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黒魔術師松本沙耶香 騎士篇

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第二十章

「後は、です」
「観光客ね」
「夜までは」
「ベルリンに来たのは今回がはじめてではないわね」
「何度か来ています」
「ではそちらを楽しんで過ごせばいいわ」
 これが沙耶香のアドバイスだった。
「夜までは」
「そうしますか」
「ビールを飲んで」
「ドイツだけあって」
「そうしたらどうかしら」
「ではホフマンよろしくです」
 オッフェンバックの歌劇ホフマン物語の主人公ホフマンだ、実在の法律家であり小説家であったホフマンを主人公にした作品で恋愛と芸術を扱った作品だ。この作品の中でホフマンは居酒屋で客達に自分の過去の恋愛話を語り物語となるのだがその彼はビールそれも黒ビールを痛飲している。
「飲むとしますか」
「そうするのね」
「失恋しましたので」
 歌劇の中のホフマンの様にというのだ、彼はその中で三度結末も含めると四度の失恋を経験している。
「そうしましょうか」
「そして夜には」
「再会ですね」
「騎士殿ともね」
「それでは」
「ええ、私は夜まで私の時間を過ごすわ」
 いつもの様にというのだ。
「残念ながら歌劇は観られないけれど」
「お仕事がありますからね」
「ええ、今日国立歌劇場ではウェーバーが上演されるそうよ」
「ウェーバーというと摩弾の射手ですか」
 この四十歳の若さで結核で世を去った音楽家の代表作の一つだ、他にはオベローンがある。彼からワーグナーも誕生したと言っていい。
「それはいいですね」
「明日も上演されるそうだから」
「明日にですね」
「行くことにするわ」 
 今日は無理でもというのだ。
「そうね」
「私は明日は何の予定もありません」
「では歌劇だけでもどうかしら」
「だけ、ですか」
「後のことはわからないわ」
 速水にいつもの妖艶な笑みを見せて話した。
「それはね」
「では歌劇だけでも」
「一緒にね」
「観させてもらいます」
 こう言ってだ、そしてだった。
 速水はクロステル通りの途中で沙耶香と別れた、一時の別れであるので別にそこに暗いものはなかった。そして。
 沙耶香は一人になるとだ、そのまま通りを歩いてだった。道行く洒落た男女やスーツ姿の男に年金生活者と様々な者達を見ていた。ドイツの首都だけあり様々な者がいる。ドイツ人だけでなくアジア系やアフリカ系の者も多い。
 その彼等を見つつだ、沙耶香は一人で歩いていたが。
 昼になりあるレストランに入った、そこはドイツ料理の店で。
 ドイツで食べられるメニューが揃っていた、沙耶香はメニューを見て自分の席に来たウェイトレスに対して言った。
「まずはサラダにするけれど」
「どういったサラダにされますか?」
「ジャガイモのものにするわ」
 ドイツの代名詞と言っていいジャガイモの、というのだ。
「サラダはね」
「そしてスープは」
「オニオンとガーリック、人参のスープね。これは」
 沙耶香は自分から料理の名前を言った。 
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