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決して折れない絆の悪魔

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亀裂 帰宅

「やれやれ問題が山済みですね」
「全くだ、肌が荒れる」
「何時もと変わらない美しい肌ですよサムス」
「そ、そうか……?」

孤児院の院長室にて書類を処理し続けている久世とサムス、二人の息子がISを動かせると解ってから接触を図ろうとしたり取り入ろうとしたりこの孤児院そのものを手に入れようとする動きが大きくなっている。唯の普通の孤児院だったらあっさり終わっているだろう、普通の孤児院だったら。

「子供達と貴方に感謝ですね」
「いや、私としては普通に連絡したら向こうが逃げていくんだが」

そこら辺は最強の孤児院"未来院"。孤児院を巣立っていった子供達には政治的にも強い力を持った物も居る、そんな彼らが孤児院を守る盾となっている上に織斑 千冬に唯一に負け星を付けたと言われる最強のIS操縦者であるサムスの名もあるのでやって来た者たちは一気に逃げたり諦めたりしている。サムス本人としては個人として電話したのに向こう側が名前を聞いたら勝手に逃げていくので困っている。まあそれも現役時代の行動が問題なのだが。

「現役時代とことんマスコミ嫌って、試合後に迫って来たマスコミ相手に近くの壁を素手で穴開けたからでしょ」
「ぐっ……ふ、古傷がぁ……」
「自業自得です」
「ううううっ……久世が虐めるぅ……」

マスコミの腐りを知っていたサムスは現役時代からマスコミは大嫌いだった。故にしつこく付き纏ってくる上に改竄報道をするのがマスコミという認識で取材は全て受けなかった、だが試合後にマスコミはしつこくまとわりついて来た事があった、それを無視しようとしたら受けてくれないなら勝手に書くといった者がいた。その人物はこれなら受けてくれるだろうと思ったが違った、サムスは近くにあった通路の壁に拳を叩きつけた、すると拳は楽々と壁を貫通し大きな穴をあけた。

『……今度そんなことを口にしてみろ、私はお前らを殺す』

そう言い残してサムスは去って行った。この事からサムスに取材は出来ないと世間に知れ渡り唯一出来るのは生放送への電話出演だけだったという。という事もありサムスは色んな意味で恐れられる存在になっている。因みにそんな彼女と結婚した久世も同じような扱いでもある。

「ああもう私が悪かった、謝りますから泣き止んでください」
「……膝にのせて頭を私が良いっていうまで撫でて」
「はいはい」

久世の膝の上に乗り頭を撫でられると徐々に機嫌が良くなっていくのか笑っていくサムスにまるで大きな子供をあやしている気分だと思う久世は窓の外を見つつ女子校で苦労しているであろう息子にエールを送るのであった。

「(一夏、負けちゃだめですよ。ミカは……まあ大丈夫でしょうけど、努力して下さい)」


HR後の一時限目も終わって今は休み時間も終わって二時限目となっている今、IS基礎理論学という物をやっている。そんな中、ISを動かしてしまった男である3人はというと……

「(や、やべえ全く訳解らない……。なにこれ日本語なの?)」

百春は教科書に書かれている単語や文章に酷く苦しんでいた、今まで普通に生活していたISに触れる機会など欠片も無かったし知識としても全く詰め込められていない。まあISを学ぶ学校に来ておいて事前学習もしていないのも可笑しな話だが。解っていないのはまさか自分だけなのかと百春は一夏とミカに視線を向けた。

「……(姉さんに教えて貰ったから簡単だな)」
「(この漢字何?後で調べよ)」

二人は真面目にノートを取りつつ教科書に取り組んでいた。二人はISを動かせると解った時点でISにそれなりの興味がわいたので一通り調べて学習はしていたし万が一に備えて姉であるエミザーダに指導を受けていた、現時点では全く持って問題ない、ミカはまだ日本語を勉強している段階だったので読解に問題があるがそれだけである。そんな百春に副担任の真耶が助け舟を出した、きっとこんなクラスだからストレスなどで大変だろうと親切心で声かけたのだ。

「そ、それじゃあ先生……」
「はいっ織斑君♪」
「殆ど全然分かりません……」
「え"っ……。ぜ、全部ですか……?え、えっとその、今の段階で解らない人って他に居ます……?」

勿論、手など上がる筈も無い。今やっているのは参考書の序盤で簡単な所だからだ、寧ろ上げたらまずい。

「未来君達は大丈夫ですか?」
「俺は全く」
「俺も、まあ読めない字ありますけど。これって何です」
「それは……ああっそれは修得"(しゅう)ですね」
「ああっこういう字なのか」
「えっ嘘一夏兄たち解んの!?嘘は身にならないよ!?」

思わずまた兄と呼んだ百春に対して一夏は呆れた半分と怒り半分といった表情を取った。

「いやこの位基本中の基本だぞ、参考書をしっかり読んでれば解る。それにミカは元々中東の出身でまだ日本語を理解しきれないだけだぞ」
「未来の言うとおりだ。おい織斑、お前入学前に配布された参考書はどうした?」
「あの電話帳みたいな奴ですよね、古い電話帳と間違えて捨てました」

百春の頭部に出席簿再び、あまりのアホさ加減に千冬は頭痛を覚えた。

「三日月、お前は本当に日本語がわからんのか?」
「孤児院だと院長に教えて貰ってたけどまだまだ、それに孤児院に来る前まで文字なんか使ってなかったから」
「……何?」
「生きていくだけで精いっぱいだったから」

そう言われると千冬は顔を暗くし、すまなかったと言葉を切った。百春はどういう事かと思ったがもう一発出席簿が炸裂しそんな考えは吹き飛んだ。

「未来、お前達こいつに教えてやってくれんか?」
「嫌です」
「俺も」

再び百春は凍り付いた、千冬はHRの時に自分の言葉にははいかYESで答えろと言ったのにこの二人はNOと答えたからである。普段から姉の恐怖を知っているからこそ凍り付いた、今も不機嫌そうにしている姉に恐怖している。

「自分から学ぼうしている人ならまだしも自分から学ぶ事を放棄した奴に教える事なんてしたくありません、時間の無駄です。俺だって勉強しなければいけないしミカに日本語を教えてやらないといけません」
「それは……ならば参考書だけでも貸してやってくれないか、新しい参考書が発行されるまででいい」
「嫌です。言いましたよね、俺だって学習すると。それには当然参考書を使用します、そんなものを何故態々捨てた彼に貸さなければいけないんですか、理解出来ませんね」
「俺も同感。古い電話帳と間違えたって馬鹿じゃないの?なんであれを間違えるの、それに立場も俺達と同じ、そいつはそれを自分で放棄した。なら教える事無いよ」

普段は温厚な一夏だが先程から自分に言いがかりをつけてくるし勝手に兄と呼んでくる彼に腹が立っていた。そんな彼に勉強を教えるなら真っ平御免だし自分が勉強したいのもミカに日本語の学習の任を久世から任されたのも事実である。言っている事も正しいので千冬は口を噤んでしまう。

「と言う訳なので」

改めて席についた一夏は再びノートを取り始めた、千冬は少しの間止まっていたが再起動すると出来るだけ早く再発行して貰えるようにすると百春に言うと真耶に授業再開を呼び掛けた。


「一夏、要る?」
「外れじゃないよな」
「さあ、食べてみないと」
「まあ貰うよ」

授業が終了した放課後、一夏とミカは教室で復習をしつつデーツを齧っていた。参考書は読みこんで内容は理解しているがミカは完全に日本語を理解していないので一夏は日本語を教えつつ自らの復習にしながら自らの学習している。それに教室の外に出たいが廊下には多くの生徒が大挙しているしまだ教室にも多くの女子生徒が残りこちらをじっと見つめている、視線など気にしていないが邪魔で移動出来ないのが一番の問題なのだ。

「一夏のも解り易いけど、やっぱ院長に教えて貰いたい」
「おいおいそれ言ってくれるなよ。あの人と比べられると自信無くすから、それに勉強教えて貰えるなら俺だって是非ともそうして貰いたいわ」

ミカの言葉に当然に同意しつつも教えて貰っているのにそれはないだろうと突っ込みを入れる一夏にミカは無視を決め込みノートに向かってペンを動かし続ける。少し離れた場所の席から百春がこちらを見つめてくるがそれも完全に無視する、相手にする気すらない。

「そういえばさ、俺達ってこのまま寮なの?」
「さあ如何だったっけ、もしもそうだったら母さんが荷物もってきてくれるらしいから大丈夫だろ」
「それもそうか」

完結したのか会話を打ち切って勉強に意識を向け直す二人、決して仲が悪いというわけではなくこれは普通の会話の風景なのだ。ミカ自身自分からどんどん話すようなタイプではなく必要な事のみを喋るタイプ、それに合わせるように一夏もしているのでこれが今の二人にとって通常通りの会話ペース。

「嗚呼良かった!!織斑君と未来君達まだ教室に居てくれましたね!!」

勉強を続けていると教室に息を切らしながら真耶が入ってくる、かなり急いできたのが良く解るほどの息の切らし方だ。

「如何したんですか山田先生、そんな息切らして」
「えっとですね、織斑君の寮の部屋が決まりました。これがカギです」
「あれ、でも1週間は自宅から通うという話だったんですが?」

如何やら話が食い違っているようだがそこら辺は当然の処置だろう、ISを動かした男子は貴重というレベルではない。登下校の途中で何かあっても可笑しくはない、そこで無理矢理部屋割りを変えて寮の部屋に組み込むのは十分にあり得る。しかし百春は自分だけに鍵を渡したのに疑問を持った。

「あれ、でも一夏兄は……?」
「えっと未来君達は」
「お二人は孤児院からお迎えの人が来るそうです、そして学園近くの施設に泊まるそうです。流石に整理が付きませんでして……」
「えっ相部屋とかあるじゃないですか!?」
「その案もあったが孤児院から却下された」

百春の言葉に答えたのはサムスを後ろに連れた千冬であった。

「あっ母さん、迎えに来てくれたの?」
「ああ、さあ帰るぞ。近くに私の知り合いがやっている料亭がある、寮の整理がつくまでそこに泊まる」
「安全対策とか大丈夫?」
「安心しろ、IS学園(此処)より遥かに安全だ」

母がそういうならばそうなのだろうと確信した二人は教材などを鞄に詰め込んでサムスに駆け寄った。サムスは優しく笑い二人の頭を撫でて初日の感想を聞いている。

「ち、千冬姉……な、なんで一夏兄は……」
「織斑先生だ。……彼は、彼は私たちの知っている一夏じゃない、サムスさんの息子の一夏さんだ」
「そんなっ!!?」

縋るような百春の言葉に千冬は悲しげに突き放すように言った。真実は違うと、彼は私たちの家族ではない、未来院の一員であるサムスの息子である未来 一夏であると。百春はそれを理解出来ず信じられずにフラフラと一夏に近づこうとするが千冬の手がそれを止めた。なんで止めるのかと言いたげに見つめると唯々静かに首を横に振られてしまう。

「姉さんのお陰で大丈夫だった、文字読めなくてもなんとか行けそう」
「それは何よりだ、だが勉強は続けるんだ。これから役に立つ」
「勿論、農業の本とか読んでみたいし」
「俺の方も大した事無かったよ、当てられたりしたけど」
「そうか、女子に変な事されなかったか?」
「いや女子にはされなかったけどさ」

くるっと百春の方を向いた一夏、それに百春は一瞬嬉しそうにするがすっと上げられた向けられた人差し指の次に放たれた言葉に絶望にも似た何かを覚えた。

「あの織斑君と俺面識無い筈なのになんか一夏兄って言って来るんだ」
「何?織斑とは私は一応関係はあるが久世しか顔見せしていない筈だ」
「だから人違いじゃないの」
「違う……人違いなんか……」

聞こえてくる言葉を否定するかのように小さく呟くように否定し続ける百春、それに千冬は一歩前に出てサムスへと言葉を放つ、謝罪の言葉だ。

「申し訳ない、私の弟がご迷惑を」
「私としてはまだ話を理解しきれていないが、織斑。君には一夏という弟でも居るのか?」
「はい……数年前に行方知れずになってしまい……私も初めて未来 一夏()を見た時驚きました」
「それほどに……しかし、この子は貴方の弟ではなく私の子だ。それだけは言っておく」
「はい……承知しています」

周囲の女子達はあの戦乙女(ブリュンヒルデ)たる千冬が敬語で謝罪している姿に驚愕していた、一体未来の母親は何者なのかと。メディアにも殆ど顔を出さず、受けるのは生放送の電話取材だけという事でサムスは千冬ほど大きく顔が知れ渡ってない、名前自体は同等だが、マスコミに対する脅しのせいか二つ名が"鉄血の女騎士"なのは本人は納得していない。

「二人とも行くぞ、今日は私が腕を振るおう」
「やったぜ母さんの料理!」
「俺酢の物」
「お前の趣味は本当に渋いな、誰の影響だ?」
「ビスケット」
「えっマジで?」

団らんとした会話をしながら去っていく3人を百春は虚ろな目で見つめ続けていた、あれは絶対に自分の兄である織斑 一夏だ、そうに違いないと心の中でずっと反復させながら……。 
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