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ゲート 代行者かく戦えり

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第一部:ゲート 開けり
  第三偵察隊 初遭遇する

 
前書き
参考文献

wikipedia
「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり-3.登場人物」
「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア/2/3」
 

 
異世界こと特地 
自衛隊特地派遣部隊第3偵察隊にて





 今日の特地の天気は雲が所々に存在するが概ね晴れており、偵察任務をこれから行う第3偵察隊にとっては絶好の任務日和である。総勢12名の偵察隊と6人の外国の特殊部隊員は、6人搭乗できる73式小型トラック2台と10人搭乗できる高機動車2台にそれぞれ分乗し、
「特地」と日本政府が名付けたこの異世界の情報収集のために、「二条橋の英雄」こと隊長に昇格した伊丹 耀司(いたみ ようじ)第3偵察隊隊長指揮の下で周辺地域の捜索に移る。


一応公的な目的である現地住民との交流や情報収集のために、そして「帝国」の捕虜から聞き出した「自由の民」という武装勢力と接触するために彼らは行動している。きちんと野営用のテントや食料・水、そして自衛用の武器弾薬をたんまり車内の荷台や空いているスペースに積み込み、車は舗装されていない道のりを進んで行く。



「空が青いねぇ。さっすが異世界だよ」

「こんな風景なら北海道にもありますよ。俺はトロールや巨人が歩いていたり、
ドラゴンや妖精が飛び交う風景を想像していたんですけど、
これまで見たのは死体か野生動物ばっかりで、正直ガッカリっす」

「倉田・サージェントはやっぱり伊丹のようなオタクだったのか。やっぱりそんな気はしていたが、
道理で女性陣が険しい顔をする筈だ」

「えーと、キャプテン・ソープもしかして呆れてます?」

「当たり前だ馬鹿。
一応ここは荒野のウェスタンだ。何時トラブルに遭遇してもおかしくない危険地帯だ。雑談に夢中になるのは良いがしっかり警戒は怠るなよ。ここをイラクやアフガンなど中東だと思えば、自然と気が引き締まるだろう」


あまりにも道中なにも無くて暇なので、
伊丹や倉田などが周りの景色を見ながらそう呟くと、すぐにそれを耳にしたソープの小言が無線越しに入る。何せここは全くの未開の地、
地球の常識が一切通用しない場所なのだ。長年ロシアや中東などでテロリストと激戦を繰り広げてきた彼も、流石にここで気を休めることなどできないので緊張し続けていた。そんな状況下でこんな能天気な事を言っている同僚が居れば、
流石に小言の一つや二つぐらいは言いたくなるものだ。


おまけにソープにとって、伊丹は複雑な心境を抱かせる人間であったのでこのような少しそっけない反応を示したのだ。
彼のせいで気に入っている己の部下ローチがオタクに染まり始めており、信頼する上官のプライスさえも最近染まってきているようだから、
その元凶である彼に多少思う所があるのは仕方ない事だ。


まぁ、互いに年齢的にも精神的にも良い大人だし、おまけに伊丹も一応特殊部隊員であった過去があるので互いに優れた戦士として尊敬しあうポイントがあるから、気安く呼び捨てで名前を呼び合う仲だ。
だからこそ、彼にとって伊丹のオタク気質や怠け者な性格が少し気に入らないのだ。これさえ無ければ立派な戦士として世界中で大活躍できるだろうと。そしてこのような油断している時にこそ、敵にとって好都合であることを痛いほど知っているので、気を引き締めるためにこのような態度を取り警戒を促したのだ。


そんな真面目な軍人という態度を取る彼を、黒川と栗林という二人の女性自衛官が隣から車の窓ごしに尊敬した様子で見つめている。二人はまだ見ぬ「二重橋の英雄」という二つ名を持つ偵察隊隊長に畏敬の念を抱いていたが、その英雄は実際は怠け者でオタク気質な男で、どう見てもその人とは思えなかったので軽く失望していた。なにせ何か隙があれば仕事をサボろうとして、
同じ趣味嗜好を持つ同志と一緒にオタク談話で常に盛り上がっているのだ。オタクや怠け者などには悪印象しか抱いていない人間にとって、
これで信頼や好意を抱こうという話がそもそも無理な話だ。


しかし、同じく活躍した外国の特殊部隊員の男たちは、軽口を言い合いながらも優れた戦士であることを証明する技量を見せたり、テキパキとした行動を訓練などで取っているので、一人の人間として実に尊敬できる人たちであると思っている。なので特に結婚願望が強い栗林なんかは、ソープらに男らしさや逞しさを感じて密かに狙っているので、熱い視線を送っているのだ。
最も、彼女の事は彼を含め彼らはとっくに知っており、ソープをからかう絶好のネタとなっている。




「しかし伊丹隊長の言う通り、先ほどから走っていますが何も目新しいものが見つかりません。本当に地図は正しいんでしょうか?」


「富田の言う通り、ちょっと確かめる必要があるかもな。
一応後10km程度進んだら一度車を止めて、休憩と同時にもう一度地図の確認作業に入ろうか皆。確かこの辺りに森林地帯があったはずなんだが……」


富田 章(とみた あきら)二等陸曹が窓の外に広がる景色を見ながら伊丹にそう話すと、彼はしばらく進んでからの休憩&地図確認作業の実施を宣言した。その言葉を無線越しに聞いた第3偵察隊一同は「了解」と答え、少し気を引き締めながら次の休憩時間に備えて休む準備を整え、無事に着いて停車すると外に出て周囲の偵察を軽く行い、
危険が無い事を確かめるとそのまま休憩時間へと突入した。


停車した場所は近くに身を隠すのに適した茂みが幾つか存在し、少し小高い丘の上なので周囲の景色を見渡すのにも適しているので、何かが接近してきても見つけやすいし、隠れてやり過ごすのも行いやすいから選ばれたのだ。見張りを立てながら伊丹を中心に一同は集まり、彼が取り出した地図を参照に現在地を割り出して場所の特定に勤める。・・・・・・どうやら近くにコアンの森という森と、コダという村が存在する様だ。アルヌスの門近辺に存在するので、
是非とも一度は訪れるべきだろう。




「さてさて、村と森どちらに行くべきかね。情報を仕入れるにはやっぱり人が住んでいる村の方が良いとは思うのだが、
こっからだと森の方が近いんだよなぁ。
みんなの意見は何かあるかい?」


隊長の言葉に皆は地図を覗き込んで地形を脳裏に叩き込みながら、一体どちらに自分たちは行くべきなのか考え込む。
確かに地図が正しければコアンの森の方がここからだと近いが、情報を確実に入手するためにはコダ村の方へと赴くべきだろう。どっちにしろ両方とも今日中に行く予定だったのだから、順番が先になるか後になるかのどちらかに過ぎないが、やはり何事も最初の一歩が大事なので躓かない様にするために、慎重に考え行動すべきだろう。


そんな事を考えている時だった。付近の警戒に当たっていた戸津 大輔(とづ だいすけ)と東 大樹(あずま だいき)陸士長の二人が慌てた様子で駆け寄って来た。


「伊丹隊長大変です!」


「あれを見てください!」


両者が何やら急いだ様子で双眼鏡を差し出してきたので、
伊丹は彼らに連れられて先ほどまで彼らが居た場所に来て、
指差された方角へと覗き込んだ。すると確かに大変なことが起きていた。そして周りの連中も一体何事かとついてきたので一先ず彼はこの中で最も経験豊かなプライスに双眼鏡を渡し、見えた先に何が映っていたのかを確かめさせると、彼の表情は瞬時に険しいものになる。


「キャプテン・プライスここはあの場所に向かうべきでしょうか?あの連中は絶対何かを襲撃していますよね」


「あぁ、なるべく戦わないことにこしたことは無いが、流石にもしあそこに民間人が居て見捨てたとなったら大変だ。
幸いにも武器はあの帝国軍と同じく中世レベルだから、我々だけでも撃退可能だろう。さぁ、決まったら早く向かうぞ諸君、これより個人の判断に基づく武器の使用を許可する」


彼らが見た光景とは、件の森に銀色の鎧を身に纏った幾つもの人影が周囲を包囲し、何やら武器を振り回して戦っている場面であった。ファンタジー世界定番のエルフと思わしき姿をした人影が弓を放ち、次々と鎧連中を射殺しているのが見える。更に連中の合間を縫うように幾つかの人影が動きまわり、刺殺したり斬殺するのも見える。


鎧の連中に何か邪悪な雰囲気を感じ取ったので、エルフたちの味方をすることを瞬時に伊丹とプライスの二人は決定し、
第三偵察隊をエルフの救援に向かわせることを決意して武器の使用許可を出した。この部隊では伊丹とプライスの二人が最高指揮権を持っており、伊丹は自衛官たちを、プライスは特殊部隊員たちに指示を下す系統となっている。ともあれ、
こうして即座に17名は73式小型トラックと高機動車に乗り込み、森の方角へと急いで向かった。





ブロロロロロ



 「かなり善戦していますが、如何せん数が多すぎだなあれは。そのうち体力切れや人海の海に耐えいきれず、呑み込まれるだろう」


「あぁ、急がないとヤバいぞ」


ユーリとソープの二人は先ほどから車の窓越しに戦闘を観察していたが、戦局はエルフたちにとって少し不味い状況だ。
何やら新たにフードを被った青年が弓を手に戦いに加わり、
怪物たちを次々と射殺しているのが見える。更に獣人らしき存在達もなぜかこの世界には無いはずの銃火器を持っており、剣や弓などで武装している怪物連中を圧倒している。だが、それでも数は奴らの方がおよそ10倍と圧倒的で、このままだと人海戦術宜しく数の暴力で押し切られてしまうだろう。


「よーし、このまま真っすぐ突っ込んで彼らの援護を開始する!皆準備は良いか!?」

『「おぉ!!」』


こうして自衛隊特地派遣部隊所属第三偵察隊は、部隊としては初めてとなる戦闘へと進んでいった。




別視点:カルデアとコアンの森のエルフ




 カルデアには「ロビンフッド」というサーヴァントが居る。あのウィリアム・テルと並ぶシャーウッドの森に潜むイギリスを代表する義賊の一人として有名だが、ここに居る彼は本家本物ではない。
その正体はロビンフッドに該当する、
数多くいた"誰か"のひとりにすぎない。
顔と名前のない義賊の一人で、クラスはアーチャーである。


勝つためには手段を選ばないリアリストで、真正面からの戦いよりも奇襲や闇討ち、トラップの仕掛け準備や毒矢など、
暗殺・破壊工作を得意とするサーヴァントだ。アサシンのクラスも適任であろう。世の中や物事に対して軽薄な皮肉屋で毒舌家だが、根は善良で弱い人々を見捨てられない青年である。正義にこだわる青臭い自分を隠すために、不真面目な素振りをしているひねくれ者でもある。


彼はカルデアからとある任務を言い渡されてコアンの森を訪れている。目的はこの森で暮らすエルフたちを「自由の民」へと勧誘するためである。反帝国を掲げて亜人達と諸王国連合から多くの参加者を募ることに成功し、この組織は現在進行形で拡大中だが、
新たに「黒王軍」という従来の敵(帝国)を遥かに超える脅威が登場すると、
今以上にもっと人員を必要とする事となった。何せ純粋な戦力差だと1:6と6倍の差があるので、今まで以上に亜人同士の結束を呼び掛ける事が全体会議で決定したので、その一環として彼はここにバイクで来たのだ。


「さ~て、この森に住まうエルフは話が通じる連中かな?
マスターや他の連中の為にも、がっかりした結果にならなきゃいいんだが……」


森に着いた彼は色々と名高い川崎製のバイクを茂みに隠しながら、まずいつもの習慣通りに彼は森を観察し始める。元々破壊工作と暗殺が主体の彼にとって、
自分がこれから向かう先や長時間滞在する場所を確かめるのは当たり前のことだ。何故ならそこから逃亡する際の安全なルートを検索したり、もしくはそこに敵の痕跡が存在して認知されている場所なのか、何か罠が仕掛けられていないかどうかとチェックするためだ。幸いにも今のところ誰かがこちらを見張っている様子は無く、安全を確かめた彼はそのまま静かに足音を立てないようにして森の中へと入って行った。


歩いて10分ほど経過すると、周りの木々の上から何者かが複数此方を見つめている視線を感じたので、彼は両手を上に掲げてなにも武器を携帯していないことをアピールすると、
その状態のまま「俺は自由の民の特使だ。おたくらコアンの森に住むエルフたちとの話し合いに来たから戦う気は全くない!誰か代表者と面会させてくれないか?頼む!」と森中に聞こえるよう話しかけ、エルフの代表との面会を頼み込んだ。


すると男性のエルフが数人弓やナイフを構えた状態で木の上から降りて来て、
彼について来いと視線で促してそのまま背中を向けて森の奥深くへと進んで行ったので、やれやれと思いながらも黙って大人しく後をついていった。そして歩いて10分ほどすると、
少し開けた場所へと辿り着いた。家らしき建物が木々の合間などに建てられており、エルフたちがこちらを見てひそひそと話しているのが分かる。どうやら目的の場所に到達したみたいだ。


やがて大きな家の中に入ると、そこには村長らしき多くのエルフを周りに付き添わせている年老いたエルフが控えており、とりあえず表情を見る限り歓迎という訳ではないが、かといって敵対的でもないようだ。強いて言うならば様子見と言ったところか。どうやら少し苦労しそうだと思いながら、
ロビンフッドは挨拶を兼ねてお土産として持ってきたワインとウィスキーの入った瓶を4本取り出し、
族長らしきエルフに差し出した。




数分後



ワイワイ
ガヤガヤ


「いや~、ロビン殿このような美味しい酒を持って来て下さり、誠にありがとうとしか言えない。
実に美味しい。それしか言葉が思い浮かばない!」

ゴクゴク

「そうですか?オレんところの組織に来ればこれと同じような酒が、非番の時は何時でも飲み放題だよ。どうだい?おたく入る気になっただろう?アンタの好きな旨い酒や食べ物、
それにそれらよりも大好きでたまんない美人の女性陣がわんさかいるぞ?おたくにとってはまさにこの世の天国だろう?」

ガチャ
シュポン

「何!?それは何としてでも行かなければならなくなった!!明日にでもそちらに向かうとするか」

アハハハ


何時の間にか村長の家の土間では、真面目な会合からロビンが持ち込んだ酒によって宴会が開催されていた。既に幾人ものエルフが酔いつぶれて沈黙しており、
酒に強い連中は自前の酒やおつまみ等を自宅から持ち込んで更に摂取するなど、
この空間は実に混沌とした雰囲気へと突入している。先ほどまでの緊迫した雰囲気はすっかり消え去り、もはや居酒屋などで開催される飲み会と化している。


そして今ロビンと一緒に話し込んで盛り上がっているエルフは、「ホドリュー・レイ・マルソー」という精霊種エルフ(ハイエルフ)の男性で、元来、非常に保守的かつ閉鎖的な精霊種エルフにあって、一族の中でも進歩的な考えの持ち主だが、その一方で大変な好色家であり、
いつも一人娘の「テュカ・ルナ・マルソー」に大変苦労を掛けている駄目親でもある。こうした性格なので他のエルフよりも親しみを持ちやすく、更にその女好きな側面を突いて彼はホドリューを「自由の民」へ入るよう、まるで駅前などに居る居酒屋の店員や宗教の人間の様に熱心な誘いを行っている。


「もぉ~、お父さんってば飲みすぎ!
全くまだ日が高いうちにこんなに飲んでどうするの?私が居ないとほんと駄目なんだからもう」


そうやって飲みながら会話していると、
一人の若い女性のエルフが横から割り込んで来てホドリューの手から酒瓶を没収し、くどくどとまるで親または妻の様に叱りだしたので、
ロビンは(このお嬢さんは彼の娘かな?
確か一人娘が居ると聞いていたが)と内心そう思いながらも、彼を援護する為に彼女に話しかける。


トントン


「もしもしお嬢さん、そこらへんで勘弁してもらいませんかね?たまにはお父さんの好きなように飲ませるのも、良い女の条件の一つだよ」


「でもでも、お父さんは酔っ払うと周りにいる女性に手を出そうとするんです。
なので飲み過ぎないようしっかりと管理しないといけないんです。亡きお母さんとの約束でもあるので、こればっかりは譲れません!」


肩を叩いてこちらに注意を逸らすと彼女はくるりと振り向いて、最初は「一体誰よ!?」と言わんばかりに少し険のある険しい表情を浮かべていたがロビンの顔を確認すると直ぐにその表情を穏やかなものに変え、やんわりとその説得に対する反論を述べて彼に叱る必要性を納得させようとしてくる。


実際彼女=テュカ・ルナ・マルソーにとって、この実の父親はかなり娘としては困った側面のある大人で、いつも何かと気にかけていないとどんな問題行動を行うか分かったものでは無かった。確かに尊敬できるポイントは多々あるが、それとこれとは話は別だ。なので例え相手が立場が上と思わしき客人だとしても、
父親の行動を戒める事の邪魔はされたくないと思っていたので、ついこのような少し強めの発言をしたのだ。


だが、そんな彼女の態度と顔を見て反感などは抱いておらず、ロビンは逆に思わず口笛を吹きたくなえるのを我慢しながら良い印象を抱いていた。彼女はなんと良い女なのだろうと。何せ彼の知る女性陣の中で、目の前のエルフの女のような真面な女性は希少価値で、他は基本的に濃すぎるキャラで対応に困る女性ばっかりなので苦労&ストレスの一端を担っているのだ。そんな環境下で目の前の女エルフのような真面目な性格の女は貴重で、思わず趣味であるナンパをして連れて帰ろうかと真剣に思ったほど。・・・・・・流石に父親に悪いので自重したが。


とまぁ、何はともあれ、こうして宴会とホドリューを通じて少し良い雰囲気へとなってきているのは確かなので、ますます説得できる可能性が向上したとロビンはそう確信し、さっそく畳みかけようとしたその時だった。


「大変だー!!変な連中がこっちに向かってきているぞ!」


招かれざる客が多くやって来たのは。



20分後



急いで子供や女たちを家に立て籠もらせ、村の男性エルフたちは弓や剣を手にとって武装して集結し、件の連中がこちらに向かってくる方角へと目を光らせ、
茂みや木々の上などに陣取って臨戦態勢を整えている。ロビンもこの森で暮らすエルフたちの信頼を得るために愛用の弓で、宝具でもある「祈りの弓(イー・バウ)」を取り出して狙撃できる体制を整えている。当初は使者なのでここから退避するよう勧められたのだが、カルデアと自由の民に対する信頼を得るため、
そしてかつてゲリラ戦に励んでいた日々と今の状況がつい重なったので、これら二つの理由からエルフたちの援護を行うことを決めたのだ。


彼は茂みや地面に得意の破壊工作による罠を仕掛けまくり、
奴らの進軍速度を遅らせようとした。
その準備を行いながら彼は件の連中の正体を黒王軍ではないかと思い、密かに援軍の要請をカルデアと自由の民に行うために念話で行い、
受け取った同じサーヴァントのキャスターであるアンデルセンから、カルデアから援軍が来るまで約1時間は持ちこたえさせることを命令された。何でも暇を持て余していたサーヴァント達を6体ほどこちらへ寄こすらしい。


それまで何とかして持ちこたえさせようと、人員が必要だという事で彼は更に救援要請を行ったところ、予めこのことを予測していたのか知らないが自由の民所属のマーキングが施されたMi-17が1機飛来し、初めて見るヘリコプターにエルフたちが戸惑うのを尻目に獣人の兵士約30名が駆けつけて来てくれた。どうやら交渉が決裂してロビンの身に何か危険が差し迫った時を想定して、マスターが準備していた様だ。


彼らはブッシュマスターACR、CIS ウルティマックス100軽機関銃、RPG-7などで武装しており、少なくとも向かって来る連中相手には何とか火力の差で持ちこたえることが出来そうだ。何せ連中の装備は中世ヨーロッパの軍勢と同じレベルで、彼の生前では飽きるほど見慣れた代物だからだ。ちなみにここまで飛んできたMi-17は少し離れた場所に存在する広い空き地に止めており、なるべく攻撃に巻き込まれないようにしている。


そして彼らも射撃準備を済ませて展開した時点で、向かって来る連中の全容が見えてきた。先ほど伝えに来てくれたエルフ曰く、最近異世界の軍勢に占拠されたアルヌスの門近辺の人間族の村、コダ村に行商で訪れて帰るときに遠くの方で人間を襲っている謎の武装集団を発見し、
彼らに見つかり矢を射かけられたので慌てて買った商品をも放り出して逃亡して、何とか道のりを追跡できないように遠回りしてから森に入り報告したのだ。


そしてその連中の姿は、全身に銀色または灰色の鎧を身に纏っており、姿形から判断して明らかに人間が一人も混じっていないのが分かる。
実際オークやウルク=ハイなど人類に敵対的な怪物ばっかりで、人間よりも身体能力は優れているので接近戦ではかなり不利になるだろう。
奴らは黒王植民地軍に所属するオークの部隊(ごく僅かにウルク=ハイが混じっている)で、その数は2個中隊-800体で構成されている。


装備はこの世界の文化レベルに合わせて槍や斧などで、銃火器の類は手榴弾ぐらいしかもっていない。そして狼モンスターであるワーグに指揮官が搭乗する以外は全員徒歩で行動しているので、馬に乗って逃げた敵の追跡などは向いていない。奴らが何故この辺りに出没したのかというと、ロビンと同じくコアンの森のエルフに用があり、
この森のエルフたちが自由の民に合流する前に殲滅する事で、これ以上の戦力増加を防ぐ目的で送り込まれたのだ。


ちゃんと上空にワイバーンの群れを待機させてエルフたちの動向を探るべく監視任務に就けさせ、
同時に近接航空支援よろしく上空から援護を行えるように展開させ、自分たちは目的の森の周囲を円陣を組むように囲み、こうして包囲網は完成した。さぁ、
後はゆっくりと前進して包囲網を狭めて包囲殲滅するだけである。オーク達は隊列を組んでゆっくりと歩き、森からの不意打ちを警戒しながら歩んでいく。


ザッ
ザッ
ザッ


一歩二歩と盾を構えたオークを先頭に、
隊列はゆっくりと着実に進んで行く。
やがて森に足を踏み入れるかという所で、ようやく森側に動きが見受けられた。
ホドリューとロビンの二人が森の中からにょきっと現れ、
敵意満々の彼らに一応対話を試みたのだ。だが、ある意味当然だが最初から殲滅する気満々のオークたちはそれを丸っきり無視し、挨拶代わりに弓矢の雨を降らそうとボウガン兵がボウガン(弩)を構えた瞬間だった。





「そうくると思っていたぜ」

その一言の直後、

ボシュッ!



ロビンの手に隠し持っていたスイッチが押されたことで、
それに反応して足元の地面に埋め込まれていた地雷が、シャンパンのコルクが抜ける音のような音と共に噴出し、前方120℃に一粒の大きさ10mm程度の何百発もの鉛玉を降り注いだ。流石に幾ら鎧を着こんでいるとはいえこの爆発と鉛玉の衝撃には耐えきれず、何十人ものオークやウルク=ハイたちがあちこちから血を吹き出しながら倒れ、慌てて後続の連中がその抜けた分の穴を埋めて隊列の維持に努める。


だが、森の周辺ではこの爆発と同じタイミングでとある異変が生じていた。何と件の爆発が起きた森の入り口以外の全ての森の境目に、突如大きな木の幹や根っこ等で構成された巨大な遮蔽物が出現し、包囲している連中は森の中へと入ることがほぼ不可能となったのだ。手榴弾を投げても意思があるかのように動く枝で出来た触手に跳ね返されるので、森の中へと入るにはロビンたちが居る正面しか入口が無くなった。
上空で待機していたワイバーンたちが火を噴いて焼き払おうとするも、この巨大遮蔽物から伸びる触手に襲われたり全く燃えなかったりして、道を切り開くことが出来ないので悪戦苦闘している。


そしてその混乱している最中に、ロビンら二人は急いで森の中へと踵を返して逃げ込む。彼らは今居るこの罠が多く仕掛けてある道しか敵が入ってこれないようした破壊工作を活かすために、わざわざオークたちの真正面に飛び出して注意を惹きつけたのだ。
この作戦は見事成功し、敵部隊の一部に大打撃を与えると同時に、ここ以外は入ってこれないようになったので、黒王植民地軍はこれから二人が逃げていった罠が多く仕掛けられた一本道を通るしか、
他に選択肢の余地が無くなった。


ここでロビンの持つ固有スキルが一つ、
「破壊工作-ランクA」の真価が発揮される。これは戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。
トラップの達人であることを示す。ランクAの場合、進軍前の敵軍に六割近い損害を与えることが可能。ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。つまりこの時点で、オークたちは六割ほど罠で脱落するのが決定づけられたのだ。


とりあえず背中をこちらに見せて逃亡する二人を殺そうと、
陣形を立て直したオークたちは先ほどよりも慎重に前進するが、ロビンの破壊工作で仕掛けられたトラップが進むたびに炸裂し、数をどんどん減らしがらもオークたちは前進を止めなかった。何せオークたちの命は独ソ戦時のソ連兵の様に非常に安く、幾ら死んでも目標達成の為なら構わないという考えが黒王軍上層部には蔓延っており、
本人たちもその考えに反感を抱くことなど全くないので、
黒王の怒りを恐れているのもあってただ犠牲を顧みずに、
任務達成のために行動しているのだ。


そして仕掛けられていた罠とは、例えばベトナム戦争時のベトコンの様に地面に落とし穴を掘り、
その中に糞まみれの斜めに切って火であぶり固くした竹やりを備え付けて置いたり、ちょうど足の位置に引っかかるようにセットされた大きな蔓に引っかかると、サイドから竹やりが埋め込まれた丸太が振り子の様に振り落とされて吹き飛ばそうとし、そして如何にも何かが埋まっていそうな周りとは違った色をしている地面があるので、
オークたちがそれを避けた先の地面に本命の地雷を埋めていたりと、人間が古今東西考えてきた様々なブービートラップが森の中に仕掛けていたのだ。


流石に短い時間の中での作業を強いられたので本来とは違い四割の損害しか与えることはできなかったが、それでも300体ほどの死傷者を出すことに成功した。
そしてこれらのトラップで足止めしている間に同時並行で展開していたエルフたちの準備が終わり、
照準を定め終えた者から次々と矢を放つ。ロビンもこの頃になると愛用の祈りの弓(イー・バウ)を活用し始め、弓の腕前に定評のあるエルフたちまでもが唖然とする凄腕を披露していく。こうして次々と飛来してくる弓矢が盾や鎧の隙間を貫くので、それが刺さったオークたちは転倒したり膝をついたりしていく。特に彼の放った矢尻には毒が仕込まれているので、標的の筋肉を強制的に麻痺させる効果を発揮してダウンさせるのに絶大な威力を発揮する。


次々と出来上がるオークとウルク=ハイの死体は次第に積み上げられる程になるが、それでもオークたちは果敢に前へと進む。ワイバーンたちも妨害してくる触手の隙を見て援護を行い、奴らの放った火炎弾や保有する(ボウガン)から放たれる矢で何人かのエルフに死傷者が生じる。お返しに援軍の獣人たちの放つ銃弾が羽や胴体を穿ち、
大きな風穴を幾つも作って肉塊へと変えていく。


銃弾と悲鳴が奏でる戦場音楽に、新たな音楽が加わろうとしていた。オークの部隊に多くの死傷者を出したことで陣形が崩れた個所が出てきたので、そこを起点にどんどん隊列を乱そうと珍しくロビンが飛び出したのだ。
基本的に現代の狙撃兵の様に、遠距離からの射撃と罠の発動に徹することが多い彼だが、生前は敵の背後からナイフで襲い掛かり殺すなど徒手格闘を行った経験が一応あるので、
オークたちの注意をエルフたちではなく自分一人に惹きつけるために、前へと接近して近接戦を強いたのだ。



「腐ってもオレはサーヴァントなんでね。アンタらみたいなやられ役に容易く討ち取られるほど弱くないぜ。ほら、どんどんかかってきな!
森でのゲリラ戦なら、ここはオレのホームグラウンドだ」


彼は両手に刃渡り25cm程のサバイバルナイフを持ち、オークたちの振り下ろしてくるマチェットや突いてくるバルディッシュの刃先を上手く弾き返すと、そのままカルデアで様々なサーヴァントから習った体術によって連中を上手くいなして組み伏せ、そのまま首元や関節などにナイフを刺し込み、
刃に仕込んでいた麻痺効果のある毒を注入して強制的にダウンさせていく。


そしてそれを尻目に、彼はまた別の新たな標的へと飛びかかる。オークたちは余りにも近いので攻撃を当てることが出来ず、彼の体術とナイフの餌食となっていく。そんなロビンの活躍ぶりに励まされるようにエルフたちや獣人たちも手を緩めずに援護を行うので、彼の周囲にはたちまちオークの死体または負傷者が倒れて一種の障害物と化す。それに足を取られて身動きがとりにくい他のオークたちは、これらに引っかかりもたもたしている間に飛来する銃弾と鏃、もしくは刃物によって次々と命を失っていく。





……ォォォオオオ!


そんな戦っている最中に、ふと遠くの方から何やら車のエンジン音らしき音が聞こえてきた。ロビンは自由の民の援軍かと思いその方角へと顔を向けると、視界に映ったのは何やらどこかで見たような色合いをした謎の車4台であった。確かあの日の丸から判断すると、所属は日本の自衛隊といったか?
どっからどう見ても軍隊なのに法律上では軍隊ではないという奇妙な存在で、
色々な法律の縛りがあるので先制攻撃が出来ない等、インドやケルトの連中みたいに何処かおかしな軍隊らしい。確かアルヌスの丘にあるゲートを通じて銀座から進出して来たとは聞いていたが、ここまで進出しているとは予想外だ。


車窓から身を乗り出した白人の男と自衛官らが手に持っている銃火器をぶっ放し、次々とオークの胴体に風穴を開けて始末していく。そして「俺たちは味方です!あなた方の救援に駆けつけました!!」と叫び、こちらに味方であることを認識させて同士討ちを防ごうとしている。
実際車から降りてオークたちを射殺しながらエルフたちの援護を行っているので、エルフたちも今は敵ではないと判断したようだ。そのまま自衛官たちに弓を向けることなくオークへの攻撃を続行する。こうして奇妙な共闘が始まり、戦局はエルフたちに有利となっていく。



ザッ!

「助っ人は如何かな?ロ…アーチャー」



そしてエルフたちの勝利に繋がる決定打が、やって来たことを彼らは思い知る。
何故ならオークたちの真後ろの地面に血で出来た大きな魔方陣が描かれ、そこから青年と思わしき声を発するマスクを着けた人影が登場した。彼は最初ロビンの事をついうっかりと普段通りに真名で呼ぼうとしてしまい、
慌ててクラス名で呼ぶなどおっちょこちょいな側面を見せたが、周りのエルフやオークたちにとってそんなことは全く気にならなかった。


何故なら彼の放つ気迫または殺気に怯えていて何も考えることが出来ず、話すことも上手く舌が回らないのでほぼ不可能なので沈黙し、この場にいる全ての存在が戦うのを辞めてこれ等の原因を注目する事を強いられている。何せこの場に居るのは彼にひれ伏し、命乞いをするべき弱者であり奴隷である。そして彼はこれ等を全て刈り取る強者であり王者である。そう、彼らが思うのも仕方の無い圧倒的な威圧感を放っている。


「お集りの怪物諸君、任務ご苦労様。
そしてダスビダーニャ(さようなら)!」

ザシュ
シュバ
ドシュ
パァパパパパパン!


そうやって呆けたように彼に圧迫されていると、彼はこの様な言葉を発して一礼した瞬間、背中と腰に装着している刃渡り80cm以上の双刀とグレネードランチャーをアンダーバレルに装着したアサルトライフルを取り出し、この二つをうまく使い分けながらスプラッター映画さながらの地獄絵図を作り出した。


周りのオークたちの首を斬り飛ばし、
上半身と下半身の真っ二つに切り分け、
そして左右の切り身へと刀を振り落として作成し、右手の刀で腹部を刺して左手の刀で掻っ捌いて中身の臓物を引きずり出す。別のオークは両手の指を全てみじん切りの様に切り落とされ、痛みに悶えている間に顔を真横に真っ二つにされてスライスされて即死する事で、奴は永遠に痛覚をを感じなくなった。オーク風情に安楽死を与えるなど何と慈悲深いお人なのだろうか?


とあるオークは斧を振りおろして彼をかち割ろうと試みたが、彼は刀で上手くそれをいなして代わりに顎から脳天まで刃で串刺しに、そのまま上へと勢いよく脊髄ごと引っこ抜かれ、他のオークへと胴体にめり込む勢いで〝ボール”として投げつけられる。そしてそのボールを見事顔面に喰らったオークは鼻の骨が曲がるほど凹み、血や涎、
折れた歯などが飛び散り、地面に倒れた瞬間に彼はオークの首を右足で踏みつけて動けなくし、そのまま左足で思いっきり踏みつけて頭を砕いた。折れた頭蓋骨の骨と脳漿などが飛び散り、この悲惨な地獄絵図に新たな色合いをプラスする。


そして持ち替えたアサルトライフルの銃口から飛び出す鋼鉄の弾丸がオークの胴体を貫通し、頭蓋骨を貫通して脳漿や血を周囲の地面にぶちまける。グレネードは放物線を描いて奴らの頭上で炸裂し、
何体か纏めて吹き飛ばして幸運な奴は即死して醜い肉塊へとなり、不運な者は手足など体のパーツが吹き飛んだり破片が体に刺さった状態で、虫の息の状態となりながらもまだ生きている。彼は他にもまだ(オーク)が残っている状態でいちいちこれらに止めを刺す暇など無いので、瀕死の奴らを無視してそのまま次の行動へと移るので、
息絶えるまで己の体から流れ出る血と命の感触を体感するという悲惨な体験を味わっている。


別の数少ないウルク=ハイは、自らの犠牲を顧みずに何としてでも部隊を殺戮する人間と止めようと試み、動きを止めるべく押さえ付けにかかった。
だが、両腕を伸ばそうとした瞬間に両方共に叩斬られ、ボトボトと地面に切断された籠手を装着した腕が落下し、余りの苦痛で悲鳴を上げようとするも発する前に首ごと頭部を斬り飛ばされ、先ほど地面に落下した己の両腕を薄っすらと消えゆく意識を保ちながら見つめ、件の人間の化け物ぶりを痛いほど思い知りながら奴の意識は永遠の眠りについた。


上空のワイバーンに対しては、次々と空中に何らかの魔術を用いて固い石で出来た足場を設けてそれを利用し、奴らの背中にジャンプして飛び移り、それに跨った状態で首を切り落としたり頭部を串刺しにすることで処理しており、オークと同じくバタバタと地上に切断された生首などが落下していく。その間、多くの自衛官やエルフなどは彼の余りの強さと悲惨な現場に唖然としており、中にはオークたちの残酷な死に方に吐き気を催し、
そこら辺の地面に胃の中身をぶちまけているのも存在する。


一方でロビンは彼に周囲の注目が集まっているのを利用して、無防備な背中などを射貫いて次々とオークやワイバーンを射殺していく。彼はカルデアに召喚されて様々な地獄絵図や悲惨な死に方というのを見てきたので、
この場面を見ても全く動揺しないのだ。
他にも彼の心情としては、相手は敵、
それも弱者を殺そうとした凶暴な連中、
情け容赦を賭ける必要はない。殲滅する事が今の使命と考えているからだ。


何はともあれ、仮面を被った乱入者の鬼神並みの活躍にピンチに陥るとたちまち弱くなるオークたちの精神はパニック状態へと陥り、抵抗の体を成しておらずただ彼から逃げようとして背中を向け、
どこか遠くの方へと逃げ去ろうと試みる有様だ。まぁ、危うく殲滅されそうになったのにそれを許して簡単に逃亡を許す理由など無いので、エルフたちや獣人たちはその無防備な背中に次々と追撃を加えあの世へ送っていく。当たりにはオークの悲鳴やワイバーンの断末魔などが響き、降伏しようと武器を捨てた一部の連中も殺された。


数十分後には800体ほどいたオークの部隊とワイバーンの群れは皆殺しにされ、
腐臭を周囲にまき散らしながらその骸を太陽の光に晒していた。仮面を装着した人物は既に戦いを終えて刃から血を拭っている最中で、ロビンはドルイドの術を使い負傷したエルフたちなどの治療活動を行っている。
そして第3偵察隊はいったい何をしているかというと……


「うわ~、見てくださいよ隊長!マジモンのエルフですよエ・ル・フ!!」


「分かった分かった。落ち着け倉田。
後でじっくり触れ合う機会があると思うから手を休めるなよ。クリちゃんが怖い目でこっちを見ているからな…」


ロビンと同じくエルフたちの治療活動に励んでおり、倉田などオタクな連中はちゃっかりと作業中に生のエルフを見つめ興奮し、ファンタジー世界の産物と思っていた存在が現実に登場して触れ合えることで麻薬をきめたようにハイテンションとなっている。
流石にオタクに厳しいクリちゃんこと栗林やソープの目があるので、作業をサボって触れ合おうと試みる馬鹿はいない。


何故治療活動に勤しんでいるのかというと、当初は先の「銀座事件」においてサーヴァントを率いていた件のマスターと思わしき仮面の男に接触を試みていたのだが、まずロビンに「あ~、あんたら今はマスターの邪魔をしない方が良いとオレは思うぞ。ああやって血を拭っている時に下手に話しかけると、罵詈雑言をぶつけてくるから大人しくしていた方が良いぞ」と告げ、獣人たちも銃火器を突き付けてそれに同調する素振りを見せて下手な真似をすると射殺される雰囲気を発してきたので、彼がその作業を終わらせるまでに何かして時間を潰すためにこの活動を行っているのだ。


この活動のおかげで、幸運にも第3偵察隊はコアンの森に暮らすエルフたちと接触することができ、
彼らから様々な有益な情報を仕入れることに成功した。その情報は以下の通りである。

・この特地は現在、
数か月前に異世界からやって来た「黒王軍」を名乗る化け物集団によって、このフォルマート大陸の覇権国家であった「帝国」は大規模な侵略を受け、治安は非常に悪化して各地で山賊や盗賊が出現し、そして黒王軍の襲撃で安全な場所などほぼ存在しない。
自警団を結成しなければ次の日には皆殺しにされているか、
奴隷となって売られるかのどちらかなのだから。

・また、同じころに異世界からやってきた「カルデア」を名乗る連中によって、
反帝国・黒王軍を掲げた「自由の民」という亜人中心の組織が結成されて両社と対立しており、この二つの異世界からやってきた勢力によって既に帝国は国土の50%を占領されていて、現在進行形でどんどん侵略が進められてこのままだと消滅する勢い。そして残った両者がそのままこの大陸の覇権を巡り争うだろう。

・「帝国」は人間至上主義を掲げているので亜人を迫害し、
中小国を恫喝したりと過去散々な行いを行っていたので、
この国へ戦いを挑んだ「自由の民」にこれ等の怨みを持つ連中がどんどん加わり、帝国の勢力範囲を奪取して自分たちの勢力範囲へと納め、
小さな武装勢力から今や立派な国家へと成長している。

・当初は三すくみの関係だったが、黒王軍と自由の民が積極的に帝国への攻勢を強めたので帝国は弱体化し、今ではほぼ瀕死の病人同然の国力しか保持していない。そしてかの国が弱体化すると、両者は攻勢を次第に弱めて逆に陣地の構築などに取り組んで今では停滞している。
どうやら聞くところによると、何かしらの大規模な構成の準備に取り掛かっているらしい。

・亜人にとって一番味方すべき勢力は自由の民一択である。何故なら亜人が半分を占めているので親密な態度で接してくるから。帝国は亜人を迫害して奴隷にしたり、性奴隷にしたりと碌な扱いをしてこない。残った黒王軍は帝国よりも酷く、農奴か化け物の食糧、もしくは人体実験の材料にされるらしいので、自由の民が他二者を打倒して覇権を握れるよう応援するほかないetc…

この様に貴重な情報を色々と聞けたので、伊丹らは思わず心の中で万歳!と喜びを感じた。任務の達成に一歩近づけたからだ。おまけに運良くあの「銀座事件」で話題となったマスターと思わしき人物とサーヴァントに接触できたのだ。これほど幸運なことがあるなんて夢みたいだと、ギャズや栗林などがそ思っても仕方の無い事だ。だが、
肝心の連中は……




「あの~、すいません。少しお話を聞かせて」


「よし、諸君。これより帰還するぞ。
アーチャー、自衛隊など後のことは任せた。じゃ!そういうことで。あ、そうそう。セイバーと汚い方のエミヤを皆さんの護衛に任せるから頼んだよ」


「えっ!?ちょ、
マスター!!??
嘘だろうおい!オレに全て任せて一人だけ逃げるとかズルいっすよ。オレも逃げさせてもらいますよ。いちいち最初から細かく説明する羽目になるだろうから、
そういうのはとってーも面倒くさいのでここいらで失礼させてもらうよ。後はマスターの言った通り、あの二人がお前さんたちを護衛してくれると思うから頑張ってくれ」


ソープが先ほどの作業を終えたと思わしき仮面を装着したマスターらしき人物に話しかけようとしたところ、彼は即座に周りの獣人たちを引き連れてダッシュして遠くへと走り去り、その際ロビンに後を任せたと言ってそのままヘリに乗り込んで逃げてしまい、
後を任された彼もまた説明が面倒なので所有する宝具の一つである「顔のない王(ノーフェイス・メイキング)」を被り、姿を隠す能力を発動して視界から見えないようにして同じく逃げてしまい、
仕方なくマスターの方を捕まえようにも余りの一行の逃げ足の速さと、獣人たちが武器をこちらに向けながら走って二人と同じように走り去ったので、追うと撃たれるかと思い追跡を断念せざるを得なくなった。


だが、一つ気になる事を彼らは言い残していった。セイバーと汚い方のエミヤという誰かの名前らしい単語である。一部の人間を除いてそれが何かわからなくて顔を見合わせてたが、その一部の人間(伊丹や倉田)はその正体を知っているので思わずぶふっと吹き出し、周りから「何だこいつら」と不審に見られてしまった。


「おいおい、本当にサーヴァントと一緒に仕事ができる日が来るとか嘘みたいだ……。まぁ、清姫やスパルタクス等バーサーカーのサーヴァントを寄こされるよりかはマシだし、
貴重な常識人枠のサーヴァント達だから安心できるな。インドやケルトが来たらどうしようかと思ったぞ……」
ホッ…


原作ゲームにおける彼・彼女の性格を知っている伊丹は、
来訪してきたサーヴァントがバーサーカーや王様系サーヴァントなど、余りにも強烈な個性ゆえにコミュニケーションに難点がある者ではなく、色々と変人が多いフランス出身の英霊の中でも比較的常識人であるデオンと、そして現実主義者でコミュニケーションが取れにくいが、
常識人で歴戦の殺し屋としての経験が豊富なエミヤ(アサシン)の二人が仲間に加わることに感謝していた。このサーヴァント達なら、栗林やソープ等オタクに厳しい連中とも上手く交流できるだろうと。


彼がそんなことを思っている内に、怪我の治療やオークたちの生死確認が終わったエルフたちが一行の近くに続々と集まってくる。家族らしき連中が互いに安全を確認して喜びの余り抱き合ったり、
もしくは心配気な表情を浮かべながら黙って抱き合ったり、
友達らしき男のエルフ同士が何やら真剣な表情で話し込んでいる。言葉は少し離れているので何を言っているのか分からなくても、明らかにこの後どうするのか相談しているのが雰囲気で分かる。


そうこうしている内に何やらざわついてきて、エルフたちが森の方角へと注目しているのが目に付いた。どうやら森の奥から誰かがこっちに来る様だ。そしてすぐに森の奥から女性と思わしき帽子を被った人影と、赤いフードで頭部を覆い、
黒いアーマーを装着した如何にも暗殺者という男が歩いてきた。すると二人にエルフたちが近寄り何やら色々と話しかけて、それにちゃんと応対しながらこちらに近づいてくるのが見える。やがて目の前に到着すると、
先に中性的な方から話しかけてきた。


「私はシュヴァリエ・デオン。フランス王家と人類を守る白百合の騎士!よろしく頼むよ。自衛隊の皆さん」


ひどく中性的な声で女性の様なデオンと名乗った人物が帽子を取って一礼し、
挨拶をしてきた。
明らかにそんじゃそこらのエルフや人間とは違う雰囲気を放っているので、目の前の存在が件のサーヴァントであると第三偵察隊には嫌でも理解できる。まるで18世紀を舞台にした映画などに登場する、男装の女剣士のようなエネルギッシュで可憐なオーラを漂わせている。


立ち振舞は凛として洗練され、見た目は羽帽子を被った金髪ロングで可憐な男装の剣士だが、実際の性別は現在でも男でもあり、女でもあると未だどちらかにはっきりとしておらず不明なままだ。Fate世界では「自己暗示」スキルにより、
本当に男女どちらの性別にも身体を変えられるという両性設定だ。簡単に言うと、性別は「デオン」なのだ。それしか他に的確な言葉が見つからない。


性別が不明なこのサーヴァントは、クラスはセイバー(剣士)、真名を『シュヴァリエ・デオン』と言う。フランス王家に忠誠を誓う白百合の騎士で、十八~十九世紀の人物。ルイ十五世が設立した情報機関「スクレ・ドゥ・ロワ」のスパイとして、フランスで列強各国を相手に立ち回る活躍をした謎多き伝説的人物だ。


さらに軍所属の竜騎兵連隊長や、ロンドンでは最高特権を持つ特命全権大使等でもあったとされている。女であり男、
男であり女、と語られるように、男として服を着込み、男として振舞っていたにも関わらず、可憐な少女と称されるほどの美貌を備えていたという。事実、成人前にドレスを来て赴いた社交界では「美しい娘」として噂を集め、秘密任務のためロシア帝国に潜入した折にもロシア女帝と交流を行い、女帝やその臣下から美しさを讃えられたという逸話が残されている。後年、自分は男ではなく女であると公に秘密を明かし、以降は一貫して女として過ごし、当時のフランス王妃のマリー・アントワネットからドレスを送られたという経歴を持っている。





「アサシンのクラスとして呼ばれた者だ。主に汚れ仕事を担当している。一応今後ともよろしく頼む」


そしてもう一人の方は、ぼそりと素っ気なくそう話すと後はもう用は済んだと言わんばかりに無言となった。浅黒い肌に白髪、武者の甲冑を思わせるアーマーと赤いフードを纏った男で、手榴弾やナイフをポケットに仕込んでいる。彼の特徴的なポイントは、
何といっても死んだ魚のような目、つまりレイプ目である。


彼のクラスはアサシン(暗殺者)、真名を『エミヤ』。人間であったときは衛宮切嗣という名前だった。同名の守護者に「贋作屋」「錬鉄の英雄」の二つ名を持つ「エミヤ」がいるが、この守護者は彼と同一人物ではない。これは人間だった頃の名前であり、
生前は暗殺者として多数の人間をその手で殺めた反英雄。
本来の彼は英霊ではなく、“守護者”と呼ばれる英霊もどき。抑止力の代行者。
人類の“存続するべき”集合無意識が生み出した防衛装置のようなもので、この防衛の在り方は人類側の抑止力とも呼ばれる。「名も無い人々」が選出した、ロビンと同じく「顔の無い正義」の代表者。


彼を一言で表すなら、感情が少ない正確な戦闘機械だ。師を殺した直後の精神に近いが、「正史」における彼と異なり、
心は鋼のままで感情は枯れ果ててしまった。どこの戦場に呼ばれようとも常に人智を超えた理由と目的で血を流し、最短手順で世界滅亡の原因を解決するのならば手段を選ばずにどんな事も行う。故に「甘ったれた人間」等の人倫の枠に囚われた者とは相容れない。とはいえ、是も非もないと観念して選択の余地などないという思考の元で動いているので、決して人間性を失ったわけではない。




この二人は密かにマスターと一緒に来ており、裏から回り込んでオークたちを倒していたのだ。そして彼とロビンに後処理をすべて任されると同時に、この第三偵察隊とエルフらの護衛を頼まれたので一先ずこうして挨拶しに来たのだ。とりあえず差し出された一同を代表して伊丹が手を握り、握手し返して挨拶をすると、頃合いと見たのか村長らしきエルフがホドリューを伴い話しかけてきた。


「あなた方が今色々と噂の異世界の軍団か。話は自由の民の方々から聞いているよ。本来なら話をして情報交換をするのだが、見ての通りここはもう安全ではない。だからこれから逃げる支度をして、
どこか遠くに行くつもりだから何も取引や約束などは出来ないよ」


「まぁ、逃げる場所の当ては余り無くて、こうなったらかなり遠いが自由の民の支配地域まで行くつもりだ。歩いて1・2週間は掛かるがそこしか安全な場所は無いだろう」


どうやらコアンの森のエルフは森を捨てて何処か遠くの安全な場所へと家族総出で避難するらしく、
自衛隊もそうだろうと思い込んで人間と何時も行っている取引や情報交換はできないと告げてきた。
実際先ほどまで此処に多くいたエルフたちはそれぞれの家へ一度帰宅し、家族や友人らにここを離れて避難する事を話して引っ越しの準備を行っている。彼らの予定では、かなり距離があるが自由の民勢力範囲内の土地へと逃げ込むつもりだ。



「そうですか……、
でしたら我々の基地に来ませんか?ここから歩いて5日ほどの距離なのでそっちよりも近いですし、
我々自衛隊が命を懸けて貴方たちを守りますので……」


そしてその話を聞いて、プライス大尉は彼らをアルヌスの丘一帯に築き上げた自衛隊の基地へと連れて帰れないかと思い、一緒に自分たちと来ないかと誘った。
別にその誘いはエルフたちを哀れに思っただけではなく、
とある合理的な理由があるからだ。それに同意する様にデオンも「自衛隊の方がまだ比較的距離が近いから安全だよ」と援護射撃をしてくれたので、二人は近くにまだ居たエルフたちを呼び集めてヒソヒソと話し込んで相談し合い、やがて結論が下ったのか伊丹の前に進み出て、
返答を述べた。


「あなた方の提案に同意する。我々をそこまで連れて行ってくれないか?」と。


こうして自衛隊特地派遣部隊所属第三偵察隊は、エルフという難民の集団を引き連れて新しい護衛と共に基地へ帰還することになった。そしてその帰る道中に、
以前他の連中が寄ったというコダ村に訪れようと伊丹が提案し、一度そこに顔見せや情報収集も兼ねて寄る事となった。


果たしてそこでは一体どんな出会いが待っているのか?


そして無事に何事も無く、帰還できるのだろうか?






(おまけ)
次のページに飛べば見れます。あくまでおまけなので見なくても平気です。














ジトー・・・・・・

「ねぇ、何か凄い視線をあのエルフの娘から感じるんだけど……」


「私も……」


そんな緊迫した本編と同時並行で、密かに様々な性癖を保有する淫獣エルフの野獣の目が、栗林と黒川の二人をねっとりと嘗め回すかのように見つめる。果たして二人はテュカの魔の手から己の純潔を守り切れるのか!?


 
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