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仮面ライダーAP

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第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
  第8話 蒼い光

「見えたか?」
「ええ。まさかこのタイミングで仮面ライダーまで出て来るなんてね……。今まで何してたのかしら」
「……どうやら、あの怪物に一杯食わされた後らしいな。見ろ、かなりふらついている」

 突如として、大水害の危機に晒された闇夜の東京。その渦中に駆け付けた仮面ライダーAPを、ヘリパイロットの二人が見下ろしていた。
 射撃手はウェーブが掛かった茶色のロングヘアーを、操縦士は漆黒のサイドテールを、それぞれ無骨なヘルメットで覆い隠している。操縦士は現れたAPがすでに手負いであることを看破しているようだった。

「これから反撃を仕掛けようってとこ? 自分の判断で攻めに移れていいわね……ホント」
「言うな。ターミナル屋上の避難民への誤射だけは、何としても避けねばならなかった。撃つなという上の命令に反していい資格は、我々にはない」
「……そのせいで、ああして皆が食べられても?」
「ああ。……引き金さえ引けば救えたかも知れん、というのは『驕り』だ。先人が残した教訓を、我々が捨てるわけにはいかない」
「……」
「それでも納得がいかないのであれば、せいぜいお前を止めた私を恨め。気が済むまでな」
「……私だって、わかってる。恨んだりなんか、しないわ」

 攻撃ヘリの能力がありながら、彼女達はターミナルに接近する巨大飛蝗を撃つことができなかった。ターミナル屋上の避難民への誤射を恐れた、上層部の命令によって。

 ――2009年に発生した、織田大道の蜂起から7年。すでに日本政府は事態への対処に向けて、対シェード特別法案を成立させていた。
 迅速に改造人間のテロから国民を守るため、あらゆる法的手続きを省略させたものだ。これにより自衛隊はより素早く治安出動に移り、シェードのテロに対して武力を行使できるようになった。

 だが、現状としては国民から不安の声が上がる結果となっている。
 通常兵器の殆どを受け付けない改造人間のボディに対し、自衛隊の武器では決定打にならず。決定打になりうる火力を投入すれば、それに伴い戦闘による被害も拡大していく。警察もまた、同様の悩みを抱えていた。

 それだけでなく、戦闘の余波による民間の死傷者が出た――という事案が何件か発生し、あわや自衛隊存続の危機にまで陥ったケースもある。
 そうした事案の責任を取るべく、命懸けで戦った身でありながら、免職の憂き目に遭った隊員は後を絶たず。いつしか対シェード特別法案は形骸化し、再び引き金が無駄に重い時代に逆行してしまったのである。

 だが何と言っても、警察と自衛隊のアイデンティティを崩壊させる存在が、対シェードの領分において幅を利かせていることが大きい。
 仮面ライダーと俗に呼ばれる彼らの存在が、シェードの改造人間を誰よりも素早く駆逐してきた実状。それがあるために、警察や自衛隊の働きを疑問視する声に拍車が掛かってしまったのだ。

 法的手続きの一切を要さない、無法と無秩序の中から生まれた「正義」の使者。
 そんな、法治国家において認められない存在でありながら、決して無視できない実績によって覆し難い人望を獲得してしまった、政府にとっての目の上のタンコブ。
 それが現代日本における、仮面ライダーであった。

「法的手続きを必要としない、正義の執行者……か」

 彼らのような「力」を持つ者が、もっとたくさん居れば。あの力を量産し、警察や自衛隊に配備出来れば。より容易くシェードのテロを鎮圧し、人々を守ることが出来たかも知れない。
 ……自分も女だてらにパイロットなどやらずに済み、婚期だって逃さなかったかも知れない。

(強いんなら、責任……取ってよね……)

 そんな途方もない展望を思い描きながら、「妙齢」の射撃手は満身創痍の仮面ライダーを見つめ、ため息をつく。

 ――すると。

「おい、ボサっとするな! 奴の様子がおかしいぞ……!」
「え……!?」

 巨大飛蝗の行動に、異変が訪れる。
 操縦士の声に反応して視線を戻した射撃手の目には、231便から目線を外してうずくまる、巨大飛蝗の姿が映されていた。

「あの体勢から231便に飛び掛かるつもりか……! 民間機231便に危害が及ぶ可能性がある! 射撃の可否を問うッ!」
『射撃待て! 現在本庁にて確認中である!』
「く……!」

 何をするつもりなのかは全く読めないが、直前の動作からある程度の推測はできる。その中で最も可能性の高い「危険」を鑑みて、操縦士は上層部に射撃許可を訴えた。
 だが、上層部はなかなか首を縦に振らない。射線上に231便が近いことから、万一の誤射を恐れてのことだろう。自分の相棒がそんなに信用ならないのか、と操縦士は内心で激昂していた。

「ちょっと……見て、あれ!」
「……!?」

 しかし、その怒りさえ頭から吹き消してしまうほどの事態が、進行しつつあるようだった。

 ――巨大飛蝗の全身から蒸気が噴き出し、その巨体を霧で覆い隠してしまったのである。

「……ッ!?」
「な、何をするつもり……!?」

 射撃許可を待ちながら数十分に渡り動向を観察してきたが、あのような挙動は見たことがない。
 命令がないまま撃つことはできないが、今まで以上の異常事態が起きている以上、指を咥えて見ているわけにもいかない。

「231便に告ぐ! 現在、正体不明の巨大生物が不審な挙動を見せている! 直ちに現空域より退避されたし! 繰り返す! 現在、正体不明の巨大生物が――」

 操縦士の勧告を受けるまでもなく、すでに231便は東京から離れるべく進路を大きく変えていた。だが、その速度はヘリと比べてかなり緩慢である。

(……あの進路方向から察するに、中部国際空港を目指しているな。確かに成田も使えない今、最寄りの空港はそこしかない。だが、そこまで行くにはかなりの距離がある。果たしてそれまで、燃料が持つかどうか……くそッ)

 速度のなさは、燃料を少しでも長く持たせるために出力を落としたことに起因している。それ自体は懸命な判断ではあるが、そのために巨大飛蝗から素早く離脱できずにいた。
 そのジレンマを抱えた231便を見遣るヘリパイロット達は、焦燥感を募らせ唇を噛み締める。

 ――すると、次の瞬間。

「……ッ!? き、霧が晴れるわ!」
「なっ……なんだ、あれは……!?」

 巨大飛蝗を包んでいた霧が、徐々に闇の中へと滲んで、消えていく。そのベールの向こうには、巨大飛蝗――だった「何か」の、変わり果てた姿が丸裸にされていた。
















 かつて、地を這う飛蝗の形をしていた「何か」は。

 ターミナル屋上に、両の足で立ち上がっていたのである。
















「冗、談でしょ……」
「……昼頃に奥多摩町に現れた怪人も、飛蝗のような姿だったと警視庁から報告を受けている。恐らくはその個体が、食人を経て変態したのがあの巨大飛蝗なのだろうが……さらに次の段階があったとは……」
「さしずめ、第3形態ってとこね……」
「……願わくばあれが、最終形態であって欲しいな」

 二足歩行の体勢に入った巨大飛蝗――ならぬ巨大怪人は、飛蝗の意匠を色濃く残しつつも人間に近しい体型へと変貌していた。
 さらに体長もかなり変化しており、50メートルにも及ぶ巨体と化している。
 新緑のボディと紅い複眼はそのまま。それに加え今度は、上体の胸や肩に深緑のプロテクターが備え付けられている。

「あの鎧、異様に重たそうね」
「それだけあの部位を厳重に守らねばならないのだろうな。なにせ心臓部だ」
「……そりゃあ心臓が大事なのは当たり前だけど。どうも、それだけじゃない気もする」
「というと?」
「――あの鎧の下に、『何か』があるのよ。心臓以外にも、何としても守らなきゃならない『何か』がね」

 プロテクターはカブト虫の甲殻のような光沢を放つ、生体鎧のようであるが。その硬度が並大抵のものではない――ということは、その分厚さから容易に窺い知れた。
 さらに厚いプロテクターに守られた上半身は、下半身と比べて異様に肥大化しており、細い手足と比べて不安定なシルエットになっている。

 今まで以上に、人類への攻撃性と不気味さを強調したフォルムとなっていた。それを間近で見ている二人のパイロットも、冷静さを保ちつつも冷や汗を止められずにいる。

「なんか、ビルでも掴んで投げて来そうな感じ……」
「同感だ、一旦離れて様子を見るぞ。いつ許可が降りても撃てるよう、照準は外すなよ」
「わかってるわ、任せて」

 本能的な恐怖を訴える、異様な巨大怪人の変貌。その手の内が見えない以上、迂闊に近寄ることもできない。
 操縦士は操縦桿を握り、機体を横へと滑らせて行く。彼女達を除く他のヘリ部隊も、同様に巨大怪人から距離を取って行った。

『官邸より通達。国民に危険が及ばない角度からの射撃を、許可する。各機、指定する位置に移動せよ』
「了解」

 そして――指揮所からの命に応じ、231便を背にするように陣形を組み、射撃体制に突入した。都市部と並行になるポジションであり、これなら231便にも都市にも誤射することは万一にもあり得ない。

「指定位置に集結完了。射撃準備よし!」
『目標、正体不明の巨大生物。射撃用意……撃て』
「射撃用意、撃てッ!」

 いかに誤射や誤爆の前例があろうとも、今迫っている危機を見逃すわけにはいかない。官邸閣僚も自衛官も、誰もが覚悟を決め――ついに射撃命令を下す。

 その覚悟に報いるが如く。ヘリ部隊に搭載された、全ての30mm機関砲が火を吹いた。
 水平に飛ぶ豪雨さながらに、巨大怪人の頭部に降り注ぐ弾丸の嵐。怪人の肉も骨も抉り取らんと、一切の容赦を捨てた掃射だった。

 ……だが。

「30mm機関砲、全弾命中。……しかし対象への損傷、確認できず」
「蚊が刺した程度にも、感じていないな……!」

 轟音と硝煙が渦巻く掃射を、一身に浴びて。巨大怪人は傷一つ負わないばかりか、撃たれたことすら認識していないかの如く、微動だにしない。
 対人兵器をものともしないシェード製改造人間との戦いでも、この30mm機関砲の掃射なら怯ませることはできた。だが、この巨大怪人にはまるで通じていない。

「鉛玉なんて効かないってことね……。でも、誘導弾なら……」
「……爆発の余波で231便が体勢を崩す可能性がある。総理は、許可できないだろうな。あちらも燃料ギリギリの瀬戸際だ」
「……辛いわね、これは」

 まだ自衛隊には、ミサイル攻撃の手がある。しかし、それを実行するには状況が悪過ぎた。

 確かに機関砲とは比にならない火力であるが、シェードの改造人間を相手にそこまでの兵器を投入した前例はない。その点だけでも議論に時間を奪われかねない上、ミサイル攻撃の影響が231便にまで及ぶ可能性も考慮せねばならなくなる。
 今すぐ使われるべき時に使えない手段を、当てにすることはできない。30mm機関砲が陽動にすらならない時点で、自衛隊が今すぐ打てる手はないに等しかった。

「……見て、仮面ライダーが接近してる。あんなに巨大になっても怯みもしないのは、さすがね」
「彼には悪いが、手負いの身であのデカブツを狩れるとも思えん。……自爆するのが関の山だぞ、ライダー」

 すると――射撃手の目に、仮面ライダーAPの姿が留まる。傷を負った身でありながら、怯む気配も見せず巨大怪人目掛けて猛進する光景を、操縦士は案じるように見つめていた。

(……まさか、あそこまで進化してるなんて……!)

 一方。すでに巨大怪人が視界全体を埋め尽くすまで接近していたAPは、水害の影響で崩れ行くビルの瓦礫をかわしながら、ワインボトルをベルトから引き抜いていた。
 同時に、ハンドル中央にボトルを装填するホルダーが現れる。そこに手にしたボトルが差し込まれ――マシンアペリティファーのボディが、紅い電光を帯びた。

(刺し違えてでも……ここで、止めるッ!)

 連戦と負傷により、もはやAPのボディは戦闘不能寸前に至るまで傷ついている。その状態で必殺の一撃を放つなど、自爆に等しい。

 だが、サダトはそれでもやらざるを得ないのだ。すでに犠牲者が2000人を越え、東京の一部まで破壊された今、刺し違えてでも迅速に巨大怪人を倒さねば日本に未来はない。
 仮面ライダーGから日本の守りを託された以上、ここで傷を理由に引き下がることはできないのである。

 迸る殺気と、マシンアペリティファーに蓄積されていくエネルギーに気づいてか。
 巨大怪人の紅い複眼が暗闇に揺らめき――サダトの姿を捉える。

 30mm機関砲を浴びても微動だにしなかった、この巨体が初めて明確に「敵」を認識した瞬間だった。
 マシンアペリティファーに宿る電光のエネルギーと、サダト自身が放つ殺気が、同じ改造人間にしかわからない「力」の奔流を感じさせたのである。

「これでッ――最後だ!」

 もはや不意打ちは望めない。しかし、攻撃を中断して姿を消している暇はない。ここで目標がサダトから外れれば、巨大怪人の矛先は間違いなく自衛隊のヘリ部隊と――231便に向かう。
 それだけは、是が非でも許すわけにはいかない。例え、相討ちになるとしても。

 その決意を、血みどろの胸に抱いて。彼を乗せたマシンアペリティファーが瓦礫を乗り上げ、闇の空へと舞い上がる。

『FINISHER! EVIL AND JUSTICE OF MARRIAGE!』
「スワリングッ……ライダァアッ、ブレェイクッ!」

 刹那。

 紅い電光を纏うバイクは、ライフル弾のごとく螺旋状に回転し――眩い輝きを放つ、一条の光の矢となった。
 地から天へ駆け上る、真紅の彗星。その輝きは暗黒を裂くように、地獄絵図と化した東京の街を横切り――巨大怪人の顔面に肉迫する。

「飛び込んだ!?」
「どうなる……!?」

 その閃きを目撃する射撃手と操縦士は、揃って息を飲む。仮面ライダーの捨て身の特攻は、自分達の命運も握っているのだ。

「――だぁあぁあぁあぁあッ!」

 そして。炸裂する閃光と共に、紅い弾丸となったマシンアペリティファーが巨大怪人の下顎に激突する。
 激しい激突音と衝撃波が、そこを中心に広がりヘリ部隊や231便の機体を揺らす。誰もが、命を繋ぐための姿勢制御に必死だった。

 そこで命を燃やし尽くしたかのように、APとマシンアペリティファーはそこから海中に墜落していった。

「駄目、だったの……!? 今の、一発でも……」
「いや――見ろ!」

 海中に没してゆく仮面ライダーの姿に、射撃手は息を飲む。一方、操縦士は過酷な状況でも機体を制御しながら、事態を正確に見据えていた。
 
 スワリング・ライダーブレイク。その自己犠牲に等しい特攻を浴びた巨大怪人は、自らの巨体を揺らめかせている。
 半開きになった顎の隙間から、くぐもった呻き声を上げて。

「効いた……!」
「例え身体が巨大であろうと、人型である以上は急所も人体に共通している……ということか」

 顎の衝撃から脳を揺らされ、巨大怪人は上体を大きく仰け反らせている。――だが、そのふらつきはそれだけが原因ではないようだった。

「そうか――自重か」
「え?」
「あの鎧。奴自身にとっても過ぎた重さだったらしい。だからあんなにぐらついているんだ」

 上体にだけ纏われた分厚いプロテクターに対し、それを支える下半身や手足はあまりにも細い。そのため、平衡感覚を狂わされると容易く体勢が崩れてしまうのだろう。
 今にも倒れてしまいそうなほど、巨大怪人の体幹は揺らいでいる。

「だが……攻撃はここまでだな。仮面ライダーが墜ちた今、これ以上の追撃も不可能だ。今のうちに231便を中部国際空港まで護送する」
「仮面ライダーは……見捨てるのね?」
「ここで退かねば、全ての命が無駄になる。彼が作ってくれた時間を、浪費するわけにもいかない」
「……」
「……言いたいことは分かっている。その責めは甘んじて受けよう。ただし、それはここから生き延びてからだ」

 だが、これ以上巨大怪人を攻める術がない今、自衛隊は隙を見て退避するしかない。例え、自分達を助けてくれた仮面ライダーを見殺しにするとしても。
 さもなくば、罪のない民間人からさらなる犠牲者が出るのだ。

『攻撃中止! 全機撤退ッ!』

 彼女達を含むヘリ部隊の全機が、後ろ髪を引かれるような思いを抱えて――旋回していく。この戦地に身を投じている彼らにとって、巨大怪人に果敢に立ち向かった仮面ライダーは、かけがえのない同胞も同然であった。
 それでも今は、逃げるしかない。彼が身を呈して救った命を、繋ぐために。

「……ッ!?」

 その時だった。

 巨大怪人は、とうとう身を支えきれなくなったのか。
 大きく両手を広げながら、うつ伏せに倒れ伏していく。

 あれだけの巨体が、再び立ち上がり体勢を整えるにはかなりの時間が掛かるはず。この空域を離脱するなら、今しかない。
 ヘリ部隊の誰もが、そう確信していた。

























 ――だが。彼らが目にしたのは。

 巨大怪人が海上に倒れ伏す瞬間。では、なかった。

「なに、あの体勢!?」
「何をするつもりだ!?」

 うつ伏せに沈む直前。両手を前に突き出し、腕立て伏せのような体勢になった巨大怪人は、すぐさま両足をガニ股のように広げる。人間の体型のまま、飛蝗の真似をしているような格好だ。
 さらに、紅い複眼は水平線の彼方を映している。その視線の直線上には――ヘリ部隊と231便も含まれていた。

 だが、彼女達が異変を感じたのは、その格好だけではない。紅い複眼から光を迸らせ、巨大怪人は己の上顎と下顎を全開にしていたのだ。

 人間の肉片と血で汚された、その大口は裂けそうなほどに広がっている。
 さらに、あれほどふらついていたのが嘘のように――その姿勢は微動だにしない安定性を保っていた。























 そして。

 深緑のプロテクターは鈍い光を放ち――発熱したかのように、蒸気を立ち上らせた。

 上顎と下顎の間……口の中から、蒼い光が浮かび上がってきたのは。

 その、直後である。





















「――いかん! 散開だ! 全機散開ッ!」

 その光が、何を意味するのか。あの体勢は、何のためか。
 わからないことばかりではあったが――それでも、「逃げねばならない」という本能の叫びは、操縦士の焦燥感を突き動かしていた。




















 しかし、もう全てが遅い。

 巨大怪人の口から閃いた蒼い輝き。全てを飲み込む、熱く、激しい煌めき。

 それが操縦士の。射撃手の。ヘリ部隊全員の。
 ――231便に乗っていた乗員乗客の。












『キレイナ、ミズ。モット、キレイ……ミズ、キレイナ、セカイ……トウサン……』














 最期に見た、光だった。 
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