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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 34 「想いを胸に」

 私は……どうしたらのいいのだろう。
 最初は母さんのためにジュエルシードを集めようとした。母さんに褒めてほしかったから。私の事を認めてほしかったから……そんな気持ちもあった。でも1番に願ったのは母さんの幸せ……。
 そのためにひどいことをした私をなのはは受け止めてくれた。必死に声を掛けてくれた。友達になってくれた。そして……ショウは母さんに見捨てられた私を立ち上がらせてくれた。
 私は過去に罪を犯してしまった。それは変えようがない事実……だけどなのはやショウに出会えた。私を私として見てくれる人達に会うことが出来た。

 あの頃は悲しい気持ちもあったけど……本当の私を始められた気がした。嬉しさや期待が胸の中にあった。

 そうして……義母さんやお兄ちゃんが色々と根回しをしてくれたことで私は管理局の嘱託魔導師になり、なのは達と同じ世界で暮らせることになった。なのはやショウ、それにビデオレターでやりとりしていたアリサ達に出会えることが嬉しかった。
 だけど闇の書……夜天の書を巡る事件が幕を開ける。あの頃は苦しむショウに何もしてあげられなかった。ただ守るとしか言えなかった。でも結局は守れず……アインスとの戦闘の時も自分を犠牲にする形になってしまってショウを傷つけてしまった。
 優しさは時として人を傷つける。
 私の優しさは他人を想っているようで自分が嫌だから行う偽善なのかな。エリオやキャロへの想いも過去の自分を見ているようで……そこから来るものなのかな。だったら私は偽善に満ちてる。スカリエッティの言うようにアリシアになることも出来なかった粗末な模造品……いや人間ですらないのかもしれない。

 人間? ……私は人間なの?

 私はクローン。つまり人工的に作られた存在だ。お母さんのお腹から生まれたわけじゃない。そんな私を人間と呼んでいたのだろうか。
 違う……私は人間だ。だって……細胞の劣化が早くて長生きできないわけでも、子供を作れないわけでもない。でも……だけど

『……君は、アリシア・テスタロッサになれなかった失敗作なんかじゃない』

 不意に過去に言われた言葉が脳裏を過ぎる。

『……君の見た目がどんなにアリシアに似ていようとも、君はアリシアとは別人だよ』

 心が壊れそうな私を繋ぎ止めようとしてくれた言葉。……は否定するけど、私はあのとき……が言葉を掛けてくれたから踏ん張ることが出来た。

『……君はものじゃなくて人間だ。そして、この世に同じ人間はいない。だから……君はアリシアの失敗作なんかじゃない』

 深い闇の底に落ちていく私にとってどれだけの光だったか……

『作られた命だろうと、人間は人間だよ。君には……自分の意思だって、フェイトっていう名前だってあるだろ?』

 私を私だと認めてくれる。たとえ人工的に作られた存在だとしても人間だと言ってくれた。

『……それに自分が誰なのか決めるのは自分だけど、他人が自分を誰か決めてくれるときもある。君には、君をフェイト・テスタロッサだって認めてくれている人達がいるはずだよ』

 ショウが……ショウが居てくれたから私は私を保っていられた。母さんと向き合って話そうと思えた。
 最初見た時に悲しい目をしていると、もしかしたら自分と同じような経験があるのかもしれないと思った。それでも俯かずに生きている姿に興味を持たずにはいられなかった。だから友達になろうと言ってくれたなのはと同じくらい気になったんだ。
 再会できた時は嬉しかった。素っ気ない感じもあったけど話しかければちゃんと答えてくれた。
 闇の書を巡る事件でショウの強さを見た。どんなに苦しくても傷ついても現実から目を背けず歩き続ける。不条理な世界と戦う姿に憧れた。
 そうしている内……いつからか気が付けばショウの姿を追うようになっていた。ショウと少しでも一緒に居たいと思うようになっていた。ショウのことを……好きになっていた。

 日に日にその想いは強まって……正直に言えば、はやてがショウに引っ付いたりするのを見ると笑ってたり、慌てて止めたりしてたけど内心では嫉妬ばかりしてた気がする。

 でも……学校の頃は今ほど辛くなかった。みんなのことも好きだったから。みんなで過ごす時間が嫉妬を覚えたとしても良い思い出だと思えるほど楽しかったから。
 ――違う……本当はそう思って現実から逃げてただけだ。
 私はショウのことが好きだ。だけど告白する勇気なんてなかった。振られるのが怖かったから。関係が変わってしまうのが怖かったから。
 友達のままで良いと思ったことも何度もある。けど……そう思う度に胸が苦して……痛くなった。
 恋に恋しているわけじゃない。私はショウのことが好きだ。ひとりの男性として愛している。でも……だからこそ

「……私は」

 ショウと一緒に居ちゃいけない。
 だって私が……私が居たからショウはスカリエッティのターゲットにされてしまった。アインスと再び剣を交えることになってしまった。私が……私さえいなければショウが傷つくような事態は起こりえなかったんだから。

「フフフ……まさか容赦なく斬り捨てるとはね。さすがは黒衣の魔導剣士(ブラックフェンサー)と言ったところか」

 ふと落としていた視線を上げると、スカリエッティと2つのモニターが見えた。
 モニターのひとつには懸命に召喚士の子を止めようとするエリオとキャロの姿が見える。バリアジャケットを見る限り、激しい戦いを繰り広げているのが分かる。
 もうひとつのモニターには……真っ二つに斬られて消えて行くアインスとそれを見つめるショウの姿が映っていた。これといった傷は見当たらないが、右腕を押さえているあたり体の内部にはダメージがあるのだろう。
 私の……私のせいだ。
 ショウが光になって空に還るアインスの姿を見るのはこれで二度目。しかもあのときとは違って自分の手で破壊した。たとえそれが彼女が望んだことだとしてもショウの心に傷が付かないはずがない。

「やあ黒衣の魔導剣士、私からのプレゼントは堪能してくれたかな?」
『……スカリエッティ』
「そんなに怖い目を向けないでくれたまえ。私が君が思う以上に小心者なのだから」

 数多くの犯罪を犯しながらも長年管理局の追跡から逃れてきた者が何を言っているのだろうか。貴様によって怯えてながらいなくなってしまった人達がどれだけ居ると思っている。
 そう思いつつも感情がすぐに霧散してしまい体に力は入らない。それどころか、モニターに映るショウさえ見ることができないでいる。

『ふざけるなクソ犯罪者……余裕で居られるのも今だけだぞ』
「今だけ? フフフフ……それはあれかい? フェイト・テスタロッサ執務官が私を捕縛しに来るからかな?」
『ああ』
「フフフ……フハハハハ! 黒衣の魔導剣士、残念だけどそれは叶わないよ。何故なら……すでに彼女は私の傍に居る。捕縛しに来たのに逆に捕縛されているのだから!」

 スカリエッティが位置を変えたことであちらにも私の姿が映ったようで、モニター越しにショウと視線が重なる。彼の表情に驚きが走ったようにも見えたが、私はすぐさま視線を落としてしまった。スカリエッティの言葉に反応して視線を上げるべきではなかった。

『スカリエッティ……!』
「フフフ……黒衣の魔導剣士、君の強さには正直恐れ入ったよ。魔導士としての能力もだが、トラウマであるはずの彼女をあそこまで容赦なく斬り刻んで叩き斬るとはね。精神面においても実に強い……まあ敵であるならば関係ないと言わんばかりにドライなだけかもしれないが」

 違う……ショウが辛いはずがない。
 ショウはあまり感情を表に出そうとしないだけだ。誰かを傷つけることも誰かが傷つくことも本当は恐れている。成せなければならないこと、歩みを止められない理由があるから立ち止まりはしないだけで心は傷だらけなんだ。
 スカリエッティ、お前がショウの何を知ってる。過去の出来事や生まれを知っているくらいで人を理解できると思ってるのか。

「いやはや、君がそちらに行ってくれて実に助かったよ。君がこちらに居てはフェイト・テスタロッサの心をこうも容易く折ることはできなかっただろうからね」
『貴様……フェイトに何をした』
「これといって何もしていないさ。ただ……所詮君はプロジェクトFから名前を与えられたアリシア・テスタロッサの粗末な模造品だと言っただけでね」

 スカリエッティのいやらしい笑い声が妙に木霊する。そう感じるのは私の心が弱っているからなのか……

「フフフ……黒衣の魔導剣士、君もなかなかに人が悪い。フェイト・テスタロッサを始めとしたFの遺産達は君に大分心を許しているようだが、本当は君だってクローンは作られた存在だと理解しているのだろう? いや理解しているはずだ、何故なら君は技術者でもあるのだから!」

 ……そうだ。私がアリシアのクローンであることは覆しようがない事実。ショウだって私がクローンだって知ってる。
 かつてショウは私は私だと言ってくれた。でも……もしもそれがあのとき私に同情して言ってくれた甘い嘘だったのなら。そう考えるだけで今にも崩れそうになる。
 ショウのことをずっと見てきた……誰よりも見てきて……色んなことを考えてきた。だけど……ショウの本心が分かるわけじゃない。ショウが本当はどう思ってるのかなんて理解できていない。もしもショウの口から存在を否定される言葉を言われたら……私は

『……確かにフェイトはアリシアのクローンだ』
「――ッ!?」
『そんなことお前に言われるまでも理解している』

 その言葉に胸が張り裂けそうになり体が震える。大粒の涙が次々と溢れ出して床へと落ちて行く中、私の心の中は様々な負の思考で満たされ闇に飲まれていく。
 もう……嫌だ。何も考えたくない……考えたくないのに心が壊れてくれない。母さんの時は壊れてくれたのに……何で今は壊れてくれないの。

「フフフフ……壊れかけている彼女を見ているのにも関わらず非情な言葉だ。だが現状彼女は意思のない人形にも等しい。その割り切り方は実に合理的で素晴らしいと言える。どうだい黒衣の魔導剣士、私の元に来ないか? 君となら共に良い夢を見れそうだよ」
『――黙れ。……勘違いするな、俺にとってフェイトはフェイトだ。たとえ何度貴様がアリシアの模造品だと言うと、周囲の人間がクローンだと蔑もうと俺の考えは変わらない』

 否定できようのない真摯な想いが乗せられた言葉は、私の中にすんなりと入り込み崩壊しかけていた心を優しく繋ぎ止め始める。

『フェイト、お前が自分の名前が嫌だというのなら好きに変えればいい。名前が変わったところで俺の想いは変わらない。出会ってから少しずつ積み上げて……築き上げてきた繋がりを断ち切ったりしない』
「……ショウ」
『お前の全てを知っているとは言わない。きっと俺の知らないところでお前は苦しんだりしたんだと思う。だけど俺は知ってる……お前の優しさも強さも。そこに何度も助けられて憧れた』
「でも……私は……」
『お前が自分を認められないとしても俺はお前を……お前だと認めるさ。俺にとってはお前はかけがえのない大切な存在なんだから』

 バラバラになっていた心がひとつになっていく。それと同時に脳裏を過ぎるこれまでの日々……。
 母さんに見捨てられアリシアのクローンだと突きつけられた私は、闇に飲まれそうになる中でショウと話した。あのときの悲しみを理解し優しさに満ちていた言葉を忘れたことはない。
 ショウはなのはのように何事にも真っすぐぶつかって気持ちを伝えるような存在じゃない。なのはを太陽だとするなら、きっと夜空に浮かぶ月だ。
 常に人を元気にするような素振りは見せない。でも……苦しい時、辛い時はいつも傍に居てくれる。こちらが自分のペースで立ち直るまで優しく静かに支えてくれる。そんな彼のことが……私は大好きだ。
 ……私って単純だな。さっきまであんなに揺れて悩んで苦しんでたのに今はこんなにも満たされてる。

「フフ……誰が否定しても自分は認める? 大切な存在? 何とも薄っぺらい言葉だ。言葉だけなら何とでも言えるものだよ。優しい言葉で悪戯に気持ちを弄ぶとは……優しさは時として人を傷つけるいうのに」
「薄っぺらくなんかない……ショウの言葉をお前と一緒にするな。それに……私は傷つけられたって構わない」

 本当の優しさっていうのはその人のために自分が傷つくことも恐れずに言ってあげることだ。傷つくことを恐れて相手を甘やかすのは優しさとは違う。そのことを私は知っている。

『フェイト……』
「大丈夫だよショウ……もう迷ったりしない。私は私――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンなんだから」

 今私が成すべきこと。それはスカリエッティと戦闘機人を捕まえることだ。
 なのは達も戦ってる。エリオやキャロだってあの子を救おうと頑張ってるんだ。ふたりの保護者として……隊長のひとりとしてここで負けるわけにはいかない。

「ショウ、みんなのところに行って。スカリエッティ達は私が倒すから」
『本当に大丈夫なんだな?』
「うん」
『……分かった』

 ショウはそれだけ言うとボロボロになっていたブレイドビッドを分離させて放棄。手にしている相棒に一声掛けると、バリアジャケットとデバイスの形状が変化する。
 黒いロングコートに同色のパンツ。それは出会った頃からブレイドビッドを使うようになるまで使用していた馴染みのあるデザイン。右手に持つ剣もかつて使用していたものに酷似しているが、より洗練された漆黒の長剣に姿を変えた。その姿は私のよく知る黒衣の剣士に他ならない。
 空いている左手を伸ばしたかと思うと、そこに金色の長剣が現れる。さらに紫色と蒼色の見慣れないブレイドビッドが出現し、それぞれ左右の剣に装着された。

「ショウ……それって」
『念のためにあいつらに作ってもらったのさ』

 あいつらというのはおそらくシュテル達のことだろう。色合いから予想するに漆黒の長剣に装着された紫色のブレイドビッドはシュテル、金色の長剣に装着された蒼色のブレイドビッドはレヴィが製作したものだろう。ユニゾン時の運用も考えてユーリも手を貸しているに違いない。
 ショウは重さを増して二振りの剣を一度くるりと回して切り払い感触を確かめると、こちらを一別して空を飛翔し始めた。

「……ライオット!」

 私の声に応えるようにバルディッシュがカートリッジを2発リロードし、ザンバーをより小型化した形態に姿を変える。
 バルディッシュのフルドライブでありフォースフォームに当たる《ライオットブレード》。ザンバーフォームよりも高密度に圧縮された魔力刃を発生させ高い切断力を誇る。またガードされたとしても刀身に纏う高圧電流がダメージを与える二段構えの形態だ。

「――はあッ!」

 気合と共に横向きに一閃。ライオットブレードはザンバーを砕いた紅い糸を容易く斬り裂いた。しかし、私は肩が上下してしまうほど息が上がってしまう。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
「それが君の切り札かい? ……なるほど、このAMF状況下では消耗が激しいようだ。しかし、使ってしまっていいのかい? たとえここで私を倒したとしてもゆりかごも私の作品達も止まらんのだよ」

 確かにAMFのある場所でのライオットは発動を維持するだけでも大量の魔力を使ってしまう。時間を無駄に使えば、すぐに私の魔力は枯渇してしまうだろう。
 だけど私が今やるべきことは目の前に居るスカリエッティと戦闘機人の捕縛だ。ゆりかごや他の戦闘機人はみんなが対応してる。なら私はみんなを信じて自分が今すべきことをするだけだ。

「プロジェクトFは上手く使えば便利なものでね。私のコピーはすでに12人の戦闘機人全員に仕込んである。どれかひとつでも生き残ればすぐに復活し、1月もすれば私と同じ記憶を持って蘇る」
「……馬鹿げてる」
「旧暦の時代……アルハザード時代の統治者にとっては常識の技術さ。つまり君はここに居る私だけでなく各地に散った12人の戦闘機人、その全員をひとり残らず倒さなければ……私もこの事件も止められないのだよ!」

 スカリエッティが爪型の装備を付けた右手を動かしたかと思うと、私の周囲に再び紅い人が出現した。それは奴が右手を握り締めるのと同時に私を捕縛する。

「くっ……」
「心は彼のおかげで立ち直ったようだが、それ故に頭も回るだろう。フフ、絶望したかい?」
「私を……甘く見るな」
「フフフ、口ではそう言っても心の片隅では不安なのではないかね? 君と私はよく似ているんだよ」

 私とスカリエッティが似ている? そんなはずがない。こんな命を……人を何とも思っていないような奴と同じであるはずがない。

「私は自分で作り出した生体兵器達……君は自分で見つけ出した自分に反抗することが出来ない子供達。それも自分の思うように作り上げ、自分の思うように使っている」
「黙れ……!」

 身動きが取れないこともあって私は周囲に魔力弾を複数生成しスカリエッティへ発射する。しかし、AMF状況下かつスカリエッティに防御魔法を使用されたこともあってダメージを与えることはできなかった。

「自分は違うのだと言いたげなようだが……君もあの子達が自分に逆らわないように教え込み戦わせているだろう? 私もそうだし、君の母親も同じさ。周りの人間は自分のための道具に過ぎん。そのくせ君達は自分に向けられる愛情が薄れるのは臆病だ。実の母親がそうだったんだ……いずれ君もああなるよ」
「…………」
「間違いを犯すことに怯え、薄い絆にすがって震え、そんな人生など無意味だと思わんかね?」

 スカリエッティと母さんには確かに似たような部分があるかもしれない。もしかすると私もいつか母さんのように道を踏み外すかもしれない。もしもさっき言われていたなら私の心は完全に壊れていただろう……しかし。
 ――私にはショウへの想いがある。ショウが私にくれた言葉がある。それがある限り、私は私を見失うことはない。

『『違う!』』
「――っ!?」
『無意味なんかじゃない』
『僕達は自分で自分の道を選んだ』

 声の主はモニターの向こうに居るエリオとキャロだった。ふたりはフリードの背中に乗っている。キャロが召喚士の子を抱えているということは、ふたりの勝負は一段落着いたのかもしれない。

『フェイトさんは行き場のなかった私に温かい居場所を見つけてくれた』
『たくさんの優しさをくれた』
『大切なものを守れる幸せを教えてくれた』
『助けてもらって、守ってもらって、機動六課でなのはさんや兄さんに鍛えてもらって』
『やっと少しだけ立って歩けるようになりました』
『フェイトさんは何も間違ってない』
『不安ならわたし達が付いてます。困ったらわたし達が助けに行きます!』
『もしも道を間違えたら僕達がフェイトさんを叱ってちゃんと連れ戻します。フェイトさんには僕達が……みんなが……何より兄さんが付いてます!』
『だから負けないで。迷わないで』
『『――戦って!』』

 守ってあげないといけないと思っていた子供達。周囲からは過保護過ぎると言われたりしたけど、確かにそのとおりかもしれない。だってあの子達はちゃんと自分達で考えて行動してる。自分の意思を言えるようになっているのだから。
 ――大丈夫だよエリオ、キャロ。だって私にはみんなが……エリオやキャロが……ショウが付いてくれてるんだから。

「……オーバードライブ《真・ソニックフォーム》!」

 マントやコートを排除し最大限身軽になる。この状態は魔力の全てを速度に費やすため、装甲はないに等しい。一度でも攻撃をもらえばそこで終わるほど、速さのみを追求した超高機動特化形態だ。

「ありがとう……エリオ、キャロ。……大好きだよショウ」

 私は弱いからきっとふとしたことで迷ったり悩んだり……きっと、ずっと繰り返す。でもそれでいいんだ。だってそれも私なんだから。
 ライオットブレードを抱くようにしながらカートリッジをさらに1発リロードし、リミットブレイクフォームである《ライオットザンバー》を起動させる。
 それに伴ってライオットブレードが一振り増加し、私は二刀流の状態になる。ライオットザンバーの形態のひとつで両手にライオットブレードを持つ《スティンガー》。二振りのライオットブレードの柄は魔力ワイヤーで繋がれており、左右のブレードの魔力比を自在に変更することが出来る。
 ショウ……ありがとう。
 ショウが居たからこそ、二刀流を教えてくれたからこそ私のリミットブレイクフォームは完成した。もちろん模擬戦に付き合ってくれたシグナムのおかげでもあるけど、これだけ早く実戦で使えるほどに二刀流を覚えられたのはショウのおかげだ。

「装甲が薄い……一撃与えれば落ちる!」

 確かにトーレの言うとおり一撃でも直撃すれば私は墜ちる。だけど……一撃ももらうつもりはない!
 噴煙が巻き上がるほど爆発的な超加速でブーメランを扱う戦闘機人に接近し、二振りのライオットブレードを振り抜く。高密度の魔力刃は敵の武器を容易く破壊し意識を刈り取った。

「――っ」

 スカリエッティの右手が動くのを見逃さなかった私はすぐさま体勢を整える。
 空中を飛びながら次々と迫り来る紅い糸を一閃で斬り捨てて行きトーレとの距離を詰める。彼女の繰り出す正拳突きに怯むことなくライオットブレードで応戦。強引に押し切ろうとはせず一度距離を取る。

「ライトインパルス!」

 こちらを追うようにトーレが加速する。超高速で飛び回りながら私達は何度も刃を交え、直撃こそないものの掠り傷を負う。
 ――ライオットブレードじゃない抜けない。だったら……!
 雄叫びを上げながら迫ってくるトーレを迎え撃つように制止を掛けながら二振りのライオットブレードを連結させる。連結させたライオットブレードは大剣と貸す。これがライオットザンバーの重攻撃専用形態《カラミティ》だ。

「はあぁぁぁッ!」

 より高密度になった巨大な魔力刃を伸ばしながら叩き斬る。トーレは防御するが圧倒的な攻撃力の前に打ち砕かれ地面へ叩きつけられた。十分なダメージも入ったらしくそのまま気絶する。
 あとはスカリエッティだけだ!
 ライオットザンバーを構え直しながら接近し、渾身の一撃をスカリエッティへ振り下ろす。スカリエッティは避ける動作は見せず両手で受け止めてきた。その直後、こちらの攻撃の威力を物語るかのように床が砕けながらへこむ。

「フフフ……フハハハハ、素晴らしい。やはり素晴らしい……あぁこの力ほしかったな。だが私をここで捕らえる代償に君はここで足止めだ。私がゆりかごに託した夢は止まらんよ!」
「確かに私はここで終わるかもしれない。だけど私はひとりじゃない。お前のくだらない夢は私の仲間がきっと止める!」

 一度距離を取って構え直し、最速かつ最大の一閃をスカリエッティに叩き込む。ただ高密度の刃を当てる形で直撃させると危険だったため、当たる瞬間に刀身の角度を変えて腹の部分叩き飛ばした。凄まじい勢いで壁に叩きつけられたスカリエッティはそのまま力なく横たわる。

「はぁ……はぁ……広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ、あなたを……逮捕します」


 
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