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嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり

作者:時雨日和
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第2章 第3話 王都への進行

庭に立っていた煙管を持った人物は、以前ルイスが脱獄した時に止めに来た騎士の1人。

「どうして…ここに?」

少し警戒気味にルイスは問いた。この騎士はやる気というか騎士らしさが無いが、レイの魔法を防ぐほどの実力者ではある。

「ふぅ、あ〜、何ていうか本当はお前へのお礼参りに来たんだがなぁ、その前に一つ確認したいんだが…こいつは何だ?」

そう言って自分の後ろの方を見るように指示する。3人がそこを見ると外傷は見えないが苦悶の表情を残したままの男の死体が転がっていた。

「…こちらが聞きたいぐらいなのだが」

「こいつはな、俺がここに入ろうとした時に何かなりふり構わず襲ってきたから迎撃しただけだ。つまりは正当防衛だ、俺は悪くねぇぞ」

その男の姿はルイスとメリーは知っていた。

「この男は『タロットの騎士』、『スター』の恩賞を持った男よ。名前はアストライオスと呼ばれていたわね、本名は知らないけれど…あまり好きではない男だったけど、実力は確かだった筈だけど、それを相手に?」

「ん、ああ、確かに何かめんどくさい奴だったけど、何とかな」

苦戦したと言った物言いで話しているが無傷なのは一目瞭然だ、それを見てルイスはメリーに質問した。

「その『スター』はどんな恩賞を持っていたんだ?」

「相手に行動を認識させない恩賞よ。それ故に相手には一瞬で動いたように見えたり、気づいたら攻撃されていたなんて事もあるわ」

「へぇ、そんな恩賞持ってたのか」

「へぇ、って、一体どうやって相手したんだ?」

「なんて事はねぇよ、動けねぇようにして、口と目と耳を利かなくして、体の内側を一つずつ止めていけば、はい、死体の完成ってわけよ。ま、あと少ししたら皮膚からどんどん消えていくぜ」

さらっと答えているが、実力者を相手にしたとは思えないというのはこの男がかなりの実力者、それも以前レイの最大の魔法を防いだ実績もあるくらいなのだから。

「それで、本当の目的は?」

「ああ、話がそれてたな。目的はお前だ、鬼」

「僕か…大方、また連れ戻すという事か?」

「まあ、簡単に言えばそうなるな」

煙を吐きながら気だるそうに答える。

「ならば僕はそれを拒否する。それに、どうせ『タロットの騎士』達が僕を狙ってくる。そうなれば王都の方が崩壊する事になる」

「それは大変だが、安心しろ別に捕らえようとしている訳じゃない」

「どういう事だ?」

「お前には我らが王に会ってもらう。『ナグニアル』第32代国王フェデル・ナースホーン王にな」

煙管を咥え気だるげな表情の中の目だけが真剣味を帯びていた。ただ、忠誠心というものが感じられない感覚があった。騎士らしくない、そんな印象を感じざるを得ない。

「どうして僕に?」

「行けばわかる。というより行かないとわからん、そこまで教えて貰ってねぇよ。連れてこいとしかな…抵抗しないでくれよ?手荒な前はしたくねぇし、俺だって死にたくない。おっと、そこの2人のお嬢ちゃんもしっかりと付いてきてもらうぞ」

「…わかった。ただ、その前にお前がどういった者なのかを言ってくれ」

「そういや、自己紹介がまだだったな。俺は王国軍最後の兵隊長、カイル・アルバートだ。無駄に王国軍最強の一角とか言われてるが、別に兵士とかなりたくてなった訳でもねぇし家系の問題だが、まあ良しなに頼むよ。あと、煙管、少し煙いと思うが少し我慢してくれおれの商売道具なんだよ」

少し早口めの紹介が終わったところで4人は門の前に停めていた馬車に乗り、王都に向け出発した。
現在は夕暮れを過ぎ、日が完全に落ちた夜。今から出発してほとんど昼前に王都、正確には城に到着する。

「なあおい、何で俺が1人で座ってそっちは3人で座ってんだよ。俺嫌われてんのか?」

カイルが言ったようによくあるその客車は向かい合わせで座る形で、4人で乗るなら2対2で乗るのが普通だが1対3だった。

「私は旦那様の妻だもの隣は普通よ。それにマリーに貴方の隣はダメよ変な影響でも受けたら困るもの」

「理不尽じゃねぇか…」

それから、出発から少し経った時メリーが口を開いた。

「旦那様」

「どうした?」

「『スター』に付いていた数字は幾つだったの?」

「2、つまりは明日だ。運良く…いや違うか、きっと狙っていたのかな、タナトスが僕を気絶させている所を…でもあえなく失敗したという所だろうね」

「そうね…鬼の姿、大丈夫なの?」

「今はしてないが、外套は被るし、城まで降りるのとはない…大丈夫だ。…慣れてるし」

「…そう」

暗い雰囲気のまま会話が終わった。それをいやがおうにも聞いていたカイルが口を開いた。

「おいおい、こんなせめぇ所でそんな辛気臭い話すんじゃねぇよ空気が悪くなるじゃねぇか」

「空気を悪くしているのは貴方のその煙だと思うけど?」

「だからよぉ、それは勘弁してくれって言っただろうがよ」

それから少しした時

「…ごめん、ちょっと出る」

と言ってルイスは客車の窓を開けた。

「は?お前今走ってる最中だぞ?」

「…すぐ戻る」

ルイスはそのまま客車を出ていった。

「何だってんだ?あいつ」

「…ここ…」

マリーは気づいた。ここがルイスが訪れたあの村であると…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いっぅ…無理に飛ばない方が…というより重量の魔法を使わないのは間違いだったかな…」

ルイスは着地の時に右足のバランスを崩し、膝を強打した。ルイスも腐っても鬼であるのが、これは普通なら少なくとも骨は折れている怪我をして当然だろう。
ただ、そのまま着地した事には意味がある。

「流石に起きてたら見つかるだろうな…」

魔法で村全域に気絶させるためだった。いくら外套を被っているとはいえ見つからないとは限らないからだ。

「とにかく早いところ済ませないと」

わざわざここに降りた理由、一つだけ

「病…の…なんて言えばいいんだろうか…感覚?気配?…いや…匂いかな?」

そのせいだった。それに惹きつけられるようにその家に着いた。
普通の家だった。そのまま家の中を進んでいくと扉が半開きになっている所を見つけた。そこを覗くとそこが当たりだった。

「この子か…」

その部屋には寝台と机があるだけの簡素な部屋だった。寝台には女の子が、その寝台の隣に座っていて気絶しているのがその子の母親なのだろう。

「…僕にできるのはこのくらいだから…顔も見せれないでごめんね」

そう呟いて女の子の額に触れると、淡い黄色の光が放たれた。それが徐々に青、そして赤へと変わった。それが取り除かれた合図だった。

「これからは気をつけてね…」

誰にも届かない呟きを漏らしてその場を去った。

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馬車が村を抜けて少しした後、ルイスが戻ってきた。

「何してたんだよ?」

「別に…ただの、お礼参りかな」

口元に笑みを浮かべ窓を見ながら答えた。

「何すかしてんだか」

そして数時間が過ぎメリーとマリーが眠りについた。

「お前は寝なくていいのか?まだ結構時間あるぞ」

「まあ、何があるかわからないからね」

「いつまで警戒すんだよ。俺は別にお前をどうこうしようとか、ましてやその子達をどうこうしようとか思ってねぇし、思ってたらこんな悠長に構えてねぇよ」

「別に僕はお前とは一言も言っていない」

「目がそうだって言ってんだよ。その目、小動物っぽさがありながらその奥にある肉食獣みたいなその目」

「的確だな」

「自覚ありかよ、流石は鬼だよ」

2人とも気を遣ってか、自然と小さな声での会話になっている。コントじみた事はしているが…

「お前は僕を…いや、鬼をどう思ってる?」

「なんだよ藪から棒に」

「鬼はこの世界にとって敵だ。その自覚は僕にだってある、ただ、ここまで僕と接しているお前はどう思ってるかを知りたいだけだ」

「鬼ねぇ…別に俺が被害被った理由でもねぇしなぁ…だからといってこんな奴を野放しにする訳にもいかねぇしな…別に何とも思ってねぇな、友好的でも、否定的でもねぇ、どっち付かずなんだよ俺は」

「…珍しいな」

「考えてもみろよ、例えばだ、噂で連続殺人事件が起きています。しかも人間によるものです。しかしこちらから何もしなければ犯人も何もしません。
犯人が今のお前の状態、それを聞いているのが俺。何もしないことが一番なんだよ」

「例えが上手いんだな」

「よせよ、照れるぜ」

少しだけふわっとした信頼っぽいものが生まれたり生まれなかったり…

そしてついに王都へと辿り着いた。
馬車に乗ったまま、王都の通りを進み城内部へと入っていった。客車を降り、何個かある門をくぐり、そしてついに本当の城内に入った。

「ねえ、カイル」

その言葉にカイルは苦い顔をする。

「お前とかカイルとか…俺普通にお前らより歳上だからな?敬う心とかねぇのかよ」

「…ねぇ、カイル」

しかしメリーは動じなかった。

「なんだよ」

「私も…きっと旦那様も今の王がどういう人かわからないのだけれど、どういった人なのか教えて貰えるかしら?」

「我らがフェデル王ねぇ…とりあえず俺に言えるのは、人は見かけによらねぇ、俺より年下、決めた事はやり通そうとする、くらいだ」

「そう、わかったわ」

そしてついに、玉座のある広間へと通された。
そこには何人かの兵士と権力者、そして王族がいた。

「我らが王、フェデル・ナースホーン様言われていた3名無事連れてきました」

「ふむ、ご苦労であったなカイルよ。楽にして構わぬぞ、お主はそちらの方が楽であろう?」

「よくお分かりで」

「お主には良く世話になっておるからなぁ、我がまだ赤子であった頃からだからな」

その声はとても若く、いや幼く聞こえた。未だに玉座は背を向け、姿を表さない王。ただ、声だけで判断するのならとても幼く男とも女とも区別がつかなかった。

「さて、我が城までよく来てくれたな鬼と2名の女達よ。まずは歓迎しよう」

王は立ち上がった。そしてそのまま歩き出し言葉を続けた。

「我のことは聞いているおるかも知れぬが、我こそが『ナグニアル』第32代国王フェデル・ナースホーンである」

背を向けた玉座の前に立ち、胸を張りその胸に手を当て自らを主張している王は予想通り、男とも女とも見分けのつかぬほどの見た目の子供であった。 
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