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銅像

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第二章

「何もな」
「では今は」
「わしは遥かに高みを考えておる」
 その血走った目をだ、松坂に見せて言った。
「わしの芸術の究極をな」
「それをですね」
「既に創造したいものは全て創造した」
 芸術作品のそれはというのだ。
「ならばだ」
「あと一つですね」
「それを創造するだけだ、そしてだ」
「その最後の創造にですね」
「これから入る、これはだ」
 富岡は痩せこけているがそれでもだった、生気鬼気迫るまでにあるそれを発しながら弟子に対して言うのだった。
「わしの最後の創造にしてだ」
「最高のですね」
「それになる、御前にそれを見せよう」
 真っ赤にまでなっている目でだ、弟子を見つつ言った。
「その芸術をな」
「では」
 松坂も頷く、そしてだった。
 富岡は自分で全てを用意した、用意したものは大量の銅とそれを溶かして煮えたぎらせた釜だった。そうしたものを用意させてだった。
 富岡は仕事部屋の一番上にその釜を持ってこさせた、そうした用意をするまでにそれなりの金はかかったが彼は気にしなかった。
 そしてだ、彼は釜の真下に全裸で来て見守る松坂に言った。
「後はだ」
「はい、これからですね」
「時間になればだ」
 その時にとだ、部屋の端にやらせている松坂に言った。
「わしの最高最後の芸術が生まれる」
「その時にこそ」
「御前はそれを見るのだ、そしてだ」
「その芸術作品をですね」
「この世に発表しろ」
「今の私達のやり取りもですね」
「映像に残してある、この映像はだ」
 富岡は松坂に真剣な顔で話していく。
「わかるな」
「この映像も、ですね」
「そうなるな、世に出すのだ」
「公表しますか」
「わしの最高にして最後の芸術を世に残す為にな」
「その証拠ですね」
「そしてだ」 
 富岡は松坂にこうも言った。
「この映像は御前を救うことになる」
「と、いいますと」
「その時になればわかる」
 こう言ってだ、そしてだった。
 富岡はその場で待った、すると。
 暫くしてだ、釜を制御している機械が動いてだった。釜が傾き。
 中にある煮えたぎっている銅が落ちた、そして。
 富岡を襲った、銅は彼を瞬く間に覆った。その銅が落ち終えるとだった。
 そこには一つの銅像があった、全裸の彼が仁王立ちしたままのそれがだ。松坂はその一部始終を驚愕したまま見終えた。
 そのうえで映像と作品を公表するとだ、全世界はそれに彼以上に驚愕した。
「自分を芸術作品にしたのか」
「まさかと思うが」
「この映像は真実なのか?」
「編集じゃないのか」 
 こうした疑いも持たれた、だが。
 松坂は彼等にだ、真剣な顔で告げた。
「そう思われるなら検証されて下さい」
「この映像を」
「そうしていいのですか」
「はい、そして私は先生の傍に最後までいました」
 だからだと言うのだった。 
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