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黒魔術師松本沙耶香 騎士篇

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第一章

                 黒魔術師松本沙耶香 騎士篇
 ドイツの首都ベルリン、かつてこの街はプロイセン王国の首都であった。プロイセン主導のドイツ帝国が誕生してからの首都でもあった。 
 それからワイマール時代、ナチス=ドイツの頃にだ。ドイツが東西に分裂していた時も連合国に分割されていたとはいえ東ドイツ即ちドイツ民主共和国の首都であった。そして今も統一されたドイツの首都である。
 今そのベルリンに一人のアジア系の長身の女がいた、雪の様に白く面長の頭の形をしており黒い奥二重の瞳は切れ長で睫毛は長い。
 眉は細く見事なカーブを描いている、鼻は高く唇は紅色で小さい。黒く長い髪を頭の後ろで団子にしてまとめ艶やかなうなじを見せている。
 黒いスーツとズボンで身を包み革靴も同じ色だ。スーツの下は白のブラウスと赤いネクタイだ。そのスーツの上に黒の長いコートを羽織っている。
 その美女はブランデンブルグ門の前にいた、今は全て開かれているその門の前に立つとだ、前から一人の初老の男が来た。
 男は美女の前に立つとだ、こう彼女に尋ねた。
「松本沙耶香さんですね」
「そこでフロイラインとは言わないのかしら」 
 美女、松本沙耶香は微笑み男に問うた。
「フロイライン=サヤカとは」
「近頃女性の表現には議論がありまして」
 男は少し苦笑いになって沙耶香に答えた。
「その表現もです」
「使いにくいのね」
「私としては好きな表現ですが」
 ドイツ語では未婚女性を『フロイライン』と呼ぶ、お嬢様という意味だ。既婚女性は『フラウ』、奥様となる。英語でミス、ミセスと呼ぶのと同じだ。
「諸般の事情で、です」
「厄介なことね」
「そこは述べられません」
 英語でノーコメント、というのだ。
「ベルリン市長としては」
「その市長さんがお忍びでなのね」
「はい、ここでです」
「私に依頼の確認に来た」
「そうなります」
 まさにという返事だった。
「既に日本に人をやってお話させて頂きましたが」
「今この街で起こっている事件ね」
「そうです、実はもう一人にもお願いしていますが」
「彼ね」
 沙耶香は市長の言葉にすぐに反応を見せて応えた。
「彼にもなのね」
「はい、依頼をさせて頂いていましたが」
「彼はまだ来ていないわよ」
「その様ですね」
「実は今はプラハにいるわ」
「あの街ですか」
「あちらで別の依頼を受けていてね」
 そのうえでというのだ。
「仕事中よ」
「時間に間に合って頂けばいいのですが」
「安心して、予定時間までには絶対に来るわ」
 その彼についてだ、沙耶香は微笑んで市長に話した。
「彼はそうした男よ」
「そうですか、それでは」
「ええ、彼のことは安心していいわ」
「その言葉信じさせて頂きます」
「そうしてね、むしろ私の方がね」
 沙耶香はそのアジア的な美貌の顔を微笑まさせて言った、切れ長のその目もまた微笑まさせたものになっている。
「お願いをして早く来てもらったから」
「いえいえ、こちらも丁度食事時で」
「こちらに来てもなのね」
「近くで食事をしていましたし」
 見れば丁度十二時半である、市長の左腕の時計はその時間を指し示している。
「それが終わったところでしたので」
「全てが丁度よかったのね」
「はい、明日の夜にお会いする予定でもです」
「早くてもなのね」
「お気になさらずに」
「それでは、では」
「ええ、話は聞いているわ」
 沙耶香はブランデングルグ門から見て左手にいる、市長は右手だ。市長はサングラスをかけ厚い帽子を被っているので正体がわかりにくくなっている。
 その市長にだ、沙耶香は言った。 
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