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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 36 「親として」

「ショウくん……どうして?」
「どうしてって……普通に増援として来ただけだが?」

 確かにそうなんだろうし、前衛が居ることで私は真価を発揮するタイプなので非常にありがたいんだけど……ここまで絶妙なタイミングで来られると呆気に取られると言いますか。というか……

「何でこっちに来たの。ヴィータちゃんの方が……」
「安心しろ、そっちにははやてが向かってる……それよりも悠長に話してる場合じゃないだろ」

 ショウくんの視線は真っすぐ黒衣の少女……聖王として覚醒したヴィヴィオに向けられている。対するヴィヴィオは私に向けていたものと同様にショウくんにも敵対の意思を向けていた。

「……なあヴィヴィオ」
「――っ、馴れ馴れしく私の名前を呼ぶな!」

 爆発的な踏み込みからヴィヴィオは正拳を繰り出す。フェイトちゃんとも渡り合える機動力を持つショウくんならば回避することは可能だったろうが、あえて彼は両手を剣を交差させて真正面から受け止めた。

「俺達がいないと泣きそうだったのに……今は反抗期か?」
「ごちゃごちゃとうるさい!」

 ヴィヴィオは一度距離を取ると次々と魔力弾を放つ。それに対してショウくんは慌てることなく右の紫黒の長剣を回しながら肩に担ぐと上段から一閃。その勢いを殺さないまま1回転し再度上段から斬り下ろす。左右から切り返しながら剣に導かれるようにバク宙し、着地するのと同時に流れるように3度剣を振るう。
 確か7連撃技《デッドリー・セブン》だったはず。私は剣を使うわけじゃないけど、何度見てもよく重そうな長剣を軽々と振るうものだと感心させられる。
 ……だけど。
 どうしてショウくんは回避行動を取らないのだろう。後ろに私が居る状態とはいえ、私は動けない状態にあるわけじゃない。故に必要以上に守る必要はないはずだ。今のヴィヴィオは圧倒的な魔力を持つだけにたとえ魔力弾でも十分な威力を誇るのだから。
 そう思った直後、ショウくんの口元からわずかだが血が垂れていることに気づく。今の攻撃の余波で床の欠片が舞って切ったのかとも思ったが、見た限り外傷はなさそうだ。彼は左手で口元を拭うと剣を構え直す。

『ショウくん……大丈夫なの?』
『大丈夫じゃないなら戦えてないと思うが?』
『そういう意味じゃなくて!』

 あぁもう、何でこういうときでも素直に答えないのかな。普段の会話でならそれでも別にいいけど、今は戦闘中……しかも私も万全な状態じゃないし、ヴィヴィオも加減なく攻撃してくるのに。

『もう、ちゃんと答えて。無理させるわけにはいかないんだから』
『すでに無理してるお前にだけは言われたくないんだが……俺のことは気にするな。ところどころ痛めてるだけで問題はない』

 いやいや普通に問題あるから。それってつまり外傷らしい外傷は負ってないけど内部はボロボロってことだよね。平然とした顔してるから動けるんだろうけど……むしろ平然としてるから心配になる。
 何でこう……私にはいじわるというか強がるというか。話すようになってから10年くらい経つのにどうしてこんなにも私達の関係は変わらないんだろう。
 とはいえ、ショウくんに言われたように今の私はブラスターシステムを使用しているので無理をしていないと言ったら噓になる。それに今回の戦いは誰もが傷つきながらも動ける限り懸命に戦っているのが現状だ。もしも戦いに敗れてしまった場合、多くの人々の命が危険に晒されるため多少の無理や無茶には目を瞑るべきだろう。

『その言葉信じるからね。嘘だったらあとで怒るから』
『何で俺だけ怒られないといけない。ブラスター使ってるお前の方がボロボロだろうに』
『そ、それは……そうかもしれないけど』
『……仕方ない、一緒に怒られてやるよ。その代わり、何としてもやることやって帰るぞ』

 暗にヴィヴィオと一緒に帰るぞと言われた私は力強く頷き返した。そのあと念話でサーチャーで戦闘機人を探していることを伝え、発見次第ブラスター3を使用し壁抜きで戦闘不能にするつもりだと伝えた。
 相変わらず馬鹿げたことを……、なんて言われるかと思ったけど、ショウくんは肯定の返事をするとヴィヴィオへと近づいていく。

「ヴィヴィオ、どうすればその拳を納めてくれる? できればこれ以上戦いたくはないんだが」
『陛下、騙されちゃいけませんよ。その男……黒衣の魔導剣士(ブラックフェンサー)は敵対する者は容赦なく斬り捨てる非情な人間なんですから。そもそも~戦いたくないって人間は剣を持って話したりしないでしょうし』

 今のヴィヴィオは洗脳状態にでもあるのか、戦闘機人の言うことを信じるかのように構え直す。ショウくんはモニターに映っている彼女を一瞥するが、すぐさまヴィヴィオに視線を戻した。
 ――やっぱり先にこの女をどうにかしないと。
 私達がヴィヴィオと話そうとしてもあの戦闘機人が居ては茶々を入れられてまともに会話することが出来ない。それどころか、現状だとヴィヴィオは私達よりもあちらの言葉を信じてしまうようなので状況は悪化してしまうと言える。早く何とかしなければ……

『……ショウくん、出来ればヴィヴィオのこと足止めしておいてくれないかな。私はその間に全力であの戦闘機人の位置を特定するから』

 ショウくんは念話で返事をすることはなく、その代わり大きく一度ため息を吐いた。彼の性格を考えると、保護者のくせに保護者でもない俺に丸投げかよとでも思っているのかもしれない。

『その……ごめん。ショウくんもヴィヴィオとは戦いたくないよね……保護者でもないし』
『それもなくはないが……お前がやろうとしていることを考えれば呆れもするさ。どうせここから壁抜きでもするつもりなんだろ?』
『……うん』
『やれやれ……1歩でも間違えればあの世行きでもおかしくないってのに。だがまあタイムリミットを考えればその方法がベストなのも事実か』

 現実を受け止めるようにショウくんは静かに両手の剣を構える。ヴィヴィオを本気で叩きのめすつもりはないんだろうけど、それでも今のヴィヴィオの戦闘力を考えると加減を間違えば自分がやられてしまう。

『おいなのは』
『は、はい』
『人のこと心配してそうだが自分の心配してろ。ヴィヴィオの足止めよりもブラスター3を使用して壁抜きするほうがダメージは大きいんだから』

 ぶっきらぼうな言い方ではあるけどショウくんが私のことを心配してくれているのはよく分かった。それと同時に先ほどまで不安や焦りで重く感じていた心が軽くなる。
 ……もう……ショウくんはずるいよ。
 私にはいつも厳しいというか意地悪な物言いをするくせに……今みたいに心が折れそうな状況の時はいつも傍に居てくれる。駆けつけて声を掛けてくれる。私のことを支えてくれる。
 本人からすれば支えてるつもりはないのかもしれない。だけど私にとってショウくんは……魔法と出会った頃から親しくなり始めた人。一緒に事件を解決していく中で心の強さ……誰かを守りたい、助けたいっていう想いの強さを感じさせてくれた人だ。
 ――ううん……そんなんじゃない。そんなのは最初の頃の印象……私にとってショウくんはそれだけの人じゃない。本当はずっと……ずっと前から私は…………ショウくんのことが好きだったんだ。
 明確に好きになったのがいつなのか……それはよく分からない。最初は友達になりたいと思ってた。友達になってからはもっと仲良くなりたいって思うようになった。

「……だけど」

 いつからか他の子と話したりしてると胸の奥がざわつくようになっていた。よく噛みつくように私には意地悪だとショウくんに言ってしまう衝動はそこから来ているのかもしれない。
 ……あーあ、本当はまだ認めるつもりなかったんだけどな。
 この事件を解決してからじゃないと意識が拡散してしまいそうだと思っていた。認めてしまったら確固たる自分がブレてしまいそうで不安だったから。
 だけど……認めてしまった今だからこそ分かる。今の自分は先ほどまでの自分よりも強気で冷静だ。大好きな人が傍で支えてくれる。それほど心強いことなんて他にない。

「はあぁッ!」

 痺れを切らしたかのようにヴィヴィオが気合を発しながらショウくんへと向かって行く。ショウくんは逃げようとはせず真正面から迎え撃つもりのようだ。
 今のヴィヴィオの攻撃力は私の装甲や防御魔法でさえ抜いてくる。ショウくんは私よりも脆いだけに心配だ。出来ることならフェイトちゃん仕込みの高速移動で回避してほしい。
 でもそれじゃ……きっとヴィヴィオの意識は私にも向いちゃう。
 ヴィヴィオを足止めしてほしいと頼んだのは私だ。それを嫌な顔せず……いやしてたような気はするし、呆れられたような気もするけど、私がサーチに専念できるように危ない橋を渡ってくれようとしてくれているんだから私は今やるべきことを全うしよう。

「――ッ……大した威力だな」
「その口、すぐに開けないようにしてやる!」
「やれるものならやってみるといいさ」

 次々と高速で繰り出される拳打。それを可能な限り最小限の動きで避け、回避が難しいと判断したものは両手の剣を使って弾いたり受け流す。
 私もショウくんと同じ魔導師ではあるけど、私とショウくんとでは近接戦闘の技術に明確な差がある。スバルやギンガとかならまだ対応できるけど、ショウくんクラスになると反撃よりも防御と回避に専念して距離を取るのが最善だろう。

「く……ちょこまかと」
「どうしたヴィヴィオ」
「だから……勝手に呼ぶな!」

 攻撃が当たらないことに苛立っているのかヴィヴィオの顔は険しい。対するショウくんは至って冷静だ。
 今のヴィヴィオは確かに身体能力も高いし保有している魔力も馬鹿げたレベルだ。学習能力も高いのか、魔法への対応力も凄まじい。それが攻撃にも活かされているのか、魔法の扱いだって長けているように思える。
 だけどショウくんはシグナムさんを始めたとした近接戦の猛者に鍛えられてきた。それだけに達人級の技術を持っている。ヴィヴィオの拳は速くて重いのかもしれないけど、ただそれだけじゃ彼を捉えることは出来ないだろう。

『陛下、遊んでないでさっさとそのふたりやっちゃってください。強がってますけどすでにボロボロなんですから。手伝ってあげたいところですけど、私は私でやらなくちゃいけないことが…………っ!?』
「……見つけた」

 戦闘機人が居たのはゆりかごの最深部。何やら色んな対応に追われているのか、先ほどまでよりも余裕がない顔をしている。

『これは……エリアサーチ。まさかずっと私を探してた!? ……だ、だけどここは最深部、ここまで来られる人間なんて』

 確かにここから戦闘機人が居る場所までの距離は簡単に行けるものじゃない。今すぐ向かったとしても何かしらの対応をされてしまうだろう。
 だけど……!
 私が壁側に向こうとした矢先、ショウくんと一瞬視線が重なる。彼にはそれで十分に伝わったらしく、ヴィヴィオに邪魔をさせないよう急遽攻めへと転じた。突然の変化にヴィヴィオも困惑したらしく、防御や回避する度に私との距離が広がっていく。
 壁を向いた私は大きく1歩踏み込み、ブラスタービッドを4基周囲に対空させる。そして、ブラスター3を起動し魔力をさらに増大させた。それをレイジングハートの先端部に集束させる。

『まさか壁抜き!? でもそんな馬鹿げたことが……ぁ』

 私が以前壁抜きをした際の記録でも見てことがあったのか、表に現れていた不安はさらに大きくなり戦闘機人は顔を引き攣り始める。
 レイジングハートから戦闘機人までの通路に味方がいないことの確認が入るのと彼女はファイアリングのロックを解除した。それ同時に私は残っていたカートリッジ5発を全てリロードし、すぐさま新しいマガジンを装填してさらに2発リロード。

「ディバイィィン……バスタァァァアッ!」

 圧倒的な魔力の奔流が解き放たれ、ゆりかごの壁を次々と貫いていく。一瞬にも等しい時間で戦闘機人の居る最深部へ到達し、悲鳴を上げて逃げようとしていた戦闘機人を飲み込んだ。
 必殺の一撃によって目的通り戦闘機人を戦闘不能にすることは出来たが、私とレイジングハートはブラスター3を使用しての集束砲撃によってダメージを負ってしまう。ところどころから煙が出たり、焦げてしまっているのがその証拠だ。
 ただ私にとってはここからが始まりと言える。まだヴィヴィオを取り戻せてはいないのだから。
 急にうめき声が聞こえたかと思うと、ヴィヴィオが頭を両手で押さえながら苦しんでいた。ショウくんも状態の変化を感じ取ったのか動きを止めている。私は反射的に彼女の名前を呼びながら近づいていく。

「ヴィヴィオ、ヴィヴィオ!」
「……なのはママ……ダメ、逃げて!」

 私に向かって繰り出される渾身の一撃。それはヴィヴィオの意思が伴っていないというのに確かな威力が籠っていた。
 反射的にレイジングハートで受け止めようとした矢先、黒い風が私を抱きかかえるように舞うとヴィヴィオの一撃を受け止める。が、完全に殺すことは出来ず後退させられた。

「……ショウくん」
「パパ……ごめんなさい。……お願い、ふたりとも逃げて」
「逃げる? 違うだろ。お前も一緒に帰るんだ」
「ダメなの……ヴィヴィオもう帰れないの」

 泣きながら呟かれた言葉の意味を私達はすぐに理解させられる。
 ヴィヴィオが戦意を喪失したことによって聖王のゆりかごが自動防衛モードを起動。それによって彼女は自分の意思とは関係なく戦うことを余儀なくされたらしい。また自動機械がゆりかご内部に続々と投入され始めたようだ。
 涙を流しながらも高速移動魔法を使用して襲い掛かってくるヴィヴィオをショウくんが率先して受け止める。だが彼の体も私と同様にガタが来ているにダメージを隠し切れなくなってきている。
 そのためヴィヴィオが砲撃体勢を入ろうとした矢先、私はショウくんの元へ駆けつけ砲撃をぶつけることで相殺しようとした。

「ヴィヴィオ、いますぐ助けるから!」
「ダメなの、止められない!」
「ダメ……じゃない!」

 カートリッジを1発リロードしてヴィヴィオの砲撃ごと撃ち抜く。
 しかし、ヴィヴィオはすぐさま私の後方へと移動していたらしく両手に七色の魔力を纏わせて殴りかかってきた。ショウくんがそれを受け止めるがボロボロなこちらと違ってあちらの出力は落ちていない。そのため、ショウくんのガードを崩したヴィヴィオは渾身の2連撃によって私達を地面に叩きつけた。

「もう……来ないで」

 再び言われる拒絶の言葉。だけどそこにあるのは私達の身を案じての心配や傷つけることへの罪悪感であり、本当に拒んでいるようには思えない。
 それだけに私もショウくんも諦めるような真似はせず、互いにデバイスで体を支えるようにしながら起き上がった。

「もう分かったの私……私はずっと昔の人のコピーで…………なのは……なのはさんもフェイトさんも本当のママじゃないんだよね。ショウさんも本当のパパなんかじゃなくて……私はこの船を飛ばすためのただの鍵で……玉座を守る生きてる兵器」
「ヴィヴィオ……」
「違う……違うよ」
「本当のパパやママなんて元からいないの……守ってくれて……魔法のデータ収集をさせてくれる人を探してただけ」
「違うよ!」

 たとえそれが本当のことだとしても、それでも私は……!

「違わないよ! 悲しいのも痛いのも……全部偽物の作り物。私は……この世界に居ちゃいけない子なんだよ!」
「……違うよ。生まれ方は違っても今のヴィヴィオは……そうやって泣いてるヴィヴィオは偽物でも作り物でない。甘えん坊ですぐ泣くのも……転んですぐ起き上がれないのも……ピーマン嫌いなのも……私が寂しい時に良い子ってしてくれるのも――」

 脳裏に蘇るヴィヴィオとの日々。それは期間にしてみればとても短い……けど私にとってそれはかけがえのない大切な思い出になってる。失いたくないものになってしまっている。

「――私の大事なヴィヴィオだよ。……私はヴィヴィオの本当のママじゃないけど、これから本当のママになっていけるように努力する。だから……居ちゃいけない子だなんて言わないで!」

 私は泣きながら本当の気持ちをぶつけながら近づいていくけど、ヴィヴィオはその分だけ離れてしまう。
 ヴィヴィオの本当の気持ちが知りたい。それが知れれば私は絶対にやり遂げられる……やり遂げてみせる。でも……それにはあと1歩足りない。

「ヴィヴィオ、いい加減諦めたらどうだ?」
「ショウさん……何を諦めるの?」
「強がって本当の気持ちを言わないのをだ。なのはは頑固だ……一度決めたら最後まで折れたりしない。そして俺も……今回は折れるつもりはない。お前を連れて帰る」

 静かだけど明確な強い意思が宿った言葉にヴィヴィオの目からはさらに涙が溢れる。

「何で……何でそこまでして私を」
「何で? そんなの決まってるだろ。俺達だって何度も悪いことをしたりしてその度に怒られて育ってきた。俺達が正しい道を歩けるように大人達が導いてきてくれたんだ。そして今はもう……俺達も大人だ。子供が悪いことをすればそれを叱って正す立場に居る」
「でも……でも私は」
「でも、じゃない。お前は……俺の娘なんだ。子供の間違いを正してやるのは親の務めだろ?」

 ショウくんはパパじゃない、と。私やフェイトちゃんと違ってヴィヴィオから親扱いされることを嫌がっていた。ヴィヴィオが泣いてしまうから容認していただけで。そのことは今のヴィヴィオならば理解しているはずだ。
 それでも……今のショウくんの言葉は嘘なんかじゃない。今この場をやり過ごすためだけに出ている適当な言葉なんかじゃない。それは私だけじゃなくてヴィヴィオも分かってるだろう。

「だけどショウさんは……」
「確かに俺はお前のパパじゃない。お前みたいに大きな子供が居る年齢でもないからな……だけど親がいないことの寂しさも、繋がりが出来たことの幸せも知ってる。だからこそお前を孤独になんかしない。絶対にさせない」
「う……ぅ……」
「ヴィヴィオ、お前が何と言おうと……どんなに否定しようと俺は意見を変えるつもりはない。お前が悪いことをすれば叱って正してやる。痛い思いをしたときはお前が泣き止むまで傍に居てやる。好き嫌いせずに何でも食べればおやつにお菓子を作ってやる。……お前に居場所がないって言うのなら俺やなのはがその居場所になってやる」
「……パ……パ」
「なあヴィヴィオ、お前は本当はどうしたいんだ? 本当の気持ちはどうなんだ?」

 夜を照らす月のように静かにだけど優しい問いかけにヴィヴィオの強がりも限界に来たらしく、ポツリポツリと自分の気持ちを話し始める。

「私は……私はなのはママが……大好き。パパのことが大好き……ママやパパとずっと一緒に居たい。ふたりと一緒に帰りたい…………ママ……パパ……助けて」
「……うん、助けるよ」
「ああ……いつだって、どんなときだってな」

 次の瞬間、ヴィヴィオが神速の踏み込みで殴りかかってきた。ショウくんもすかさず前に出てそれを受け止める。

「ヴィヴィオ……これから痛い思いをするけど我慢できるか?」
「うん」

 ヴィヴィオの確かな返事を聞いたショウくんは私の方をチラリと見る。私は頷き返して空へと上がると、室内に滞留している残留魔力と自身に残っている魔力を集束させ始める。私自身とブラスタービッドそれぞれにだ。
 その一方でショウくんは半ば強引にヴィヴィオを弾き飛ばすと、カートリッジをフルリロード。爆発的に高まった魔力を両手に持つ紫黒の剣と蒼金の剣に注ぎ込む。すると漆黒の魔力は姿を変え、燃え盛る焔と轟を上げる蒼雷と化す。まるでシュテルの炎とレヴィの雷を纏っているかのようだ。

「ミーティアストリーム……」

 ショウくんは爆発的な踏み込みで距離を詰めると、二振りの長剣を撃ち出していく。
 右の剣で薙ぎ払うと間髪を入れず左の剣を叩き込む。右、左、右……と絶え間なく続く流星群のような斬撃の速度はかつて見たそれを遥かに凌駕している。一閃するごとに紅蓮と稲妻の軌跡が描かれ、星屑のように飛び散る魔力が彼の周囲を荒れ狂う夜空のような色に染め上げる。
 ヴィヴィオも応戦しているが超高速の斬撃に徐々に対応が遅れ、10連撃を超えたあたりから直撃をもらい始める――

「スターライト……」

 ――11撃目、12撃目。炎と雷を纏った剣閃がひとつずつ疾る。
 13撃目、14撃目、15撃目。ヴィヴィオの動きを止めるかのように次々と斬撃が撃ち込まれるが、ヴィヴィオはショウくんとの約束を守るように必死に痛みに耐えている。
 そして最後の16撃目。本来ならば左上段斬りのところをショウくんは下段に変える。蒼の軌跡が描かれるのと同時にヴィヴィオの体は空中へ飛ばされる。
 ショウくんは右の剣を肩に担ぐのようにしながら腕を畳んでやや体を捻ると、周囲に滞留していた魔力を前方へ集束させていく。

「……ブレイカー!」

 私は4基のブラスタービッドと共にほぼ同時に集束砲撃を撃ち出す。それはヴィヴィオを全方位から飲み込むと、ヴィヴィオの体内にあったレリックをあぶり出した。

「ブレイク……シュート!」

 レリックを撃つ砕くために私はさらに魔力を込めて撃ち出す。同時に反動でレイジングハートに亀裂が入った。けれどスターライトブレイカーを止めるつもりはない。何故なら想いを最後まで貫くのが私とレイジングハートのスタイルだからだ。

「ブレイカー!」

 ショウくんも集束させていた魔力に右の剣を突き出した。漆黒の魔力は鋭い閃光へと変わり、旋風を纏いながらヴィヴィオへと突き進む。
 双方のブレイカーがヴィヴィオを中心に激突したことで室内は莫大な光と音に包まれる。視界に映るのは桃色と黒色の光だけ。耳に届くのは激突音や爆発音、そして微かに聞こえるヴィヴィオの声だけだ。
 爆発と静寂。
 ほとんどの魔力を使い果たした私は地面に倒れ込むように突っ伏してしまう。爆煙が晴れてくるとどうにかレイジングハートで体を支えて起き上がった。ヴィヴィオが居た地点には大穴が空いており、そこに体に鞭を打つようにしながら歩いていく。

「……ヴィ……ヴィオ…………ヴィヴィオ!」
「来ないで!」

 拒絶の言葉に体を震える。普段ならどうということはない揺れ幅だったはずだが、今の私はそれすら耐えられる体力はなかったらしく後ろへ倒れ始めてしまう。が、倒れ始めた瞬間に誰かに抱き留められた。ここに居るのは私とヴィヴィオを除けばひとりしかいない。

「ショウ……くん」
「大丈夫だ……ヴィヴィオをよく見てみろ」

 その言葉に導かれるように覗き込むと必死に起き上がろうとしているヴィヴィオの姿が見えた。レリックが壊れたことで子供の姿に戻っている。
 私の脳裏には以前ヴィヴィオが転んでしまったときの出来事が過ぎる。その直後、目頭が熱くなるのを感じた。

「ひとりで……起き……られるよ。……強くなるって……約束したから」

 こちらに来るまで待とうかと思ったけど、変わろうとしているヴィヴィオを見て……成長した娘を見て私は待っていることが出来なかった。私は痛みを忘れてヴィヴィオへ駆け寄って行き感情のままに抱き締める。
 ――本当に……本当に無事で良かった。
 自分の腕の中に居る存在に安堵と愛おしさを覚える。しかし、まだ全てが終わったわけじゃない。このままこの場に留まっていては危険だ。早く脱出しなければ……。
 そう思い立ち上がるとまたふらついてしまった。けれど力強い腕に抱き留められる。

「気持ちは分かるがボロボロだってこと忘れるなよ」
「ご……ごめん」
「分かればいいさ……ヴィヴィオも頑張ったな」

 ショウくんはヴィヴィオの頭を優しく何度か撫でると、ファラ以外の武装を全て収納してヴィヴィオを抱きかかえた。
 それとほぼ同時にゆりかご内に聖王消失を知らせるアナウンスが流れ始める。早く脱出しなければ何が起こるか分からない。

「ショウくん、なのはちゃん!」

 声の主は私達の隊長にして親友のはやてちゃん。髪や瞳の色を見る限り、リインとユニゾン状態にあるようだ。どうやらこちらにも駆けつけてくれたらしい。私もショウくんもボロボロなだけに非常にありがたいと言える。
 しかし、次の瞬間。
 魔力リンクが消滅したのか飛行魔法は消失し、ユニゾン状態だったセイバーとリインは強制的にユニゾンを解除させられた。
 何が起こったのか分からないけど、脱出と戦闘機人の確保を行う必要があるため、最も動けるはやてちゃんが戦闘機人の回収へと向かい、私達は現状の把握を始めた。

「いったい何が……」
「この船自体がロストロギアで館内には高濃度のAMFが発生してたからな……魔法が使えなくなっても不思議じゃない」
「ショウさん、なんでそんなに冷静なんですか。魔法が使えないと飛ぶこともできないですし、通信もできないんですよ!?」

 リインの言うことは最もだけど慌てても意味がない。セイバーが慌てふためくリインを落ち着かせ始めてしばらくするとと、私が破壊した壁の奥の方に人影が見えた。はやてちゃんが戦闘機人を回収して戻ってきたらしい。

「その様子やと良い案は浮かばんかったみたいやな。しゃーない、歩いて脱出や」
「はいです……あ、でもショウさんやなのはさんが」

 正直に言えば、歩くだけでも相当な痛みが走る状態にある。ショウくんも私ほどではないにしても似たような状態にあるだろう。だけどヴィヴィオを助けることが出来た。それ故に体力を補うだけの精神力が溢れている。

「私は大丈夫」
「何度もふらついてた奴が何が大丈夫だ」
「う……ショウくんだって似たようなものでしょ」
「少なくともお前よりマシだ。だからお前を支えてやる」

 そう言ってショウくんは私を半ば強引に引き寄せる。支えてもらったほうが歩けるのは確かだけど、あちこち痛いのでもう少し優しくしてほしかった。それ以上にドキッとしてしまった自分にあれこれ思ってしまったわけだけど。こんな状況でときめいてる場合じゃない。
 私達は玉座から移動を始め出口へと向かう。しかし、私やショウくんはこれまでのダメージがあり、はやてちゃんも意識のない戦闘機人を運んでいるために足取りは重い。
 このままでは艦隊砲撃の時間までに脱出できないかもしれないと不安を募らせつつあると、不意に近くの壁が爆発するかのように吹き飛んだ。敵かと思い身構えるが姿を現したのは私の教え子……スバルとティアナだった。

「お待たせしました!」
「助けに来ました!」
「……うん」


 
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