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ガンスリンガーガール短編

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愛の堕天使プリシッラちゃん

「オリガ、プリシッラ、出頭しました」
 ある日、課長室に女性職員二人が呼ばれ、ジャンを交えて4人で面談する事になった。
「来たか、まあ座れ」
 課長に座るよう命じられ、課長とジャンに対面するようソファーに腰掛ける二人。
その前には事前に用意された資料があり、ジャンが説明を始めた。

「用件は他でもない。 今回、少年の儀体を扱う事になったが、担当官は女性でなければならない」
 その資料の表紙に付いていた写真を見て、プリシッラは首を傾げた。
「あの、この子ってもしかして……?」
「そうだ、政府高官を暗殺した時、リコを目撃して処分された少年だ」
 当然と言った感じで答えるジャンと、良くない思い出に口元を歪める課長。
「君や処理班が到着した時はまだ息があったが、もちろん生かして帰す訳にはいかん、「遺族」には実行犯に拉致され、行方不明と説明してある」
 ホテルのポーターは生きていたが、資料に目を通すと薬物処理で記憶は初期化され、体は儀体化されたと書かれていた。
「やっぱり、そう、ですよね。 記憶喪失ぐらいじゃあ、何かのきっかけで思い出す可能性も……」
 マフィアやテロリストと大差無い、自分達の職場の事情を思い、苦渋の表情を浮かべるプリシッラ。
「そこで社会福祉公社の出番となって、「身寄りも無い身元不明の少年」を引き取って、社会復帰の手助けをする事にした訳だ」
 そう言う課長の表情は、希望の持てる決定を部下に知らせ、ほんの少し顔を綻ばせたようにも見えた。
「人道的な配慮ですか? 公社の表の顔が役に立ちましたね」
 オリガの表情にも、少年を社会の闇に葬り去る公社への自嘲的な笑みが混じっていたが、多額の費用を掛けても少年を生かそうとする課長への好意も含まれていた。
「そうだ、「見られたから殺しました」では課員の士気にも係わるしな。 ジョゼやヒルシャーが、ラバロの二の舞になるのは避けたい」
 この偽善的な行為すら無ければ、他の担当官がいずれ廃棄処分されるフラテッロを連れて逃げ出すのは、プリシッラにも想像できた。
「この少年を儀体化するに当たって外見年齢を下げた。 資料に写真があるが、他の儀体と同じく10歳前後になっている」
 ジャンの言葉に従って二人が資料をめくると、少年の身長体重などのスペックと写真が並んでいたが、そこで異変が起こった。

 ズキュウウウウウウン!
 それはもちろん誰かが発砲した音ではなく、少年の笑顔と体がプリシッラちゃんのハートの10点ド真中を、愛の天使の7.62ミリ旧NATO弾がを貫通した音であった。
(こっ、この子は絶対あたしが担当して、あんな事やら、こんな事まで、口で言えんような事まで全部教育したらんとあかんっ!)
 つい興奮して、故郷の訛りで思考してしまうプリシッラ。(注:日本語表記では関西地方の言葉に変換されています、ご了承下さい)
「どちらか、この子の担当官に立候補するかね?」
 課長の問いかけにオリガが無言で手を上げ、それを驚きの表情で見ながらプリシッラも慌てて挙手した。
「では、お前達に質問がある、この子が命令に従わなかった場合、どんな処置をとる?」
 ジャンの黒い表情を前にしながらも、プリシッラはお約束の妄想を始めた。

 プリシッラちゃん妄想中……
「まあ、こんな失敗をするなんて、私の言った事をぜんぜん聞いてなかったようね。 これはキツイお仕置きが必要だわ」
「そ、そんなっ、プリシッラさん」
 プリシッラの前には、手錠をかけられ、何故か半裸に剥かれた少年が、跪いて許しを請うていた。
「お黙りなさいっ!」
「あううっ!」
 まずは細い鞭を使って両手の掌を嬲った後、傷一つ無い真っ白な背中に、赤いミミズ腫れを何本も描いて、自らの所有物に印を刻み込んで行く。
「許してっ、許してくださいぃっ!」
 まだ声変わりも始まっていない少年が、中性的な悲鳴を上げながら涙を流して哀願する姿を想像して昂ぶって行くプリシッラ女王様であった……

(おおっといけねえ、こんな妄想をジャンさんに知られたら、格闘訓練の時にブッ飛ばされちまうぜぇ)
 そう考えながらも、目が上の方を向いてエヘエヘと笑い、半開きの口から涎が垂れそうな表情をして、課員達の蔑みの表情にも気付かない、哀れなプリシッラちゃんであった。
「そうですね、私ならリボルバーを口に捻じ込んで、ロシアンルーレットでもしてやりますよ」
 プリシッラの可愛い妄想が展開されている間に、オリガが簡潔に答えた。
「ええっ!?」
 可愛い少年に、本場仕込みのロシアンルーレットをご馳走してやると聞かされ、度肝を抜かれるプリシッラ。
「現場で初めて撃たれてパニックを起こされるより、公社の敷地内で一度撃っておくのも訓練のうちかも知れません。命令通り前進しなければ後ろから撃たれるのを覚えさせて、それで駄目になるようなら、他のお姫様のように上手く使えないでしょうね」
 その答えを聞き、顔を見合わせた課長とジャン。課長が頷くと、ジャンはこう答えた。
「良かろう、合格だ」
「任せたぞ、オリガ」
 男同士の怪しいアイコンタクトだけで、可愛いバンビーノの行く末が決定してしまい、全然納得がいかないプリシッラ。
「い、今のどこが合格なんですかっ? ロシアンルーレットですよ? 撃っちゃうんですよっ?」
 そんな可愛らしい抗議も無視して、資料を片付けながら立ち上がる一同。
「オリガ、今から面会して条件付けに入る。 母親か姉と錯覚しやすい服装に着替えて、化粧でもしてやれ」
「了解」
 自分の存在や抗議など、完全にアウトオブ眼中で、オーガのような女に化粧をさせようとしている犯罪者達を見て、ついこう思った。
(病院で何て言うつもり? 「旧共産圏の強化選手だったんで、男性ホルモン使ってドーピングしてました」って似合い過ぎよっ! 課長やジャンさんだって、「社会福祉公社です」って名刺出しても、どっから見ても人身売買のマフィアじゃないっ

 数日後、他の担当官や儀体に引き合わされた少年とオリガ。何とか理由を付けてプリシッラもその場に紛れ込んでいた。
「紹介しておこう、これからお前達の同僚になる少年だ」
 ジャンに紹介された少年を見て、リコちゃんは頭の上にクエッションマークを浮かべた。 少年側に記憶は無いが、以前語り合った男の子と再会したリコは頬を赤らめ、戸惑って視線を逸らせる、そして……
「なんだ、そうか」
 リコがニコリと笑った瞬間、証拠隠滅のために条件付けが発動して少年に襲い掛かり、腕を捻り上げて押し倒し、後ろから左腕で首を抱えて頚骨をへし折ろうとした。
「ひいっ!」
 前世?の記憶でもあるのか、射殺された相手には抗えず、されるがままになっている少年。 しかし儀体なので首は折れず、リコも素手だったので、指で眼球を突き抜いて脳を刺そうとした所で、ジャンに後ろ頭を蹴り倒された。

 砂埃が舞う訓練場で一瞬の静寂が訪れ、リコがゆっくりと立ち上がる。一連の出来事を当然のように見守っていた儀体の少女達が佇む中、プリシッラと少年だけが、ガクガクブルブルと震えていた。
「あの…… いけませんでしたか?」
「当たり前だ、こいつは同僚だと言っただろう。既に儀体化も終わって条件付けが働いている、情報の漏洩は有り得ん」
「はい……」
 ジャンに蹴られて、少しシュンとしてしまうリコ。 
「しかし、今の動きは良かった。仕事を見られた奴は消す、それが基本だ。情報を漏らそうとした者は誰であろうと処分しろ、例えそれが私やヒルシャーであったとしてもな」
「はい」
 それを聞いて「ヒルシャーもなのっ?」と思いながら、怖い考えになってガクガクブルブルしているトリエラ。しかし、幸せなおチビさんだけは「ジョゼさんはいいんだ~(は~と)」などと思っていた。

 2課の特設会場では、少年とオリガの部屋を監視するカメラの映像が引き込まれ、経過監視、ありていに言えば覗きが行われていた。ギャラリーはもちろん、2課全員である。
「ジョゼさん、これはプライバシーの観点からも良くないんじゃないでしょうか?」
 真面目なヒルシャーの問いかけに、荒んだ目付きのまま温和な声で答えるジョゼ。
「いや、みんなオリガやあの子が心配なんだよ、上手く打ち解けてやっていけるかどうかね」
 もちろんそんな性善説思考なのはジョゼだけで、アルフォンソ達はオリガがどうやって子供に手を付け…… もとい、手名付けるのか、ニヤニヤしながら生暖かい目で見守っていた。
「おい、おっ始めたぞっ、静かにしろっ」
 男性職員の声で会場は静まり返り、変質者達はゴクリと生唾を飲んで、女装した?オリガが部屋に入って行くのを見守った。
「オリガさん、今日、僕…… リコって子に殺されそうになったんです、それに何だかあの子、すごく苦手なんですっ」
 さすがに射殺されただけあって、リコだけは体が受け付けず、目の前にいるだけで体がすくんでしまうらしい。
「いいのよ、坊や。それと、二人っきりの時は「マーマ」って呼んでちょうだい、私の可愛い坊や」
 それを聞いて、モニター前の半数の課員は石化し、プリシッラは地蔵になった。
「はい…… マーマ」
 恥ずかしそうに、しかし幸せそうにオリガを母親と呼び、抱き締められる少年。二人きりの時は、どこかの白鳥座の聖闘士のように「マーマ」になるらしい。
「あんな子、貴方が訓練すればすぐに勝てるようになるわ。さあ、暖かいうちにボルシチをお食べ」
 少年の横から、スプーンに掬ったボルシチを「フーフー」して、冷ましてから食べさせるオリガ。それを見ていた一同は、絶対零度の「オーロラエクスキューション」でも食らったように瞬間冷凍された。

(ああ、世界が凍って行く……)
 地蔵状態からフリーズドライされ、肉体と精神の境界が定かで無くなって行くプリシッラちゃん。 背中からオリガに抱きしめられ、キーボードに「I NEED YOU」とタイピングされれば、ATフィールドが壊れて人の形を保てなくなる。
「まあ、オリガならこんな所だろう」
「あ、あれでいいのかい? 兄さん」
 石化から回復し、地蔵プリシッラの横から兄に質問するジョゼ。
「そうだ、ラウーロは失敗した。ラバロもある意味では失敗だったが、儀体に対する愛情が強すぎたと言ってもいいだろう。しかし、担当官には儀体を生かし続けるために、公社の設備と資金が必要な事を理解できる知性が無ければならない」
 そこでプリシッラ以外の者も、「それって子供を洗脳して、自分の都合の良いようにウマーな状態で監禁するには、公社の中に置いてるのが一番って計算できる犯罪者の事?」と考えたが、「自分とフラテッロだけは信頼と言う絆で結ばれているので違う」と思いながら、隣にいる性犯罪者達を疑いの目で見ていた。

「じゃあ、どうして私じゃ駄目なんですか~?」
「お前は不合格だ、絶対にヤリ過ぎる」
「え~っ、それじゃあ分かりませんよ~、オリガさんだけズルイ~~」
 その場の全員が口にはしなかったが、プリシッラの場合、「今日のご褒美は、わ・た・し」などとほざいて襲い掛かり、嫌がっている少年に口では言えない事をしてしまう恐ろしさがあるのを予感していた。
「今度、ヘンリエッタにもシチューを作って、フーフーして食べさせてあげようかな?」
 ちょっと変わっているが、エッタの需要を満たしてやれそうなジョゼ。
「トリエラなら、あんな猫可愛がりされるのは嫌がるだろうな。それに私が抱き付いたりしても、あの子なら私を叩きのめしてくれるだろう」
 女心を理解していない無骨なドイツ人は、雰囲気とタイミングさえ逃さなければ、すぐにでもオッケーなフラテッロの気持ちを踏みにじり、任務で命の危機を感じたトリエラの本能的な行動により、無理矢理押し倒されてネクタイで両手をベッドに縛られ、レイプされるとは想像もしていなかった。

「やだ~~っ、私だってあんな可愛い弟が欲しい~~~っ!」
 次回補充されそうな少年は、トリエラに倒されるであろう無愛想なピノッキオか、ジャンの指示で処分されたラバロのはずだが、それすらフェッロかクラエスに先を越されそうな哀れな愛の堕天使プリシッラちゃんであった。
 
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