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Re:ゼロから始まる異世界生活

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魔女と騎士兼旅人の物語
色彩の魔女は動けない。
  ××日 色彩の魔女

 
前書き
書いてみたん。読んでくれると嬉しん! 

 
 以前、こんな話を聞かされた。
 
 それは遥か昔、人と魔女が共存していた頃の話。
 
 七つの大罪と称される七人の魔女達の物語。
 
 七人の魔女達は罪を咎められた。
 
 その罪は大罪。
 その罪は七つ。
 七つの大罪。
 魔女達は禁忌を犯した。
 
 一人の魔女は『怠惰』だった。
 
 一人の魔女は『傲慢』だった。
 
 一人の魔女は『色欲』だった。
 
 一人の魔女は『嫉妬』だった。
 
 一人の魔女は『憂鬱』だった。
 
 一人の魔女は『虚飾』だった。
 
 一人の魔女は『憤怒』だった。
 
 七つの罪を背負う、七人の魔女。
 
 その中でも、最強と謳われる嫉妬の魔女は他の六人の魔女を滅ぼし。
 自らの糧となる世界を敵に回した。
 
 嫉妬の魔女は自らの力を嫉妬していた。
 
 己の嫉妬を『嫉妬』していた。
 
 話によれば今でも、この世界の何処かで生き続けているとされる嫉妬の魔女。
 
 彼女は生き続ける限り、嫉妬し続けるであろう。
 
 この世界の人間を。
 
 この世界の愛を。
 
 この世界の全てを。
 
 これは嫉妬の魔女が嫉妬をする前の物語。
 
 そして、嫉妬の魔女に嫉妬を教えてしまった魔女の物語。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「お師匠様ぁ!
 お師匠様ぁ!」
 
 家中に響き渡る弟子の声。
 階段を駆け上がる音。
 ……五月蝿いなぁ、そんなに大声を出さなくても聴こえてるよ。
 
 「お師匠様ぁ!」
 
 そして現れた弟子は無邪気な笑顔でやって来た。
 朝からこの笑顔は鬱陶しい……。
 悩みなんて一つも抱えてなさそうな表情の男の子は大声で。
 
 「お師匠様!
 今日も、良い天気ですね!」
 
 無駄に大きな声ではきはきとした挨拶。
 私の弟子になってから毎朝、私を起こそうしてくる嫌な弟子だ。
 
 「うん、今日も五月蝿いね」
 
 「はい!ありがとうございます!」
 
 「いや、誉めてないから」
 
 「はい!ありがとうございます!」
 
 ……この始末である。
 なんでもかんでも私に対して「ありがとうございます!」と言ってくるのだ。
 私は注意をしているのであって、感謝をされるような事はしていないのだが。
 
 「師匠様!今日も一日よろしくお願いします!」
 
 「はいはい。
 ちょっと五月蝿いから声のボリュームを下げようね」
 
 「はい!師匠様!」
 
 いや、声の大きさ変わってないから。
 期待の眼差しを向けてくる弟子は毎日飽きずに私の家にやってくる。
 毎日毎日。
 決まった時間にやってきて飽きないのだろうか?
 
 「それでは朝の体操から始めます!」
 
 「はいはい」
 
 「一二、三四、」
 
 「ちょっと。ここでやらないでくれるかな。私は眠いんだ……」
 
 昨日は遅くまで魔導書の手入れをしてたから眠いんだ。
 っと言おうとしたら。
 
 「夜更かしはいけませんよ師匠様!」
 
 なんて言ってくるのだ。
 いや、うん。解ってたんだけどね。
 弟子は私が眠そうにしてると「早寝早起きを徹底するべきです!」なんて毎回言ってくるけど。私は遅寝遅起きをモットーにしているので軽く聞き流すことにしている。
 適当に「はいはい」「そうだね」と言って最後に「今度からそうするよ」と言えば弟子は笑顔で。
 
 「ありがとうございます!」
 
 と言ってくるので今日は早めに寝ようと思う。
 まぁ、数日後には同じやり取りをしてるんだけどね。
 
 「では師匠様!
 朝の体操の続きを始めます!」
 
 「はいはい」
 
 「師匠様!
 はい、は一回で!」
 
 「はいさい」
 
 そして今日の日常は始まってゆく。
 好きでも、嫌いでも無い日常の始まりを色彩の魔女 ラードンは欠伸をしながら迎えるのであった。
 
 
 
 たわいない日常は朝から始まり夜で終わる。
 それは当たり前の事だ。
 だが、その当たり前を当たり前だと認識できるようになったのはいつからだろう。
 朧気な記憶の中から、その定義の始まりを検索する。
 ……。
 ………。
 …………。
 ……………。
 ………………。
 
 「師匠様!
 朝の体操終わりました!」
 
 元気の塊のそれはやってきた。
 
 「うん?
 あぁ、終わった? なら、帰っていいよ」
 
 半分、寝てたね。
 寝不足で頭が回らない。
 さっさと弟子をこの家から追い出してもう一眠りするとしよう。
 まぁ、無理だろうけど。
 
 「いえ!
 これから朝の修行を始めますので、ご教示お願いします!」
 
 予想通り、弟子は帰らない。
 さて、これは困った。
 適当な事を言っても弟子は帰ってくれなさそうだし。ここはお題を出そう。
 
 「解った。じゃあ、修行を始める前に君にお使いを頼んでいいかな?」
 
 「お使いですか?」
 
 「うん。今日は真面目で誠実な弟子に魔導書のレクチャーをしてあげたかったんだけど。どうも素材が足りなくてね」
 
 まぁ、嘘だけど。
 
 「君も、私の弟子になってから……えぇっと」
 
 「今年で一年です!」
 
 「そうそう、一年だ。
 君もそれなりに力を付けてきたから。そろそろ試練を与えてもいいかなぁと思ってね」
 
 「私に試練を!?」
 
 この驚きようだと完全に私の言ってる事を信じちゃってるね。
 
 「あぁ。なに、今の君なら楽にこなせるさ。
 試練の内容は……そうだね。
 この村から少し離れてるけど。デコボコ山の頂上に生えているデコボコ花を採ってくる。それでどうかな?」
 
 「解りました!
 それでは行ってきます!」
 
 そう言って弟子は走り去っていった。
 なんて従順な弟子なのか。
 まぁ、それが彼の良い所でもある。
 逆に言えば悪い所でもあるが、私はそんな弟子のそういう所が好きだ。
 ベットに寝転び、目を閉じる。
 弟子の事だ。昼頃には帰ってくるだろう。
 それまで……おやすみ。
 
 
 
 弟子は帰ってこなかった。
 そろそろ帰ってくる時間帯と予想し起きたのはいいものの弟子の姿はない。
 あの騒がしい弟子が居ないだけで、この家はこんなにも静かになろうとは。
 眠気はない。
 なら、昼食をとるとしよう。
 朝食をとっていなかったので空腹だ。
 かといって料理をするのは面倒だ。
 弟子が居れば弟子に作らせることも出来たけど帰ってきてないし困ったな。
 今日に限って弟子の存在の有り難みを知ったよ。
 普段から五月蝿くて面倒な奴だけど彼はなかなか有能だからな。
 私が彼を弟子にしたのも、彼が家の家事を全てをしてくれるからだ。無論それが全てではないが、大半はそれだ。
 それに断り切れなかった所もあるけどそれは置いといてっと。
 まずは着替えよう。
 一日中寝巻きだと弟子が五月蝿いからね。
 着替えを終えたら顔を洗おう。
 顔を洗ったら昼食にしよう。
 料理をするのは面倒なので、机の上に置かれていた林檎を食べるとしよう。
 食べ終えたら書庫の整理だ。
 魔導書の手入れは一通り終わったからあとは並べるだけ。
 でも、その量はとてつもなく。
 魔導書を整理するだけで今日一日を終えそうだ。
 まぁ、することがないよりはいいんだけどさ。
 こればっかりは弟子にさせるわけにはいかないからね。
 私は扉に触れ、念じる。
 魔法の一種のようなものだ。
 これを魔法と呼べるのか、これは魔法なのか、私個人としては魔法の分類に入ると思うけど他の魔女からすれば魔法に及ばない擬似的な何かと言ってくるだらう。
 それは転移の魔法だった。
 と言っても、色の繋がりを用いた引き寄せの応用なんだけどね。
 色彩の魔女 ラードンは色を彩る魔女だ。
 色に愛され、全ての色を決める権利を持つ彼女の魔法はこの世界の基礎とは些か異なるものだった。
 色彩の魔女 ラードンの加護は色を組み合わせ。色を付け加える事で魔法という形に形成される特殊なものだった。
 故に、他の七人の魔女からすれば遥かに劣り。魔女の中で最弱とされている。
 それは本人が一番自覚しているが、それを解っていて言ってくる魔女は大っ嫌いだ。
 さて、作業を始めよう。
 扉を開くと、そこは別の空間だった。
 部屋中に散らかった魔導書の数々。
 本来、魔導書を置いてあったであろう本棚。
 床一面に散乱した魔導書の紙切れ……。
 これを全ての一人で片付けるのは骨が折れそうだ。
 だが、やるしかない。
 散らかったままだと魔導書の精製の邪魔になるし、来客を招くことも出来ない。それは唯識ことだ。
 面倒だが、こればっかりは仕方ない。
 
 
 
 夕方になっても、弟子は帰ってこなかった。
 いくらなんでも遅すぎる。
 綺麗になった部屋を後にし、私は家を出た。
 この村の住民は太陽が沈むと寝るという習慣を持っているので村の皆はそろそろお眠の時間だろう。
 そして明日の日の出に起床し、昨日と変わらない日常を始める。
 なんて規則正しい生活なのだろうか。
 私には到底真似できないし、理解できない生活だ。
 そしてその生活リズムを最も忠実に守り、最も愛しているのが私の弟子だ。
 その弟子が、夜になっても私の元に来ない。これは緊急事態だ。
 弟子は朝、昼、夜に私の元にやってきて私の世話をする。そんな弟子が、昼と夜をサボるなんて考えられない。
 そして、それを平然とやってもらっていた私自身は清々しい。
 村の外に出るのは面倒だ。
 だが、あんなのでも私の弟子だ。
 なら、弟子の心配をするのは師匠の役目というものだ。
 
 「さて、久しぶりにお散歩しますかね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ────ハァハァハァハァッ。
 
 少年は走る。
 
 夜の山を走る。
 
 凸凹な足場で走りにくい。
 
 なのに「アレ」は平然とやってくる。
 
 逃げる。ただ、ひたすらに逃げる。
 
 息が切れても、足が震えていても、頭から血を流していても、逃げる。
 
 それは単純な本能だ。
 
 死から逃れるようと必死に逃げる。
 
 生き物は死を恐怖する。
 
 何故、生き物は恐怖するのか?
 
 それは至極単純だ。
 
 生き物が、生きているからだ。
 
 だから生き物は死を恐怖する。
 
 少年は大地を駆ける。
 
 死の恐怖に駆られ、涙を流しながら走る。
 
 死を恐怖するのは生き物として当然だ。
 故に、泣くことは恥ではない。
 どんな人間でも痛みには耐えられない。
 少年は「痛み」から逃げる。
 
 アレは近付いては駄目だ。
 
 本能が、そう訴えている。
 
 近付けばそれだけで死ぬ。
 
 なんで、そう思えたかは解らない。
 
 ただ、アレに触れられた瞬間に少年の生命はそれだけで消える。それだけは明確に解っていた。
 
 おかしな話だ。
 
 少年は恐怖している。
 
 なのに、冷静なのだ。
 
 今すぐそこに、己の生命を断ち切らんとする「アレ」が居るのに少年は冷静に、「アレ」の動きを観察し、死から逃れようともがいていた。
 
 無力な抵抗だとは分かっている。
 
 でも、それでも、逃げ続ければ生きながられることが出来る。
 
 なら、走ろう。
 
 走り続けるのだ。
 
 死から少しでも逃れるために少年は走るのだ。
 
 立ち止まるな、「アレ」の脚は速い。
 少しでも走る速度を緩めれば即座に距離を詰められる。だから走り続ける。
 死から逃れるために走り続ける。
 
 だが、徐々に「アレ」は距離を詰めてきた。
 
 逃げきれない。生きられない。
 
 触れられたら最後、少年は死ぬ。
 
 最後まで足掻く。少年は藻掻く。
 
 そして、その功は報われるのだ。
 
 「ねぇ、何をしているんだい?」
 
 その声と同時に「アレ」は炎に包まれていた。
 その炎は魔法によるものだった。
 全身を炎で覆われた「アレ」は動きを止め、この炎の原因を見渡す。
 そして、その炎の原因を見つけ出した。
 
 「帰ってくるのが遅いから心配したよ」
 
 少年に歩み寄る美しい女性。
 少年はこの女性を知っている。
 普段はズボラで、不規則な生活リズムの女性を少年は知っている。
 そして、少年は知っている。
 その女性は魔女であり、少年の師匠であることを。
 
 「で、あれはなんだい?」
 
 普段と変わらぬ口調で師匠は言った。
 
 「うん?
 どうしたんだい。今にでも泣きそうな顔をして」
 
 なんて笑みを零す師匠はこの状況を見ても驚きはしない。
 
 「大丈夫、もう安心してくれ。
 弟子の危機は私の危機も同然だ」
 
 優しく微笑むその姿に少年は涙を零した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『デュラハン』
 
 騎士の成れの果てた末路。
 前世は高貴な騎士だったんだろうけど。彼、戦で悲惨な最後を迎えたんだろうね。
 左手の手首から先は無くなってる。
 片足は根元から無い。あぁ、引き抜かれたって感じだ。
 死因は首元から上の切断だろうね。
 普通の人間なら致命傷だ。
 そして、あの騎士は首から上を欲しっている。
 なるほど、それで弟子を襲っていたのか。
 それにしても、片足ないのによく馬に乗れたね。
 デュラハンの乗っている馬も、それはそれは痛々しいものだった。
 全身の皮は剥がされ、眼球は握りつぶされたのか、目元周辺には目玉だったものが潰れている。
 うっ。さっきの炎は不味ったね。
 腐った肉の焼ける匂いが、辺りを充満してきた。これは酷い匂いだ。
 弟子も、その匂いに嘔吐しそうになっている。元から腐ってたから余計に臭いよ。
 
 「高貴な騎士だった……とお見受けするけど。君の名前は?」
 
 「……」
 
 返答はない。
 まぁ、顔。そもそも口が無いんだ喋れないのは当然だよね。
 
 「うん、返答が無いなら私と弟子は帰らせてもらうよ」
 
 私の足元で蹲っている弟子を立ち上がらせ。
 
 「ここに君の探しているものは無いから。早々に去るといい」
 
 そう言い残し、去ろうとすると。
 デュラハンは後を付いて来る。
 
 「ちょっと近寄らないでくれるかな。君、自分の体臭を匂ったことある?
 率直に言うよ、臭いから離れてくれ」
 
 それでもデュラハンはやってくる。
 全身を炎に包まれながらやってくる。
 腰に掛けていたボロボロの剣を引き抜きやってくる。
 
 「はぁ、聞き分けのない。
 人の意見は素直に聴くべきだと思うよ」
 
 それでも、それでも、デュラハンはやってくる。
 汚臭を漂わせやってくる。
 案の定、その匂いに耐えきれず弟子は吐いてしまった。
 おいおい、勘弁してくれ。
 嘔吐の生臭さと腐って焼けてる肉の匂いは流石の私でもキツイよ。
 その匂いの元凶は距離を更に詰めてくる。
 
 「もう一度。もう一度だけ忠告するよ。ここに君の探し求めるものはない。だから早々に立ち去れ。
 そうすれば今回の事は見逃してあげるよ」
 
 返答はない。
 そうかそうか。あくまで敵対行動をとるなら私にも考えがある。
 こんなことで魔法を使いたくないけど聞き分けのない糞ガキを黙らせるなら仕方ないな。
 いや、そもそも彼は一言も喋ってないから黙らせるも何もないか。
 取り敢えず、お前。
 
 「失せろ」
 
 その一言でデュラハンは消えた。
 さて、お腹減ったし早く帰ろう。
 弟子に晩御飯を作ってもらわねば……と思ったけど。今日は無理そうだね。
 余りの恐怖と異臭に耐えきれず、気絶してしまったようだ。
 この分だと明日までは起きなさそうだ。
 はぁ、と溜息を付きながら私は弟子を抱え込み歩き出す。いわゆるお姫様だっこってやつだ。
 もう、夜遅いし帰ったらすぐに寝よう。
 欠伸をしながらゆっくりと歩く。
 その姿は魔女と呼ぶには些か疑問を感じるものだった。
 
 
 
 
 
 色彩の魔女 ラードンは色を彩る魔女である。
 
 七人の魔女は魔女の素質を持ってこの世に産まれてきたがラードンは違う。
 彼女は普通の一人の人間として産まれてきたのだ。
 双子の妹 エキドナは魔女として産まれてきたのに姉のラードンは人間として産まれてきた。
 姉妹なのにこうも違うのも珍しい。
 姉のラードンは面倒くさがり屋で気まぐれ。
 妹のエキドナは論理的で倫理的。
 何事も理由を持って行動する妹とは正反対の姉だった。
 妹のエキドナは幼い頃から魔女としての素質を開花させ周囲の注目を集めた。
 だが、姉のラードンは何もやっても中途半端で。妹のエキドナとは天と地の差だった。
 勉強でも。
 運動でも。
 愛想でも。
 料理でも。
 容姿でも。
 なんでも、全てにおいて妹のエキドナは姉のラードンに勝っていた。
 別に、姉のラードンはそれを悔しがることも無く。妹のエキドナをそれを自慢することは無かった。
 だが、そんな天才的な妹 エキドナでも姉 ラードンに劣るものがあった。
 それは────。
 
 「はぁはぁ……」
 
 弟子、重い。
 私は非力なんだ。
 弟子よ、そろそろ起きて自分で歩いてくれ。
 不安定な足場で体力を持っていかれる。
 自分で出したお題に振り回されるなんてホント滑稽だよ。
 
 「おい、弟子よ。
 そろそろ起きたまえよ」
 
 弟子よ、起きてくれ。
 ペシペシっと弟子の頬を優しく叩く。
 だが、弟子は起きない。
 うぅ、起きてくれよぉ。
 弟子の体は汗でびっしょり……さっきの悪臭に比べればマシだけど汗臭い。
 それに弟子の汗は服に染み込んでおり、余計に弟子が重く感じる。
 体内の水分を服が吸ってるから重さ自体は変わらないんだけど、これは余計に重く感じてしまう。
 私はひ弱で、か弱い、女の子だから、こんな重労働は、向いてないんだよ。
 と言いつつも、デコボコ山を下山したラードンだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 色彩の魔女 ラードンは他の七人の魔女の魔女の誰よりも優しかった。
 
 救いの手を求められれば例え、それが悪人でも手を差し伸べ。
 
 救われない、救われなかった生命を彼女は救った。
 
 それが、偽善であっても。
 
 善に代わりはない。
 
 それが、偽りの善だとしても。
 
 善に変わりはない。
 
 さて、色彩の魔女は何故、人を救うのだろう?
 
 それは己の為?
 
 それは人の為?
 
 それとも、その両方?
 
 ────まぁ、どちらにせよ。それはありがた迷惑だ。
 
 色彩の魔女は誰よりも優しかった。
 
 だから、こんな事になってしまったのだろう。
 
 ラードンは歩む。
 
 屍の山を積み上げ続ける。
 
 人の屍の上に居座り続ける。
 
 さて、彼女は『大罪人』だ。
 
 話だけ聞くなら彼女は女神の様な存在だと思うかも知れないけど、それは違う。
 
 彼女は「悪魔」だよ。
 
 確かに、彼女は誰よりも人に優しかった。
 
 だからかな。
 
 故に、彼女は人を救い続けた。
 
 これが、彼女の罪だ。
 
 第一次亜人戦争のきっかけを作った極悪非道の大罪人。
 
 それが、逆奪の魔女 ラードンなのだ。
 
 歴史の解釈では嫉妬の魔女 サテラの災厄によって始まった戦争とされてるけど彼女は戦争を始めるきっかけを作っただけであって戦争の首謀者ではない。
 
 解るかな?
 
 嫉妬の魔女は罪を被されたのさ。
 
 皆、嫉妬の魔女を悪く言うけど。
 それは嫉妬の魔女が災厄を巻き起こした最悪の魔女と勘違いされてるだけであって嫉妬の魔女に罪はない。
 
 あ、いや。罪が無いってのは流石に言い過ぎたかも知れない。
 
 彼女にも、罪はある。
 でも、それを全て彼女のせいにするってのは余りにも「怠惰」だろう?
 いや、この場合は「傲慢」かな。
 まぁ、それを「嫉妬」してしまった彼女も悪いっちゃ悪いけど。
 これもかれも、「色欲」に駆られた彼女達共犯者が原因なのか……そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。
 まぁ、彼女が「憂鬱」だったのも原因だけど。
 ちょっと彼女が「強欲」に駆られたも原因の一つだなぁ。
 それにあの戦争の最中に余計な「暴食」の横槍も入ったし。あれは酷かった。
 生きた人、死んだ人を見境無しに食い散らかしたんだから余計、戦争に火を付けさせてしまった。
 彼女達はそれぞれ大罪人だ。
 無論、それは彼女達自身がよく理解している。
 まぁ、理解していてどうとも思わないのも居るけどそれはさておき。
 
 結論を言おう。
 
 嫉妬の魔女は悪くない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、君は罪の善し悪しをどう決める?
 一方的にこれは悪いと決め付け。
 一方的にこれは良いと決めつける。
 これは人の価値観にも寄るからね。
 君が、良いと思っても他人は悪いと言うかも知れないし。本当に人ってのは面倒な生き物だよ。
 だから、魔女達の罪の善し悪しも曖昧になる。
 全ての人が、「これは悪だ」なんて決めつけるのは間違っている。
 全ての人が、「これは正義だ」なんて決めつけるのは間違っている。
 とある人はこんな事を言っていた。
 勝者が正義。弱者が悪だ、と。
 これも一つの定義だとは思うけど。
 所詮、定義だ。勝者が正義で、弱者が悪なんて間違っている。
 あぁ、別にこの定義を否定している訳じゃないよ?
 それも一つの定義ってことは認めている。
 だが、それを了承することは出来ない。
 だって、それを認めたら私は勝者になってしまう。それは駄目だ、それは間違っている。
 私は敗者だ。
 敗北した者だ。
 正義なんて名義も興味無いしね。
 だから、僕はその定義を肯定することは出来ない。
 否定もしない。
 それを批判するつもりはない。
 
 だって、それは正義と悪を決める一つの定義なのだから。
 
 
 
 物音しない夜の村。
 
 こんな時間に外を出歩いてるのは私達くらいだろう。
 いや、歩いているのは私だけだけどね。
 村の入口に灯してある松明を頼りにここまで帰ってこられたけど一時はどうなるかと思ったよ。
 月明かりに照らされ、夜道はそれほど苦労しなかった。
 のだが、問題はその後だった。
 
 「あれ? 帰り道はどっち?」
 
 村に戻る最中、迷子になってしまった。
 いかに月の光が道を照らしていてくれても日中の太陽の明るさには敵わない。
 何処で道を間違えたのかは解らないけど昼間、太陽の光が出ている間なら間違えることは無かっただろう。
 その後は適当に歩いていると遠くに炎の灯りが薄らと見えたのでそれを目印にここまで戻ってきたという訳だ。
 私の住む村の周辺は山で囲まれており、近くに他の村はない。
 なので、あそこに家があると思えた時はどれほど嬉しかったことやら。
 人というやつは目的を達成しそうになるとそれまでにあった労力を思い返す生き物だ。無論、それは私も例外ではない。
 達成感と同時にやってくる疲労感もハンパないけどね。
 なんとか、その疲労感に耐え。
 私はここまで弟子をお姫様だっこして戻ってきた訳だ。
 さて、早く帰って寝よう。
 自宅を目指して一直線……あれ、そういえば弟子の家ってどこ?
 自宅玄関前で、ふと疑問に思った。
 この村に来てかれこれ四年くらいになるけど弟子の家が村の何処にあるのか知らなかった。
 まずは、この重たいお荷物を家に返さないとだが。弟子の家が何処にあるのか解らなければ返せようにも返せない。
 そして、また新たに疑問を覚えた。
 弟子の親は弟子の心配をしていないのか。
 弟子はまだ年端のいかない少年だ。
 そんな少年が夜になっても家に帰ってこなかったら普通は心配するはずだ。
 下手すれば村の住民総出で弟子を探し回るだろう。
 なのだが、そんな形跡は無く。
 村の住民は眠りに就いている。
 これは一体どういう事だ?
 
 「少しは、村の住民との交流を深めるべきだったかな」
 
 私は基本的に家に閉じこもっているので外との交流は一切ない。
 あるとすれば私の腕の中で眠っている弟子くらいだ。
 これは困った。とても困った。
 数分、数秒悩むが。
 まぁ、何かしらの事情があるのだろう。
 と決め付け、私は自宅に向かう。
 今日は疲れた。
 明日の事は明日の私に任せればいい。
 んんじゃあ。明日の私、そこら辺よろしくねぇー。
 
 
 
 
 「なんで、そんな面倒な案件を残したまま眠りに就いた私……」
 
 昨日の自分は一体、何をしていたんだ。
 明日の私に面倒事を放り込むなんてどうかしてるよ。
 その日に出来ることならその日のうちにやっておけって教わらなかったの私?
 などと自問自答を繰り返すラードンは己のズボラさを嘆いた。
 その面倒事の塊の張本人は私のベッドの上で大の字に寝てやがるし、朝からついてないよ。
 寝息も五月蝿いし、存在も五月蝿い。
 なんなんだ。一体、お前はなんなんだ?
 少しは静かに生きられないのか。
 なんて眠ってるコイツに念を送っても無意味なんだけどさ。
 このバカ弟子は言っても聴かない正真正銘の馬鹿だからね。言っても無駄なら念じるさ。
 腹も減ったし、まだ眠い。
 昨日は色々あって疲れたからな。
 朝食を作ってくれる弟子もまだ眠っている。起こすのも可哀想だし、今は眠りに就かせてあげるとする。
 私も、もう一眠り。
 
 
 
 
 
 
 「さて、ここら辺の筈なんだけど」
 
 地竜を引き連れ、地図を観ながら歩く青年。
 青年の名前はレイド・アストレア。
 騎士を生業とする旅人だ。
 騎士なのに旅人?
 その見た目は好印象的な美少年のものでとても騎士のように鍛え上げられた肉体には見えない。
 一般的な青年より、少し筋肉質で大陸各国を旅する美少年と言われれば納得はするだろう。
 だが、とてもレイド・アストレアを一目見ただけで騎士とは思わないし、思えない。
 服装もそうだ。
 レイドの服装は旅をする者の特有の服装で、騎士のきの字も見えるない。
 だが、彼は由緒正しき騎士だ。
 例え、その身なりが旅人のものであってもレイド・アストレアは騎士なのだ。
 と言っても、今は騎士を副職にし。
 本業を旅人にチェンジした遊び人なのだが。
 
 「地図だとこの変に村があるはずなんだけど見当たらないね」
 
 地図通りに進んでいれば今頃は村に到着していただろう。
 だが、立ち止まった視線の先は山ばかり。
 どこで道を間違えたのだろう?
 
 「この近くにあるのは確かなんだ。ちょっと歩けば見つかるよ」
 
 レイドは地竜の頬を優しく撫で歩き出す。
 「昨日からずっと歩きっぱなしだから君も疲れたろうね。あと少しだからもうちょっと頑張っておくれ」
 
 主人の言葉に地竜は「グルグゥッ」と小さく吠えた。
 まだ、歩けるっと言ってくれたのだろう。
 
 「うん、ありがとう」
 
 
 
 
 
 亜人戦争を集結させた剣聖 レイド・アストレア。
 これは、騎士兼旅人のレイドが剣聖になる前の物語。
 色彩の魔女と初代剣聖の物語だ。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
  
 

 
後書き
────色彩の魔女は怠惰である。 
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