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テキはトモダチ

作者:おかぴ1129
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British Rhapsody 〜赤城〜
  Farewell

「私は明日、本国に戻る」

 私とロドニーさんの稽古の次の日。提督を除くいつものみんなと、集積地さんと戦艦棲姫さんと天龍二世さん……食堂に集まってもらったみんなが見守る中、ロドニーさんは、しずしずと口を開いて、皆にそう告げた。皆の反応は、様々だ。

「ぇええ!? 突然すぎんだろ!?」
「すまないなテンリュウ。中々言う踏ん切りがつかなくてな……」

 素っ頓狂な声を上げる天龍さんに対し、ロドニーさんは丁寧な返答を返していた。

「だから昨日、赤城と一戦やらかしたクマ?」
「そうだ。ここに来た時から、互いに恋焦がれた戦いだったからな」
「二度と会えないわけじゃないクマ。慌ててやらなくても……」
「だが、その次がいつになるか分からんしな……」

 球磨さんの冷静な指摘に対しても、ロドニーさんは丁寧な返答を返す。

「コワイカー!!」
「怖くはないな……お前も、ありがとう」
「最後ぐらい怖がってやれよーロドニー!!!」

 バンザイをする天龍二世さんの頭を、ロドニーさんは優しく撫でていた。天龍さんの突っ込みは邪魔だったらしく、完全に無視していた。

 私たちの稽古の翌日、ロドニーさんはついに皆に話す決心をし、食堂で皆に帰国の旨を伝えた。私や電さんはすでに知っていることだったが……

「戦艦棲姫、世話になった」
「まったくだ……お前とはいい思い出がない」
「そうか……寂しくなる」
「……まったくだ」

 こうやって、皆と別れの言葉を交わすロドニーさんを見ていると、彼女との別れが近づいてきたことを実感して、胸が切なくなってしまう。

「ホウショウ。美味しい食事をありがとう」
「こちらこそ、いつも美味しそうにたくさん食べてくれて、ありがとうございました」
「あなたのおかげで、私は和食が好きになった。食事を美味しいと感じることが出来た」
「それはうれしいですね」

 そう言えば、彼女とはじめて食事をした時、そんなことを言っていたことを思い出した。あの時は永田町で周囲を威嚇しながら、ただ生きるための栄養補給以上の意味を持たない食事を、たった一人で味気なく食べていたロドニーさん。この鎮守府に来て、はじめて食事の美味しさに気付いたロドニーさん。

 だからこの鎮守府は、ロドニーさんの人生の位置づけの中で、とても大きな役割を担ったのだと思いたい。……いや、きっとそうなんだ。だから彼女は本国からの帰還命令に対しても最後まで渋ったし、永田町へも戻らず、ずっとここにいてくれたのだろう。

「オオヨド。世話になった。ありがとう」
「そんな……こちらこそ、色々とお世話になりました」
「お前は、戦わないのか?」
「司令部に希望は出してるんですが……なかなか許可が下りないんです」
「残念だ。お前はきっと強い艦娘になる」
「そうでしょうか?」
「ああ。……上官に対しても、しっかりと怒りを表現出来るお前だ。きっとな」

 続いてロドニーさんは、大淀さんの元に行ってこんなことを言っていた。ロドニーさんはきっと、私たちの初対面のことを言っているのだ。提督に乱暴を働いたクソ中将に対し、大淀さんはキーボードを機関銃のように叩いて不快感を表現していた。『止めろ』という怒号に対し、『これが私の仕事です』と、一歩も退かずに毅然と答えていた。

 きっとロドニーさんは、その時のことを覚えていたのだ。彼女の目から見た大淀さんはきっと、仲間思いで、強い艦娘だったに違いない。

「ぁあ、あの時ですか。あれは……」
「愛する男を目の前で殴られれば、そら黙ってはいられないよな」
「ええ。ですから中将に……って、何言わせるんですか!?」
「ニヤニヤ」

 最後には、きちんと大淀さんをいじることを忘れずに。こうやって見ていると、ロドニーさんは、本当に私達の鎮守府に打ち解けたんだなぁと、じんわりとした感動が胸に広がった。

「はいロドニーさん! 恐縮です!! 笑って下さい!!」

 大淀さんをいじったロドニーさんの周囲で、青葉さんがフラッシュをうるさく焚いてバシャバシャとシャッターを切っている。

「アオバ。お前は永田町での私のことを見てたのだろう?」
「恐縮です。永田町でのロドニーさん、怖かったですねー……誰とも仲良くせず、いつも鎧着て剣を持って、いつもいつもピリピリしてて」
「確かにそうだったな……」

 青葉さんは、提督の密命を受けて、一時期永田町鎮守府に潜伏していた。その時に彼女は、ロドニーさんの様子もしっかりと観察していたはずだ。当時ロドニーさんは、私達から見た時の最重要警戒人物。提督と青葉さんが目を光らせないはずがない。

「でも、こっちに来てからのロドニーさんを見て、逆にあの頃のロドニーさんが不憫になりました。こっちに来てからのロドニーさんは、毎日がすごく楽しそうで」
「う……や、やめろ恥ずかしい……」
「上機嫌で、のどかに毎日過ごしてましたもんね」
「やめろぉお!?」

 珍しい……ロドニーさんの顔が真っ赤っかだ。そらぁいつもキリッてしてツンツーンてしてるつもりの自分が、まさか他人から見たらにっこにこの上機嫌だっただなんて、本人からしてみれば恥ずかしいことこの上ない。

「だから青葉は思うんです。ロドニーさんにはきっと、この鎮守府に来ることが必要だったんです。この鎮守府に来て、永田町でこびりついちゃったツンツンの仮面を取っちゃうことが、きっと必要だったんですよ」
「……そうか」
「こっちに来てからのロドニーさん、いい笑顔でしたよ? 写真、何枚でも撮りたくなっちゃいます!!」
「そ、それはよせ……」
「恐縮です!」

 考えてみれば、ロドニーさんの変化を一番見ているのは、私ではなく青葉さんだった。彼女は永田町でロドニーさんをずっと見ていた。

 だから、ロドニーさんの変化は、青葉さんにとってもきっとうれしいものだったんだ。同時に、永田町にいた頃の、たった一人でポツンと佇み、周囲に敵意を振りまいていたロドニーさんのことを不憫に思い、この鎮守府にきてよかったと心から思ってくれた。彼女にとってもきっと、ロドニーさんとの別れは感慨深いものだろう。

「うう……ロドニーさん……」
「イナズマ。お前にも、世話になった」
「お世話になったのは電の方なのです……」
「お前には……辛く当たってしまった……そのことは今でも、少し後悔している」

 次は、涙目で必死に泣くのを我慢している電さんの元に、ロドニーさんが歩み寄っていた。そうだった……最初ロドニーさんは、電さんに対してとても冷酷にあたっていた。もっともそれは、彼女なりの、電さんへの優しさだったのだが……。

 でもきっと、電さんは分かっている。

「んーん。違うのです。ロドニーさんは、電のことを心配して厳しくしてくれたのです。電たちのことを助けたくて、一人で頑張ってたのです」
「……」
「だから、電は……ひぐっ……感謝しかしてないのです」
「そうか……そう言ってくれるか」
「はいなのです」
「集積地と同じく、私のことも、友達だと思ってくれるか?」
「も、もちろんなのです!!」
「……ありがとう、イナズマ」

 ほら。電さんは、人の機微に敏感だ。言ってみれば、悪意や憎悪にも敏感だが、優しさや愛情にも敏感だ。彼女は、ロドニーさんの優しさをきちんと受け止めている。

 ところで……この場には、来てない人物が約一名いる。

「……オオヨド」
「はい?」
「司令官はどうした?」
「ああ。提督は司令部からの連絡を受けて席を外しているだけで……声はかけたので、すぐ来ると思いますけど……」
「そうか。いい機会だ。あの方にもお礼を言わなければ……」

 提督の所在を聞いたロドニーさんは、遠い眼差しで執務室の方向を見た。なんだかその眼差しが寂しそうに見える。

「ところでロドニーさん」
「ん?」

 さっきからバシャバシャとうるさくシャッターを鳴らし続ける青葉さんが、カメラのファインダーを覗きながら、ロドニーさんに言い寄っていた。

「赤城さんへの挨拶はいいんですか? 一番仲が良かったじゃないですか。昨日は前代未聞の演習をやりましたけど」
「……アカギか?」
「ロドニーさんも赤城さんに対抗意識燃やしてましたけど、赤城さんは赤城さんで、ずっとメラメラバーニングしてたんですよ?」
「やめて下さい青葉さんッ!!」
「ぇえー……いいじゃないですかー……」

 改めてそう言われると、妙に気恥ずかしい。確かにロドニーさんに負けじと必死に練度を上げていたが……それを改めて本人の前で指摘されると、恥ずかしさで胸がムズムズする。

 青葉さんの指摘を受け、ロドニーさんはジッと私の顔を見つめた。今まで見た事無いような、とても不思議な眼差しだ。突き刺すような眼差しでも、殺気を湛えた眼差しでもない……何の敵意もない、ただ純粋で柔らかい、仲の良い友に向ける、優しく柔らかい眼差しだった。

「……」
「……」

 しばらく見つめ合う私達。その後彼女は、

「……アカギとは、もう充分語り合った」

 そう言って、ふわりとした柔らかい微笑みを浮かべた。彼女の、こんな穏やかな柔らかい笑顔は、はじめて見た。

 ……だが私も同感だ。私たちは昨日、存分に語り合った。互いを理解し、これ以上ないほどに分かり合った。だから彼女とは、もう言葉をかわさなくてもいい。

「……だな、アカギ?」
「そうですね」

 彼女の問いかけを、私も笑顔で肯定した。もう言葉はいらない。私たちは、心でつながっている。私達の間にはもう、言葉は不要だ。

「……なんだか親友みたいな二人なのです」
「すっげーな……昨日あれだけやりあったのに……」

 周囲からそんな声が上がる。私とロドニーさんの関係は、別に周囲に理解されなくてもいい。私達は理解しあっている……それだけでいいのだ。

 そんなわけで、ロドニーさんが全員と言葉を交わし終わった後、青葉さんが……

「司令官がいなくて恐縮ですが、記念写真を取りましょう!!」

 とまったく恐縮せずに記念写真の撮影を100万ドルの笑顔で提案しはじめた。特に断る理由もないので私達はそれに従い、皆で並んで記念写真を撮影することにする。

「ロドニーさんは主役なんですから、写真の中心へと! ほら! ずずいっと前へ!!」
「わ、私がか……?」
「恐縮です!!」
「電はロドニーさんの隣がいいのです!」
「じゃあもう一人は赤城の姐さんだな!」
「別にいいのに……」

 そんなこんなで和気あいあいとみんなで並ぶ。皆で相談した結果、前列には、ロドニーさんと電さんと私がしゃがんで並び、後列には他のみんなが立って並ぶことになった。青葉さんは、並ぶ私たちと正対してカメラを構え、カメラフレームに収まるようにみんなを誘導し、カメラのズームを調整している。

「はい撮りますよー!」
「アオバもこっちに来い!」
「青葉はいいんです! 恐縮ですッ!!」

 そんなこと言わずに青葉さんも写ればいいのに……そう思ったが、彼女は自分が被写体になることは興味がないらしい。私たちが並んだのを確認すると、有無を言わさず……

「じゃあみなさん笑って下さーい!」
「「はーい!」(コワイカー!!!)」
「はい! ちーず!!」

 パシャリという音とともに、一際眩しく光ったフラッシュは、一瞬でその輝きを落とした。私たちが共にいる思い出の時間はその瞬間、青葉さんのカメラに、永遠に切り取られ、保存された。私達とロドニーさんとの時間はこの瞬間、思い出になった。

「……」

 ロドニーさんの横顔を見た。彼女は皆の方を振り返り、満面の笑顔を浮かべていたが……

「ありがとう。みんな、本当にありがとう」

 やはり目はしょんぼりしていた。

「青葉さん! ちゃんと撮れたのです?」
「バッチシですよ? ちょっと確認してみますか?」
「してみるのです!!」

 皆が青葉さんの周囲に集まる。

「わ、私はあとで送ってくれれば……」
「ほら! ロドニーさんも来るのです!!」

 渋るロドニーさんの手を、電さんが引っ張っていた。あの二人も、本当に仲良くなった。初対面はあんなに大変だったのに……

「ほら行こう! イナズマもそう言ってるじゃないか!!」
「わ、分かったよ……」

 未だ渋るロドニーさんの背中を、今度は集積地さんが押していた。あの親子にかかってしまったら仕方ない……あの二人の人懐っこさと純粋さには、ロドニーさんも勝てない。彼女は二人に素直に従っていた。お二人共、ナイスです。

 なんとも微笑ましい、お別れ会のワンシーン。この、平和でどこか悲しくはかない時間は、ある一人の素っ頓狂な声によって終わりを告げた。

「……なんだこりゃ!?」

 天龍さんだ。誰よりも先に青葉さんの横で、カメラの写真を確認している天龍さんが、写真のデータを見るなり珍妙な声を上げていた。

「どうしたのです?」
「こ、これは……!?」
「コワイカ?」

 電さんと天龍二世さん、そして皆の注目が青葉さんと天龍さん、そしてカメラに一身に集まる。

「テンリュウどうした?」

 さすがにこの妙な反応は気になるらしい。さっきまであれだけ写真の確認を渋っていたロドニーさんが、天龍さんに声をかけ、自ら青葉さんと天龍さんの二人に向かって、とことこと歩み寄る。しかし天龍さんはそんなロドニーさんを左手で制止し……

「く、来るな!! 見るんじゃあねえッ!!」

 と冷や汗を盛大にかきながら叫んでいた。その只事ではない雰囲気に皆が飲まれた。……ウソだ。みんな意外と冷静だ。天龍さん以外は。

「どうしたんだ? それじゃあ分からないぞ?」
「や、やべーぞロドニー……ガクガクブルブル……」
「何がだ?」
「キャァァアア?」

 天龍さんは青ざめた顔で、珍しく内股になり、身体を縮こまらせてガクガクと震え始めた。その様子は、さながらインフルエンザ予防接種の前の電さんのようだ。ギュッと目を閉じ、恐る恐る薄目を開いて、性懲りもなく写真のデータをちらっと覗くと、再び震え上がって身体を震わせる……。

 天龍二世さんが業を煮やして、震え上がる自分の親分の元にトコトコと歩いて行った。そして天龍さんによじ登り彼女の頭の上に座ると、カメラの液晶画面をのぞき見て……

「……」
「ガクガク……」
「……コワイカッ!!?」

 やはり親分が親分なら子分も子分。天龍二世さんは天龍さんの頭の上で、親分とまったく同じポーズで、同じく顔を真っ青にして……といっても元から青っぽいけど……ガクガクと震え始めた。

「うあああああ……ガクガクブルブル……」
「どうしたんですか?」
「コ、コワイカ……ガクガクブルブル……」

 ……ダメだこの二人。震えが完全にシンクロしている。

「青葉さん、何かあったんですか?」

 埒が明かない。仕方がないので、同じく写真を確認している青葉さんに聞いてみることにする。はじめからこうすればよかった……。

「いやぁ恐縮です。ピントがあってないんでよくわからないんですけど……」
「はぁ……」
「なんか、一人多いんですよねー……」
「へ?」
「ひ、一人多いってどういうことなのです?」

 流石に意味不明過ぎて、震え続けるダメ親分ヘタレ子分コンビを差し置いて、皆で写真を覗き込んでみた。先ほどの私達が笑顔で写っている。

「別段おかしくは……」
「いやぁ、ちゃんと見てみて下さい。ロドニーさんと赤城さん、電さんと集積地さん……」
「うむ。確かに私だ」
「問題ないのです」
「戦艦棲姫さんと大淀さん、球磨さんと鳳翔さん……」
「ですね……」
「……そういやそろそろお味噌汁の準備を……」
「鳳翔、今は控えるクマ」

 青葉さんが、一人ひとりを確認するように、指差ししながら人数を確認している……

「こちらは天龍さんと、天龍二世さんですよね?」

 写真の左端のほうで、偉そうに腕を組んでふんぞり返っている天龍さんと、その頭の上でバンザイのポーズをしている天龍二世さん……。

「あばばばばばば……ガクガクブルブル……」
「コ、コワコワコワコワイカカカカカカ……」
「じゃあこれは……どなたでしょうか?」

 青葉さんの指が、腕組みをしている天龍さんからすーっと動いたその先……ちょうど食堂の出入り口付近のところに写っていたのは……

「ひぃいいいッ!?」
「クマッ!?」
「こ……これはッ!?」
「集積地さ……ッ!?」
「イナズ……ッ!?」
「バカな……こんなことが……ッ!?」

 なぜかそこだけピントが合ってないそのエリアに……いるはずのない、11人目の被写体がぼんやりと……

「キヤァァアアアアア!!? コワイカ……ァアッ!?」
「こええ! こええよどうすんだよ姐さん!!」
「どうするったって……」
「やべえよ! しょうけらだよこいつ!! のぞいたりのぞかれたりするんだよ!!」
「コワッ……イガァアアッ!!??」
「もしくはぬらりひょんだよ!! どうしよう姐さん!? 上から目線で説教されちまう!?」
「お、落ち着くのですですですてんてん天龍さんさんさん」
「お前も落ち着けイナズマ……」
「おぉぉおぉおぉおおおおおお恐ろしいのですしゅうせきせきせき……」
「うわぁあああ!! 鎮守府崩壊だ!! この世の終わりだぁあッ!? お帰り下さいませご主人様お帰り下さいませご主人様……」
「コワイカコワイカコワイカコワイカコワイカ……」

 完全にパニックになってるヘタレ親分とダメ子分、そして電さんは置いておいて……私は改めて写真に写るその正体不明の被写体を、じっと確認してみる。ピンぼけしているとはいえ……かろうじて確認出来る、この眼差しから漂う死臭は……

「大淀さん」
「はい?」
「これって……」

 私は大淀さんを呼び、彼女にその正体不明の被写体を見てもらった。恐らくは、彼女なら見破れる。私の予想が間違ってなければ……

「これは……提督ですね」
「「ぇええッ!!!?」」

 皆が一同に叫び声を上げ、食堂入り口を振り返る。みんなの視線のその先には……。

「ったく、入り辛い雰囲気を作るんじゃないよ……」

 右手にノートパソコンを持った、死んだ魚の眼差しを持つ男。我らが提督が立っていた。

 やはりそうだった。きっと提督は、シャッターを切る寸前にこの食堂に入室したのだ。そして入室した途端シャッターが切られ、ピントが合わない状態で写真に写り込んでしまったのだろう。

 提督としてはそのまま入室してくるつもりが、ダメ親分とヘタレ子分がやたら大騒ぎするものだから、なんだか入室しづらくなった……というのが真相だと私は踏んだ。

「やっぱり……」
「大淀さん、さすがですね」
「ええ、まぁ……」

 でも、私がこの真相にたどり着いたのは、ひとえに大淀さんの眼力のおかげだ。私は大淀さんに感謝の言葉を述べた。あなたがいなければ、この事件の真相には辿りつけませんでした。ありがとう。

「いやー、さすが任務娘ですね。ニヤニヤ」
「い、いやあのッ!?」
「然るべき日は呼んでくれ。本国からかけつける。ニヤニヤ」
「〜〜〜〜〜ッ!?」

 お礼に、彼女をいじり倒すことも忘れない。ロドニーさんも参戦したが、今日で最後だ。別に構わない。大淀さんも大目に見てくれるはずだ。

 私達が見守る中、提督は死んだ魚の眼差しのままへこへこと食堂に入ってきて、椅子を一脚出してそれに腰掛けた。ふうっとため息をつき、相変わらずの死んだ魚の眼差しで私たちを眺める。膝の上にはノートパソコン。理由は分からないが、りんごのマークがついているのがなんだか腹立たしい。なぜか不快感をかき立ててくる。

 ……それにしてもこの人、なんでお別れ会に遅れたのだろう。手に持ってるそのパソコンが、何か関係しているのだろうか……。

「提督」
「ん?」
「今まで何をしてらしたんですか?」
「あーそうだったそうだった。忘れるところだった」

 あなた、何しに来たんですか……。

「ロドニー」
「司令官。あなたにも、世話になっ……」
「そんなことはどうでもよろしいっ」
「?」

 ロドニーさんの別れの挨拶を『どうでもよろしい』とは、一体何様ですかあなた……!! と思ったが、よく考えるといつもの調子の提督だ。今更こんなことで怒っても体力が続かない。リラックスリラックス……

「ロドニー、ちょっとそこに座ってて」
「あ、ああ……」

 提督はそばにある椅子を呼び指し、ロドニーさんにそこに座るように促す。頭にはてなマークを浮かべながらも素直にその椅子に座るロドニーさんを尻目に……

「大淀、これ立ち上げて、『レター』って動画を再生する準備して」
「はい。かしこまりました」

 と大淀さんにパソコンを手渡していた。りんごのマークがよく似合う大淀さんの手によって、パソコンに電源が入った。

 その間提督は、食堂のすみっこで埃をかぶっている液晶テレビを運んでいた。そのテレビとパソコンをケーブルでつなぎ、テレビの電源を入れる。

「大淀、画面はクローンでね」
「了解しました」

 大淀さんが操作している様子がテレビに写っている。大淀さんが『レター』という動画ファイルを見つけたようだ。

「ロドニー」
「ん?」
「本国からの通達だから、心して見てね?」
「わ、分かった……」

 いつになく真剣に、提督がそう告げた。そんな提督の雰囲気に飲まれたのか、ロドニーさんは生唾を飲み込み、テレビの前に座る。

「再生します」

 厳かな大淀さんの声が響き、テレビにうつるマウスの矢印が動画ファイルを再生させた。大淀さんが画面一杯に動画を映し出す。提督が腕を組み、難しい表情でそれを眺めた。

――……
 
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