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天本博士の怪奇な生活

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4部分:第三話


第三話

                  第三話  改造手術
 博士は生物兵器の実験も行っていた。それでかって国際的に指名手配されていたこともあるいわくつきの人物である。
「迷惑な話じゃ」
「よく解除されましたね」
 小田切君の突っ込みなぞものともしない。何やら猫を拾ってきていた。ついでに犬もいた。
「その犬と猫、何なんですか?」
「犬はもらってきて猫はペットショップで買ってきた」
「はあ」
 見れば甲斐犬の雑種とスコティッシュ=ホールドである。どちらもかなり可愛い。
「で、その犬と猫使ってどうするんですか?」
「巨大化させる」
 博士は言った。
「巨大化ですか!?」
「左様、考えてもみるのだ小田切君」
 博士は説明をはじめた。いつもながら顔は大真面目である。行動は凶悪そのものだが。
「そいじょそこいらの犬や猫が大きかったらどうなるか。それはそれで恐ろしいことだぞ」
「まあそうですね」
 生物学にも通じている小田切君にはそれが容易にわかった。
「犬は狼の、猫は虎の親戚ですからね」
「それでじゃ、わしは考えたのじゃ」
「はあ」
 またしても碌でもないことだがそれは言わなかった。
「犬や猫を巨大化させる。そして然るべき生物兵器とするのじゃ。どうじゃ、凄いじゃろう」
「そのうち公安どころか自衛隊が血相変えて来そうですね」
「フン、防衛庁なぞ単なる腰抜けじゃ。安心せい」
「そんなこと言って車椅子の時はミサイルまで撃たれたじゃないですか」
「全く、凡人共には困る」
 あの自衛隊がそこまでするということがかなりのものであるということを博士は自分に都合よく頭から消していた。
「天才の発明を理解せぬ。困ったことじゃ」
「で、この犬と猫を大きくするんですよね」
「うむ」
「どうやってですか?」
「これを飲ませるのじゃ」
 そう言って懐から錠剤を数個取り出してきた。
「それでですか?」
「左様、これを飲めばな」
「たちまち巨大化する、と」
「どうじゃ?試しに飲んでみるか?」
「博士、それって体のいい人体実験じゃないんですか?」
「実はまだ試しておらんのじゃ。ボーナスは弾むぞ?どうじゃ?」
「遠慮します」
 小田切君は賢明にもそれを断った。
「そのまま戻らなくなるとか、副作用で化け物になるとかそんなのになりそうですから」
「まあのう。実は実験にも困っておってのう」
 博士はここで少し困った顔になった。
「わしの開発した薬はな、何処の病院でもバイトの人に使ってくれないのじゃ。それどころか門前払いじゃ」
「そりゃそうでしょ。博士の作ったものなんて誰も飲みたくないですよ」
「悲しいことじゃ。天才の作ったものじゃというのに」
「この前のスーパーバイアグラなんか飲んだ九十歳のお爺ちゃんがいきなり二十歳に若返っちゃいましたよね」
「どうじゃ、若返りの薬じゃ」
「他には空を飛んでスーパーマンになる薬とかもありましたよね。一気にダイエットする薬とか」
「わしの発明はどれも最高のものじゃよ」
「副作用でどうなるかわかったもんじゃないですけれどね」
「人聞きの悪いことを言うな。ちょっと全身が痛くなったり、一ヶ月程寝込んだり、重度の中毒症になったりするだけじゃ」
「だからですよ。誰も実験を受けようとしないのは」
「悲しいことじゃ。進歩には犠牲が付き物じゃというのに」
「そんなのだからテロリスト扱いされるんですよ。それでこの薬を犬と猫に飲ませるんですよね」
「うむ」
「じゃあ。今から飲ませますね」
「頼むぞ」
「それじゃあ」
 小田切君は肉と魚にそれぞれ埋め込んで飲み込ませた。暫くすると異変が起こった。
「どうじゃ!?」
 博士は興味深そうに犬と猫を見る。
「大きくなったか!?怪獣みたいに」
「やっぱりそんなこと考えてたんですね」
「大きくなるからにはそこまでならんとな。それで所々を手当たり次第に壊していくのじゃ」
「そのうち自衛隊どころか正義の味方まで来ますよ。それで」
「うむ」
 二人は動物達に注目する。そして起こったことは。
「あら御主人様」
「はじめまして」
「むっ!?」
「あれっ!?」
 何と犬と猫は巨大化するどころか言葉を話したのであった。これは博士にとっても小田切君にとっても予想外の出来事であった。博士は目を丸くさせていた。
「言葉を話すとな」
「これはこれで凄いですけど。博士」
 小田切君は博士に顔を向けて尋ねる。
「巨大化するんじゃなかったんですか」
「ううむ」
 博士はそれを見て首を捻る。流石に考え込んでいた。
「薬の調合を。間違えたかのう」
「そうなんですか」
「まあよい、これへのデータは取っておる」
「はい」
「早速厚生労働省に話してみよう。これは高く売れるぞ」
「厚生労働省にもマークされていませんでしたっけ、博士って」
「そんなこと知ったことではないわ」
 今更日本の官公庁の何処にマークされようと大したことではない。博士にとってはプランクトンより小さなことであった。
「ところで御主人」
 犬が博士に尋ねてきた。
「僕達の名前。どうするの?」
「うむ、名前か」
「僕がつけますよ」
「何で君がじゃ?」
「どうせ博士だとイヌガンテスとかネコシンカとかそんな名前でしょう?そんなの冗談じゃないですよ」
「フン、面白くない」
「僕達も嫌だから」
「じゃあお兄さんお願いね」
「ああ、わかったよ」
 そして犬はタロ、猫はライゾウと名付けられた。タロはタロ君、猫はライちゃんと呼ばれるようになった。なお博士の薬は厚生労働省に博士の開発したものというだけでかなり執拗に検査されたが通った。かなり売れてそれは博士の生活費と研究費になったのであった。博士の暴走はまだまだ続くのであった。


第三話   完

                 2006・7・11


 
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