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転生も転移もしていない私が何故ファンタジーの世界で魔王と呼ばれる事になったのか。

作者:zero-45(仮)
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広がる世界
  私は世界に佇む

 目の前には苔むした石が方円状に配置され、それらが背の低い雑草で埋もれ、そこから向こう見渡す限りは一面の大平原。
 記憶の中にある情景に合致する物で表現するなら、ストーンサークルと酷似した物が平野にポツンとあるという情景と言えばいいだろうか。

 夜間である為それ程の視野は確保出来ないが、見た限りでは人工の灯りに相当する物は見当たらない。

 そして体感する気温からして恐らく春先辺りであろうか、吹く風は肌寒く耐え難いと称する程には私の身を叩いていく。
 まぁそれはそうだろう、なんせ私の着衣は白衣一枚という薄着、因みにその下の着衣は無い、服はおろか下着すら皆無のネイキッド、つまりマッパという状態である。

 何故私がこんな大平原の草に埋もれた謎オブジェクトを呆然と見つつ、白衣を着たマッパという非現実的な状態で頭を抱えているのか。
 その原因の半分はこの訳の判らない場所で呆然としている今と


『ねぇ、そろそろ諦めてこっちと対話しない?』


 残りの半分は、ずっと頭の中に語り掛けてくるこの無遠慮な声による物にあった。

 一旦周りの訳の判らない情景や声を排除し、純粋に私の中にある記憶を辿り現在に至る経緯を繋げる努力をしてみようと思う。

 私は国内最大手と言われる総合電化品メーカーの開発部で働いていた、そこは母体こそ電子機器を扱う企業であったが関わる業界は多岐に渡り、また社が成長するに伴い競合他社を潰して吸収するという形で巨大化した、所謂グループという形態を成す存在であった。
 関わる業務によっては半官半民の部分もあり、更に多角的企業である為に技術研究の為に他業種の技術者が集結する形の総合施設も幾つか持っていた。

 私は元々生態科学分野の研究者であったが、その分野の技術を生かした電化製品の開発の為に畑違いの技術検証を行うチームで業務に就いていた、と、こういう日々を送っていた。

 世に言う最先端技術、特に民生へ流れる物というのは市場に出た時点で既に最先端では無い、何故なら世にその技術が出るという事は既にそれは確立され、安全性が確保された物であるからだ。
 対してそれより更に先に進み、もっと革新的な技術と言う物は試行錯誤の途中で、当然安全性や安定こそ無いものの、研究者が裏で日々こねくり回しているものだ。

 地球という歩くには広大な惑星は、人力で設置された中継網を利用し、電気と電子を利用して肉体をその場に置いたまま意識を世界に広げていった、こうして地球という惑星は広大でありながらも狭い世界へと成り下がり、日々その惑星を巡る為のツールは効率を求め先鋭化されていった。
 物理的な技術は考えられる範囲ではほぼ到達点と呼べる物へと到り、限界に達したそれは小手先ばかりの改変とアップデートで茶を濁す状態。
 しかし常に昨日よりも技術的に進んだ今日を欲求する人間という生き物は現状の限界を淘汰する為に、モラルのハードルを下げて新しい分野へと手を付け始めた。

 より効率的に、更に小型化を施し、いつでもどこでもどんな時でも世界を知り、そこに関われる手段を。

 その答えが小型化された通信デバイスを人体へ埋め込み、操作も肉体の動作に頼らず意識を介してのシステム。
 それは技術的には可能だった、が、問題点は幾つか残されていた。

 医療用では無い機器を人体に埋め込むという、本能が拒絶すると共にモラルにも反する有体と、先にも言った最新技術という部分。
 新製品と言うのは市場に出た時点で既に型遅れであり、時間が経過すれは更に新しい物が自動的に世界へ排出されていく。
 人体に機器を埋め込むという外科的処置を要する物は頻繁に行うというのには適さない、つまり人体埋め込み型の機器と言うものは常に本体をアップデートする事を想定したシステムにはそぐわない。

 そんな心的にも状況的にも破綻した技術を確立する為に私は研究プロジェクトに従事していた。

 一度処置を施せば取り替えずに済む様、埋め込むデバイスは生態組織を基にした構造で、使用頻度や外的情報で変質し、常に最新の機能を使えるという夢の様で無茶なデバイスの開発。
 それがもし完成すれば製造・販売という分野は淘汰されていくだろうが、恒久的なメンテナンスと維持の為の販路が新たに発生する為、多種多様な業種を抱え込んだグループは最終的に帳尻が合うという試算の元、そのプロジェクトは割とひっそりと、それでも着実に進められていった。

 そしてプロジェクト発足から足掛け十数年、雛形となるデバイスは完成した。

 元は単純に通信機能のみが施されたそれは、使用者が頻繁に使う部分が成長していき機能が特化する、最終的には個々のニーズに沿った形で機能するという物がウリのシステム。
 有機体で構成されたそれは人体と半同化する為に、多少の馴れは必要だが人体の一部と同質の使用感を持つ、更にメーカーと契約している限りはシステムのアップデートを介して常に最新機能を使用し続けられるという夢のデバイス。

 しかし機能面の問題は解決はしたが、人が己の体に異物を埋め込み、更には同居するという心因的な問題やモラルという問題は手付かずのままだった。
 それは言葉を尽くしての説明や話し合い等では解決は見込めない、物が本能に直結する類の問題は、極論で言えば実証して現物を見せ、納得させなければどうしようもない。

 半分医療的な物に片足を突っ込んだこのシステムは動物実験によっての安全は実証されてはいたが、肝心の人体を使用しての臨床例は皆無だった。


 さて、長々と説明を続けてきたが、要するにだ、こんな未知のデバイスを商品化して世に送り出すには、世間の皆々様に『どうですか、ほら安全でしょー、便利ですよー』と証明する事が必要になる訳だ。
 で、その証明をする為の臨床実験の許可を企業は情熱溢れる圧力と多額の資金をばら撒いて手に入れた。

 ここまで言えば判るだろうが、その臨床試験の被検体、貧乏くじとも言うかな、私はそれに選ばれてしまった。

 脳にシステムの核となる有機デバイスを埋め込んで、暫く経過観察をしながら様々な機能を利用してデバイスの変質を確認しつつ諸々の問題点を洗い出す、正にモルモットな訳だ。
 そんな理不尽を迎え入れなければならない諸々の個人的な理由はまぁ今は置いておくとして、私はその手術を受け、予定では目を覚ました後はそういったカリキュラムを受ける筈だった。

 しかし麻酔を受けて途切れた記憶、そこから覚醒して周りを確認した時周りに存在したのは、ほこりが積もったカビ臭いラボの様な風景と、人影皆無な半壊した地下施設。
 取り敢えず自分が寝ていたと思われる無菌カプセルから出て、外へ出る途中の無菌処置室に収納されていた作業着……つまり白衣を羽織って、ガレキまみれの通路を這う這うの体で脱出を果せば冒頭に説明した世界が目の前に広がっていた。

 長時間眠っていた為か言葉が上手く紡げなかったが、その余りにも唐突に変化した周辺状況と、理不尽さに思わず発した第一声が


「何じゃコリャ」


 だった訳だが、そこから更に理不尽が私に舞い降りた、主に外的要因では無く内的に。


『わ、びっくりした』


 そんな能天気かつ第三者の声が頭の中に響き、呆然とする白衣一枚のヘンタイさんな格好である私の長い受難の日々は幕を開けた。

 
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