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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第112話 主人公達は時間稼ぎされるようです


Side ―――

「邪魔だオラァ!!」
ドゴォ!

地下へ進むラカン達だが、ネギ達の静かな行軍とは打って変わり、敵軍に阻まれていた。

『完全なる世界』の宣言により宮殿に来たのは、救いを求める者だけではなかった。

魔法世界の賞金首もが利益を求め集まって来たのだ。

しかし、他人を苦しめて来た彼等を愁磨とツェラメルが許す訳も無く、大多数が操られ

意思を持たない尖兵となり、ここに配置されていた。


「良い所AAクラスが精々じゃが、こうも数が多いとのう……!」

「我々を消耗させるのが目的でしょうね……。仕方ありません、五秒程下さい。

"イーソ・リーソ・ヴォンヴァリーメ! 我を喰らいて敵を呑め 世界を滅ぼして空を

灼け 汝は全てを無に帰す呑闇の帳!『此に法則は非ず(メノゥ・アスファータ・マゴリア)』"!」


全員が疲弊するよりはとアルは詠唱を開始し、渦巻く黒い球を生成する。


「ジャック!」

「う、っしゃらァああああああああああああああああ!!」
ゴウッ!!

ボールを受け取る気軽さで受け渡された黒い球を、"ゼロ・インパクト"で敵集団に

射出する。集団の先頭にいた数人は避けたが、続く一人に叩き込まれる。

骨を砕く鈍い音を立てると、弾け、一瞬で回廊を飲み込むと、また一瞬の後には

賞金首達諸共消え去った。

最上位重力魔法であり、"物理的なブラックホールを生成する"とでも言うべきこの

魔法は、生成した重力球の射出速度が速ければ速い程効果範囲と威力が増大する代物だ。


「おぉ……綺麗さっぱりだ。これ初撃に撃っときゃ外も楽だったんじゃねぇか?」

「いいえ。狭い場所でないとあなたが撃ち出してもただの中範囲魔法でしか

ありませんし、見た目以上に魔力を消費するので私でも辛いのです。」


肩を竦めて余裕を見せながらも、魔力を一気に消費し疲労を自覚したアルは、結界を

敷き息を整える為に腰を下ろした。

仲間とは言え弱みを見せなかったアルの様子に、ゼクトは異変を感じた。


「どうしたアルビレオ、お主らしくないのう。まさか……?」

「………色々、世界が弄られている影響かも知れませんね。急ぎましょう。」


尚も顔色を青くしながらも、頭を振って先を急ぐ。

それ以上戦闘は無く、難なく最下層の入口まで辿り着き、そのまま確保するべく

突入した。無論、敵がいる事を想定してはいたが―――


「ようこそいらっしゃいましたぁァァァアア!!!」
キュゴッ!!
「またテメェかよ、ヴァナミスゥゥウラァアアア!!」
ドゴォッ!!

待ち構えていたヴァナミスの上空からの攻撃に、彼担当となったラカンが反撃する。

撃ち合った両者が弾かれ、それぞれ着地した傍にはそれぞれの仲間が佇む構図と

なった。防衛戦力がいるとは分かっていたが、またしても敵の幹部が勢揃いしている

所に自分達が当たり、どう考えても愁磨の思う壺になっている事に、頭を悩ませつつ、

半ば呆れと感心を抱いてしまう。


「やれやれ……ここまで掌で踊らされると笑うしかないな。」

「そこは僕達としても同情してしまうけれど、こっちも使命があるからね。」
ザザザンッ

フェイトの合図でデーチモが更に数人現れると同時に、戦闘が本格的に始まる。

四対三で有利な所だが、大量生産とは言え最高の連携力を持つ準達人が複数加わり、

想像以上の連携を見せ、"紅き翼(アラルブラ)"は防戦一方となってしまう。


その十数分後の戦闘の様子を見ていたネギ達は、慌てて助けに戻ろうとするが――


「行かせると思うたか?」


アリカが指を鳴らすと、部屋を覆う様に結界が展開される。

殆どが性質を見極めようとする中、明日菜だけが"桜神楽"を振りかぶり、攻撃を

仕掛ける。


「どぉりゃあああああああああああああああああああ!!!」
ガッキィィィィィィインンンン―――

しかし結界は明日菜の能力を無効化。鉄と鉄がぶつかる音を響かせ、弾かれた。

魔法を準備していたメンバーが突破は無理と考え遅延に切り替えた所で、テオドラが

満足気に頷く。


「うむ!流石はシュウマの結界じゃの!あ。因みに、妾達を再起不能にすれば

出られるぞい。」

「そんな事したら愁磨先生がマジになっちまうだろうが。」

「つまらんのう……。まぁ何時までも立ってるのも何じゃ、座れ。」


再度指が鳴ると、淡い光と共に長テーブルとティーセット一式が現れ、並んだ上座に

二人が座った。

"大魔導士"がそれに続くと、渋っていた面々も席に着くが、刹那だけは離れた壁に

凭れ掛かる。アリカは仕方ないのう、と苦笑し、紅茶を一口飲んでから、話を続ける。


「さて、私達は時間稼ぎ……と言うか、これもまた状況によって命が変わるのじゃが。

救助が終わった今、お主らの足止めのみが任務となっておる。

私達に手を出さんのなら、暇つぶしに付き合うが良い。」

「強制的に付き合わせてからの事後承諾があんたらのお家芸なのかよ?

で、救助って何の事だ?」

「お主ら宣言は見とったろ?その救助じゃ。今の所、740万と300人強を

収容した。」

「ななっ……!?」


テオドラから告げられた数の多さに、ネギ達は茶を吹き出し、"大魔導士"は沈痛な

面持ちで顔を伏せる。

愁磨達が大々的に救助を宣言してから僅か二日半。以前から行動していたとは言え、

その数は余りに多すぎる・・・と言うのが、本当の現状を知らないネギ達の見解。

だが―――


だが少なすぎる(・・・・・・・)。こんな事をしても焼け石に水じゃ。」


愁磨とツェラメルが世界に張り巡らせた魔法陣(回路)は助けを求める者の"魂"の声を

拾う事も兼ねていて、それを発動させたのは数か月前。

助けられた大半が、それからの成果なのだ。


「少ない……とは?では、残りは何人おられるのですか?」

「魔法世界にいる全てを救うのじゃから、数十億は足らん。お、外がそろそろ

終わりそうじゃぞ。良かったの、早く事態が動いて。」


と、アリカが巨大な映像を映し出す。


宮殿外の戦いは佳境に入っていた。

尤も巨大であったデモゴルゴンは、今では5mあるかどうかの骨騎士となり、

クルトの操る"コード・P"は片腕が半ばから断ち切られ、頭部からも火花を散らし、

今にも崩れそうになっている。

ディアボロス・サルマク両魔将に至っては既に戦場から消えていた。


「く……少し侮っていましたね。まさかここまで戦えるとは思っていませんでした。」

「ぬぅぅううう、めんどいー!」


対する魔法世界連合は艦隊の半数弱を失い――必然、厳武もその巨体を、魔素の海に

沈めていた。

樹龍は翼の一つを失い、炎凰の姿が無い代わりに、嵐虎から炎の翼が生え、纏う炎が

主を守っている。ヘラス皇帝は四獣が護ったらしく五体満足だが、剣は半ばから折れ、

鎧はほぼ破壊されている。

アリアドネーは総長であるセラスも飛び回り、ある意味では一番の戦場と化していた。


【セラス!まだ救助は終わらぬのか!?】

「ふざけた事を言ってる暇があるのなら一秒でも長くそいつらを止めなさい!!」

「総長!三番が既に溢れかかっています!」

「少しだけ持たせなさい!」


セラスは部下と共に飛び去り、野戦病院となった僅かに残された戦艦に向かった。

戦況は倍以上の戦力を持つ魔法世界軍が有利だったが、魔将の二人を倒してからは、

相手の戦力が減ったにも関わらず徐々に押され、今では開戦時と同じ位置まで後退を

余儀なくされていた。


「魔族の意地を見せよ、サルマク!ディアボロス!」
ボコ―――――――――――――――――――――――!!

デモゴルゴンが雲海まで高度を下げ、自身の十数倍にもなる闇を産み出すと、そこから

大きさも装備も様々な魔将二人が産み出され、サルマクは突撃、ディアボロスは

中遠距離から魔法を放つ。

悪魔や魔族の力の源である"魔素"を吸い上げ、無限の魔力として、普通ならば不可能な

最強の兵を蘇らせ戦線に復帰させ続ける。


【さぁせるかぁ!!龍舞"火楼焔"!!】

【虎ノ翼――"嵐雨炎羽"!!】

【根ザセ――"死森"!】


しかし、最強の魔族の奥義とも言える攻撃のほぼ全てを僅か一人と二体で迎撃せしめる、

魔法世界最大の帝国の皇帝と守護獣。

サルマクは超広範囲を踊る炎に焼かれ、ディアボロスとその魔法は降り注ぐ羽根と、

木の根に操られる死体に潰された。

僅かに抜ける魔法もあるが、その程度ならば戦艦の障壁が防ぐ。

しかし、潰す十数秒でデモゴルゴンの魔力は完全に回復し、次から次へと魔将が

生み出される。

結果、数合の後、潰し切れなくなり後退し、それを追ってデモゴルゴンが何故か浮上し

睨み合う――と言う事が繰り返される。


【グッ……ぁああああああああ!】
ボウッ!
【ヌ……!拙イ!?】


その時、急に皇帝が燃え盛り、龍化が解けて落下してしまう。

慌てて樹龍が受け止めるが、限界まで魔力を使い、身体に負荷のかかる龍化を

長時間使用した為に身動き一つ出来ないヘラス皇帝。

最高戦力が減ってしまった魔法世界軍に残された道はただ一つ、後退。

瞬時に判断した守護獣は、防御に長けた樹龍ではなく、強化されほぼ無傷の嵐虎を

残す事を決める。だが、それを許す程クルトは甘くなかった。


「さぁ、いい加減幕を引き―――
―――――――――――――――ズ ン ッ!!
おや?これは拙いですね。」

「この魔力、まさか……!?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

subSide ノワール

「キェェエエエエエエエエエエエぐはっ!!」

「……真面目にやる気があるのかね?」

「基本に忠実にしたつもりなんだが、無駄だったか……。」


これで30回目、シュウが久秀にぶった切られて死んだ。

魔力も気も神力も使えない、純粋な剣技だけで戦う――最初はそれに、今まで培って

来た剣技でうきうき立ち向かっていたけれど、悉く打ち倒されて、精神論に頼り始めて

数回。無駄だと悟って、今度は武器を変え始めた。

因みにアリアはとっくの昔に私の膝枕で寝ているわ。


「ま、粗方技も盗めたしいいかな。」

「ほう、我輩の技をこの短時間で盗めたと言うのかね?流石の貴殿でも「そい!」


発言をぶった切って、まるでやる気の軽い掛け声から、太刀で何の変哲の無い

上段切りを放つ。特に速くもない斬撃を久秀が受け流し――

ギィン!
「ぐ……!?」


いつの間にか放たれていた逆袈裟を、鞘でギリギリ受け止める。

いえ、いつの間にかではなく、最初から(・・・・)シュウは逆袈裟を放っていた。

見ている方ですら、受けて初めてどこから来たか分かる剣戟なんて。

私も知らない技を持ってたのは今更だけれど、それを受けた久秀はもうおかしいわね。


「今のが私の真似かね?少し驚いたが、完全に的を得ていない。」

「残念、今のは佐助んトコのジーサンが使ってた"虚影"って技だ。お前は風魔の

"現影"を昇華させたんだろ?的が二つあるんだから、完全に外れるよ。」


図星をつかれたようで、苦い顔をする久秀。

どうやら技を知ってはいたけれど、段階が上がっていたせいで理解するまで時間が

かかっていただけなようね。

でも、手合せしていたシュウにここまで習得させず、今まで時間を稼いだ。


「フフフ、凄いわよ久秀。こんなに時間を稼げたんだもの、素直に褒めてあげるわ。」

「おや?まるで私が既に負けた様な言い草だね。」


理由は分からずとも、今までの相手ではなくなったと確信し、私の発言を煽りと

受け取った久秀。

その身からは気でも魔力でもない、達人を越えた者が発せる、"剣気"が立ち上がる。

ミカエルの半分にも届こう量・・・たった三・四百年前に人だったとは思えないけれど

惜しいわねぇ。


「成程……では本気で行くべきかな。」


本気と言いつつもゆっくりと太刀を抜き、そのままの動作で斬りかかる。

シュウが新たに出していた大鎌で薙ぐと、刃が届いていない所で鍔迫る音が鳴り、

次の瞬間には太刀がそこに現れていた。まるで手品師同士が戦っているようだけれど、

片方は仕掛けが分かっていて、片方は技術で補っている。

事実、その片方は理解しているようで、打ち合う度に余裕が無くなって行く。


「あと十合と言う所か、久秀?」

「全く、君と云う奴は嫌な奴だね……!」


ニヤリと分かり易い挑発をすると、見ている方からすれば一瞬、二人にとっては長い

十合の後、言った通り久秀の太刀が断たれ、飛び退いた。

これが、皆が誤解しているシュウの本当の"能力"。


「まずは俺の勝ちだな。」
ドスッ
「ご……!その、ようだね……やれやれ、遂に剣技でも勝てなくなってしまったか。」


飛び退いた背後に先回りしていたシュウが刺突し、漸く一人目の手番が終わった。

悔しそうに肩を竦めた久秀だったけれど、直ぐにいつもの調子を取り戻す。


「さて、順当に愁磨殿には負けてしまったが……。」

「そうねぇ。

困った事に、剣で貴方に勝つには私でも数週間かかってしまうでしょうし、アリアに

至ってはやる気すらないもの。実質あなたの勝ちよねぇ。」


時間稼ぎの為だけに久秀は私達三人を相手にしている。

それは、四人全員の力を封じているこの空間だから成立している。


「まさか、俺が二人を好きにさせる様な事を許容するとでも思うか?」

「そんな事は理解しているがね。私の世界に入ってしまった以上、如何な君と言えども、
力の根源を断たれてしまっては―――」
ビシッ!!
「もう良い、お前は十分戦った。」


見事なフラグを立てた瞬間、シュウが空間を握り潰した。

魔力でも気でも神力でもない力――"創造力(創力)"がシュウの力の源。

前者を変質させただけだと思い込むのも無理ないわね。持った者しか理解できない、

持った者しか対抗出来ない(・・・・・・)のが"創造力"。


「馬鹿な……この空間ではどんな力も使えない!自力では破壊も出来ない筈。

何をしたのかね?」

「自分で言ったろ?『魔力や気、神力までもが封じられる』と。俺の力がノワールと

契約した物だから、力の根源が神力と勘違いしたのが運の尽きだ。」

「く……!」


咄嗟に斬りかかる久秀だけれど、『天我縛鎖』を握ったままの片手のシュウに完全に

防ぎ切られる。"現影"の本領らしい、複数の刀を縦横無尽に配しても届かない。

そして、世界が鏡を割るような音を立てて崩れ去る。

ガシャァアアア―――ン
「風m「『罅ぜよ』、『祓え』!」


固有結界が解かれた瞬間、主の命を聞く前に現れた風魔の半身を吹き飛ばして、

久秀の生成した爆発をも慣れた連携で消し去った。


「見事だった、我が旧友よ。さっさと地獄に帰って養生しな。」
ザンッ

抵抗させる間も無く、次元ごと久秀を斬り捨てて地獄に送り返した。

やれやれ、ずっと座っていたから体が固まってしまったけれど・・・これでようやく。


「私達の出番ね!」
ドンッ!!
「ああ、待ちくたびれたな!」

Side out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

瞬間、魔法世界全体を覆う魔力が、解き放たれた。

Side out 
 

 
後書き
前回の更新見たら4か月も前でした。
リアルで色々問題があった訳ですが、もう少しゆとりある生活がしたいと思う今日この頃。

追記:前話と共に修正。ガトウが居なくなってたからね。ごめんね。 
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