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我が春も上々の言よ梅の花 ~ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー企画~

作者:高田黒蜜
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秘めたる想い

 
前書き
今日はハーメルンで小説活動をなさっている頭文字Fさんの作品です!
純愛をお楽しみください。 by企画運営主 

 
「もー!!さーむーいー!!」

バスの本数が少ないほどの "ど田舎" に似合わない風貌でそびえ立つ建物。
その建物の屋上で、ただ率直な感想を叫ぶオレンジ髪が特徴の少女。
その少女は自分の肩を両手で包み込み、正に寒い、そう言わんばかりの動作を俺にしてみせ...

「君もそう思うよね!?...むぅ...」

俺に同意を求める...が、俺の方を見て何故か頬を膨らます。何故だ。

...しかもこの凍えるような寒気に悲鳴を上げ、俺に動作で訴えかけてくるものはこの少女だけではないらしい...。

「寒いわね...さっきまで音楽室にいただけに余計に...あれ?」

「梨子ちゃんお疲れ様!私も慣れてるはずなんだけど...今日は特別寒いよ...お?」

この少女たちも。

「...ピギッ!?寒いよぉ...ぅゅ?」

「寒いずら...あれ?」

「フッ...ヨ...ヨハネは "業火の炎" のおかげで寒...寒...くない...寒ッ!!!...って!!」

はたまたこの少女たちも。

「オーゥ!ベリーコォルドゥ!...かなーん!」

「ちょっ!?寒いからって抱きつかないでよ!!...ん?」

「またですの...。...ほんとに寒いですわね...ルビィ、寒くはない?...って...」

そしてこの少女たちも、寒さをトコトン主張する。...それに何故か全員、何かに気づいた様子。

気づいたものは...。

『なんでそんなに暖かそうな格好なの!?』

「いや、俺は動かないし?寒いし?君ら動くし?暑くなるだろうし?うん。」

...2枚重ねセーター、その上にコート。
そしてマフラーにニット帽といったように完全装備を施した "俺" であった。









...9人の少女たちは、そんな俺の姿を見るなり糾弾する。ずるいだとか、差別だとか...。

...ちなみに俺の完全装備は...

「そんな服装、認められませんわ!!」

生徒会長を務めている少女、 黒澤 ダイヤ によって剥ぎ取られてしまった。Oh、イッツコールド。

ただでさえ寒かったのにもっと寒くなる、と悪態をつき、メンバーを見渡す。メンバー全員が寒さに身体を強張らせている中、俺だけ暖かい格好に身を包んでいたのだ。

まあ俺だって鬼ではない。
屋上への扉近くに、 "あからさま" という感じで置いてある段ボール箱を一つずつ開封。
そんな俺の突飛な行動に9人は興味津々な様子。

9方向から発される視線を身で受けながら全ての段ボールを開け終え、メンバーへと向き直る。

「...さあ!少し早いけどクリスマスプレゼントだ!!」

そう叫び、ある段ボールへと半ば乱暴に手を突っ込む。何が出るかな...じゃなくて...。
中身を掴み、勢い良く取り出す。

その段ボールの中身は...。

『手袋!?』

「イエス!」

予想だにしなかったプレゼントに9人は嬉々の表情を浮かべ、こちらに駆け寄ってくる。
まさに手袋を餌と見違えた犬のように。

そしてその餌を取るやいなや、袋を神速で破り捨て、手袋を装着。すると9人とも同じ反応を俺に見せる。
"あったか〜い" 、と。

...そう。こんなこいつらの "願い" を、俺は何回も叶えてきた。
寒い、と言われれば手袋。暑い、と言われればスポーツドリンク。...一回無理して、屋上まで扇風機を引っ張ってきた事もあったっけか。

こんな密かな、小さな "願い" を叶えるのが俺の役目。...それ以上の事など、無理なのだ。




「...君なら、ラブライブへの出場も叶えてくれそうっ!」

「...千歌...」

...ましてや。




...こいつらの "夢" を叶える事など。


「...?」









練習終わり、暗い歩道でバスを待っている。
メンバーは全員女の子、遅くまで活動させるわけにはいかないのでさっさと解散させた。
そして俺だけで進めていた後片付けが終わり、今は滅多に来ないバスを待っている...。

街灯から漏れる白い光をじっと見つめ、ため息を一つ。...そして。

「...なんて...無力なんだろうな...」

...愚痴とも取れる呟きを一つ。

俺はあいつらの夢を叶えてやりたい。その気持ちに嘘はない。
だがいつも、ダウナーになってしまう。

"俺があいつらの夢を叶えてやることは、出来ない" と。

そんなの当たり前だ、分かっている。
だがいつも、そう思ってしまうのだ。

所詮はただの助っ人、いわばマネージャーのようなもの。
そして、こういう結論に至る。

"俺はあいつらの役に立てているのか" と。
"もし役に立っていなければ、いる必要なんてない" と。

「まぁ...悩んでてもしょうがないか...」

遠くに見えるヘッドライトを合図に、湧き出ていたネガティヴな考えを振り切る。

やがて目の前でバスが扉を開き、重い足取りと共に乗車しようとしたその時。

「待ってーーー!!!乗ります乗りまーす!!!」

その場で振り返ってみると、1人の少女が焦りと共に走ってきた。

その少女は...

「...千歌?」

「はぁ...はぁ...あれ?」

Aqoursのリーダー、高海千歌だった。




バスはいつも誰を運んでいるのか...というほどにはガラガラなので毎日、座席に座ることが出来る。
それは今日も例外ではなかったので、俺がいつも座っている席、最後尾の右端を陣取り、俺の崩した姿勢に椅子のカバーは自在に形を変えた。
それに続き、何の迷いもなく千歌が隣へと腰掛ける。

疲れたよぉ、と項垂れる彼女を見て、また脳裏に "あの事" が思い出される。

『君なら...』

「...」

...俺には、夢を叶えてやることなんて。

「どうしたの?」

...俺には、何もできっこない。

こちらを覗き込む素直な瞳に...

「...いや、なんでも。」

...俺自身を抑え込み、無理矢理嘘をついた。

...だが。

「...うそ。絶対何かある。」

「...!」

その瞳はどこまでも素直で、俺が嘘をついていることに対して食らいつき。

「...話して...?」

...俺の醜い "中身" を離そうとはしなかった。

今思えば、彼女の素直な姿に惹かれたのかもしれない。...恋愛感情などではないが。

伝説のスクールアイドル、 μ's に憧れを抱く彼女の目は、どこまでも素直で。
輝きたい。その理由だけで始めたスクールアイドルも。...彼女はいつでも素直だった。

迷惑をかけてしまう。そんな心配は二の次で。
だけど誰も、迷惑だなんて思ってなくて。

これもそれも全て。

"彼女の素直さに惹かれたからこそ" なのかもしれない。

...それ程まで素直な彼女に、虚な自分を演じ続けても...。
虚な自分の中にある、 "本当の俺" を引きずりだそうとするだろう。

...なら、打ち明けてしまおう。




「実は...さ。」









「...俺、お前らのマネージャー...やめようと思うんだ。」

「...え...?」

千歌の瞳が揺れる。何故かは女心の一つも分からない俺でも理解できた。
...悲しいから。

「...どう...して...?」

「...俺さ、ずっと悩んでたんだ。」

崩した姿勢を正し、千歌をじっと見つめる。だがすぐに気恥ずかしさで目を反らす。

「...お前らの役に立ててるのかなって。」

「...そんなの...役に立ってるに決まってるじゃん!!」

声を荒げた千歌が勢いよく立ち上がる...が。

「きゃっ!?」

まるでバスが千歌を振り落とそうとしているかのように、バスは急カーブへと差し掛かる。

「っ!!」

咄嗟に手が出る。その手はラッキースケベ方面へ向く...ことはなく。

「よっと...」

「...ふぇ...?」

彼女の背中へと、回された。

「大丈夫か?」

「...あ...ありがと...」

心なしか頬が赤い彼女を椅子へそっと座らせ、俺も腰掛ける。

...数秒の沈黙の後、もう一度、話をし始める。

「...まあ...役に立ってない、って思ってるんだよ。」

「だからそんなこと!!」

またまた、俺を糾弾する...わけでもない大声が身体を貫こうとする。...が。

「しかも!!!」

その刃物を、盾で防ぐ。

「ここは世間的には女子校だ。そんな中俺だけは男子...この時点でもうおかしいんだよ。」

それに、と言葉をつなぐ。

「...お前らはスクールアイドルだ。...いくらマネージャーとはいえ、お前らと接してるところを見られたら色々マズい筈だ。

...そんなんで...お前らの夢の邪魔をしたくないんだよ...」

何故、声が薄れていく...?何故、虚しい気持ちになる...?

「...邪魔なんかじゃない...」

...小さな呟きから。

「邪魔なんかじゃない!!!」

...大きな叫びへ。

そして彼女は、意のままに俺の手を取る。

「だって君はいつも私たちを助けてくれる!」

「そしていつも、夢に立ち向かう勇気をくれるっ...!!」


「...君がいるから...!」

俯いた千歌は、小さく震えている。その震えは俺の手にも伝わる程であり、その手から、顔が見えなくても、表情が痛いほど伝わる。

そして彼女は顔を上げる。

「夢を叶えたいってずっと思えるの!!!」

涙でぐちゃぐちゃになった、その顔を。









「...落ち着いたか?」

「...うん...」

まだ涙の跡が残る千歌の顔には、やはりまだ寂しさが残っていた。そしてその寂しさは彼女の瞳にも表れている。
...かなり辛いものがある。正に天真爛漫...と言ったような娘が、こうも気を落としているのだ。
...まあ、俺のせいなんだが。

...とりあえず。

「...とりあえず肩に乗っけてる頭どけてくれるか?」

「...やだ」

「えぇ...?」

俺がマネージャーをやめようとしているのを、こうして止めようというわけか。その手には乗らんぞ...と言いたいのだが...。

...千歌は、恋愛にあまり興味がない俺からしても "すごく" 可愛い部類に入る。
そんな娘が俺の肩に...と考えるとやはり恥ずかしいものがある。

...とりあえずどいてもらおう、という意識だけで。

「...どうしたらどけてくれる?」

「...やめないで...?」

思い切って聞いてみたらこのザマである。
涙目でこちらを見られるというのは、なかなか辛いものがあるな...。

「...君は...楽しくなかった...?」

「...千歌と...千歌たちといて楽しくなかった...?」

「...」

千歌の悲痛な心の叫びが、俺の心を抉り取る。
...俺は情けないが、黙るしかなかった。

「...スクールアイドルだって...楽しいから続けてるの...」

「...君に続けてほしいのだってそう...君といてすっごく楽しいから!!」

「...!」

...人によっては傷つくかもしれない。すごく楽しい...それだけ?と。
だが、悩み抜いていた今の俺にとっては正に救いの手だった。

Aqoursの皆が俺をどう思っていたかなんて知りもしなかったし、何より千歌がここまで俺を重要視してくれていたのだから。

「...ごめんね...こんなこと...」

「心配すんな。」

そして深く息を吸った。
...もう、覚悟は決めた。こいつらは、俺を必要としてくれている。
無力な俺を。

...なら。









「...やっぱり、やめない。」

「...え...?」

俺の言葉に、驚きの表情を見せる千歌。
それと同時に、希望がその瞳には込もっていた...気がする。

「...やめるのを...やめてくれるの...?」

「...ややこしいな...まあそういうことだな。」

俺がそう返した途端、彼女の顔に喜色が戻り、こいつの感情を直に表現しているであろうアホ毛が直立した。
そして肩に乗せていた頭を離し...

「...ありがとおおおぉぉ...!」

「はいはい...」

俺の胸へと飛び込んできた。...実際かなり痛かったが、今のタイミングでそれを言うのは野暮であろう...。

今度は嬉し泣きなのか、また泣き出してしまった千歌の頭を撫でてやる。
...心なしか俺の背中に回している腕が強張った気がした。









「...だって...千歌の元から離れてほしくないもん...」

...そんな小さな小さな呟きが宙へ。
そしてそれは、彼の耳へ届くことはなかった。









「待って〜!!」

「千歌!遅い!!初詣どころの騒ぎじゃない!!!どうしてくれる!!!!」

「ごめんなさ〜い!!!」

あけましておめでとうございます、の季節。正に正月である。...とりあえずAqoursの皆と初詣をしよう!
...なんて予定があったのだが...。

「千歌ちゃん大丈夫かな...?」

「全く!!新年早々遅刻とは...!!」

...1月1日。正に初日から大遅刻である。ちなみに1時間。
そして段々と混み合ってきたため千歌以外のAqoursの皆は先に行かせた。

その旨を説明すると千歌は肩を竦ませる。

「...先に行ってて良かったのに...」

「いや?お前1人ってのも可哀想だしな。」

さあ行くぞ、と先陣を切る彼にまた、千歌は。

「...ふふっ...距離、縮めちゃいたいな〜...」

...なんて、聞こえないように溢すのであった。




「...ちなみにお賽銭に投げ込むのは何円にすんの?」

...かなりの渋滞。なんとか暇、という怠惰のような感情を消し去ろうと他愛のない話を千歌に投げかける。
すると千歌は腰に手を当て、胸を張る。
...でかい...じゃない、今にでもえっへんとでも言いそうな勢「えっへん!」...言ったな。

「幾ら投げたらどういう意味を表すのか、ちゃんと調べてきたよ!!」

「ほぉ...千歌にしてはめずらしい...」

「珍しいってなにさ!?」

俺の不意な発言に不満そうな様子の彼女、おまけに頬も膨らませている。...そんな状態で彼女がぶーぶー言っている間に俺たちの順番が来た。

ごめんごめん、と彼女をなだめてお賽銭箱の前へと歩み寄る。そしてお賽銭箱の前へとたどり着いた時にあることを思い出す。
...そういえば。

「...何円入れようかな...」

「!!!」

...他意はないただの独り言に、千歌は肩を震わせ、その上アホ毛が直立。
俺の独り言のどこに反応したのか。...それよりもあのアホ毛はどういう構造になっているのか。...疑問を持ってしまう。

そんな俺へ千歌は。

「じゃ...じゃあ31円!!」

「...なに?アイス食べたいの?」

「今寒いんだけど!?」

いきなり31円、という微妙な金額を提示。
なぜ。しかも「31」である。有名なあそこではないか。
だが別にアイスが食べたいというわけではないらしい。
...はて?

「とりあえず投げる!!」

「あっ、待てよ!!」

とうとう痺れを切らしたのか俺の持っていた31円を取り、彼女の持っていた31円と一緒にお賽銭箱へ投げる千歌。

...これ俺に福は来るのか...?

横目で彼女を見やるとしてやったり、という表情。若干の理不尽を感じつつ、彼女と一緒にお祈りする。

俺の願いが、叶いますように。そんな淡い期待のようなものを添えて。






...帰り道。

「...君は何を願ったの?」

千歌は俺の願い事を聞き出そうとする。...だが変に隠してもこいつは知りたがる。正直に言おう...。

「...俺は"Aqoursの皆の夢を俺も一緒に叶えれますように" って。」

「...ふふっ...こんな時にも私たちのこと考えてくれてるの?」

「まぁ他にないしな〜」

俺自身の願い事じゃない、というがしっかり俺自身の願い事ではある。 "俺も一緒に" ...と。

俺は彼女に願い事を暴露したので、今度は彼女の願い事、そして一つの疑問を聞き出す。...が。

「...何願ったんだ?...んで31円に何の意味があんの?」

「そっ...それは秘密っ!!!」

「はぁ!?俺も言ったんだから言えよ!!」

「いーーーやーーーだーーー!」

末っ子特有、 "駄々こね" が発動。
こうなってしまった千歌はもうブレない。
しぶしぶ聞き出すことを断念...無念である。

...だがいつか絶対に聞き出す、そう誓い、帰路へついた。









「...いつか、そんな関係にしてくださいって...願ったの...」

...千歌の独り言と共に。









...家へ入るやいなやすぐにパソコンを立ち上げ、31円の意味を調べた。
...そして妙に千歌のことを意識し始めるのはまた、別のお話。 
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