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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts FINAL 「それぞれの道へ」

 事件終了後、時間というものはあっという間に流れてしまった。
 理由として怪我の治療や事務処理といったものが挙げられるが、最大の理由としては今回の事件によって管理局の体制が見直されることになったからだろう。そこに試験運用中だった機動六課の再始動……フォワードの育成が再開したことで時間が足りない日々が多く続いたというわけだ。
 けれど、それも今日――4月28日を以って終了を迎える。機動六課が始動してから1年……つまり解散の日が来たのだ。今日を機に六課に所属していた隊員達はそれぞれの道を歩むことになる。

「長いようで短かった1年間、本日を以って機動六課は任務を終えて解散となります。みんなと一緒に働けて、戦えて……心強く嬉しかったです」

 壇上に立っているはやてが隊長として最後を挨拶を行っていく。
 本当に長いようで短い1年だった。考えてみれば1年前、俺ははやての六課始動の挨拶を聞くこともなく、来て早々なのはに付き合わされる形でフォワードの訓練を見ることになったんだったな。
 教導官の資格。それは俺にとって技術者として必要と思ったから取ったものだ。教えられるということはそれだけ物事に精通しているということ。その人間の魔法の特性を理解し、それに合わせたデバイスに調整することが出来る。取ろうと思った理由はそれだった。
 故に六課に来てすぐは仕事が一気に増えたような気がして教導官の資格なんて取るんじゃなかった、と思った気もする。が、今では取っておいてよかったと言える。技術者の方にも活かすことが出来ると実感出来たことも理由だが、教え子達が日々成長して逞しくなっていく姿は見ていて嬉しい。なのはが教導官をやり続ける理由が分かった気がした。故に……

「次の部隊でもみんなどうか元気に頑張って」

 はやての締めを兼ねた励ましの言葉に隊員達から盛大な拍手が送られる。別れを悲しんでいる者はチラホラと見えるが、嫌な顔をしている者は誰ひとりとしていない。六課がいかに居心地が良く働きやすい職場だったかを示していると言えるだろう。
 次の……部隊か。
 集まっていた隊員達が散らばっていく。このあとお別れ会を兼ねた二次会が予定されているのでそれまで各々の時間を過ごすつもりなのだろう。
 今回の事件をきっかけにはやてはより上へと昇り、自分の夢をより確固たるものにしていくことだろう。ヴォルケンリッター達は言うまでもなくはやてと共に今後も過ごして行くはずだ。まあ背負うものが増えてしまっているだけに時折自分の道も歩むのだろうが。
 なのはは功績を認められて出世できるチャンスだったのにそれを蹴り、教導官及び空戦魔導師として現場に残ることにしたと聞いた。決戦での傷は完治しているがブラスターシステムによる後遺症は残ってしまった。だというのに現場に居る道を選ぶあたりなのはらしい。
 フェイトは執務官としてこれからも次元世界を渡り歩く。以前から補佐官だったシャーリーに加え、執務官志望だったティアナも新たな補佐官として実務経験を積むそうだ。

「……考え事してて遅れたらまた怒られるな」

 事件後に俺ははやてを始めとした多くの人間から怒られたというか小言を大量にもらった。ジ・アルテマを始めとした体へ負荷の大きい魔法を使用したことで体の内部がボロボロだったからだ。状況が状況だっただけに使う必要があったと相手側も理解はしてくれはしたが、理解したからといってそれだけで割り切れないのが人間というものだろう。
 シュテルやレヴィといった戦闘に参加してなかった奴に言われるのは分かる。はやても部隊長故に注意する責務はあるだろう。医者であるシャマルから言われるのは仕事上当然だろうが……同じように無理していたなのはやフェイトから言われるのは心外でならない。
 そう思いながら挨拶の後に集まるように言われていた場所に歩き始めるが、小言を言われた時間を振り返っても嬉しい事なんてない。そのため別のことを考えることにした。
 残るフォワード達……スバルは確か災害救助を主に行う特別救助隊に転属するんだったか。キャロは自然保護隊に復帰して、エリオは竜騎士としてキャロと一緒に自然保護隊に行くんだったな。
 こうして考えるとみんな自分の道を歩もうとしている。にも関わらず、俺はこれからどうして行くか迷っているのが現状だ。
 特別魔導技官故に魔導師としても技術者としても働くことが出来る。これまでは技術者としての仕事をメインに行ってきたが、管理局の変革によって情勢は大きく変わるだろう。そうなれば魔導師がひとりでも多く必要だ。俺はいったいどうしたら……

「ショウくん、難しい顔しとるけどどないしたんや?」
「ん? あぁはやてか。別に大したことじゃないさ……ただ今後どうしていくか考えてただけで」
「ふむ……確かにショウくんは魔導師でもあり技術者でもある。今後の管理局を考えればどっちも必要な仕事や。……でも少し意外や、てっきりショウくんは技術者に戻るとばかり」
「俺も1年前はそう思ってたよ」

 父さんから目指し、義母さんから託された研究だって終わりを迎えたわけじゃない。シュテルやレヴィ、ユーリ達と一緒に研究に明け暮れる日々は大変だろうが充実した毎日だろうし、きっとこれからの魔導師達の助けになるはずだ。……でも

「ただ……俺の手も昔よりは少し遠くまで届くようになった。だから守れる力が……救える力があるのなら使っていくべきなんじゃないかって思ったりもするんだよ」
「なるほどなぁ……あのショウくんがそないなことを考えるようになったなんて。……うんうん、ええことや」

 何だか隊長感が抜けているように感じるんだが、それは俺の気のせいだろうか。凄まじく俺のよく知る昔のはやてに近しい雰囲気が出ているようでならないのだが。

「ちなみにその手の届く範囲の中に私は入ってるん?」
「時と場合による」
「ちょっ、そこは入ってるに決まってるだろとか言うとこやろ。相変わらずショウくんは女心が分かっとらんなぁ」

 そういうお前も男心が分かってないけどな。そもそも……俺の周りにまともというか基準となるような普通の異性が居る気がしないんだが。
 はやてはこんなんだし、なのはとかは一度決めると折れることを知らないし、フェイトは過保護気味だったりするし。普通っていったい何なんだろうか……

「別に分かりたいとも思ってない。特にお前の言う女心はな」
「なっ……それは何でも言い過ぎやろ。少し前までは私が無茶なことしたら絶対止めるみたいなこと言うてたくせに、六課が解散ってなった途端それとかひどすぎや」
「解散ってなった途端に昔のノリに戻ってるお前に言われたくないんだが。というか、それとこれとは話が別だ。お前が無茶をすれば止めるし、危ない目に遭えば助けるに決まってるだろ」

 そうアインスと約束したんだから。たとえそれがなかったとしても、はやてやヴィータ達は俺にとって大切な存在だ。守れるなら守りたいし、守れるように強くなりたいと思う。
 とはいえ、これを口にするのは恥ずかしいので言葉にはしない。意識を切り替えてはやてに戻すと先ほどまでと打って変わって豆鉄砲を食らったような顔をしている姿が見えた。俺と視線が重なると彼女の顔に赤みが差し始める。

「はやて?」
「――っ、ショウくんのバカ! 不意打ちは卑怯や。というかさらりとそないなこと言うの禁止!」
「何でそこまで照れる? 割かし似たようなことは今までにも言ってきただろ」
「時と場合によるんやボケ! 乙女心ってもんが分かってなさ過ぎや!」

 確かに乙女心を理解しているかと言われると交際経験はないので理解していないと言わざるを得ない。しかし、バカだのボケだの言われたくはないのだが。というか……何かこいつ前よりも口悪くなってないか?
 顔を真っ赤にしながら突っかかってくるはやてを落ち着かせるために適当に相手しながら歩いていく。最初こそこちらの態度にも感情を顕わにしていたが、どうやっても対応が変わらないと理解したのか徐々に落ち着きを取り戻し始めた。

「はぁ……今日のショウくんはいつにも増してドライ過ぎや。私だけ騒いでバカみたいやんか」
「こっちがおかしいみたいに言ってるが、おかしいのはお前であって俺じゃないぞ」
「そういうことは黙っとくんが優しさや……まあええ、ショウくんがどういう人間かは誰よりも理解しとるつもりやし。それでどないするん?」
「ん?」
「今後の方針や」

 そういえばそんな話をしていたな。完全に不真面目な方向になってたから忘れていたが……正直いまさら真面目な話はしずらい。だがしなかったらまたはやての機嫌が悪くなりそうな気がする。

「さて、どうするかな……」
「さっきまでの真剣さはどこへ行ったんや」
「真剣な話をぶった切ったのはお前だろうが」
「そ、それはそうやけど……別にこれからも私のこと手伝ってくれてもええんやで」

 普段と変わらない口調で言われたものの捉え方によっては色々な解釈が出来る言葉だ。

「それはあの日言ってた二度目の告白か?」
「え……いやいやいや、それとは別や。単なるお誘いであって深い意味は……!? というか、こないなところでその話せんといて。誰かに聞かれたらどうするんや!」
「こっちの気持ちも考えてほしいんだが?」
「……少し……もう少しだけ待っといて」

 もう少しね……いつになることやら。約束した以上は可能な限り守りたいと思うが俺だって人の子で、昔みたいに他人と繋がるのを恐れてるわけじゃない。異性として気になる相手もはやて以外にも居るわけで……
 下手にしゃべるとより流れる空気が微妙なものになりそうなので黙っていると、曲がり角で同じ目的地に向かっているであろう集団と合流した。なのはにフェイト、それにフォワード達だ。

「あ……今から行くところだよね? ショウとはやても一緒に行かない?」
「う、うんそうやな。行く場所は同じなんやから一緒に行こか」
「……はやてちゃん何かあった?」

 漂っていた微妙な雰囲気を感じ取ったのだろうか。昔からそういうところには敏感な方ではあったが、こちらとしては話していた内容が内容だけに答えにくいものがある。今日くらい六課解散ということで気持ちがいっぱいになって鈍感になってもいいだろうに。

「え……まあ今日で解散かと思うと思うところもあってな」
「……本当にそれだけ?」
「何や今日のなのはちゃんはえらく疑うんやな。うーん……正直に言えばあったわけやけど、それはなのはちゃん達には言えへんかな」
「何で?」
「何でって……そんなん私とショウくん、ふたりだけの秘密やからに決まっとるやないか」

 ……あのーはやてさん、何でそんな誤解を生みそうなこと言うんですかね。確かにあの件に関しては何かしらの結果が出るまでは他言できないしするつもりもないわけですが……今の言い方は非常によろしくないと思います。
 フォワード達も「え……?」って顔してるし、雷の隊長さんは凄く視線で何か訴えかけてきてる。星の方の隊長さんに至ってはどんどんイイ笑顔になっていってるんだけど。

「へーそうなんだ。まあ確かにふたりは昔から仲良しだし、私達にも言えないことはあるよね。だけどもう子供じゃないんだし、時と場所くらい選んだ方がいいんじゃないかな? かな?」
「いやいや、十分に配慮はしとると思うで。選んでないっていうんは……こういうことを言うんや」

 何をするつもりだ、と思った直後、はやての顔が近くにあった。他にも程よい弾力のあるものが押し付けられてる感触もあるわけで……どうやら俺ははやてに抱き着かれたらしい。ただひとつだけ分からないことがある。どうしてこのタイミングで抱き着く必要があるのだろうか。

「なっ……なななな何やってるのはやて!?」
「何って……見たまんまやけど。言葉にするならハグや」
「そ、そういう意味で言ってるんじゃなくて何でそんなことをしてるのかってこと!」
「なのはちゃんの質問に分かりやすい回答をするためや」
「だからってそういうことするのは良くないっていうか間違ってるから。私達はもう子供じゃないんだから意味もなくそういうことしちゃダメでしょ!」
「あんなフェイトちゃん、ハグは親愛の証やで。意味ならちゃんとある」

 はやて、お前の言ってることは間違ってないけどこの場の対応としては大いに間違ってるからな。小学生や中学生の頃ならまだしも、今はもう俺達完全に社会人だから。というか、相手はフェイトなんだからそれ以上はやめてやれ。下手すると泣いてもおかしくないから。

「はやて、ふざけてないで離れろ」
「別にふざけてるつもりはないで、ある意味ではやけど」
「ねぇ……はやてちゃん」
「――っ!?」

 肩をガシッと掴まれたはやては顔を凍り付かせる。ぎこちない動きで首を回して振り返ると、そこにはとてもイイ笑みを浮かべているなのはが……。きっとはやてには悪魔……いや魔王にでも見えているのかもしれない。

「な……なのはちゃん」
「うん、何かな?」
「その……掴んでる肩が痛いんやけど。それ以上に顔が怖いかなぁ……なんて」
「大丈夫だよ、それくらいで私達魔導師は倒れたりしないから。というか、私が怒ってる理由分かってるよね? 確かに今日で六課は解散だけどまだ解散したわけじゃないし、これからフォワード達とのお話とかお別れ会とかまだやることはたくさんあるんだよ。まだふざけていい時間じゃないよね?」

 絶対零度の微笑みと言葉にはやては涙を浮かべながら何度も首を縦に振る。階級で言えばなのはよりもはやての方が高いわけだが、日常的なノリを出してしまっただけにはやてはこういう状態に陥ってしまったのだろう。
 昔はなのはがはやてに圧倒されていたような気がするが、いつの間にか立場は逆転しまったようだ。まあ今回の場合は圧倒的になのはの方が正しいからなのかもしれないが。

「ショウくんも嫌なら嫌だってはっきりと言わないとダメだよ。別にはやてちゃんと付き合ってるとかなら文句は言わないけど、今はそういう関係じゃないんだから。将来結婚したとき、今みたいにはやてちゃんに抱き着かれてるとこ見られたら大抵の人は嫌がるんだから。ね、フェイトちゃん?」
「え、あぁうん。わ……私も結婚したとして……旦那さんが他の人に抱き着かれてるの見たら嫌だし」

 いやまあ……ふたりの言っていることは最もだとは思うのだが、必要以上に責められている気がするのは俺の気のせいなのだろうか。
 チラリとフォワードに視線を向けてみると真っ先に見えたのはなのは達の味方をしているスバル。キャロはよく分かっていない顔をしてエリオに訪ねており、エリオはどう答えたものかと苦笑いをしている。最も頼りになりそうなティアナは厳しい目をこちらに向けているわけで……スバルのようになのは達の味方をしているならともかく、それ以外のものも感じられるだけに俺がお前に何をしたと抗議したくなる。

「とりあえず、この話はここまで。ヴィータちゃん達が待ってるだろうし、みんなさっさと行くよ」

 なのはの言葉にフォワード達は一斉に返事をする。さすがは仕事に真面目ななのはさん。はやてと違って隊長としての風格がきちんと装備されている。
 ……こんな風にこいつらと騒げる日々も今日で終わりなのか。
 そう思うと寂しいと感じる俺が居る。しかし、それはそれぞれが自分の道を見つけて歩んでいるということでもあるのだ。歩む道は違えど俺達の目的は変わらない。ならばたとえ道が今日分かれてしまおうと、交わるときは自然に交わる。会おうと思えばいつだって会えるんだ。
 正直……今の俺はこれからどう歩むか迷ってる。
 だけど今はそれでいい。迷いに迷って納得の行く答えを出そう。そうすれば……俺はどんな道であっても自分を見失わず進んでいけるはずだ。


 出会いと別れを繰り返しながら俺達は生きていく。1日1日を胸に刻みながらそれを思い出に変えて前へと進む。これからどうなるかなんて分からない。それでも俺は……俺達は自分達の道を歩み続ける。


 
 

 
後書き
 今回でsts編は最終話となります。

 次回からはヒロイン達の個別エンドを書いていこうと考えています。今のところ『なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか、シュテル、レヴィ、ディアーチェ』は必ず書こうと考えています。他はスバルやティアナあたりも書こうかとは思っていますかね。まあリクエストがあれば他も書いていきたいと考えていますが。

 ただエンドの数だけシチュやネタを考えないといけないので、良いのがあれば教えてもらえると参考になります。
 また個別エンドが終わった後はVivid編に入っていきたいと考えているので、個別エンドの反応次第ではVivid編でのショウとヒロイン達の関係が今とは変わった状態でスタートしようかと考えています。

 もしよろしけば色々と意見を下さると助かります。ただそれ以上にsts編終了まで読んでくださってありがとうございました。

 
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