを一瞬で砕きそのままセシリアの肩へと振り下ろされた。かなりの質量であるメイスの一撃による衝撃は全身を揺さぶり内部を破壊せんとする、その衝撃を緩和しようとISの防御機能である絶対防御が作動する。SEを消費して搭乗者を守る機能だがそれでも完全には殺しきれず、そのまま地面へと二機は激突した。

「ぅぅぅっ……」

激突の衝撃で意識が朦朧とするセシリアは必死に状況を確認しようとしていた、だが意識が戻らない方が幸せだっただろう。その時点で試合続行不可能として処理され、終わっていただろうに。瞳を開けるとそこには自分の上へと立ち、侮辱した自分を逆に見下し返すようにしながらメイスを構えている悪魔の姿があった。

「ま、待って……!!」
「嫌だね」

串刺しにするようにメイスが再び身体に突き刺さる。

「俺は母さんとオルガに言われたんだ」
「カハァッ!!」
「あんたをやって来いってさ」

無慈悲に、機械的に、メイスは振り下ろした。サムスとオルガの言葉だから、そして自分もそれが正しいと思うからメイスをふるい続ける。

「いやぁ……いやぁぁああああ……!!」

そうセシリアの声が聞こえてくる、恐怖に震える憐れな女の声だ。こんな奴に未来院は侮辱されたかと思うと苛立ちが沸いてくる、そしてもう一度メイスを振り上げると大きく喧しいブザーが鳴り響いた。

『試合終了―――勝者、未来 三日月』

ブザーと共に真耶のアナウンスが聞こえて来た、どうやら勝ち負けの基準であるSE、ブルー・ティアーズのそれが尽きたようだ。振り上げたメイスを背中へとマウントし直すと三日月は興味を失ったかのようにまだ小さく声を漏らしているセシリアを放置し真っ直ぐと家族の待つピットへと戻った。戻ると直ぐにオルガの声がした。

「お疲れだミカ、よくやった」

その声を聴くとミカはバルバトスを解除しながら嬉しそうにサムズアップを決める、そんな彼の顔は先程の戦いぶりからは想像出来ないほど煌びやかで、天使のような優しげな笑みだった。 
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