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決して折れない絆の悪魔

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許せないこと

IS学園入学翌日、割り当てられた寮で幼馴染である篠ノ之 箒と相部屋である事が解り色々と衝撃を受けた百春と違ってサムス()が手配した料亭にて一夜を明かした。ミカ自身はあまり気にしていなかったが一夏には周囲が女だらけという空間はストレスを感じていた、それ故か手料理を食べた後にサムスに膝枕をされると驚くほどあっさり眠りに入ってしまったらしい。母の温かさに安心しきった寝顔に、ミカは何処か面白そうに眺めていたらしい。授業が終わった休み時間、ノートに書き取った中の解らない漢字を一夏に聞きつつルビを振っているミカ、そんな二人に一人の少女が声をかけた。

「少し、いいだろうか」
「んっ」
「何」

身長としては平均的、髪は長くポニーテールの髪型がよくマッチしている。発育がいいのかボディラインが酷く良いが顔つきは鋭い。男勝りという言葉がピッタリと当てはまるような強さを感じさせる。母が上げたクラスメイトの名前に要注意人物として彼女の名前は確りと乗っていた。"篠ノ之 箒"、ISの開発者である篠ノ之 束の実妹だ。

「その……先日は友人が済まない事をした、それを謝りたくて」
「友人って織斑の事?」
「ああ、本当に済まない……。友人として、詫びをいれさせて貰う」

何かちょっかいでも掛けて来るのかと思っていたが予想外、謝罪の言葉を述べてきた。これは一夏も思ってもみなかった。彼の友人ということは織斑 一夏という存在も重々承知しているはず、それなのに友人の無礼を詫びに来たという事に。

「篠ノ之さんが謝る事じゃない、というか俺ってそんなにその、織斑 一夏ってのに似てるの?」
「ああ。目付きが柔らかい方だったがかなり似ている、だが私は違うと思う」

何処がどう違うのかと問われてしまっては困るが箒自身は別人だと感じるらしい。何より姉である千冬が別人と言っているのが大きく、最初は自分もそうなのかと思ったがどこか違うと感じられ直接母であるサムスの言葉と千冬の言葉で違うと自分の中で決定づけたらしい。

「一夏は未来 一夏、そうに決まっている」
「ああ、一応私の方からも言っておこうと思うんだが……」
「ああ頼めるかな、正直気分悪い」

トイレに行っていていない百春に対して釘を刺してほしいと願い出る一夏に箒は解ったと了承した、箒は内心ほっとしていた。百春の事もあり友人も止められないような奴とは御免だと言われるのではないかと思っていたらしい。改めて宜しくと握手をし、友好な関係を築けた時、新たな火種の足音が聞こえてきた。

「ちょっと宜しくて?」

現れたのは金髪をロールにし、青い瞳を携えた少女。どことなく貴族のような印象を持たせる雰囲気を纏っているが自分は偉いんだぞと含めているような言葉に一夏は内心で女尊主義者かと溜息をつく。

「何」
「まあ、なんですのそのお返事は!?わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですからそれ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「俺はアンタを知らないけど、アンタにそんな価値ないだろ」
「なっ!?」

淡々と本音をぶちまけていくミカに箒はもう少し歯に衣を着せた方が良いと耳打ちするが当の本人はそんな事知っちゃこっちゃない。家族でも友人でもない奴がこちらに敵意をもって接してきているのだからそれに対する対応をしている、サムスにそう教えられた。

「失礼極まりないですわね!!代表候補生たるこのセシリア・オルコットが話しかけているというのに!!それにわたくしを知らないですって!?」

代表候補生、即ち将来国家代表を務めるかもしれない存在のエリート。だが一夏もミカもエリート意識を持った上で相手を見下すような輩は相手にしたくない。

「俺達自己紹介終わった後に入って来たんだけど」
「そりゃまあ知らないわな。それに世界各国の代表ならまだしも、候補生まで調べきれないしな」
「それはまあ、確かに……」

野球で例えるならば国家代表はプロ野球の各球団、その球団を象徴するようなスター選手。代表候補生は所謂高校や大学生野球の名門校でのエリート選手だろう。この格差は大きく報道にそこまで大きく乗りはしないし代表候補生は世界中にいる、その中の一人としかならない。それにこの二人の母は元国家代表且つモンド・グロッソの二部門で優勝している人物である、それに比べたら……。

「うっ……た、確かにまだメディア露出などは少ないですわ。しかし、同じクラスにそのような人物がいるかどうかは調べておくべきですわ!!」
「学園に来た時にクラスを初めて知らされたのにどうやって調べるの」

ただ事実と正論を淡々と言い続けるミカにセシリアはたじろくように口を窄める。本音と事実だけを言うミカを箒はよくもここまではっきり言えるなと驚きと関心を同時に示しながら見つめ、一夏は半分笑いつつミカに言い負かされているセシリアを見ていた。

「おいオルコット」
「なんですの!!?」
「もう直ぐ授業始まるぞ、織斑先生に怒られるぞ」

壁に設置されている時計を指さすと既に授業開始2分前になっていた、間もなく鬼教師こと織斑 千冬が降臨なされる時間だ。

「っ……また後で来ますわ!逃げないことねよくって!?」
「良いから席につけよ」
「篠ノ之さんも席付いた方が良いぞ」
「ああ、そうだな……(三日月は凄いな……あそこまではっきり言えるのが羨ましい)」

この1分後千冬と真耶がやってきて、即座に授業がスタートされた。せめてチャイムが鳴ってから授業を始めればいいじゃんと思う一夏であった。

「これより少し先に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者は対抗戦だけで無く、生徒会の会議や委員会などの出席などで……まあ学級委員と考えて貰っても良い。自薦他薦は問わない、誰か居ないか」

教科書などが広げられて授業に備えている中、千冬がそう声を上げた。所謂学級委員を決めるという事でやりたい奴かやらせたい奴がいたら手を上げろといっている。が男性操縦者という希有な存在いるこの状況では起こる事は

「織斑君を推薦します!!」
「未来君たちを推薦します!」
「私も~!」
「お、俺ェ!?」

まあこうなるだろう。当然と言わんばかりに百春、一夏、ミカを押す声が多数続出した。彼が一体どれぐらい強いのか、世界で唯一ISを動かせる男というのが非常に興味をそそる所なのだろうが本人達からしたら迷惑に尽きる。

「推薦枠は織斑 百春、未来 一夏と未来 三日月か。他には?」
「ちょ、ちょっと千冬姉俺代表なんてやりt「納得いきませんわ!!」

机を強く叩き付ける音を立てながら声を張り上げたのは先ほど絡んできたセシリア・オルコットだった。不愉快そうに顔を歪ませ怒っているように見える。

「この代表候補生であるこのわたくしが、セシリア・オルコットが選出されないのですか!?そもそもこのような選出、認められません!大体男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!!!この貴族であるわたくしに一年間屈辱を味わえと言いますの!!?」

自分こそ代表に相応しいと豪語しつつクラス中に批難を飛ばしている、何故男なんて推薦するなんて理解できない。自分が男に劣っているというのか、と叫んでいる。

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困りますわ!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ」

と誰も止めないのもどんどんセシリアの言葉はエスカレートしていく、彼女は自分が言っている言葉をすべて理解してしゃべっているのだろうか。否理解していないだろう、理解しているのならばどんどん敵を生み出しているのを止める筈だ。

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

ここでいい加減聞いて居られなくなったのか百春が言い返してしまった。それに反応するようにセシリアの顔は怒りでどんどん赤くなっていく。

「貴方私の母国を侮辱しますの!!?」
「そっちだって日本を侮辱してたじゃないか、自分はやっていいのにやられるのはNG?勝手すぎるな」
「くぅぅ言わせておけば!決闘ですわ!!」
「あわわわわ……ふ、二人とも落ち着いて……」

と盛り上がっている二人は真耶の声などを放置していた。そして残りの二人こと一夏とミカは暢気に欠伸をしていた。そんな二人の姿を見た二人は思いっきり叫んだ。

「何無視しているのですか、あなたたちもですわ!!!」
「何無視してんだよ、日本ばかにされて悔しくねえのかよ!!」

と同時に言われる。二人は面倒くさそうに頭を上げつつ口を開いた。

「ったくうるせえなぁ……叫ばなくて聞こえてるっての」
「俺元々中東の生まれだしな」
「えっそうなの!?」

ミカの出身を日本だとばかり思っていたので驚く百春、まあ苗字に加えて名前も日本語なのでそう思ってもおかしくはないが、だがそこでセシリアが勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて笑いながら言ってしまった。

「そう言えば貴方達は孤児院の出身だそうですね、情けないですわね。そんな孤児院で育ったのですから貴方達のような存在がいるのですわね、そこの人間もロクでもない人の集まりなのでしょうね」
「あっ?」
「あっやっべ」

言ってしまった、彼女がどんな気持ちでいったにせよ今の言葉は悪意による物。そしてその悪意はその場の者ではなく未来院の人間へと向けられてしまった。

コイツハ今、ナンテ言ッタ……?

笑い続けるセシリア、流石に周囲の女子生徒も言い過ぎだと口々に漏らしているがミカはそんな事如何でも良かった。席を立ちあがりゆっくりとセシリアの前まで向かい、彼女の腕をそのまま掴んだ。

「な、何をしますの!?は、放しなさい許しませんわよ!?」

掴んできたミカの手を剥がそうとするがピッタリと接着でもされているかのようにその手は剥がれない、そして徐々に力が込められて生き圧迫感が強くなっていく。

「何、今の」
「何を……!?」
「―――今の、何?」
「ひぃっ!?」

冷たく鋭い刃のような言葉とその瞳に冷酷さにセシリアは悲鳴を上げた、今すぐ逃げだしたいのだろうがミカによって掴まれている腕が逃走を邪魔している。そして力が強まっていき万力のように腕が締め上げられていく。

「ぁ、ぁぁぁぁっ……や、やめっ……!!」
「ねえ、今の何って聞いてるんだけど。何なの」
「ああああああっ……!!」
「ミカそこまでだ」

もうセシリアの腕が圧し折れるまで力が強まっていく筈だったが力が緩んでいきセシリアは息を荒げながらいまだに掴まれている腕を凝視しながら涙を流す。静止したのは一夏だった。

「何で止めんの」
「いい加減にしねえとそいつの腕が圧し折れるぞ」
「だから、何。俺は質問してるだけ」
「質問は相手が答えられる状態でするもんだ、お前のそれは質問とはちょっと違う。圧し折るのは良いけど、事後処理で父さん達、未来院に迷惑がかかる。だからやめろ」
「そっか、解った」

そう諭すとミカはあっさりセシリアの腕を放して席に着きなおした、余りにもあっさりしすぎている行動に周囲は驚いている。そして一夏は千冬に視線を向けた。

「織斑先生、何故止めようとしないですか?」
「何っ?」
「あのまま行けば確実にオルコットの腕は圧し折れていたでしょう、ミカにはそれだけの力があってやる理由があった。あいつは俺達の家族を、未来院を侮辱した……!」

未来院は彼らにとって掛け替えの無い物、暖かい愛情があって家族がいて楽しい場所。親の愛情を知らなかった子供たちが愛情を知れた場所、ミカ達はあそこで漸く人ととして生き始める事が出来た。孤児院という場所がどういった場所なのかは少し考えれば解る筈だ、それをロクでもない人の集まりなどといった。

「加えて日本が極東の島国やら猿やら、差別的な発言を言った時点でアンタはなんで注意しなかった」
「それは……」
「私の言葉にはYESかはいで答えろ?拒否します、山田先生は仲裁しようとしたのにアンタは何だ?唯立ってみていただけじゃないか。飾りの教師なら出て行ってください」
「………」
「話にならない。ミカ、気分が悪い。早退しよう」
「いいよ」
「ええっ!?え、えちょちょっと二人とも少し待って……」

そういって二人は荷物をまとめて教室から出て行った、荷物を纏めて出て行く二人を止めるのはあたふたしている真耶しかいなかった。

「すいません先生、俺はこんな、大切な家と家族を侮辱するような奴がいる場所に居たくありません。それに、これ以上いると俺まで暴れそうです、申し訳ありませんが早退させてもらいます」
「そういう事なので」

二人は真耶に頭を下げてから出て行ってしまい、教室に残ったのは重苦しい空気とミカによって腕を締め上げられた痛みで嗚咽を漏らすセシリアの声だけだった。 
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