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飛海寨城地獄変

作者:藤井機斎
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帰路

 回廊を疾走する少年のサイクロップスは左腕並びに右脚関節部、更には心臓部の駆動系まで異常をきたしているらしく、時折、該当箇所から紫電が走り、その度に挙動に陰りが見える。騙し騙しで()ってきたサイクロップスだったが、遂に限界が目前に迫ったようで軋みや異音が震動と共に伝わってくる。先の戦闘で前部の装甲を裂かれ、中の少年の姿が垣間見えるほどである。この分だと、前部装甲を展開して機体を降りる事は不可能だろう。

 追跡してくるMBや警備兵の姿の無き事を確認しつつ、少年はナビゲーションに表示された目的の場所へと辿り着いた。一見すると今までと殆ど変わらない通路であったが、それまでと異なり、壁面に三つに並んだダストシュートが設えられている。種類別で投入口が分けられている事から、廃棄場所も異なっているのだろう。

 それを確認し、改めて襲いかかる驚異の無しを見定め、サイクロップスはダストシュートを背にして屈んだ。

サイクロップスの操縦桿の中央にはメモリスロットが五つあり、中央の三つまでが埋まっている。
 中央の一つは認識票(ドッグタグ)が挿さっており、これにはコンバットプログラムが入力されている。このプログラムにより、あらかじめ搭乗経験のある機体をライダー独自の操作設定に合わせる(ヽヽヽヽ)事ができる。更に、初めて乗るMBも基幹システム及び共通システム部分までは、ライダーの特性に合うよう調整まで行う、MBライダーに必須の道具だ。
 左のスロットには、作戦内容をナビゲーションするミッションプログラムを入力したメモリがある。

 右側のメモリだけを残し、後部装甲展開レバーを引く。爆裂ボルトが起こした軽い爆発音と共に、サイクロップスの背部装甲が切り離され、少年が外へと這い出てきた。

 操縦席から降りた少年は、ライダースジャケット型の軍服の上に着込んだハーネスと、MB左腕部のワイヤーウインチとをつなげると、ダストシュートの真ん中の蓋を開けて、奈落へと身を投げる。

 通常であれば、ダストシュートにはゴミを破砕する装置が備わっているのだが、それはあらかじめ電光空間(グリッドスペース)からの侵入(クラッキング)操作で機能を停止させている(ヽヽヽヽヽヽヽ)
 もし、平時であったなら挽き肉(ミンチ)メイカーとなっていただろうダストシュートだが、今は少年をただ沈黙して見送るだけである。

 暗いダストシュートの壁に体をぶつけながら、落下の浮遊感に身を任せ――はたして、終着点へは五秒ほどで到着した。

 ハーネスには超音波で地上への距離を測定する機器が仕掛けられており、距離がゼロになる前にワイヤーの射出を停止するプログラムが、サイクロップスのスロットに残されたメモリに入力されている。少年が致命的速度で地上へ激突する寸前、サイクロップスがワイヤーからの停止信号を受信、即座にワイヤーをロック。少年は、地上一メートルほど上空で宙吊りになる格好となった。

 そこは、山をなすほど鉄屑の集まったスクラップ場であった。
 ハーネスを外し、地上に降り立った少年はすぐさま離れると、手の平に収まる程度の装置のスイッチを取り出し、ボタンを押し込んだ。
 信号を受信したサイクロップスが、残されたメモリのプログラムを実行する。

 爆音が上空から響き、先ほど落下してきたダストシュートが煤に染まった煙を吐き出す。証拠隠滅と攪乱のために、少年がサイクロップスを自爆させたのだ。

 続いて、周囲を見渡し、少年は目当ての物を見つけ出した。ゴミにまみれて秘匿されている浮遊推力二輪車(スラストバイク)。前日に、ボブの部下にスクラップ場に脱出用にと配置させていたのだ。脱出ポイントは複数確保していたものの、事前情報通り、スクラップ場付近の警備が甘かったので、脱出にはここを使うことになるだろうと踏んでいた。浮遊推力二輪車(スラストバイク)にまたがりセルを回すと、ほどなく、動力を得たそれは浮遊すると、スクラップ場の出口へと発進した。

 空は悲嘆の涙を流し尽くしたのか、夜半から振り続けた雨はようやく上がり、今は名残雲を双子月にかけているばかりである。まっすぐ合流地点へ戻るのは愚策だ。追跡を避けるため、迂回やUターンを繰り返し、帰路へ着く。この分だと、戻る頃には空が白み始めるだろうか。まだ明けぬ夜の魔都は、天を刺す巨峰のように聳えている。 
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