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音速伝説 エメラルド

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音速伝説

準決勝を勝利し、エメラルドが受付に戻る。アサヒより先に何故かネビリムが出迎えてきた。
 
「……何の用だよ、紫アイドル」
 
 名前を忘れたので適当な印象で呼ぶエメラルド。彼女は特に怒ることもなく、いつものどや顔で話しかけてきた。
 
「お疲れ様でした、エメラルド君。男の子らしい、傲慢ないい走りでしたよ。プロのアスリートを退けるとはやりますね」
「何の用だっつってんだよ。気色悪いな」
 
 この手の態度ははっきり言って嫌いだった。自分が金持ちだと知ったとたんに媚びを売ってくる女とイメージがかぶるからだ。
 そして案の定、ネビリムには何か企むところがあったようだ。にやりとほくそ笑んで。
 
「ふふん、私の魅力に簡単に靡かないところもいいですね。あなた、ティヴィル団に入りませんか?」
「はあ?」
 
 だがその提案はさすがに予想外というか、斜め上である。眉を顰めるエメラルドに、ネビリムがさも素晴らしいことを語るような口調で話す。
 
「いいですか、あなたは傲慢で、欲しいものは何が何でも自分のものにしたがって、そしてそれを貫く強さを持っている。私達ティヴィル団の求める存在なんですよ。それにあなたがティヴィル団に入ってさらにメガストーンを集めれば、あのシリアを倒すことも容易に叶うでしょう――どうです?あなたの求める、全てを攻撃で押し通す最強の力が我々に加担すれば手に入るんですよ?」
「……ほー、よくわかってるじゃねえか」

 真顔になるエメラルド。それは傲慢だ、と言われたからではない。そんなことは自覚しているし悪いとも思っていない。

「んじゃ、一つ聞いていいか?」
「いいですよ?」


「お前――アサヒをどこにやった?」


「……勘がいいですね」

 ネビリムが黒猫のような笑みを浮かべる。さっきから彼の姿が見えないのが、偶然とは思えなかった。何故なら――

「お前は俺が自分の道を曲げないことを知ってる。だったらそう簡単にはいそうですかと頷く俺様じゃないのもわかってるよなあ?それであいつを人質にとったってわけだ。ったく、世話の焼ける奴だぜ」
「そこまでわかっているのなら話が速い。……彼はサイクリングロードを出てすぐのところにいますよ。一緒に行きますか?」
「どうせついてくるんだろうが」
「まあそうですね。彼らだけでは不安ですし」

 その彼ら、の正体もエメラルドには見当がついていた。二人はサイクリングロードの外へ出ると、やはりそこにいたのは――ホンダら暴走族と、彼らに囚われたアサヒだった。

「はーはっはっは!さあどうです、私たちの仲間になる気になりましたか?と言うか頷かないとお友達がどうなっても知りませんよ?」
「え、エメラルドさん……」
 
 情けない顔でエメラルドを見るアサヒ。それを見てエメラルドはため息をついた。
 
「いや、俺だって知らねえし。つか友達じゃねえからそいつ」
「「「え……」」」
 
 暴走族、アサヒ、ネビリムの全員が口をそろえた。エメラルドは気にせず腕を組んで。
 
「だから、好きにしたらいいじゃねえか。別に俺はそいつのこと助ける義理なんかねーし?」
「い……いやいやいやあるでしょう!というか一度助けたんじゃなかったんですか?話が違いますよ、あなたたち!」
 
 ネビリムが暴走族を睨む。暴走族にしてみれば確かに一度自分たちをブッ飛ばして彼を助けたはずなので、彼らも困惑する。
 
「あの時はたまたま通るのに邪魔だったってだけだっての。妙な勘違いされてアサヒも可哀想なこったぜ」
 
 あまりにもあっけらかんとエメラルドが言うので、ネビリムはやけになったように顔を真っ赤にしてエメラルドを指さした。
 
「その極悪非道な姿勢……ますます気に入りましたよ!こうなれば実力行使です。かかりなさい!」

 暴走族達がドガースとマタドガスを繰り出す。だがそんなものはエメラルドにとっては物の数ではない。さっそくメガストーンを光らせる。

「ラグラージ、ビッグウェーブを巻き起こせ!」

 メガラグラージが津波のごとく巨大な波を生み出す。ここではレベルの制限はかかっていないため、久々の本気の一撃だった。

「ちょ……サーナイト!」

 ネビリムは自分をサイコキネシスで波を避けて守るが、暴走族達には防ぐ術などあろうはずがない。アサヒもろとも水で飲み込み、吹き飛ばしてしまう。
 
「さあ片付いたぜ?次はどうすんだ、紫アイドル」
「ネビリムです!こうなったら……明日のバトルで決着をつけましょう!私が勝ったらティヴィル団に入ってもらいますからね!」
「ほう、いいのかそんなんで」
「私にそんな口が叩けるのも明日までです!では失礼!」
 
 そう言うとネビリムは自転車に乗って走り去って言ってしまった。エメラルドが悪ガキの顔をする。
 

「それだけのことを俺様に要求するってことは、当然向こうが負けた時は相応の対価を払ってくれるってことだよな……さて、どうするかね」
 
 
 ずぶぬれになって気絶しているアサヒをメタングの念力で運びながら、エメラルドは考える。そして運命の決勝戦へ――



「ふふん、逃げずにやって来るとはいい度胸ですね」
「あんな約束勝手にされて逃げるわけねぇだろ、ところでこっちの条件がまだだったよな」
「こっちの条件?」

どうやら本気で何も考えていなかったらしいネビリムに、エメラルドはびしりと指差して、悪い顔で宣言する。
 
「そうだ、こっちが負けたらそっちに入る以上、そっちが負けたらこっちに入ってもらわねえとフェアじゃねえーーだからお前には、負けたら家の女になってもらうことに決めた!!」
「な!なに言い出すんですかこのお子ちゃまは!10年速いですよ!」
「うるせえ!もう決めたからな、ほら始まるぜ!」
「え!ち、ちょっと・・・」
 
 鳩が豆鉄砲を食ったように慌てるネビリム。そうしている間にも、実況者のカウントは進む。
 
「「サイクリングバトル、アクセル・オン!!」」

「・・・んでもって先手はもらった、いくぜラグラージ!」
「っ、謀りましたね!出てきなさいエテボース」

実況者の説明によれば決勝戦のルールは3対3、コースの距離は40km の長期戦だ。とはいえ心理的にも物理的にも先手を取っておくことは重要だとエメラルドは判断していた。スタート直前に話を持ちかけたのもそのためだ。

「いくぜラグラージ、俺様の後ろで波乗りだ!」
「ラー!」

ラグラージが自ら産み出した波に乗る。エメラルドはその波に飲まれぬようにスピードをあげた。エメラルドの前から見れば自分のだした技から逃げる少々間抜けな格好だが、後ろのネビリムからすれば、波を突破しない限りエメラルドを抜けない。

「いきなり仕掛けてきましたね・・・ならばエテボース、ジャンプしてダブルアタック!」
「その程度の技がラグラージに通用するかよ!」

エテボースが跳躍し、波の上のラグラージに向かう。波乗りに集中しているラグラージには隙があるが、彼の耐久力は高い。簡単には止められない。だが。
 
「甘いですよ、私のエテボースは特性『テクニシャン』を持ちます!さあやりなさい!」
「ボー!」
「ラッ!」
「ラグラージ!」
 
 ラグラージが波の上から弾き飛ばされ、波が崩れる。そしてネビリムがエメラルドの横にならぶ。
 
「ちっ、やるじゃねえか。だが次のカーブで目にもの見せてやるぜ!」
「お好きにどうぞ?」
 
 曲がり角でレネから学んだ直角に近い移動で無駄なく曲がりきる。対してネビリムは道の中央を悠々とカーブした。再びエメラルドが前に出る。
 
「いいのか?このままじゃカーブの度に差がついちまうぜ」
「これはあくまでポケモンバトル。その分はポケモンの技の技術で追い抜かせてもらいますよ。ところでさっきの話ですが」
「ラグラージ、グロウパンチだ!」
「聞きなさい!エテボース、ダブルアタックです!」
 
 ラグラージの拳をエテボースの尻尾の片方が受け止める。そしてもう片方の尻尾が伸びて、エメラルドを狙う!
 
「うおっ!」
 
 バランスを崩すエメラルド。そしてついにネビリムがエメラルドを抜いた。
 
「にゃろう・・・」
「まだ終わりませんよ、今度はアクロバットです!そしてエテボースに持たせた飛行のジュエルの効果発動、飛行タイプの技の威力を増加させます。美しい宝石の輝きを見なさい!」
「泥爆弾だ!」
 
 ラグラージの攻撃を正にアクロバティックな動きでかわし、攻撃を叩き込むエテボース。特性、そして道具で強化された攻撃は本家飛行タイプのそれよりも強力でーーラグラージを戦闘不能にするのに十分な一撃だった。
 
 ルールによってトレーナーとポケモンは離れすぎてはいけないため、一旦止まってボールに戻すエメラルド。

「やりやがったな・・・いくぞ、ジュカイン!」
 
 ネビリムとの距離が大分離れてしまったので、急いで追いかけるエメラルド。幸い曲がり角ではこちらのほうが速い。時間はかかったが、追い付くことは出来た。そして。
 
「お返ししてやるぜ・・・ジュカイン、マックスパワーでソーラービームだ!」
 
 追い付くまでの時間で太陽光を溜めに溜めたジュカインがエテボースに、いやほぼコース全体にソーラービームを放つ。
 
「相変わらず規格外な子ですねっ・・・!」
 
 自転車から落ちないようにするので精一杯なネビリムをエメラルドが追い抜く。エテボースは一発で戦闘不能になった。
 
「出てきなさい、花嫁の如く美しきその姿!サーナイト!」
「やってやれジュカイン、もう一度溜めろ!」
「こっちもフルチャージです!」
 
 お互いにエネルギーを溜めながら自転車で爆走する。ジュカインが溜めるのは太陽、そしてサーナイトが溜めるのはーー
 
「さあいきますよ、ムーンフォース!」
「ぶちかませ、ソーラービーム!」
 
 月の光、太陽の光がお互いのポケモンを直撃する。トレーナー狙いではないため、全力の攻撃だった。結果は。
 
「戻れ、ジュカイン」
「・・・お疲れさまでした、サーナイト」
 
 全力をぶつけ合い、倒れる2匹。残りはお互いに1体だ。
 
「さあ、ケリをつけるぜバシャーモ!」
「頼みましたよ、ミミロップ!」
 
 ここからはほぼ一直線だ。自転車の速度は同じ。ならば。
 
「どうだ?ここまできたんだ、こっからはガチのポケモンバトルといこうぜ!」
「・・・仕方ありませんね!」
 
 自転車で走るのはやめない。だがお互いの妨害は考えず、純粋なポケモンバトルで決着をつけようと話す。
 
「いくぜ!メガシンカの力で炎を巻き上げ天へと登れ!」
「現れなさい、その強さは巨人を倒し、その可愛さは天使に勝る!」
「メガバシャーモ、ブレイズキック!」
「メガミミロップ、メガトンキック!」
 
 2体の蹴りが空中で交差する。そこからはお互いの全てをかけた戦いだった。どちらがどちらのものになるかをかけた、全力勝負!
 

「これで最後だ、飛び膝蹴り!」
「止めですよ、飛び膝蹴りです!」
 
 
 お互いポケモンもトレーナーも体力のギリギリ、最後の最後で同じ技を選択した二人。何度めかの蹴りが交差しーー
 
「頑張れ、バシャーモ!」
「ファイトです、ミミロップ・・・!」
 
 立ち上がったのは、バシャーモだった。そしてエメラルドがゴールを切るーー
 
 
 
 
「負けた・・・四天王のこの私が・・・」
 
 敗北し、女の子座りでへたりこむネビリムに、エメラルドは容赦なく近付く。相手がショックを受けているからといって、遠慮するエメラルドではない。
 
「よう。約束、忘れたとは言わせねえぜ?」
「うう、あんな態度をとっておきながら俺の女になれだなんて、あなたツンデレなんですか、実は僕にメロメロだったりするんですか!せめて責任とってくださいね!」
「誰がツンデレだよ。それに何か勘違いしてねえか?」
「え・・・?」
 
 涙目で首を傾げるネビリム、エメラルドはとても意地の悪い笑みを浮かべて。
 
「お前、アイドルなんだろ。だからうちのーーパパの会社と契約して、そっちで働いてもらうってんだよ。一応言っとくけど、俺はお前みたいな媚び売った女は嫌いなんだ」
「え・・・ええええっ!ても今はティヴィル団として活動してるからアイドルはおやすみ中で・・・」
「だったら、そのティヴィル団は俺がぶっ潰してやるよ。それからでいい」
「な・・・」
 
 間髪入れず、当たり前のようにエメラルドが言ったのでネビリムは言葉につまりーーそして、笑った。この男の言うことはあまりにもむちゃくちゃだ。でもそれを、彼は現実にするのだろう。
 
「わかりました、今回のメガストーンはあなたに預けておきますが、ティヴィル団としての活動が終わったらあなたの会社で働かせてもらいます。パパも許してくれるでしょう」
「おう、ようやくわかったか」
「それと・・・ちゃんと責任はとって下さいね」
「心配すんなよ、パパの経営手腕なら大儲け間違いなしだぜ」
「ふふ、そういうことではなくあなたに・・・ですよ、いずれね」
 
 ネビリムの顔は、激しい運動をした後のそれとは別の意味で赤かった。
 
「は?」
「ではごきげんよう!次会うときは、ティヴィル団としてあなたをぎたんきだんにしてませますからね!」
「おう、次もぶっとばしてやるから覚悟しろ!」
 
 そうして、ネビリムと別れを告げる。彼女とはまた会うことだろうそしてティヴィル団がなくなるそのときまでは、お互いに凌ぎを削りあうのだ。
 
 
 そしてエメラルドは大会で優勝し、メガストーンをもらった。大会のすべてが終わり、アサヒが話しかけてくる。
 
「エメラルドさん、優勝おめでとうございます!まさか本当に優勝しちゃうなんて・・・」
「はっ、当たり前よ」
「でも四天王に勝つなんて・・・僕、最後の最後まではらはらしっぱなしでした」
「ああ、あれはな」
 
 エメラルドには、最後の一対一、相手がミミロップを出した時点で勝利が見えていた。何故なら。
 
「あいつのミミロップ、まだ膝を痛めてたんだよ。あの一回戦の時からな。もちろん四天王のエースだけあってなかなか強敵だったが・・・ま、エースと言えども過信は禁物ってこったな」
「なるほど・・・」
「じゃあ今まで世話になったな。お前も達者でな」
「いえ、こちらこそ。あ・・・最後にひとつだけいいですか?」
「なんだ、言ってみろ」
 
 エメラルドが促すと、アサヒは意を決したように聞いた。
 
「エメラルドさんはどうして、変化技や防御技を全く使わないんですか?」
「決まってんだろ」
 
 その言葉は、エメラルドのバトルを見た誰もが感じる疑問だ。それに対するエメラルドの答えは、そう決まっている。最後の言葉を残し、エメラルドはサイクリングロードを後にする。
 

「俺が攻撃をやめたら、今までの攻撃がすべて無駄になる」
 
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