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黒魔術師松本沙耶香 騎士篇

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第九章

「充分にね」
「その罪は許せぬ」
「キリスト教の考えにおいてね」
「そうだ、その罪にだ」
「ええ、多分だけれど」
 こう前置きしてだ、沙耶香は声の主に今度は自分から声をかけた。
「貴方は私が探している相手ね」
「そうも思い声をかけたのだ」
「そうね」
「我は罪を犯した者を成敗しているのみ」 
 声の主は言った。
「ただそれだけだ」
「毎夜この街においてというのね」
「毎夜そうしているだけだ」
「そうね、ただね」
「それはか」
「法律によってするものよ、今は」
 現代はというのだ。
「貴方が裁くものではないわ」
「戯言よ。我は騎士であるぞ」
「それも神に仕えるというのね」
「神の代理人からも許され多くの罪を裁いてきた」
「何人そうしてきたのかしら」
「生きていた時に四十人、目覚めてからはまだ十二人だ」
「それだけなのね」
「御主がその十三人目になる」 
 声は沙耶香に告げた。
「覚悟はいいな」
「十三、不吉な数字ね」
 自分がその十三人目になると聞いてだ、沙耶香はキリスト教における数字への言われから述べた。
「キリストが死んだ日、ユダの数字」
「そうなるな」
「そうね、けれど私はキリスト教じゃないのよ」 
 ここでだ、沙耶香は余裕のある微笑みで言った。
「十三という数字には何の意味もないわ」
「異教徒か」
「そうよ、とはいっても教会に行くことも嫌いではないわ」 
 キリスト教のそこにというのだ。
「シスターを頂くことも好きだし」
「聖職者を惑わすか、淫魔の様な女だな」
「淫魔。違うわ」
 この悪魔に例えられてだ、沙耶香はそのことはすぐに否定した。
「私は魔術師、黒魔術師よ」
「淫魔ではなくか」
「そうよ、美女も美男も愛するけれど」
「魔術師か」
「覚えておいてね、ついでに言うと」 
 沙耶香はさらに言った、声に対して。
「今は神の名においての裁きは許されないわ、裁判所で法律によってよ」
「何度も言う、我は猊下にそれを授けられたのだ」
「猊下、法皇か枢機卿かわらないけれど」
 どちらにも敬意を持って使われる言葉だ、皇帝や王を陛下と呼ぶのと同じだ。法皇達は聖職にあるのでこの表現になるのだ。
「どちらにしてもこの世を去っているわ」
「だからだというのか」
「貴方のしていることは今では許されないわ、そしてその為に」
「我を止めるか」
「倒してでも封印するか消させてもらうか」
 こう言いつつだ、沙耶香はその背中に横に長い巨大な翼を出した。左右に三対ずつの六枚の漆黒の炎の翼である。
 その翼を出したうえでだ、沙耶香は声の主に言った。
「はじめましょう、何処から来るのかしら」
「我は騎士だ、ならばだ」
「正面からというのね」
「処刑も正面から堂々と行う」
 騎士道に沿ってとだ、言葉の中に含んでいた。
「そして苦しませはしない」
「そう、では出て来てくれるかしら」
「よかろう」 
 沙耶香の前にだ、その騎士が現れた。
 全身を漆黒の甲冑で覆っている、兜も顔まで覆い見えはしない。右手には巨大なランスがあり乗っている馬はサラブレッドの大型のものよりもさらに大きい紅蓮の鬣を持つ漆黒の馬だった。馬の目は爛々と赤く輝いている。 
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