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黒魔術師松本沙耶香 騎士篇

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第十八章

「あくまで自分は悪人達を裁いているのだと確信しているわ」
「そして、ですね」
「多くの昔の倫理で死罪に値する人をね」
「殺しているのですね」
「死罪にしているのよ」
 沙耶香はあえて騎士の視点での言葉で市長に答えた。
「何でも今のベルリンは悪徳に満ちているそうよ」
「かつての価値観では、ですね」
「これ以上はないまでにね」
「倫理観は変わります」
 市長はこの真理を述べた。
「時代によって」
「はい、国によっても違います」
「そうです、ですから当時のこの地域は」
 速水に応えつつだ、市長は自身の歴史への知識から考察しつつ述べた。
「ドイツ騎士団の時代ですね」
「それかチュートン騎士団ですね」
「そうした時代でした」
「まさにキリスト教倫理に基づいて動いていましたね」
「そうでした、そのうえで十字軍も行っていました」
 北方十字軍である。十字軍はエルサレム回復を目指した七度に渡るイスラム圏やビザンツ帝国への軍事行動以外に南フランスのカタリ派という当時異端とされた一派に対するアルビジョワ十字軍もまた然りだ。尚エルサレム等東方を目指した十字軍の無残な有様、とりわけ数々の略奪や虐殺は有名だがアルビジョワ十字軍も非道極まるもので百万もの犠牲者が出たとも言われ南フランスは完全に壊滅したうえでフランス王国の領土となっている。
「ドイツ騎士団は」
「リトアニア等にでしたね」
「その為キリスト教の倫理観を強く持つ騎士もいたでしょうが」
「あの様な騎士もですか」
「やはりいたでしょう」
 二人が話した様なというのだ。
「やはり」
「左様ですね」
「はい、しかし」
「それでもですか」
「当時なら問題はなかったでしょうが」
「今は、ね」
 今度は沙耶香が言った、いささかシニカルな口調で。
「違うわ、時代が」
「同じ地域でも」
「まして私達はね」
「日本から来られては」
「日本で同性愛が罪となったことはないわ」
 沙耶香は己の嗜好も話に含めた、もっと言えば沙耶香は美女や美少女だけが好きではない。異性も好む。もっとも同性を相手にする方がかなり多いのは事実だ。
「一度もね」
「その様ですね」
「魔術も人に害するものでなければ」
「寛容なのですね」
「左道でなければいいのよ」
 黒魔術、沙耶香が使うものでもだ。
「人や社会を害する悪意を以て使うものでなければ」
「異端審問も魔女狩りもなかったそうですね」
「こちらも一度も、そうした話があればまずかなり吟味されていたわ」
 江戸時代の奉行所にしてもしかと取り調べを行っていたものだ、人に害を為すものでなければお咎めもなかった。このことは日本では何時の時代でもそうだったと言える。少なくとも異端審問や魔女狩りの悪夢とは無縁であった。
「そして宗教も違うから」
「その信仰の違いも」
「あの騎士殿はわかっていないわね」
「むしろ理解の範疇を超えていますね」
「異教即ち悪ね」
「そうした考えでしょう」
「話は無理ね」
 沙耶香は即座にこう判断した。
「それは」
「やはりそうなりますね」
「倒して彼が信じる世界に行ってもらうしかないわ」
 沙耶香は即座に判断した、そうした相手にはそれ以外に有り得ないと彼女の中で答えが出た。
「天国になるかしら」
「そうですね、あの騎士殿は罪を犯していません」
 速水も沙耶香に応えて言う。 
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