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メン・タンク・マッチ:MTM

作者:鷲金
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初動編
  MTM:初動編 第6話:「修練(きょうしつ)」Cパート 後半

 
前書き
メン・タンク・マッチ:初動編の第6話Cパート後編を掲載開始しました。
初動編は、主人公達がメン・タンク・マッチに参加するまでの話です。


*メン・タンク・マッチ:MTMはまだ未完成の作品のため、全てを一度に掲載することは出来ません。また、各話の修正などで更新が遅れる上、更新期間がランダムで投稿することになります。一応、最終話まで投稿する予定です。
MTMは20話以上の物語を予定しています。


予定では6話のCパート全てを掲載する予定でしたが、後半が未完成の為前半後半に分けて
掲載します。


 

 
試合が開始してから40分が経過した。
あれからハルナ達のシャーマンは、逃げた天桐達のⅢ号を探していた。
ハッチからハルナが顔だけを出して周りを見回し。
「あいつ、どこに行ったの?」
雨が降る中、レインコートを頭に被って目を凝らして探す。
すると、車内で操縦しているナツコはハルナに聞いた。
「けど、いいの?」
「何が?」
「この雨だと中々見つけられないよ。下手に位動くとやられるかもしれないよ」
「大丈夫よ。この辺りは、障害物がほとんどないし、あいつらがこちらを見つけるのに20メートルにでも近づかないと」
「相手が素人同然だからって甘く見ないほうが」
ナツコがそう言うと今度は砲手のミアキもそれに合わせて言い出した。
「確かに、天桐さん達から何かと油断ならない感じがします」
「油断ねぇ。けど、あいつらの考える小細工なんて予想出来るわよ」
「まぁ、戦車道では絶対はないから警戒はするわよ。一応」
ハルナは大胆な行動をとっているとはいえ警戒心を解いているわけではない。そこはやはり、経験で分かっているのだろう。
「さて、それよりあいつらをさっさと、・・・」
ハルナが右に視線をやった時だ。雨の中を僅かに黒い塊が動いたのが見えた。
「あれは」
ハルナがよく見ると、それは大きな影であった。その形は、Ⅲ号戦車にそっくりなシルエットだ。
すると、ハルナは皆に伝えた。
「見つけたわ。右2時の方向よ」
Ⅲ号はシャーマンの向かう同じ北より東向きの方向でゆっくり走っていた。
「相手はまだ、こちらに気付いてはいないみたいわ」(よし、それなら)
ハルナは中に戻ってハッチを閉めると皆に指示を出した。
「これは、チャンスよ。いい?静かに後ろをとって奴らを仕留めるわよ」
「ナツコ、このまま気付かれないように相手の後ろを追って。ミアキ、合図するまで発砲はしないで」
ハルナの指示にナツコとミアキは返事をした。
「わかった」
「了解です」
シャーマンはそのままⅢ号の跡を追うよう行った。
「いい、絶対外さない10メートルまで近づくのよ。合図したら撃って」
「はい」
ハルナに返事をしたミアキは照準器で狙いを調節していく。
後ろを追うシャーマンは、攻撃も仕掛けずゆっくりⅢ号に近づいていく。
「よーし、そのままそのまま」
シャーマンは、Ⅲ号の後ろからどんどん距離を詰めていく。ハルナは余裕な気分で。
「よし、まだ気付いてはいないわね。」
その距離が狭まっていく。15メートル、14メートル、13メートルと。
そして、距離が約10メートルになった時だ。
「よし、・・・撃」
ハルナが発射指示をしようした瞬間だ。
シュン
「え?!」
ハルナは気が抜けた様な声を漏らした。
ハルナ以外のナツコとミアキも同じ様な反応をした。
「あ、あれ?」「あらら?」
それもそのはず、今10メートル先に居たはずのⅢ号が一瞬で消えたのだ。
「消えた?」
ハルナは、自分の手で両目をこすり、もう一度確認するがどこにも見当たらない。
(どこに?)
ハルナは、雲行きや雨のせいで視界が悪いので、見失ったのかと思ったが、明らかにそうではなかった。それに、ここは障害物もなくだだっ広い場所であるため、隠れるのは不可能だ。今は、雨音でエンジン音も聞こえにくくなったのもあり、視聴覚で相手の位置が分からない。
ハルナはハッチから顔を出し、外から確認しようとした瞬間だ。
ドガァン
「きゃ」
突然、大きな轟音と同時にシャーマンに衝撃が走った。そのせいで、立ち上がろうとしていたハルナは尻もちをついた。
「痛、一体何?攻撃?」
「はい、おそらく。今のは、右から受けましたね」
「ナツコ。急いで動いて狙い撃ちされるわ」
「う、うん」
ナツコは、急いでシャーマンを走らせようと操縦するが、一向に動こうとしない。
「あ、あれ」
「どうしたの?」
「右の履帯が動かない」
「え?ちょっと、待って」
ハルナはハッチから顔を出し、右側の履帯を確認した。
「り、履帯が」
シャーマンの右側の履帯が壊されているのだ。
「今の攻撃で」
ハルナが見る限り、それはただ外れたのではなく。何らかの攻撃による破壊だと分かった。
右側の履帯が壊れたことでまともに走れないシャーマン。それに、この辺りは土ばかりで雨が降れば泥濘が出来てしまう。そして今は、この雨のせいで泥濘ばかりになった。一方、残る左側の履帯は、その泥濘にはまったせいで、走れないのだ。
「クッ」(これは、右方向の近距離からの攻撃だ)
ハルナは、今の攻撃から推測して砲塔上面のハッチから顔を出した。
「けど、どこから」
ハルナは右方向を見るがそこにⅢ号の姿は愚か何も見えなかった。
雨や明るさのせいもあり、遠くまではっきりと見えないが、10メートル程度の距離には影1つ見えなかった。
「居ない。・・・どこにも」
ハルナは右側180度に首を振って確認していると、すぐ下から一瞬だけ何かが光ったのに気付いた。
ハルナは、そのまま恐る恐る下に目を向けた。
「・・・居た」
目先3メートルにⅢ号の姿を捉えた。だが、ハルナの見るⅢ号は異様だった。
なぜなら、Ⅲ号戦車が砲塔だけを出した状態で地面に埋まって居るのだ。
「な、なんで?」
ハルナは突然の状況で全く理解出来なかった。先程まで目の前を走っていたはずのⅢ号がなぜか右隣の地面に埋まっている。なぜなのかハルナは考えようとしたが、時間も情報も足りないこの状況では何の意味もない、そして何よりも既に何もかもが遅いのだ。
もう彼女達に出来ることは何もない。
そして、Ⅲ号戦車は少し砲塔を上に向けてシャーマンの側面に標準を合わせた。
照準器を覗き込む加埜は言った。
「OKだ」
すると、砲塔上面のハッチを開いた。そこから顔を出した天桐はシャーマンとハルナを睨んだ。
「よし、皆良くやった」
そう言ってから、一度大きく息を吸った。そして、
「撃てー!」
その叫びと同時に加埜は引き金を引いた。
ドガァァァン
大雨の中に一瞬だけ大きな光と砲音が発した。


あれから何分が経過しただろうか、降っていた大雨は徐々に弱まっていき、黒い雨雲は段々薄れていくことで、晴れ間が出て来た。練習場を太陽の光が照らすとあちこちでチカチカと光出した。
草木にたくさんついている雫が一滴一滴と下へ落ち、辺り一面に出来た水たまりには空模様が映っている。そんな練習場の中を一台のバイクが走っていた。乗っている岡野だ。彼女が向かっている先には、天桐達が立っていた。皆の前でバイクは停車させ岡野が降りると、彼らの間を通り抜け奥の方へ向かった。向かった先には、砲塔だけ突き出て地面に埋まったⅢ号戦車N型と砲塔から白旗を掲げるシャーマンがあった。
岡野は、それを確認すると宣言をした。
「シャーマンの白旗信号を確認」
続いて後ろの二人へと振り返ってから左手を天桐達の方へ向け、言い放った。
「勝者、男子チーム」
その言葉を聞いた天桐は言った。
「おい、お前ら聞いたか?」
後ろの4人に振り返ると
「俺ら、勝ったって」
そう言った天桐に4人はそれぞれ答えた。
加埜は腕を組みながら
「そうだな」
矢元は右手でグッドを作り
「あぁ」
そして、なぜか雨合羽を着て泥だらけの城ノ崎、早間達はそれぞれそう言った。
「うん」「はい」
それから少し黙っていると全員は大声を上げて、勝利を喜んだ。
「「勝ったぞー」」
そんな彼らを、ハルナ達4人は見ながらと言った。
「負けちゃったね」
「そうですね」
「・・・うん」
ナツコ達3人がそう言っている一方でハルナは、
「嘘、・・・私たちの・・・負け?」
信じられない現状に驚いたせいか体が固まっていた。


結果が出たことで、各チームは互いに向かい合わせ横列に並んでいた。
岡野は、両チームの間に立ち号令をした。
「それでは、礼」
天桐達は、ハルナ達に向かってお辞儀をした。
「「ありがとうございました」」
彼女立4人も合わせてお辞儀をするが、負けたこともあってかか元気のない声で言った。
「「・・・ありがとうございました」」
ただハルナだけは無言のまま頭を下げた。
「・・・」
岡野は、シャーマンの方を向いて
「では、これから撤去作業に移りましょうか。撃破されたシャーマンは勿論だけど」
今度はⅢ号を見て言った。
「あんな所に埋まったⅢ号もね」
それには、天桐は申しわけないと顔をして返した。
「す、すいません」
「まぁ、いいわ。じゃあ、私は知り合いに電話して回収車を持ってきてもらうわ」
岡野はそう言うと、ポケットから携帯を取り出し天桐達から少し離れていった。
それから天桐達だけとなると、ナツコ達は天桐達に近づいて来た。
「ねぇ、ちょっと」
ナツコの声に天桐はそれに反応する。
「うん?」
ナツコ達は天桐に質問した。
「どうなってるの?」
「そ、そうです。目の前に居たのに突然、消えて」
「・・・ウンウン」
天桐は目を逸らし教えたくないような顔をして答えようとした。
「あぁ、それはだな」
すると、別の方向からも声をかけられた。
「わ、私にも、お願い教えて」
顔を向けると、真剣な顔をしたハルナが天桐に目を合わせていた。
そのハルナの顔は真剣だったので、天桐は息を吐いた。
「ま、いいかな」
そう言うと天桐は説明を始めた。
「まずは、俺たちは勝つ作戦を考えた上で、シャーマンが攻撃を躱したり、反撃されないように動けなくしようと考えた。だが、シャーマンを動けなくする方法なんてそう簡単には見つからない。矢元が、穴でも掘って落とし穴を作ろうとか言ったが、無理があるのは分かっている。既にあるバンカーを使おうにも浅くて登りきることも出来る。それに、そんなの落とし穴を相手が気付いてバレる可能性もあった。だから、それを辞めたけど、逆に考えた。穴には、俺らが(Ⅲ号)が入ればいいじゃないかと」
「自分で?」
「あぁ、既にあるバンカーに車体だけ隠れるように入ってから、その周りを草木や土で埋めようと。そうすれば、相手に姿を確認されにくいし、あの雨の視界の悪さならバレることはないと思った」
「けど、自分は動けないじゃない」
「あぁ、そうだな」
「それに、最初から埋まっていたってことは。それじゃあ。私達の目の前を走っていたあれは」
「あぁ、あれはだな」
天桐は早間に向かってあるお願いをした。
「おい、早間。あれを持ってきてくれ」
「はい」
返事をした早間はそのまま、シャーマンの前に向かって走ると何か布のようなものを持って帰ってきた。早間の持つそれは、泥のついてしわくちゃになり破けているゴム製っぽい茶色の大きな布だった。
それを見たハルナは、聞いた。
「何それ?」
「これはですね」
言いながら早間は、その布切れを広げていき、ハルナ達に見せつけた。
「風船です。Ⅲ号戦車のね」
「ふ、風船?」
ハルナは、驚いた。
「ま、まさか」
「そう。お前らが、途中で見つけてあとを追ったのは、この風船戦車だ」
「けど、風船なんてバレるじゃない」
ナツコがそう言うので城ノ崎と天桐が答えた。
「確かに。普通なら風船だとバレるだろうね。けど、雨で視界が悪い上に、エンジン音も聞こえない。だから、本物そっくりに見えるんだよ。実際、そうでしょ」
「それで、この風船Ⅲ号の中は空洞でな。その中に、装填手の早間と通信手の城ノ崎に入って走ってもらったんだ」
それを聞いたハルナは、少し怒る感じで文句を言った。
「な、あ、危ないじゃない。そんなことしたら、撃たれたらどうするの?」
「あ、あぁ。確かに、危険なのもあったが、それはお前らが撃たないと思ったんだよ」
「どうして?」
「それは、お前の過去の戦い方だよ」
「過去の?」
「あぁ、お前の過去の記録を見せて貰ったんだ。お前って、後ろから攻撃することが多いかったんだ。そして、絶対仕留める時は、背後から近づいてとどめを刺す」
それを言われたハルナは認めた。
「確かに、そうだけど」
「だから、お前は、必ず背後をとって、ある程度近づいてから攻撃するって踏んだんだ。そして、それを俺らの目の前まで誘導した。あとは、お前らがいい場所に来てくれたら、早間と城ノ崎に風船を割ってもらう。すると、お前らは、驚いて一瞬だけ隙が出来る。そこを、横から履帯を破壊して、動きを封じた。あとは、」
「動けない内に、私たちを側面から撃った」
「あぁ、そうことだ」
「無茶苦茶な作戦だわ」
「あぁ、だからお前には気付かれなかった」
「確証性もないし、ガバガバにも程があるわ」
「あ、あぁ、即興で作ったからな」
「仲間に危険なこともさせるし」
「それは、・・・」
天桐が言葉に詰まっていると、それについて早間と城ノ崎は、正直に言った。
「確かに、恐かった」
「えぇ、死ぬかと思いましたよ」
更に、城ノ崎は笑顔で天桐に向かって言った。
「まぁ、もし死んだら士良に死ぬまで取り憑くけどね」
そう言われた天桐は、
(お前が言うと冗談にならないな)
と思っていると、ハルナが天桐に向かって言った。
「あんたって、以外と無茶する上にずる賢いわね」
「まぁ、そうだな。けど、ルール違反にはならないだろ」
「確かに、そうね」
ハルナはそう認めた。
「まぁ、以上が俺の考えた作戦の内容だ。さて、もういいか?」
「えぇ、分かった」
説明が終わり、ハルナが納得したところで、横から城ノ崎が笑顔で言い始めた。
「じゃー、例の約束を守ってもらおうか」
その言葉を聞いた天桐は思い出した顔をしてハルナに聞いた。
「約束?あぁ、そうだったな。なぁ、忘れていないだろうな?」
天桐に聞かれたハルナは忘れていたことを思い出した。
「え?・・・あ」
それからハルナは少し気まずい顔をして答えた。
「あぁ、そうね。例のね」
そうしていると加埜と矢元もこちらに歩いて来てその会話に入ってきた。
まず、加埜がニヤつきながら口開いた。
「そうだったな。まぁ、俺らのことをあれほど馬鹿にしてきたんだしな。覚悟は出来るだろ」
次に、矢元が隣で言った。
「まぁ、確かに負けたほうがって約束だもんな。なぁ、早間」
早間は苦笑いでそれに答える。
「えぇ、そう・・・ですね」
そんな彼らの反応を見て、ハルナは聞いた。
「ま、まさかと思うけど。いかがわしいこととか要求とか言わないわよね?」
とすると、天桐は少し意地悪な顔をして答えた。
「さぁ、どうだろうな。ただ、俺らのことを散々馬鹿にした落とし前は、しっかりつけて貰わないとな」
「ッ」
ハルナが言い返せないまま、押し黙っていると、城ノ崎が話し始めた。
「実は、この為に僕ら5人で話し合ったんだよ。君たちに勝ったら何をお願いしようかって。ねぇ、皆」
そう言って加埜達に振ると、加埜、矢元、早間
「あぁ、そうだな。俺は、お前らにメイド姿で俺らをご主人様待遇で迎えるって考えた」
「うーん、俺は他の皆におまかせで」
「あ、自分は、その・・・パスしました」
「ちなみに僕は、君たち全員に犬耳猫耳に尻尾を付けて水着の格好で駅前で1時間放置ってどうかなって」
城ノ崎は少し不気味な笑みをしながらハルナの方を見ると、それに少し恐怖を覚えたのかハルナはビクッと反応し、不安な顔をシて声を漏らした。
「ウッ」
その反応を見た城ノ崎は、明るい顔で言った。
「けど、安心して。僕の提案は採用されなかったから」
それを聞いたハルナは少し安心したのか不安な顔が和らげた。だが、また城ノ崎は、ハルナが安心した瞬間を狙ったのか更に話した。
「今回は、士良の提案をすることにしたんだ。それが一番、君たちに堪えるだろうと思ってね。僕のより大変そう」
ハルナは恐る恐る天桐の顔を見る。
「冗談よね」
「・・・」
天桐は無言のままハルナをじっと見る。
「ちょ、・・・何か言いなさいよ」
「・・・・・・た・・・い」
「え?」
天桐に何かを話そうとしていたが、ほとんど声に出ていなかった。
「お前らに」
天桐は、途中で言葉を止めたが、再度言い直した。
「お前らには、たっぷりヒーヒー言わせてやるから覚悟しな」
その言葉と顔からハルナは
それを見たナツコ達3人も、何らかの恐怖を感じたのせいか頬から汗が垂れ、不安な顔で真っ青だった。
「うっ。ちょっと、マジヤバかも」
「あの、わたくし。その男性とお付き合いとかまだ一度も」
「・・・ビク」
そんな彼女たち3人に向かって城ノ崎が歩み寄って行った。
「さて、そっちの3人もこっちにおいで今から君たちに罰を下すからさ」
そう言って彼女達の目の前に立つと、手を伸ばそうとした時だ。
「ま、待って!」
ハルナが大声を上げた。
城ノ崎は、手を止めてハルナの方を振り返る。
「お、お願い。三人には何もしないで」
ハルナは震えた様子でそう言った。
「私が三人分請け負うから、だから三人には手を出さないで」
突然のハルナの言葉に、城ノ崎は問いた。
「どうしたの?突然」
「・・・これは言い出した私が、車長である私が責任を負うから。お願い」
そう言ったハルナにナツコ達3人は見つめた。
(ハルナ)
(ハルナさん)
(ハル)
天桐は、ハルナの前に立って聞いた。
「ほぉ、お前1人で他の3人分も。つまり、1人で4人分をか?」
「そ、そうよ。だから、お願い」
「ふーん。仲間思いだなお前。・・・けど嫌だね」
「くっ」
「罰は皆で受けないと不公平だろ。うん?」
天桐は嫌らしい顔でハルナを見下げた。そんな天桐にハルナは睨みつけた。
「・・・最低ね。やっぱ」
「ハァ?負けた方が相手に命令出来るとか吐かしたのはお前だろ。そして、負けたのもお前だ」
「・・・」
「さーて、約束なんだ。勝った俺らの言うこと何でも1つ聞いてもらおうか」
「・・・」
ハルナは、何も言い返せずに俯いたままだ。
「そうだなぁー。じゃあ、お前たち全員で、」
「クッ」
ハルナは思った。自分のせいで、自分とナツコ達も奴らに酷い目に合わせてしまうと。
天桐達と自分のことを強く恨んで後悔した。だが、もう逃げられない。腹を括ったハルナ。そんな彼女の耳に、天桐の言葉が入った。
「俺らに弁当を作って来い」
「ッ」
一度は、息を飲んだハルナ。だが、
「え?」
ハルナは拍子抜けような声を出した。
「は?」「え?」「?」
他の3人も同様だ。
天桐の言った言葉が聞こえなかったのか理解できなかったのかハルナは天桐が何を言っているのか分からなかった。
「今なんて?」
もう一度聞き返された天桐はもう一度答えた。
「だから、弁当を作って来いって言ったんだよ。」
同じことを二度言った天桐にハルナは、
「・・・え?・・・はぁ?」
再び抜けた声を出したが、はっきりと聞いた。
「それってどういうこと?」
「はぁー、だから」
天桐は右手で自分の頭をかくと面と向かって言った。
「これから俺たちがここに通った日の昼飯用に弁当を作って来いって言ってんだ」
「・・・」
「わかったか?」
「・・・それだけ?」
「あぁ、それだけだ」
「本当に?」
「ほんとだよ」
「嘘じゃないの?」
「嘘言ってどうするんだよ」
会話しているとハルナは少しだけ黙って俯いている。
プルプルプルと体を小刻みに揺らして始めた。それを見て天桐は、
「?」
変に思っていると。ハルナが突然、
「・・・プッ」
吹き出した。そして、小刻みに震えていた体は激しくなり、遂に
「クッ、アーハハハハッ」
爆笑しだした。
それには、天桐や他の皆も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「ハハハ。あ、あんた達、クックック、馬鹿じゃないの。ハハハハハハ」
笑いがなら天桐に指をさすハルナに対して、天桐は言い返した。
「な、だ、誰が馬鹿だ」
「だって、馬鹿じゃない。ハハハ」
まだ、笑い続けているハルナを見て、天桐は息を溜息をつくと。
「それより、約束だからな。守れよ」
すると、段々笑いが収まってきたハルナは、自分の涙を手で拭いて。
「ええ、いいわよ。作ってあげるわ。アンタ達の弁当をこれから毎回ね」
と言った。それから、ハルナはナツコ達3人に顔を向けると
「いいわね、皆?」
と3人に確認した。それに対して、ナツコ達は
「もち」
「勿論です」
「・・・(グッド)」
と言って3人共も了承した。
「けど、彼女達は4人しかいないしね」
「自分の分ともう一人だけしか作るの大変だしな」
「加埜。お前だけお袋さんに作ってもらえ」
城ノ崎、矢元、天桐は言った。
「はぁ?なんでだよ」
「幼稚園から好きなお袋の手作りタコさんウインナーでも入れてもらえ」
と天桐はニヤついてそう言った。それを言われた加埜は
「なぁ、てめー」
と顔を真っ赤になりながらキレて天桐に掴みかかると、それを天桐は躱し逃げた。
これはもう、ただの子供の戯けだ。そんな天桐を見ている彼女達。すると、
「ふっ。ほんと、男って馬鹿ね」
ハルナは天桐達を見て笑った。
こうして1時間近くに及んだ決闘は終わった。


夕方5時過ぎ、あれから戦車の撤去作業の為に読んだ業者の方と天桐達は一緒に片付けを行った。泥だらけであちこち傷だらけなⅢ号とシャーマンは翌日に来る修理業社に渡すため、綺麗にもした。
今日一日で色々とあった皆は疲れ切ってしまい教室でだらけていた。だが、天桐だけは車庫に残って居た。Ⅲ号の前でパイプ椅子に座り、ただⅢ号を見ていた。すると、
「天桐」
後ろから声をかけられた。その声の主は、見ずともハルナだと天桐には分かった。振り返り聞いた。
「なんだ」
「いや、その・・・」
ハルナは何かを言おうとしている。
「ん?」
「あ、貴方に言ってことがあって」
「ほう、何だよ」
「えーと、・・・あなたのことを・・・み」
ハルナは何かを言ったが、最後の内容がはっきりと聞こえなかった。
それで天桐は聞き返した。
「え?なんだって?」
「だ、だから」
すると、ハルナは少し頬を赤らめてから。
「あ、貴方を・・・み、認めてあげるわ。」
右手人差し指を天桐に向けて言ってきた。
「・・・は?」
その言葉にイマイチ理解出来なかった天桐はそんな気の抜けた声を出した。
「どゆこと?」
そう言うとハルナは、再び話し続けた。
「あんた達を、同じ・・・ここの生徒ということと、同じ戦車道をする者だって認めてあげるって言ってるの」
その言葉を聞いた天桐は、やっと意味が理解できたのか言った。
「あ、あぁ、そういうことか」
ハルナは顔を横に向け腕を組んだ。
「そうよ、感謝しなさいよ」
「フッ。そうか、認めてくれてありがとな」
そう言うと天桐は、ハルナに手を差し伸べた。
「?」
「じゃあ、これからも宜しくな」
そう言った天桐にハルナは、少し笑って自分の組んでいた右手を差し出した。
「えぇ、こちらこそ」
握手をした。手を離すとハルナは天桐に向かって
「けど、いい?同い年でも私が先輩なんだからね」
念を押すように言われた天桐は、軽く笑みを浮かべながら言った。
「あぁ、宜しくな。センパイ」
何かと仲が良好になったそんな二人の様子を聞きながら、車庫の隅で岡野は隠れていた岡野が居た。
二人が仲良くなったことを喜んでいるようで少し嬉しそうな岡野。だが、その表情は一瞬で暗くなり、そのまま独り言を言った。
「これで、良かった・・・よね」
その顔は、何かとても残念で悲しい感じだった。


それから、しばらくして6月11日。
その日、天桐は学校が終わるとそのまま帰宅した。
だが、天桐は帰宅し制服を脱ぐと、すぐに外着の私服に着替えたのだ。
天桐は、着替え終わると時計を見て時間を確認すると、また外出した。
実は、今日の昼間にいきなり加埜からメールが来て、夜6時半に可華蜜へ来るように言われたのだ。
呼ばれた理由は、特に言われてはいないがおそらく大会に関することなのでは思った天桐は、約束の時間に合わせて可華蜜の前に到着した。だが、店を見た天桐はおかしく思った。
「あれ?明かりがついていない。てか、閉店してるぞ」
いつもついているはずの可華蜜の一階に電気がついていないのだ。そして、ドアには今日の営業は終了と書いてあるプラカードが掛かっていた。
いつまなら、まだ営業時間のはずなのを不思議に思った天桐。
「一応、入るか」
そう言ってドアの方へと歩いていった。
ドアノブを引くといつものドアについた鐘がなり、普通に開いてしまった。閉店のはずがドアは鍵がしまっていない。天桐は何か不安に思いながら、恐る恐る入った。
「お邪魔します。天桐です」
中に入ると中は暗く誰もいないようだ。
「あの、誰かいませんか?」
そう思い、奥の厨房の方へ歩いて行った。
「おーい、誰もいないのか?」
そう言った時だ。
パァンパァンパァンパァン
突然の天桐の周りで破裂音が連続して起こった。
「うわぁ」
それに天桐は大声を出し驚いた。
(な、なんだ一体?)
天桐は心臓の鼓動が激しくなった。
ゴクリ
一度、喉を鳴らした。すると、どこかから人の声が聞こえた。
「せーの」
パァ
店の中の明かりが一瞬で付いた。
突然、明るくなったので少し目を閉じた天桐は、再び目を開くと、視界には、自分の周りを囲んでいるたくさんの人が見えた。そして、彼らは一斉に大声でそう言った。
「「士良、お誕生日おめでとー」」
その言葉を聞いた天桐は腑抜けた声を出した。
「え?」
天桐は、今の現状を理解できなかったのか周りをもう一度よく見回した。
その人達の正体は、加埜、城ノ崎、矢元、早間の4人をはじめ、学校や町の友人や知り合いだった。
その他にもハルナら女子4人も居たのが分かった。
顔を確認した天桐は、口を開いて聞いた。
「えーと、これは?」
その言葉に、クラッカーを片手に持つ加埜が言った。
「今日は、士良の誕生日だろ」
「誕生日?・・・あ」
そう今日は6月11日、天桐の誕生日だった。
(あ、そうか。今日、俺の誕生日だ)
「ここ最近忙しくて忘れた」
天桐は、右手を頭にやりながら言った。そんな天桐に矢元、城ノ崎は
「やっぱな、だと思ったぜ」
「まぁ、そのお陰でサプライズが成功したんだけどね」
そう言われた天桐は、
「あぁ、そのようだ」
返事をすると矢元の横側に居るハルナ達を見て。
「お前らも来たのか」
「何よ、文句あるの?」
「いや、だってお前。俺の誕生日を祝いに来るように見えないからさ」
「こっちは、別にあんたのお祝いしたくて来たんじゃないんだから。ただ、ナツコが行こう行こうってしつこいから」
ハルナが言ったのにナツコは、少し悪戯っぽくとぼけた。
「えー、そうだっけ。私は、誘われてるけどどうするって言っただけのはずだけど。ハルナったらすごく行きたい行きたいとか言うから」
そう言ったナツコにハルナは、怒った感じで軽く襲いかかるように飛びついた。
「ちょ、あんた何言ってんのよ」
「ちょっと、冗談だって冗談」
そうしている二人を無視して加埜が天桐に向かって。
「まぁ、早くこっち来いよ」
手招きして中央に来るように言った。
「お、おう」
天桐は言われるまま歩いて行き中央に行った。
「ほら」
そう言われると加埜にジュースが入ったコップを持たされた。
「さぁ、一言何か言えよ」
「え?えーと、その、なんだ」
同様がまだ残っているのかはっきりと喋れないでいると、指で頬を掻くと天桐は少し照れてながら皆にお礼を言った。
「あ、ありがとな。皆」
すると加埜は天桐の隣で、自分のコップを持ち上げ大声で祝杯を上げた。
「それじゃあ、カンパーイ」
「カンパーイ」
そう言って皆は持っていた飲み物を同時に飲んだ。飲んだ次は、
「よーし、オメーら飯食おうぜ」
テーブルに載せられたご馳走に手をつけ始めた。
それからは、パーティータイムだった。天桐は一人一人と話して回った。改めて祝われたりお礼を言ったりとそれから真ん中の主役用に用意された席に座った。
しばらく、話し合ったり飲み食いしている皆を見ている天桐の元に早間が歩いて来た。
「何か持ってきましょうか先輩?」
「あぁ、いいよ今は」
「つい、この間。ここで矢元さんの誕生会に来ましたが、本当に凄いですね皆さん」
「うん?」
「誰かを祝って上げるって楽しむってことですよ。自分は家族以外に余り誕生会とか祝われたことがなかったので」
「早間」
「だから、いいですよね本当に。こういうのって」
「あぁ、そうだな」
それから1分程して天桐は急に立ち上がった。
「わりぃ、トイレいくわ」
そう言って奥のトイレに入って行った。
天桐は用を足し終えてトイレから出ると横から女の声で話しかけられた。
「ちょっと」
天桐は声の方を振り返ると相手がハルナだったのが分かった。
「ん?どうした?」
と聞くとハルナは手招きして来るように言った。
「こっち来なさい」
(なんだ?)
天桐は理由を言わないハルナに仕方なくそのままハルナに連れられて行った。
来たのは厨房の裏にある小部屋だった。中は、店の仕事に使うものなどが入ったダンボールの山や大きな棚が置かれていた。
「なんだよ」
「その」
ハルナは両手を後ろに回してモゾモゾしていると、前に手に持っていた物を差し出してきた。
「ほら、受け取りなさい」
その差し出された物を天桐は手で取った。
それは、水色の包み紙で包まれピンク色のリボンで結ばれた長方形状の箱状の物だった。天桐は、それを自分へのプレゼントだと感じからして気づくと。
「あ、開けなさいよ」
「お、おう」
ハルナから言われての早速リボンの端を引っ張り解いてから包み紙を外し、中に入っていた白い箱を開けた。
「うん?これは、」
箱の中に入っていたのは、腕時計だった。
「腕時計?」
天桐の受け取った腕時計は、黒色の金属フレームに囲まれたアナログ式の針時計の中にデジタル系の小さい液晶タイプだった。バンド部分は黒い革で出来ていて全体から見て高いそうな腕時計に思えた。
その腕時計を見ている天桐にハルナから
「この前、決闘した時壊れたと聞いたから」
「あぁ、それで」
腕時計の理由を話されて納得した天桐は、正直に嬉しかったので礼を言った。
「ありがとな」
礼を言われたハルナは頬を少し赤らめ腕を組んだまま目を逸らして
「大切にしなさいようね」
そう言われた天桐は
「分かってる。大切にするよ。けど、いいのかこんなに高い物」
「別にそれ程高い物じゃないわよ」
ハルナはそう言っていたが、天桐はそれが嘘だと分かっていた。ハルナは気付いていないかもしれないが、貰った腕時計に値札がついていたのだ。開けた時に、その値札に書かれた額を天桐は見てしまった。
その額に5桁であることをしった天桐は、
(おいおい、めっちゃたけーじゃん。いいのかこれ貰って)
と一瞬悪い気がしてだが、本人の気持ちも考えて素直に受け取った。それから天桐は、
(さて、じゃあ戻ろうかな)
皆の所に戻ろうと思った時だ。後ろの出入り口の方から誰から見られているような視線を感じた。
パッと後ろを振り返った天桐が見た先には、加埜、矢元、城ノ崎、早間の4人が壁越しにこちらを覗いていた。更にその反対側をナツコ、ミアキ、チフユの3人が居た。
天桐に見られた加埜達は、「あっ」と声を出すと、天桐の後ろから
「ちょ、アンタ達」
ハルナが声を出した。どうやら彼女も気付いたらしい。
「何してんのよ」
そう怒鳴ったハルナにナツコはニヤついて。
「あれぇ~?ハルナ~彼氏とか要らないとか言ってなかったけ?もう嘘つくんですか~い?」
意地悪にそう言われたハルナは、否定する。
「な、あんた何を」
するとナツコの隣に居たミアキが続いて。
「駄目ですよナツコさん。人の恋仲を」
「だから違うって」
そんなハルナにチフユは、ジト目で見ながら核心をついた。
「・・・ツンデレ」
「なぁ!チ、チフユにまで言われた」
何気にショックを受けたハルナを他所に天桐は、テンションが上がってる7人に対し
「おいおい、お前ら何言ってんだよ。俺とこいつはそういうのじゃねえから」
天桐も否定して言うが、
「ほぉー。本当か?」
加埜がニヤつきならそう聞いて来たので、
「当たり前だろ。なんで俺が、こいつがそんな中になる訳ねぇだろ」
天桐はそう言って否定した。それに続けて。
「大体、こいつはそれに俺の好みは、もっと素直で優しくて可愛げのあるものだってぇーの。頑固で可愛げのない奴は好みじゃねーよ」
そう言ってからだ。突然、天桐は何か嫌な気を感じた。背中の方が急に寒気が走り、後ろからもの凄いプレッシャーのようなのを感じた。後ろから何かが自分に対して何かをしているのだろうか。
すると、天桐は目の前にいる加埜達が自分の後ろを見ながら凄く不安な顔をしていることに気付いた。
その正体を見ようと思ったが、なぜか体がそれを拒んでいると。
「そう。はい、そうですか。悪かったわね。頑固で可愛げのない女で」
後ろから聞こえたハルナの声から憤りを感じた天桐は恐る恐る振り返った瞬間
「フン」
物凄い勢いでハルナが前に来て、
「グハァ」
天桐の腹に見事なボディブローを決めた。そのせいで、天桐は両手で腹を抑え床に膝を付き前に倒れるようになってしまった。天桐は突然の苦痛と理解不能の状況の中で
「な、なんだよ・・・いきなり」
天桐は腹を抑えながら苦しそうにハルナに聞くが
「さぁ、自分の胸に手を当ててみなさい」
ハルナはそう言って、そのまま遠くに行った。
「あちゃー」
「馬鹿だなあいつ」
「士良らしいね」
「あぁ、先輩。大丈夫ですか」
と4人は何か残念そうな顔で天桐を見守った。
そんな楽しかったり苦しかったりの誕生日パーティーは3時間程で終わった。


夜10時、家に帰り着いた天桐は部屋に入り着替えていた。
ヴヴヴッ
途中で、ズボンのポケットに入った携帯のマナーモード音に気付いた。
天桐は携帯を手に取り、画面を見ると電話の相手が母親だと分かった。
「あ、母さん」
電話に出た。
「もしもし」
母親からの要件は自分の誕生の祝いだった。
「あ、そうだよ。うん、ありがとう」
それから母親と2分程話した。話した内容は誕生日の祝についてだ。
「じゃあ、切るね」
そう言って天桐は携帯を切りテーブルの上に置いた。
「そうか。もう、今日で16年になるのか」
天桐は何かを思い出しながらそう呟いた。


土曜日の朝9時
今日も天桐達は、戦車道教室で練習をする為、ここへ来ている。
男子グループと女子グループで各自お喋りしていると矢元は、岡野が来ていない事を指摘した。
「なぁ。そういえば、先生来ないな」
その言葉を聞いて早間、加埜、城ノ崎、天桐も岡野が来ていないことに気付いて反応した。
「そうですね」
「ほんとだ。いつもなら来てるよな」
「うん」
「どうしたんだ?」
一方で、ハルナ達4人は。
「先生、遅」
「どうなされたんでしょうか」
「・・・」
ナツコ、ミアキ、チフユ達も気になっているとハルナが。
「もう少ししたら来るわよ」
岡野は、いつもなら9時に顔を出すはずなのにまだ教室には来ていない。
遅刻は余りする人ではなく急用でも遅れる連絡を伝えてくる人だとハルナ達は知っている。
だが、彼女達や天桐達も岡野はもうすぐ来るだろうと思った。
それから5分、10分経ち、9時15分になろうしても岡野は姿を見せない。
教室の皆は少し不安になってきた。するとハルナが立ち上がろうとした。
「私、ちょっと様子見て」
ガラガラガラ
丁度、教室のドアが開いた。そして、岡野さんが姿を現した。
「ふぅー、良かった」
ハルナは岡野の姿を見て安心した。すると、待ちに待たナツコは軽く文句を言った。
「もぉお、先生。おーそーいーよ」
それにミアキとチフユは彼女に向かって。
「ナツコさん、先生も忙しい時があるんですから」
「・・・(ウンウン)」
そうしているハルナは、岡野に向かって。
「先生、大丈夫ですか?凄く遅かったので」
ハルナに心配された岡野は答えた。
「えぇ、大丈夫。ごめんね」
そう言うと、岡野は皆に向かって言った。
「皆。今日は凄く大切な話があるの」
(大切な話?)
天桐はその言葉に疑問に思ったが、それよりも岡野の顔にも反応した。
「うわ、先生。くま凄」
「先生、大丈夫ですか?」
ナツコやハルナを始め皆も気づいた。教室に入って、直ぐに気付かなかったがよく見ると岡野の両目下にくまが出来ているのだ。彼らが見た限り、昨日一睡も出来なかった証拠だろうと思った。
「これは、ちょっと昨日眠れなかっただけで大丈夫よ」
岡野は軽く笑いそう答えた。それにハルナは。
「そ、そうですか」
心配しながらそう言った。その後、天桐は岡野に聞いた。
「それで、大切な話って?」
そう言われた岡野は、
「そうだったわね。・・・それは、ね」
「もしかして、結婚とか」
「宝くじが当たったか」
「新しい戦車でも来たとか」
ナツコ、加埜、早間は何かを期待しているのかそう各自言う。だが、岡野は黙り込んだ。
「・・・」
それを見たハルナは、皆に向かって。
「ちょっと、皆黙って。先生が言えないでしょ」
「あぁ、ごめん」
ナツコが謝り、それから皆は黙り教室は静かになった。それから岡野は再び話し始めた。
「皆さんに言う大切な話というのは、・・・」
途中で言葉を止めた。すると、再び喋り
「こ、ここを・・・」
岡野は天桐達を見つめながら
「戦車道教室を、来週日曜限りで」
それを黙って聞く天桐達。
「・・・閉めます」
最後に岡野はそう言い放った。
その言葉を聞いた天桐達は、最初は無言のまま何も反応をしなかった。が、やっとハルナが一番目に反応をし、
「え?」
その後を追うように天桐も
「は?」
それから数秒程静まり返った教室で
「「「えぇぇぇーーー?」」」
大勢の大声が外にまで響き渡った。

 
 

 
後書き
予告:

岡野に突然告げられた言葉に、動揺する天桐達。
理由が分からないまま、彼らに近づく災いの足音。

そんな彼らにたくさん黒い影が彼らを囲む。

皆の居場所が消えるまでのカウントダウンはもう始まっていた。 
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