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仮面ライダーAP

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第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
  第16話 アグレッサーの真実

 ――194X年8月28日。
 鎮守府執務室。

「……先日、大淀から解析結果が帰ってきた。それが、その資料だ」
「仮面ライダー、アグレッサー……ですか」

 巨大飛蝗改め「仮面ライダーアグレッサー」への対策を練るこの場の中で、サダトは長門から渡された資料を神妙に見つめていた。彼の周囲を取り巻く幹部格の艦娘達も、明らかにされたアグレッサーの実態に言葉を失っている。
 そんな部下達の様子を見渡しつつ、長門は視線で話を促してくる陸奥に頷き、口を開いた。

「……まず。シェードは次元の壁を破り、異世界へ侵略する計画を進めていたらしい。その成果として開発されたのが、『次元破断砲』。天文学的数値の熱量を一点に集中して放つ、『次元に穴を開ける大砲』だ」
「七年に渡る戦いで仮面ライダーに生態圏を奪われ、敗残兵ばかりになったシェードは、この兵器を後ろ盾に異世界を支配することで新たな資源の獲得を目指していたの」
「だが、この兵器のチャージには莫大な電力が要求される。シェードにはもはや、そこまでの予算もなかった。そこで足りない電力を補うために、摂取したタンパク質を熱量に変換する機能を取り込んだ。――例えるなら、人肉か」
「そしてチャージしている長い時間が無防備にならないように――戦闘用改造人間の体内に組み込むことになったの」
「物言わぬ大砲を、自己の判断で歩いて戦う砲兵に作り替えたということだな」

 長門と陸奥が語る、アグレッサーの体内に潜む次元破断砲。その威力を知るサダトは、資料を握る拳を震わせた。
 そんな彼の隣には、比叡が寄り添っている。彼女は無言のまま、彼を宥めるように拳に掌を添えていた。

「その結果、次元破断砲は戦闘用改造人間の『内臓器官』として定着した。それに合わせ、改造人間の方も次元破断砲の運用に対応する生態への進化を遂げた……」
「つまり、ただの大砲だった次元破断砲は、あの飛蝗型改造人間の器官となり……改造人間もまた、それを扱える肉体へと変異してしまったのよ」
「等身大の人間型である第1形態。川内達が発見した巨大飛蝗型の第2形態。そして南雲殿が最後に戦った、巨人型の第3形態。タンパク質を蓄えて行くことで段階的に進化して行き、次元破断砲の発射体勢を整えて行く。そして第3形態の状態でエネルギーを充填させ、発射したのち――力を使い果たし、第1形態まで退化。そうして進化と退化のループを繰り返すという構造だ」

 淡々とアグレッサーの生態を語る長門。やがて、彼女はテーブルの上に一枚の写真を差し出した。そこには、サダトにとっては見覚えのある老人の姿が映し出されている。

「そして、その研究開発を引き受けていた当時の主任が、『割戸神博志』博士。……彼は、この計画のために死んでいた息子を改造人間として強引に蘇生させていたらしい」
「……!?」

 その内容に、資料に目を通していたサダトが思わず顔を上げる。他の艦娘達も同様に、驚愕の表情を浮かべていた。
 だが、そんな反応は想定内だったのだろう。長門は気にした様子もなく、淡々と説明を続ける。

「この世界の1971年。彼が住んでいた某県では当時、自然破壊を顧みない工業開発の影響で河川が汚染され、住民の肉体に深刻な疫病を齎していたらしい」
「……!」
「その影響で割戸神博士は、一人息子の汰郎(たろう)君を喪った。以来彼は、汰郎君の遺体をホルマリン漬けにして、45年以上に渡り保存し続けていたの。いつか科学技術が人を蘇らせるほどに発達した時に、最愛の息子を生き返らせるため……」
「ホルマリン漬け……!」
「そう。そして、老いから自身の限界を感じた彼は、息子を改造人間として蘇生させることに決めた。完全な人間ではないけれど、それでも生き返りさえすればいい……と」
「そして彼は、息子に次元を超える力を持たせることで、息子を『綺麗な水』に溢れた世界へ導こうとしていた。体を犯すような汚水などない、綺麗な世界へ。……尤も、その結果が今の暴走なのだがな。シェードの科学者達でも、アグレッサーの狂気を御することは出来なかったらしい」
「……」

 長門と陸奥の口から語られた、割戸神博士の過去。
 シェードに身を寄せ、死んだ息子を改造人間にしてまで生き返らせようとしていた理由を知り、サダトは目を伏せ記憶の糸を辿る。

 あの時目にした、公害の写真。あれが撮影されていた時代と、長門が口にした年代は一致していた。さらに、サダトが読んでいた割戸神博士の著者には――気に掛かる記述があった。

 ――『この国には、この世界には偽善と欺瞞が溢れている。平和を謳いながらマイノリティを公然と迫害し、誰もそれを咎めない。この世界に生を受けていながら、この世界に居場所を見出すことができない。それを是とするならば、我々はもはや他の世界に居場所を求める他はないのかも知れない』。

(割戸神博士……あなたは、そのためにこんな……)

 「マイノリティ」とは割戸神博士とその息子を含む、当時の某県の住民達だろう。あの当時、被害者達は果敢に工場経営者に立ち向かっていたが、訴えが受け入れられるまでは何度も握り潰されてきた歴史がある。
 その歴史の中で息子を喪い、当時の大多数――マジョリティがそれを「肯定」した結果。彼は自分が住む世界に絶望し、次元を隔てた向こうの世界に望みを懸けたのだ。

 そうして彼はシェードに与して次元破断砲を開発し、息子を改造人間として蘇らせた。全ては、息子を外の世界へと連れ出すために。

(……じゃあ、あの時俺が砕いたのは……)

 アグレッサーと最初に戦った時。サダトは無我夢中で放ったスワリング・ライダービートの一閃で、彼が腕に抱えていた頭蓋骨を破壊した。
 その時のアグレッサー……もとい汰郎の取り乱し様は、はっきりと覚えている。あの時は何が起きているのか、まるで理解出来なかったが。

 今なら、わかる。
 あの頭蓋骨は、割戸神博士だったのだ。汰郎は改造人間と成り果てていながら、父を忘れずにいたのだ。

(……割戸神博士……)

 それに気づいてしまった今。果たして自分は、アグレッサーを討てるだろうか。……剣を握る手に、迷いは残らないだろうか。

「……許せないデース」
「……!」

 その時。
 黙って話を聞いていた金剛が、剣呑な面持ちで厳かに呟く。自分に注目が集まったと感じた彼女は、ここぞとばかりに声を張り上げた。

「結局、割戸神博士は自分のことしか考えてないド腐れマッド野郎デース! 愛する我が子の為だろうと、死んだ人間を歪に蘇らせ、大勢の人間を殺め、次元の向こうにまで災厄を振り撒く! そんな人を人とも思わぬ覇道が、許されるはずがありマセンッ! 犠牲になった向こうの世界の住民に代わり、この金剛が鉄槌を下してやるデースッ!」
「……榛名も賛成です。どんな理由があっても、こんなことが許されるはずはありません。こんな勝手は、榛名が許しません!」
「この私、霧島も同意見です。あちらにどのような事情があろうと、我々に危害を及ぼそうと言うのなら徹底抗戦あるのみ」

 それに恭順するように、榛名と霧島も声を上げる。大仰なその口振りは、明らかに艦隊の士気を鼓舞するためのものだ。
 そんな姉達の姿を見遣り――サダトの隣に立つ比叡も、語気を強めて声を張る。

「……この比叡も、そう思います。それに、同じ改造人間だとしても。向こうの性能が、計り知れないとしても。私達には、南雲君が……『仮面ライダー』が付いています。自分達の幸せのために人々を傷付ける巨悪に、皆の為に戦う仮面ライダーが、負けるはずありませんっ!」
「……!」

 その力強い宣言に、隣に立つサダトは驚嘆し――周りの艦娘達は一様に、勇ましい笑みを浮かべて頷いていた。
 金剛の計らいにより、艦隊の士気が維持されていることを確信し、長門もほくそ笑む。そんな姉の横顔を見つめ、陸奥も穏やかに微笑んでいた。

「……当然だ。この近海に生息している深海棲艦の推定総数と、その頭数から推測されるタンパク質の量から判断し……明後日には近海の深海棲艦を喰らい尽くして、この近辺に出現するものと予想されている。だが、我々も黙って喰われるつもりは毛頭ない。提督も私も、断固戦う方針だ」
「そのための作戦も、提督の発案により完成したわ。……この世界の生態ヒエラルキーの頂点が誰なのか。私達で教えてあげましょう?」

 シェードに……割戸神博士に如何ような理由があろうと、決して引き下がるわけには行かない。今生きている人々のためにも、何としてもアグレッサーを討つ。
 その一心に艦隊を集めるべく、長門と陸奥は提督に代わり、徹底抗戦を宣言するのだった。そんな彼女達に同調するように、幹部格の艦娘達は不敵な笑みを浮かべて頷き合う。

 一致団結。その言葉通りに結束していく仲間達を一瞥し、比叡は驚嘆してばかりのサダトに笑顔とウィンクを送る。彼女だけでなく金剛も、いつもの豪快な笑顔とサムズアップを送っていた。

(迷うことなんて、ないよ。……一緒に、守り抜こう? 今度こそ、みんなを!)
(今度は私達が付いてるネー。さぁ、リベンジマッチの開幕デース!)

 言葉ではなく、表情で。
 激励の想いを伝える彼女達に、サダトは――感情を噛みしめるように俯いた後。

「……戦おう。俺達、みんなで」

 溢れるような笑顔を浮かべ、機械仕掛けの鉄拳を、握り締めるのだった。

 比叡と金剛の連携により、サダトも戦意を回復させた。そのタイミングを見計らい、長門は作戦会議に入るべく椅子から立ち上がる。

「――よし。それでは作戦を説明する。我々艦娘側は迎撃以外に特別なことはほとんどしないが、南雲殿にはある重要な役割を委ねることになる」
「解析結果によれば、アグレッサーは熱量を溜めた状態から一定の外的刺激を受けることで、体内で飼っている次元破断砲を『排泄』の一環として発射する習性があるらしいの。今回はその『排泄』の習性を利用した作戦となるわ」
「本作戦名は『スクナヒコナ作戦』とする。各員、心して聞け。各艦隊の旗艦は、この後速やかに部下に作戦内容を下達しろ」

 遂に、あの巨大飛蝗との直接対決が始まる。サダトも、比叡も、金剛も。他の艦娘達も。皆一様に、剣呑な面持ちで聞き入るのだった……。
 
 

 
後書き
 1970年代の公害問題については、原作漫画版「仮面ライダー」でも深く言及されています。抗議デモの中心人物が暗殺されたりと、結構えげつない展開が多かったり。
 ちなみに今話で登場した「次元破断砲」のネーミングは、仮面ライダーZXを主役とする特番「10号誕生!仮面ライダー全員集合!!」に登場した「時空破断システム」が由来です。 
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