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SWORD SUMMIT

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第一章

                SWORD SUMMIT
 剣道九段古田祥郎は日本の剣聖とまで呼ばれていた武道専門学校通称武専において鬼とさえ呼ばれていた。今は八条大学剣道部で師範役をしている。かつてはこの大学の付属の高等部で教師をしていて剣道を教えていたが今は大学の方でそうしているのだ。
 しかしだ、その彼を見てフランスからの留学生フィリップ=ド=フーシェは日本の友人達に話した。
「もう九十代だよね」
「うん、九十五歳だよ」
「かなりのお歳なのは確かだよ」
「そうだね、じゃあ」 
 九十代、しかも四捨五入して百歳にもなるとだ、フーシェはこう言った。灰色がかった青い目も鼻の高い整った顔立ちも馬鹿にするものではなく真剣なものだった。
「もう流石に剣道は」
「いやいや、これがね」
「また凄いらしいよ」
「大学生の学生大会優勝者でも勝てないから」
「もう誰も勝ったことない位だから」
「昔は鬼って呼ばれていたけれどね」
「今もそう呼ばれているだけあって」
 それでというのだ。
「剣道になったら強いから」
「動きが半端じゃないらしいよ」
「それで誰も勝てないんだよ」
「今でもね」
「馬鹿な、そんな筈がないよ」 
 フーシェは友人達の言葉を否定した。
「幾ら何でも」
「九十代の人がだよね」
「大学生の人に勝てる筈がないっていうんだね」
「そうだよ、九十代だよ」
 やはり年齢のことを言うのだった。
「もう剣道が出来る自体が有り得ないよ」
「そう言うけれど事実なんだ」
「今でも凄く強いから」
「これ本当だから」
 友人達はその古田を見て言う、背は一七〇位であり痩せた木の葉の様な身体だ、髪はかなり薄く弱々しい白髪だ。顔も皺ばかりで年齢を感じさせる。背中は曲がっていないがやはり強そうにはとても見えはしない。
 その彼をまた見てだ、フーシェはまた友人達に言った。
「君達の言葉はかなり」
「信じられないっていうんだね」
「どうしても」
「悪いけれどね」
 実際にというのだ。
「九十代でスポーツ出来る人なんていないよ」
「それがなんだよ」
「あの人今も剣道しているんだ」
「そして強いんだよ」
「実際に見てみればわかるよ」
「それに君もだね」
 ここで友人の一人がフーシェ自身に聞いてきた。
「剣を持つよね」
「フェシングをしているよ」
 子供の頃から嗜んでいる、フーシェにとってはテニスそして学問の対象である物理学と並んで掛け替えのないものだ。
「自信があるよ」
「じゃあ一回手合わせしてみたらどうかな」
「フェシングと剣道はまた違うけれど」
「先生と?」
「古田先生異種勝負も快く受けてくれるし」
「そして実際にだね」
 いぶかしむ様な顔でだ、フーシェはその友人に応えた。
「その目で見ればというんだね」
「そうしてみたらどうかな」
「そうだね」
 一七八位の引き締まった、瞬発力を感じさせる身体まで考えるものにさせてだ、フーシェは友人に応えた。 
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