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嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり

作者:時雨日和
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第1章 番外編 白鬼と神速

鬼がこの世界を支配し、それを止めさせた鬼が生きていたその時代
その伝説の鬼とその鬼に挑んだ伝説の鬼の戦いの話

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上は青く、下は白い和服を着た男の鬼と上は赤く、下は黒い和服を着た女の鬼が村の外れ誰も動物、魔獣すらも寄り付かない辺境に向かい合っていた。

「………」

「………」

言葉は無く、ただ睨み合っていた。1つの隙、その一瞬で全てが決着するのではという雰囲気がその空間にはあった。

「……なぁ」

「っ……」

唐突に声を発したのは男の鬼の方、それに警戒心を強め腰に差している剣に手をかける女の鬼。

「俺はどうしてお前に呼ばれたんだ?」

「知れた事です。貴方がシグレ・アカツキだからです」

警戒を解かぬまま答える。

「…どういう事だよ。」

「天啓です」

「天啓?」

「はい、天から…シグレ・アカツキに挑めと」

「だから…ここで殺り合うのかよ」

「はい」

「小さい頃から過ごしてきた仲でもかよ」

「はい」

「俺がお前の事を…」

最後の一言をシグレは躊躇った。しかし、その一言を察した時に答えた言葉は

「はい」

肯定だった。

「っ…俺は…『白鬼』シグレ・アカツキ!」

「『神速』クレハ・ミカヅキ」

鬼同士の戦いにはどんなに知り合いだろうと名乗るという行為を行う。それが殺される者への敬意だからだ。

「グラヴアグラ」

相手に重力を押し付け動きを止めれないにしろ遅くするためにする魔法だ。常人なら耐えられないためにシグレはよくこの魔法を最初に使う、牽制にも役立つからだが

「アッシテル」

その重力は光を纏った剣によって断ち切られる。

「ほんとどんな原理で俺の重力だけを斬れるのかわからねぇよ」

「私は魔法を斬っているだけです」

「白の魔法をかよ」

「はい、貴方と長い時間を共にしたのですから貴方の魔法を理解する事も出来るのです」

「…そうかよ
グラヴデラメヌス」

高濃度の重力の弾がシグレの前に列をなし現れる。それに対して剣を構えその発射を待っている。

「発射」

機関銃のように止めどなく射出される重力の弾を恩恵の力を借りて切り伏せていくクレハ。1つの油断も許されない事はクレハがよく分かっている、触れれば外傷は無いがそれは重力の弾のみでの話、シグレの一言があれば触れた部分を消失させる事が可能という事を。故に…

「エリオールグラヴィティション」

対峙している2人を中心に一定の範囲のサークルが描かれそこが切り取られるように別の空間へと移動する。

「これは…」

「知っているだろ、俺の空間だ。悪く思うなお前が売った喧嘩だ」

この空間にいる全てのものはシグレに触れているのと同じ事、つまり

「シャトルメセラリティ」

「くっ…ぅ…」

クレハは胸を抑えて苦しみ出す。それもその筈、クレハにのみ酸素が分け与えられていないからだ。

「喧嘩とはいえお前を傷つけるのは忍びねぇんだよ。苦しめるが悪く思うな」

右手を突き出し親指と人差し指をくっつける動作をする。それによってクレハの喉を塞き止められ空気を送ることも吐き出すことも声を出すことさえも封じる。

「!!…!」

クレハは膝をつき顔を下げる。シグレはそれを見てそろそろかと塞き止めたままクレハに近づいていく。
あと数歩で届く範囲に来た時、クレハは顔を上げて口パクでシグレにこう言った。

『甘いです』

それを理解しようとした一瞬、クレハはシグレの後ろにいた。神速の使用だった。

「て…めぇ」

シグレの腹部を横一文字に一閃し血が吹き出る、内蔵には届かないものの出血は激しい。これによってクレハにかかっていた魔法は全て解かれる。

「はぁ…はぁ…ふぅ…甘いですシグレ」

「ちっ…」

「貴方は私には…いいえ、人に優し過ぎるんです。だから……」

「…身を滅ぼすとか言いてぇのかよ」

「いいえ、だから私は貴方を愛しているんです」

「そうかよ、俺もお前の事愛してるぜ。だからこそ…」

「はい、だからこそ…」

「「誰にも渡したくない!!」」

シグレの固めた拳とクレハの剣がぶつかり合う。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2人の戦いに既に魔法という概念は無かった。
ただの肉弾戦、拳と剣の戦い。明らかに剣の方が有利な条件をものともせずに2人はほぼ互角の戦い、むしろシグレの方が優勢なまであった。

クレハが何度も剣を振りシグレの体を斬ろうとしても、それを全てその拳で捌き反撃する。その反撃に対して剣で受け止めたり受け流してまた攻撃に移る。それの繰り返しだった。それを休み無しに何10分と続けている。

「まだやれるかよ」

「当然です」

「俺はもうやりたくない、ね!」

振り下ろした拳が地面を砕きその破片がクレハを襲う。

「そんな事させません!」

体に当たる地面の破片を無視し、その破片に隠れたシグレの拳に目掛け剣を振った。直撃し振り切った。普通ならその手を切り落とす程のものだが表面の肌を斬るだけの軽傷だけだった。

「貴方も大概です。どうして今のを軽傷だけで済ませられるのですか」

「お前も知ってるだろうよ。魔力を固めただけだぜ、お前が俺の攻撃を読んだように、俺もお前の攻撃を読んだんだよ」

拳から流れる血を払い、またクレハに向けて拳を振るう。

「おらぁ!」

「やぁ!」

向かってきた拳を回るようにかわして、その遠心力でシグレの脇腹に向かって振り抜く。

「なん、の!」

その剣を飛び越えるように側宙しかわしていく。

「流石器用です」

「お前もな」

ふぅ、と、2人は一息ついた時クレハの剣はまた光だした。

「決める気か?」

「はい」

「神速…俺は恩恵持ちは好きになれない…」

「っ……」

お互い右足を下げ突撃の準備をする。シグレは右腕を後ろにやり、クレハは剣を両手で持ち顔の横に構える。

「恩恵持ちはそれに頼り自分を出せずにいて、変に歪むんだよ」

「はぁっ!!」

クレハが恩恵を全開で突撃し気づくと後ろにいた。それは今までにないほどの速さではたから見たらクレハは瞬間移動したようにしか見えない。

「でもよ…」

腕を下げてた時、体が斬られたことを認識し肩と足と腹部から血が流れ腕や足からタラタラと血が滴り落ちる。そんな中で振り返ってクレハに体を向ける。

「お前ほど純粋な奴は恩恵持ちじゃなくてもいねぇよ」

腕を上げると、そこには折れた刃が握られていた。

「どうして…」

「お前はいつも確実に狙うのは首だ。どんなに速くても場所がわかっていたら折るのなんて簡単だぜ」

腕を血塗れにしながらその刃を握り折った。それに釘付けになっていたシグレの隙をついて腰に差していた短めの剣でシグレの心臓を突き刺した。

「これで、終わりですシグレ…」

短いと言ってもシグレの体を貫くのは容易かった。流石のシグレでも心臓を貫かれたのではもう動けないだろう。血が剣を通りポタポタと地面へと落ちていく。

「言った…筈だぜ…クレ…ハ…」

「っ!?…あ…!?」

シグレは貫いていた剣に手をかける。クレハがどんなに力を入れても抜けない、どこにそんな力があるのかと疑問に思った。

「貫く…っのは……ぅ…動きを止め…られ…るってよぉ…」

「くっ…ぅ、あっ?!」

とっさに剣を離して後ろに逃げようとした時足をかけられてそのまま倒れた。クレハの上から見下すように真上に行く。貫かれたままの剣を抜き、そこから止めどなく血が滴り落ちてクレハの服を血で濡らしていく。

「形勢…逆転…だぜ」

「………」

クレハは諦めたように目を瞑り反撃の意を見せない。それを見たシグレは右腕を振りかぶり力を入れ拳を振るおうとした時

「……ク…レ…ハ」

「…はい、私の負けです」

返事をした時にシグレはそのままクレハの上に覆い被さるように倒れた。

「流石ですシグレ…本当に私を傷つけずに勝ってしまうなんて…」

クレハはシグレを抱きしめそのまま治癒の魔法を使ってシグレの治療した。

「今はゆっくり休んでください」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
シグレが目を覚めた時には傷は全て塞がっていて痛みもない状態だった。

「クレハ?」

「はい」

シグレの頭を膝に乗せて寝かせていたクレハにシグレは声をかけた。

「俺は勝ったよな?」

「はい、シグレの勝ちですよ」

「そうか…ボロボロだったけどな。死にかけたし」

「それでも勝ちは勝ちです。私は手加減どころか全力を尽くしました」

「それでも、お前が負けを認めなければお前が勝ってたのにな」

「私はあの状態になった時は負けです。そう、決めていましたから。シグレも知っていたはずです」

「そうだけどよ…」

そのやりとりにシグレは不満を感じていた。

「シグレ」

「…何だ?」

「私は貴方に負けました。なので、私はこれから貴方を主として仕えます。それが、負けた者の務めです」

「………」

クレハの膝から降りて、クレハの正面に座る。
その光景をじっと目で追いシグレの顔を見ていた時クレハはシグレに額を小突かれた。

「いたっ…」

「なーに言ってんだよお前は」

「何って…」

「何でお前が俺に仕えるんだよ。嫌だぜ俺は」

「でも」

「俺はお前とそんな主従とかじゃなくてよ…」

頭をかいたり、目を逸らすなどして言いづらそうにしていたが意を決してクレハの目をまっすぐ見据える。

「…お前は俺の使用人じゃなくてよ、俺の妻になれよ。いや、なってくれ」

「………」

その言葉を受けたクレハは、はぁ、と1つため息をついた。

「…何だよ」

「いいえ、貴方は忘れてしまったのですね。と、思っただけです」

「は?何をだよ」

「小さい頃から言ってきました。クレハは大きくなったらシグレのお嫁さんになりますって」

「小さい頃って…そんな口約束…」

「いいえ、そんなことは関係ありません。私は決めていましたから、小さい頃から…今まで、それを忘れたことはありません。だからシグレが言わなくても私は貴方のお嫁さんです」

とても芯の通った言葉だった。それが理にかなっているかと聞かれればそんな事はないが、それでも気持ちは強かった。

「そうかよ…俺の言ったこと無意味だったじゃねぇかよ。なんかムカツク」

「何を言っているんですか、シグレから私にプロポーズしてくれた事はとても嬉しい事だったんですから無意味ではありませんでしたよ」

「何言ってんだか…狙ってたくせに」

「何か言いましたか?」

「別に、そろそろ帰ろうぜ」

「はい、旦那様」

「…ったく」

少し歪に永遠を誓った2人はこれからもこの森を抜ける時のように並んで歩んでいくことだろう。

史上最大にして最悪の夫婦喧嘩だった。 
 

 
後書き
ふと思いついて書いた話です。


























私の尊敬する老齢の騎士の話を参考にしました。
一体何ヘルムさんなんだ… 
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