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ハイスクールD×D ~赤と紅と緋~

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第1章
旧校舎のディアボロス
  第9話 友達、できました!

 さて、イッセーは部長たちが回収してくれたな。
 これで──。

「あなたも早く逃げてください!」

 シスターが逃げるように促してくるが、あいにく、そういうわけにはいかないんだよな。

「残・念。てめぇは逃がさねぇよ!」

 回復した神父が光の剣と拳銃を構えながら言う。
 どこかイライラしてるように見えるが、獲物が逃げたことにイラついているのか?

「やれやれ。来てみれば、すでにもう悪魔共がいないではないか?」
「何々ぃ? 無駄足ぃ?」
「いや、一人いるな」

 そこへ、三人の堕天使が現れた。
 一人は、以前相対した帽子をかぶり、スーツを着た男性、ドーナシーク。
 一人は、長い黒髪のスーツを着た女性。千秋が言っていた奴だな。たしか、名前はカラワーナだと言っていたな。
 最後は、金髪のゴシック調の服を着た少女。こっちは知らないな。
 ・・・・・・天野夕麻はいないか。

「また会ったな?」
「フン。あのときの借り、耳を揃えて返してやろう」

 ドーナシークが以前ほどの油断のない雰囲気をまとっていた。だが、やはり、どこか慢心をしているように感じられた。

「私も貴様の妹には借りがあるのでな。貴様の首でも贈ってやるとするか」
「さっさと、殺っちゃおうよ」

 それは、他の二人も同じだった。

「へっ、バカな奴だぜ。クソ悪魔共をエサにしてれば、逃げられただろうによぉ」

 神父も神父で、完全に油断してるな。
 ま、そのほうが都合がいいけどな。
 俺は雷刃(ライトニングスラッシュ)を鞘に収める。

「なんだ? 諦めたのか?」
「それとも、命乞いでもするぅ?」

 俺は──。

「「「「──ッ!?」」」」

 堕天使三人と神父に向けて、バーストファングを投擲する!

「しゃらくせぇ!」
「こんなもん!」
「フン!」

 女堕天使二人と神父はそれぞれ光の槍や剣でバーストファングを弾こうとする。

「バカ者! 避けろ!」

 バーストファングの仕組みを知っていたドーナシークだけは慌てて叫ぶ。

 ドォォンッ!

「「「「っ!?」」」」

 だが、すでに遅く、ドーナシーク以外の三人はバーストファングの爆発に巻き込まれる。
 そして、部屋中に爆煙が充満する。
 俺は爆煙に紛れて、ある行動に移す。

「あんの野郎、なめたマネしやがって!」

 神父は吐き捨てるように言い、俺のことを探し出す。

「おっ、見つけた──て、なっ!?」
「何っ!?」
「「っ!?」」

 煙が晴れ、俺の姿を捉えた神父と堕天使たちの表情が驚愕に染まる。
 なぜなら──。

「貴様ッ! アーシア・アルジェントを!?」

 俺がシスターの喉元に雷刃(ライトニングスラッシュ)を突きつけていたからだ。

「おいおい、それは卑怯なんじゃないんですかぁ?」

 神父は相も変わらずの雰囲気だったが、明らかに余裕がなくなっていた。
 堕天使たちに至っては、ひどく焦燥に駆られていた。
 正直、賭けだったが・・・・・・こいつは、俺の予想は的中してそうだな。
 イッセーと千秋から、このシスターが回復系の神器(セイクリッド・ギア)を所持していることを聞いていた。そのシスターが堕天使のもとに来る。そして、その堕天使が未だにこの町に留まっている。さらに、いまの状況による目の前の堕天使たちの焦燥に駆られた姿。

(悪いな。もう少しだけ耐えて、怯えているフリをしててくれ)
(は、はい!)

 俺とシスターは堕天使たちに聞こえないように、小声で会話する。
 いまのこの状態は、シスターの了承を得たうえでの人質を取ったフリだ。
 まぁ、当のシスターはわけもわからずといった感じだがな。

「・・・・・・貴様、アーシア・アルジェントをどうするつもりだ?」
「ずいぶんとこいつの心配しているな? それとも、心配なのはこいつのことじゃなく、別のことだったりするのか?」

 カマをかけてみると、堕天使たちの表情に僅かな変化があった。
 いままでの反応から、俺は自分の予想にある程度の確証を持てた。
 なら、やることは決まったな。

「おい! 男が女を人質に取って恥ずかしくねぇのかよ! て、おい! うちを無視すんじゃねぇ、コラッ!?」

 ゴシック調の服を着た堕天使が挑発じみたことを言ってくるが、俺は無視する。

「とりあえず、この場は退散させてもらうぜ」
「待て! アーシア・アルジェントを連れてかせはせん!」

 堕天使たちが身構える中──。

「じゃあな」

 俺はあるものを取り出し、それを床に叩きつける!

 カッ!

 瞬間、部屋に閃光が走る。
 これは、特殊な閃光弾で、叩きつけるなどで衝撃を与えることで、閃光を放ち、相手の視界を奪うものだ。さっきの神父たちから奪ったものだった。

「「「「ぐっ!?」」」」

 不意討ちでくらった堕天使たちや神父は、閃光で視界を潰される。

「キャッ!?」

 俺はそのスキに、シスターを担ぎ、俺が空けた壁の穴から外へ飛び出し、その場から駆け出す。


―○●○―


「あ、あの、ここは?」
「俺の家だ。とりあえず、入れ」

 シスターを連れてやってきたのは、俺の(うち)だった。
 中に入り、とりあえず、シスターをリビングで待たせ、俺は服を取ってきてシスターに渡す。

「姉貴のお古で悪いが、とりあえず、これに着替えろ。そんな格好じゃ、動きにくいだろう?」

 俺はシスターが着替えるために、廊下に出る。

「あ、あのぉ、着替えました」

 しばらくして、シスターがそう言ってきた。
 その言葉を聞き、俺はリビングに入る。
 シスターは斬られたシスター服じゃなく、姉貴の服を着ていた。サイズが大きいのか、少しダボダボだったが。

「ひとつ訊くぞ。おまえ、あいつらのもとに戻る気はあるか?」
「えっ!?」

 俺の問いかけに、シスターは一瞬驚くが、すぐに首を横に振る。

「・・・・・・私、あのように平気で人を殺すような場所にはいたくはありません・・・・・・!」
「なら、ここにいろ」
「えっ?」
「不自由を強いるかもしれないが、我慢してくれ」

 俺は雷刃(ライトニングスラッシュ)を鞘から少しだけ抜き、刀身の状態を確かめ、刀身を戻す。
 そして、その場から去ろうとすると、シスターが声をかけてきた。

「あっ、あのっ、ど、どこへ!?」
「あいつらの目をここから逸らしてくる」
「き、危険です! どうして、今日初めて会った私なんかのために!?」

 悲痛な表情でシスターは言う。
 確かに、俺たちはお互い、今日初めて会った間柄だ。
 それでも、俺にはシスターを助ける理由があった。

「イッセーに頼まれたからな」
「えっ?」

 転移する前に、イッセーは俺に何かを言いかけていた。おそらく、俺にシスターを助けてほしい、と言うつもりだったんだろう。だが、俺の身を案じて、直前で頼めなかったってところだろう。
 だから、俺はあえて部長たちから先にあの場から去ってもらった。じゃないと、シスターを助けるときに、色々と面倒になっていただろうからな。
 これだけでも、俺にとっては十分な理由だった。
 ま、ほっとけなかったってのもあるがな。

「あ、あなたは一体・・・・・・?」
「ただのあいつのダチだ。それ以上でも、それ以下でもねえよ。いいか? 絶対にここから動くなよ」

 俺はシスターにそう言い聞かせ、外に出ようとすると──。

「あっ、あのっ!」
「ん?」
「まだ・・・・・・あなたのお名前を聞いていません・・・・・・?」

 あぁ、自己紹介をする余裕なんてなかったからな。

「明日夏。士騎明日夏だ。明日夏でいい」
「士騎? もしかして!」
「ああ。千秋は俺の妹だ」
「そうだったんですか。あっ、私はアーシア・アルジェントと申します。私もアーシアで構いません」
「そうか。なら、アーシア。何回も言うが、絶対にここから動くなよ」
「はい。明日夏さんもお気をつけて」
「ああ」

 俺は笑顔で答え、ここに向かってくるであろう者たちのもとへ向かう。


―○●○―


「見つけたぞ!」

 家から大分離れた場所にやってきた俺の目の前には、さっきの堕天使たちがいた。

「・・・・・・貴様、アーシア・アルジェントをどこへやった?」
「さあな」

 ドーナシークが訊いてくるが、俺は適当にはぐらかす。

「正直に言ったら──」
「楽に殺すってか?」
「なっ!? うちのセリフ盗んなッ!」
「挑発に乗るな、ミッテルト」
「なに、少々痛めつけてやればすぐに吐くだろう」

 堕天使たちはそれぞれの手に光の槍を持つ。
 俺も雷刃(ライトニングスラッシュ)の柄を握る。

「「「ハッ!」」」

 堕天使たちが手に持つ光の槍を一斉に投げつけてくる。

「フッ!」

 雷刃(ライトニングスラッシュ)を抜き、俺は光の槍を弾き落とす。

「どうした? その程度か?」
「クッ!? 調子に乗りやがって!」
「落ち着け、ミッテルト」
「カラワーナ、ミッテルト、やむを得まい。アーシア・アルジェントは自力で捜すとしよう」
「チッ! 面倒だけど仕方ないわね」

 どうやら、アーシアの居場所を吐かせるために、生かして倒すための手加減をやめたようだな。
 俺はさらに気を引き締め、雷刃(ライトニングスラッシュ)を構える。
 堕天使たちは俺を囲いだし、ドーナシークが斬りかかってきた。
 俺は雷刃(ライトニングスラッシュ)でドーナシークの光の槍を受ける。

「ッ!?」

 そこへ、ミッテルトと呼ばれた堕天使とカラワーナが、光の槍を投げつけてきた!

「終わりだ!」

 ドーナシークはそれに合わせて、飛び退く。

「ッ!」
「「「何っ!?」」」

 俺はその場で飛びながら身を捻って槍を避ける。
 さらにそのまま、バーストファングを投擲する!

「フン!」
「同じ手など!」
「喰らうかってんの!」

 堕天使たちは同じ轍は踏まないと、バーストファングを避けるが──。

 ドォォンッ!

「「「っ!?」」」

 堕天使たちの背後で爆発が発生し、堕天使たちを襲う。
 元々、避けられるのは想定できた。それを逆手に取って、堕天使たちの背後でバーストファング同士が交錯するように投げつけたのだ。
 俺は堕天使の一人──ドーナシーク目掛けて、飛び上がる。
 そのまま、ドーナシークを斬りかかろうとした瞬間──。

「──ッ!?」

 横合いから光の槍が飛んできた!
 俺は慌ててそれを弾くが、ドーナシークには体勢を立て直されてしまう。

「ッ!」

 俺は光の槍が飛んできたほうを見ると、そこには──。

「天野・・・・・・夕麻・・・・・・ッ!」

 その容姿と名前は忘れるわけがない。イッセーを騙して近づき、殺した張本人。
 俺の中で沸々と怒りが湧いて出てきた。
 ・・・・・・千秋のことを言えないな、俺も。

「久しぶりね? あなたを見ると、この傷が疼いて仕方がないわ・・・・・・っ!」

 天野夕麻は忌々しそうに俺が付けた傷を撫でながら言う。

「いますぐ、この傷のお礼をしたいところだけど、いまはアーシアのほうが最優先よ」

 天野夕麻は他の堕天使たちのほうを向いて言う。

「あなたたち、こんなガキ放っておいて、アーシアを捜すわよ。おそらく、この子の目的は私たちを引き付けて、アーシアが逃げる時間を稼ぐことよ。相手にしてたら、アーシアがどんどん見つけ難くなるわ。アーシアがいなくちゃ、計画も何もないわ」
「「「ハッ!」」」

 堕天使たちは天野夕麻に言われた通り、アーシアを探しに行こうとする。

「行かせるか!」

 行かせまいと、堕天使たちに仕掛けようとした瞬間──。

「──ッ!?」

 天野夕麻が民家に向けて光の槍を投げつけたのだ!

「クソッ!」

 俺はすぐさま、その場から飛び上がって、光の槍を弾く。
 だが、天野夕麻や堕天使たちの姿はもうなかった。

「チッ」

 天野夕麻・・・・・・イッセーの借りを返したかったが・・・・・・まぁいい。それはまたの機会か。
 とりあえず、連中はアーシアが逃げ出したと勘違いしてくれた。これで時間を稼げる。
 あとは、その間にアーシアをどうするかを考えないとな。

「ひとまず、イッセーや部長たちに俺の無事を知らせるか」


―○●○―


「大丈夫ですか?」
「は、はい・・・・・・」

 朱乃さんがフリードによってつけられた傷に包帯を巻いてくれる。
 ちなみに、傷を治療する際、部長に裸で抱きつかれるというステキなイベントがあった!

「完治には少し時間がかかりそうですわ」
「あの『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』が使った光の力が相当濃いのよ」
「はぐれって、悪魔だけじゃないんですか?」
「教会から追放されて、堕天使の下僕に身を堕とす者も多いんだ」

 ちょっと待てよ!

「じゃあ、アーシアもその『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』だって言うのかよ!」

 木場は何も言わなかった。

「どうであろうと、あなたは悪魔。彼女は堕天使の下僕。これは事実なのよ」
「・・・・・・部長・・・・・・」
「それよりも明日夏のことよ」

 そうだ! 明日夏は部長の眷属じゃないために、俺たちと一緒に魔方陣によるジャンプができなかった。
 明日夏は自力で逃げれるって言ってたけど・・・・・・。
そんな中、俺のケータイの着信音が鳴る。見てみると──。

「──明日夏ッ!」

 かけてきたのは、明日夏だった。

「おい、明日夏! 無事なのか!?」
『・・・・・・デカい声で話しかけるな』
「だって、おまえ、大丈夫なのか!?」
『大丈夫じゃなかったら電話してねぇよ』
「そっか・・・・・・そりゃ、そうだよな」

 そこへ、部長が代わってくれと言ってきたので、ケータイを部長に渡す。


―○●○―


『もしもし、明日夏』
「はい、部長」
『とりあえず、無事なようね?』
「ええ。ご心配をおかけしました。いま、そちらに向かいます」
『いいわ。そのまま帰って、ゆっくり休んでちょうだい』
「なら、お言葉に甘えさせてもらいます」
『──ただ、ひとつ訊きたいのだけど?』
「なんですか?」
『あなた、まさかとは思うけど──あのシスターを助けた、なんてことしてないわよね?』
「ええ、もちろんです。そんな余裕もなかったですし、ましてや、彼女は堕天使側の人間ですしね」
『そう。ならいいわ』
「俺からもひとつ」
『何かしら?』
「イッセーの容態は?」
『命に別状はないわ。ただ、あのはぐれ神父の使っていた光の力が濃いのか、完治には時間を要するわ』
「それを除けば、無事ってことですね?」
『ええ、とりあえずは』
「わかりました。それじゃ、また明日」
『ええ。おやすみなさい』

 部長がそう言うと同時に、切られたので、こっちもケータイを切る。

「やれやれ、やっぱり怪しまれてるな」

 俺がアーシアを助けたことを。

「まぁいい。とりあえず、これからのことだな」


―○●○―


 はぁ・・・・・・·弱い。俺は弱すぎだ。所詮『兵士(ポーン)』。女の子一人、救えやしねぇ。
 あのあと、俺の身を案じてくれた部長に帰宅を命じられ、明日(あす)も学校を休むことになってる。
 その帰り道、俺はただただ、自分の無力さに打ちひしがれていた。

「・・・・・・イッセー兄」
「ああ、わかってるよ」

 そうだ! くよくよしてたって始まらねぇ!

「弱いなら、鍛えて強くなればいいんだ! この間、そう決心したんだからな! よしっ! 腹も括った! 帰ったら、早速明日夏に頼もう!」

 すると、千秋が視線を鋭くしながら言う。

「ちゃんと、ケガが治ってから・・・・・・!」
「・・・・・・はい」

 千秋から発せられる圧力に思わずたじたじになってしまう。
 昔から、俺や明日夏がケガをすると、千秋はいまみたいになんとも言えない圧力を発してくるんだよなぁ。
 いやまぁ、心配してくれてるからなんだろうけど。

「とりあえず、明日夏の顔を見ていくよ」

 無事だとわかったとしても、やっぱり心配だったからな。


―○●○―


「ただいま」
「お邪魔します」

 士騎家に到着し、明日夏の顔を見るために上がらせてもらう。

「おーい、明日夏。大丈──」

 リビングのドアを開けると──。

「イッセーさん?」

 そこには、アーシアがいた。

「──て、なんでアーシアがここに!?」

 しかも、千秋はなぜか、呆れたように嘆息していた。

「夜中に騒々しいぞ、イッセー」

 キッチンには、お湯を沸かしている明日夏がいた。


―○●○―


「日本のお茶は不思議な味がしますけど、とても美味しいです」
「日本人を代表して礼を言うよ」

 俺の隣でアーシアが明日夏の淹れたお茶に舌鼓を打ち、明日夏も礼を言いながらクールに自分の淹れたお茶を飲んでいた。
 とりあえず、俺も一口。
 うん、ウマい。朱乃さんが淹れてくれたのと負けてない。

「・・・・・・いや、副部長のほうが上だな」
「・・・・・・心読むなよ──て、そうじゃなくて!」

 俺は明日夏に詰め寄る。

「なんでアーシアがここにいるんだよ!?」
「あのあと、アーシアを連れて逃げたからだ」
「なんで、そんなことを・・・・・・?」
「あのとき、おまえ、俺に頼もうとしてただろ?」

 確かに、あのとき、明日夏にアーシアを助けてくれるように頼もうとしたけど、そうすると、明日夏の身が危険だと思って、結局言えなかった。
 まぁ、そういう素振りをした時点で、明日夏に伝わっちまったみたいだけど。

「先に部長たちを行かせたのも、アーシアを連れ出すためだ。あの場に部長がいたら、ややこしいことになっただろうからな」

 それもそうか。さっき部長にも「あなたは悪魔。彼女は堕天使の下僕。相容れない存在同士よ」って言われたからな。

「とりあえず、アーシアの無事がわかってよかっ──っ!」
「イッセー!」
「イッセー兄!」

 お茶を飲もうとしたら、激痛が走り、湯のみを落としてしまう。

「イッセーさん! 傷を見せてください!」

 アーシアに言われるがまま、俺は上着を脱いで、傷に巻いていた包帯を取る。
 アーシアが手のひらを傷に当てると、手から淡い緑色の光が発せられる。
 あのときの子供のケガのように、俺の傷がみるみるうちに治っていき、傷痕も残らないくらいすっかり傷はなくなってしまった。

「確か、足も?」

 そのまま、足のケガも治療してもらう。

「いかがですか?」
「えっとぉ──おぉ! 全然なんともない! おっ! 足も治ってる! すげぇ! すげぇよ、アーシア!」

 さっきまで激痛が走っていたのに、もう全然なんともなかった。

「大したもんだな。堕天使たちがほしがるのも頷ける」
「あいつらって、やっぱ──」
「ああ。おそらく、アーシアを引き入れたのは、その治癒の力──神器(セイクリッド・ギア)が目当てだ」

 やっぱり、そういうことなんだろうな。
 明日夏に尋ねる。

「やっぱ、アーシアの神器(セイクリッド・ギア)ってすごいもんなのか?」
「ああ。そもそも、治癒の力ってだけでも、相当希少なんだ。教会の連中は治癒の力は神の加護と呼ぶくらいだからな。それが、アーシアクラスのものとなればなおさらだ。さらに、その神の加護を失った堕天使たちにとっては余計にほしいものだろう」

 神の加護ねぇ。悪魔の俺でさえ治療できちゃうのにか。

「それで、これからアーシアをどうするんだ?」
「匿う。堕天使たちには絶対に渡すわけにはいかないからな」
「ああ。当然だ!」

 アーシアを絶対に渡すもんか!

「イッセーさん。明日夏さん。お気持ちは嬉しいですが・・・・・・これ以上、ご迷惑をおかけできません。私はこのまま、あの人たちのもとへ──」
「何言ってるんだよ、アーシア!?」
「私なら大丈夫です。この力がある限り、私が死ぬようなことは──」
「いや、あいつらのもとへ行けば、遅かれ早けれ、おまえは殺されるぞ」
「えっ?」
「なっ!? どういうことだよ、明日夏!? あいつらはアーシアの力がほしいから、一応はアーシアのことを大事にしてるんだろ!?」

 フリード、あいつは別だろう。たぶん。

「単純だ。アーシアを連れているよりも、携帯性をよくする方法があるからだ」
「それって──ッ! ま、まさかっ!」
「ああ。あいつらの最終的な目的は、アーシアから神器(セイクリッド・ギア)を抜き取り、自分たちに移植することだ」

 神器(セイクリッド・ギア)って、抜き取ることができるのか?
 なら、いっそのこと、アーシアの神器(セイクリッド・ギア)を堕天使たちに渡しちまえば──。

「言っておくが、神器(セイクリッド・ギア)を抜き取られた所有者は命を落とすぞ。神器(セイクリッド・ギア)ってのは、所有者の魂と密接になっている、そういうものらしい」
「なっ!?」
「だから、アーシアを絶対にあいつらに渡すわけにはいかないんだ」

 そういうことなら、なおさらアーシアを絶対に渡すわけにはいかない!

「でも、どうやってアーシアを守るんだ?」

 明日夏、それに千秋も確かに強い。けど、堕天使一人ならともかく、堕天使複数だと、さすがの二人だって・・・・・・。
 部長たちを頼るのも無理だろう。

「とりあえず、奴らには、アーシアが逃げて、この町のどこか、もしくは町の外にいるように誤魔化して、俺が匿っていることからは目をそらさせた」
「じゃあ──」
「そのまま、この町から立ち去ってくれればいいが、そうもいかないだろう。せいぜい、時間を稼げる程度だ。いずれ、バレる」
「じゃあ、どうすんだよ!?」
「落ち着け。そのときは、俺と千秋が奴らを倒す。千秋もいいな?」
「うん」
「でも、二人だけで・・・・・・」
「なに、やりようはある。それに、部長たちが連中を仕留めてくれるかもしれないからな」

 なんで部長たちが? 部長は堕天使と関わらないようにしてたのに?

「これが堕天使全体の計画なら、部長も不干渉を貫くだろう。干渉すれば、悪魔と堕天使の間で再び戦争が始まるかもしれないからな」
「なら──」
「──堕天使全体の計画だったら、だ」

 どういうことだ?

「俺はこの計画をあいつらの独断だと睨んでいる」
「なんでだ?」
「考えてもみろ? ここは部長が管理する町──つまり、堕天使たちとっては敵地同然だ。そんな場所で、わざわざどこでもできるような計画を実行する必要があるか?」
「ッ!?」

 そうだ! わざわざ、敵地である部長の管理するこの町よりも、自分たちの領域でやったほうが、安全に実行できるはずだ。
 それをしないってことは、明日夏の言う通り、自分たちの独断でやってる可能性が高いってことだ。

「おまえがアーシアを案内した教会。あそこはもう、ずいぶんまえに破棄された場所だ。誰も目に止めない場所でもある」

 こっそり、計画を実行するぶんには都合のいい場所ってわけか。

「たまたま、都合のいい場所があったから、おまえ殺す命令を口実に、この町にやってきたってわけだ、あいつらは」

 そういえば、あのドーナシークっていう堕天使、ここが部長の管理している──それどころか、悪魔が管理している町だってことを知らなかったみたいだったな。て──。

「ちょっと待て、その言い分からすると・・・・・・この計画の首謀者って──」
「ああ。天野夕麻だ」

 夕麻ちゃんが、アーシアを・・・・・・。

「堕天使全体ではなく、一個人の独断で行動している奴らなら、部長も無視はしないはずだ。堕天使側も、戦争を回避するために、勝手なことをしたそいつの自業自得と断ずるだろう」
「じゃあ、このことを部長に教えれば!」
「いや、証拠がない。俺の推察だけじゃ、部長も確信を持って打って出れない」

 そっか。だよな。証拠がねえもんな。

「部長も部長で、調査はしているはずだ」
「じゃあ、それまでの間、アーシアを連中に見つからないようにしないとダメってわけか」
「間に合わず、アーシアが見つかった場合は、俺たちが打って出るしかないがな」

 やっぱ、そうなるか。

「あ、あの、皆さん・・・・・・私なんかのために・・・・・・」

 アーシアが申し訳なさそうに顔をうつむかせながら言う。

「何言ってるんだよ、アーシア。それを言うなら、先に助けてもらったのは俺のほうだよ! あのとき、アーシアが庇ってくれなかったら、たぶん、明日夏が間に合うことなく、俺はあいつ──フリードに殺されてた。だから、今度はこっちの番──て、俺は弱いから、明日夏たちに頼る形になっちまってるけど・・・・・・」

 ああ、もう! ホント無力な自分が腹たたしい!
 だけど、強くなるって決めたんだ! なら、当初の予定通りに──。

「明日夏! 俺を鍛えてくれ!」
「言うと思った」

 ふぅと明日夏は嘆息してから言う。

「俺は結構厳しいぞ。いいな?」
「ああ!」

 散々迷惑かけちまってるんだ! 厳しいとか、そんな贅沢は言わねぇよ!

「ただし、そんなすぐに強くなれわけじゃねぇ。鍛えたからって調子に乗って、堕天使と戦うようなバカなマネはするなよ?」

 明日夏は強くそう言い聞かせてくる。
 俺はそれに頷いて答える。

「皆さん・・・・・・私なんかのためにありがとうございます!」
「なんかって言うなよ」

 それでも、アーシアは「私なんかのために」って言って、頭を下げてくる。
 そこへ、明日夏がアーシアに話しかける。

「なあ、アーシア」
「あ、はい。なんですか?」
「どうしておまえは、教会を追放されたんだ?」
「っ!」

 明日夏の問いかけにアーシアは息を呑む。
 アーシアが堕天使のもとにいるってことは・・・・・・そういうことなんだろう。

「・・・・・・・・・・・・」

 アーシアはただ、うつむいて黙っているだけだった。

「いや、言いたくないなら、無理して言わなくていい。ただ、俺たちはおまえのことをよく知らないからな」

 確かに、俺たちはアーシアのことをよく知らないんだよな。
 いやまぁ、だからどうこうってわけじゃないけど。

「・・・・・・いえ、話します」

 そして、アーシアの口から話される。──一人の『聖女』と呼ばれた少女の話を。


―○●○―


 アーシアは生まれてすぐに、親にヨーロッパにある教会の前に捨てられたらしい。アーシアはそこで拾われ、育った。
 ある日、傷ついた子犬が教会に迷いこんできた。その子犬は死にかけていて、教会の者もお手上げだったらしい。アーシアはそれでも諦めずに祈り続けたそうだ。すると奇跡が起き、子犬のケガが治った。
 そのときにアーシアは初めて神器(セイクリッド・ギア)の力に目覚めたのだろう。
 その光景を見た教会関係者はアーシアを『聖女』として崇め、たくさんの傷ついた人々を治療したらしい。アーシア自身も、人々の役に立てるのが嬉しかったみたいだ。
 だが、そんなアーシアに転機が訪れた。
 ある日、アーシアの前に傷ついた男性が現れた。当然、やさしいアーシアはその男性を放っておくことができず、その男性を治療した。それ自体は問題なかった。だが、その男性の正体が問題だった。その男性は悪魔だったのだ。
 そして、その光景を見た教会関係者は彼女を異端視する。

『悪魔を治療する力だと!』
『「魔女」だ!』
『悪魔を癒す「魔女」め!』

 治癒の力は神の加護を受けている者しか癒さないと考えている教会の者たちは、悪魔も治療できてしまう力を持ったアーシアを『魔女』と蔑み、アーシアを異教徒として追放した。
 アーシアは人々を癒す聖女から悪魔を癒す魔女になってしまったのだ。
 そして、行き場のなくなったアーシアを、その力に目を付けた堕天使が拾ったというわけである。

「でも、私は神の祈りを、感謝を忘れたことなどありません。・・・・・・まして、あの方たちが皆、あんな酷いことをしているなんて・・・・・・」

 アーシアの壮絶な過去に、俺たちは言葉を失う。
 ある意味、これは神器(セイクリッド・ギア)の弊害と言える。
 人間ってのは、異質なものを見ると、それがたとえ些細なことでもそれを嫌悪し避ける。それが、人智を超えた異形や異能ならなおさらだ。
 アーシアの例はまさにそれだ。

「きっと、これも主の試練なんです。この試練を乗り越えれば、いつか主が、私の夢を叶えてくださる、そう信じているんです」
「夢?」
「たくさんお友達ができて、お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったり、お喋りしたり、そんな夢です。私、友達がいないので・・・・・・」

 笑ってはいるが、その心は一体どれだけの悲しみで満ちているのか想像できなかった。
 たった一人の神を信じる少女のささやかな夢は、その神がもたらした力のせいで叶うことがなかった。
 その事実を察したイッセーは神に対しての怒りに震えていた。
 そして、イッセーはその場から勢いよく立ち上がる。

「イッセーさん?」

 キョトンとするアーシアに、イッセーは強く言う。

「友達ならいる!」
「えっ?」
「俺がアーシアの友達になってやる!」
「ッ!?」
「つうかさ、俺たちもう友達だろ? だって、こうして一緒にお茶を飲んで喋ったりしたしさ! あ、まあ、花とか本とかはなかったけど・・・・・・こんなんじゃ、ダメかな?」

 その質問にアーシアは首を横に振る。

「・・・・・・いいえっ! いいえ、いいえ! いいえッ!」

 ホントこいつは。普段はスケベなクセして、根っこの部分では本当に真っ直ぐで誠実──それが兵藤一誠という男だった。
 こいつのそういうところはこういうときになると出でくる。

「明日夏と千秋だって、もうアーシアと友達だろ?」

 言われるまでもないな。

「ああ。俺もアーシアの友達だ」
「私も」

 アーシアは涙を流し始めてしまうが、それは悲しみからくるものじゃないと、この場にいる誰もがわかっていた。

「・・・・・・でも、イッセーさんたちにご迷惑が・・・・・・」
「悪魔もシスターも関係ねえ。友達は友達だっての」
「もっと頼っていいんだよ。友達なんだからな」
「私、私、嬉しいです!」

 そこには、いままでの中で最高の笑顔があった。
 こうして俺たちに、新しい友達ができたのだった。 
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