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仮面ライダーAP

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第一章 鉄仮面の彦星
  番外編 アウラの門出

 ――蒼き星々が、闇の中で己の輝きを示す。自分はここにいるのだ、と世界に叫ぶように。
 命そのもの、とも言うべきその煌きから、透明なガラスを隔てて――独りの少女が、その数多の輝きを見つめていた。

「……地球、か」

 ――銀河連邦警察。

 全宇宙に蔓延る悪の侵略者から、管轄下の星を守るべく組織された、全宇宙規模の公安機関である。その活動範囲・内容は多岐に渡り、特に侵略者に対する武力鎮圧の割合が多数を占めている。
 そんな銀河連邦警察の内部では、年々増加する宇宙犯罪に対抗すべく、設立されてから長い年月を経た今でも「若手の育成」が急務とされている。
 ボブカットの艶やかな黒髪を靡かせ、暗黒に広がる空を眺める少女――アウラも。その「若手」となる新世代の戦士――「宇宙刑事」の一人であった。

 鍛え抜かれ、引き締まった腰周りに反した胸と臀部の膨らみは、女性らしい滑らかな曲線を描き――桃色に塗装された強化外骨格「ポリスアーマー」が、生まれたままの彼女の肢体に隙間なく張り付き、その曲線をあるがままに表現している。

『アウラ捜査官。地球への出港準備が完了しました、取り急ぎドックへ移動してください』
「……!」

 自分の名を呼ぶアナウンスに反応し、少女は我に返るように顔を上げる。薄い桜色の唇は、初任務に赴く彼女の覚悟を示すように強く結ばれた。

 ――彼女を乗せた銀河連邦警察の大型宇宙船は今日、訓練生過程を修了した新米宇宙刑事の門出を祝う役目を担っていた。
 数多くの男性訓練生を押し退け、入隊時から修了時までの間、群を抜いた成績で首席を独占してきた――アウラ・アムール・エリュシオンの、門出を。

 ◆

「いよいよ俺達の同期が初任務に行くのか〜……。しかも、いきなり単独任務で辺境惑星のパトロールときた。やっぱ首席は扱いが違うよなぁ、俺なんか配属先で雑用だぜ?」
「お前はまだいいよ、俺なんかお茶汲みと先輩の靴磨きからだ……。他の中隊には、配属先で訓練やり直しのスパルタコースが決まってる奴までいるってよ」
「ウゲェ……マジかよありえねぇ。くそっ、いくら男が首席じゃないからって、上の先輩方イビリ過ぎじゃねーか……」
「ちょっと! あんた達邪魔よ、歴史的瞬間を見逃しちゃうじゃない!」
「そうよそうよ! 宇宙刑事過程が始まって以来の、歴史的快挙! 初めて女性の首席卒業生が輩出される一大イベントなのよ!」

 アウラが搭乗する予定である小型宇宙艇。その機体を格納しているドックの上では、大勢の人だかりが出来ていた。
 宇宙刑事訓練生過程を首席で修了した、初めての女性宇宙刑事。その存在と門出を一目見ようと、彼女の同期達はもとより、銀河連邦警察広報部や宇宙マスコミまでもが詰め掛けていたのだ。

「おい、しっかり撮れよ!? 宇宙刑事過程の数百年に渡る歴史の中で、初めての超超超快挙なんだからな!」
「わかってますよ! ……しっかし、ある意味奇跡ですよねぇ。女性ながら男性顔負けの強さを持つ上に……とんでもない絶世の美少女ときた!」
「さらにさらに、あの全宇宙でも指折りの美しさって評判の、エリュシオン星の第一王女! こんなの注目の的にならねぇはずがねぇわな!」
「……けど、なんでそんなお姫様がよりによって宇宙刑事なんかになったんでしょうなぁ」
「そんなの知るかよ。……おい、準備しとけ。そろそろ出航予定時刻だ」

 ◆

「姫様! アウラ姫様!」
「……なんだ、アルクじゃない。どうしたの?」

 扉の向こうから聞こえてくる喧騒にため息をつくアウラが、ドックに続く入り口に近づいた時。ふと、背後から響いてきた呼び声に、彼女は大して驚く気配もなく静かに振り返る。

 その視線の先には――荘厳な機械仕掛の甲冑で全身を固めた老騎士が、険しい面持ちでアウラを射抜いていた。色が全て抜け落ちた白髪と、顔に残された古傷の跡が、古強者としての風格を滲ませている。
 だが、その身に纏われた鎧は銀河連邦警察で正式採用されている「コンバットスーツ」や「バトルスーツ」には該当していない。――明らかに、銀河連邦警察とは異なる組織の戦闘服である。

 アルクと呼ばれたその老騎士は、物々しい足音を立ててアウラに近寄ろうとする。そんな彼の顔を、少女は剣呑な眼差しで見つめた。

「どうした……ではありませぬ! エリュシオン星第一王女であらせられる貴女様が、何故このような道に進まれるのか! 今一度、お考え直し下され!」
「……この期に及んで顔を見せた、ということは激励の言葉でもくれるのかと思っていたのだけれど……違ったようね」
「姫様! 貴女様はエリュシオン星の未来を担われるお方! このような危険な真似事をさせられるはずがありませぬ! さあ、小官と共にエリュシオン星へ帰りましょうぞ!」
「……」

 籠手に固められた手を伸ばし、共に母星へ帰ろうと誘う老騎士。その真摯な瞳を前にしたアウラは、彼の想いに感服したように、その手を握る。

「おぉ……姫様! わかってくださいまッ――!?」

 その対応に、老騎士が頬を綻ばせた瞬間。

 彼の視界は激しく上下に回転し――重厚な甲冑に固められたその巨体が、鉛色の床に打ち付けられてしまった。
 その反動による物理的な衝撃と、何をされたか理解が追いつかない、という精神的な衝撃により、老騎士は言葉を失ったまま口を開いていた。

 一瞬にして握った手を取り、腕をねじり上げて投げ飛ばされたことにも、アルクは気づかないままだったのだ。そんなエリュシオン星騎士団長の姿を一瞥したアウラは、何事もなかったかのように踵を返す。

「ひ……ひめ、さま……な、なにを……!」
「――アルク。知っているでしょう? かつて私達のふるさとは、タルタロス星人の侵略により滅亡させられていた、と」
「……!」

 彼女の口から語られたエリュシオン星史の一端に、アルクは目を剥く。
 ――現在あるエリュシオン星は、正確にはエリュシオン星人の母星ではない。遥か昔、タルタロス星人と呼ばれる侵略者の襲撃を受け、故郷を失い他の星に逃れた唯一の生き残りが、他の宇宙難民を率いて新天地に築いた新たな国家。それが現「エリュシオン星」なのだ。
 現体制を築き上げた、その生き残りの血を引くアウラは――知っているのだ。現エリュシオン星の王である父を救ってくれた、恩人達が住まう星の名を。

「お父様は……改造人間という身でありながら人類の未来のために戦い、異星人である自分さえ救ってくださった、偉大な七人の勇者のお話を、いつも聞かせてくださった。だから私は――恩返しがしたいの。父を、エリュシオンの未来を救ってくださった、あの青い星に」
「ひ、姫様……!」
「今、地球の人々は『シェード』と呼ばれる悪の組織により、改造人間にされつつあるわ。人でありながら、人でない……そんな苦しみに苛まれている人々を見捨てることなんて、私には絶対にできない」
「そ、それならば我々が……! なにも姫様が行かずとも……!」
「戦うことだけが、宇宙刑事としての私の任務ではないのよ、アルク。改造人間にされた人を、生身に戻せる秘術はエリュシオン星人の血を引く私にしかできない。――だから私が、今回の地球派遣の任務に選ばれたの」
「で、ではせめて我々を護衛に! そのような危険な状況にある星へ、姫様を一人で行かせるなど断じて――!」
「……その私にいいようにあしらわれてるあなた達が来たところで、足手まといにしかならないわ。今の投げも読めないくらいに衰えてるあなたが、未だに騎士団長を退いていないのは――あなたより強い後任が育っていない証拠でしょう?」
「ぬぐぅう……!」

 懸命に食い下がり、忠誠を捧げる姫君を一人で行かせまいとするアルクだったが……どのように言葉を並べても、彼女を引き留めることは出来ずにいた。そんな老騎士の姿を見下ろし、アウラは苦笑いを浮かべる。

「……ごめんね、心配かけて。でも、大丈夫。一人でもやっていけるようになるために、宇宙刑事過程を履修したんだから。すぐに任務を終わらせて、大手を振って帰ってくるわ」
「……! ひ、姫様! お待ちください姫様! 姫様ぁあぁあ!」

 せめて不安な気持ちは見せないように。彼女は老騎士に笑い掛け――ドックに続く扉を開く。そして、自分に向け手を伸ばす老騎士を見つめ、悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。

「――じゃ、行ってきます」

 ドックに続く扉が自動で閉じられたのは、その直後である。

 ◆

 今日の主役であるアウラの登場に、人々は大いに沸き立っていた。特に人だかりの最前列を占める同期の女性陣は、一際激しく黄色い悲鳴を上げている。

「キャァアァアッ! アウラ姫様ぁあぁあ!」
「アウラお姉様ぁあぁあっ!」
「素敵ィイィッ! アウラ様こっち向いてぇぇえぇッ!」

 その迫力は周囲の男性陣や報道陣を圧倒する勢いであり、誰も彼女達を阻むことはできずにいた。――その時。

「……!」
「――初任務の地球派遣。ご武運をお祈りしますわ、アウラさん」

 苦笑を浮かべながらギャラリーに手を振りつつ、宇宙艇へ乗り込もうとしていたアウラの背後に――艶やかな声が響く。その声を耳にした彼女は、ハッチに伸ばした手を止めると、静かに後ろを振り返る。

「……今日は千客万来ね」
「あら、わたくしやあちらの方々の他にも誰かが? ふふ、さすが人気者ですわね」

 そこにいたのは、もう一人の同期。かつて首席の座を争い、共に競い合ってきたライバル――ジリアン・アルカンジュ・ビーズ候補生。彼女もまた、次席で宇宙刑事過程を修了したエリートであり、とある惑星の姫君でもあった。
 ポニーテールに纏め上げたブラウンの髪は、優雅に首を振る彼女の動きに合わせて艶やかに揺れる。決してアウラに引けを取らない美貌や白い柔肌、抜群のプロポーションを持つ彼女は、アウラに次ぐ人気を誇っている。その人気の秘訣は、男勝りなアウラとは対照的な、高貴な女性らしい振る舞いにあった。

「キャーッ! 見て見て! ジリアン様まで来られたわ!」
「あぁ……あのエレガントな立ち振舞い……素敵ですわ、ジリアンお姉様……」
「……お前ら一体どっちのファンなんだよ」
「ハァアァ!? 決まってんじゃないバカ男子ども! 両方よ両方!」

 そんな女性陣の昂りを尻目に。アウラ以上の胸をぴっちりと密着させた緑色のポリスアーマーを纏うジリアンは、穏やかな笑みを浮かべて戦友を見つめている。
 アウラもまた、そんな親友の姿を前に頬を綻ばせていた。

「人気って……もぅ。みんな勝手に盛り上がってるだけじゃない。たまたま女の私が首席になったくらいでさ」
「あら。首席なんて、たまたまでなれるような甘いものではありませんのよ? これでもわたくし、訓練の時は全身全霊の本気でしたのに」
「それにしちゃ、随分晴れやかな顔してるわね」
「全身全霊の本気だからこそ――ですわ。自分自身に悔いを残さない全力だったからこそ――前を向けるものですのよ」

 そうして他愛のない言葉を交わし――ジリアンの瞳が、アウラを地球へと運ぶ宇宙艇を映す。

「……地球派遣。先を越されてしまいましたわね」
「――そっか。確かジリアンのお母様も、地球には縁があったのよね」
「ええ。母上は仰っておりましたわ。美しい緑に囲まれた地球には、愛に溢れた人々が住んでいると……。その平和を脅かす敵とあらば、是が非でもこの手で懲らしめなければ――と思っていたのですが」
「ふふっ。――じゃあ、すぐに見せてあげる。私が平和にした地球の姿をね」
「あらあら。言ってくれますわね。わたくしのいいところを掻っ攫うおつもりですか?」
「決まってるわ。だって、それが私の任務だもん」

 笑い合う二人は、やがて互いに不敵な笑みを浮かべると――男らしさすら感じさせる眼差しを交わし、互いの拳を合わせた。必ず帰る、と約束するように。

 そして――出港予定の時間を迎えたアウラが、黄色い声援を背に受けながらハッチを開けた時。

「じゃあねジリアン。アラン教官にもよろしく――」
「――アウラ。あなたの将来のために、親友として一つ忠告しておきますわ」
「……?」

 突如ジリアンに声を掛けられ、何事かと首を傾げてしまった。その発言の意図が読めずにいる彼女を見遣り、ジリアンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「もし地球の殿方と恋に落ちた時は――その口調を改めることをお勧めしますわ。そんな乱暴な言葉遣いでは、いくら地球人が温厚でもその御心を射止めることは叶いませんもの」
「んなっ……!? な、ないわよそんなことっ!」
「さぁ、どうでしょう? かの宇宙刑事ボイサーも、地球人の美しい女性と子を成したとか……。ならば、その逆も……?」
「んもーっ! ないったらぁ! ジリアンのばかっ!」

 そして投げ込まれた言葉の爆弾を受け、顔を真っ赤にしてしまう。今までの人生の中で、愛の告白を受けたことは数え切れないほどあるが――自分から告白するようなことを考えたことなど、一度もなかったのだ。
 王室で暮らしていた頃に、様々な星の有力者から求婚された時も。訓練生時代に、同期や先輩の宇宙刑事から告白された時も。そんな気持ちにはなったことがなかった。
 だからこそ、恋に落ちるという――未知の感情に、つい過剰に反応してしまうのである。そんな親友の初々しい姿を、ジリアンは微笑ましげに見守っていた。

 そして彼女が別れ際に残したその言葉は……宇宙艇に乗り込み、大型宇宙船から出港してからも、暫し彼女の思考を支配していた。

(ま、全くもうジリアンったら……! こ、恋なんて……私が誰かを好きになるなんてっ……!)

 地球人への確かな憧れ。親友の残した言葉。様々な要素が脳裏を渦巻く中、彼女を乗せた宇宙艇は、青い星へと飛び去って行く。
 その中で彼女は、ある一つの想いを巡らせていた。

(……だけど、もし……本当に……そんな気持ちにさせてくれる人と出会えたなら……私は……)

 その黒い瞳は、期待と不安の色を滲ませながら――前方で輝きを放つ星を映している。かの星――地球を見つめる彼女の胸は今、かつてない高鳴りに満たされていた。

(……いっぱい、幸せをあげたい……。私の胸にある、愛情を捧げて……。そんな風に、愛し合えたら、いいな……)
 
 

 
後書き
※ポリスアーマー
 藤沢とおる先生の作品「宇宙刑事ギャバン 黒き英雄」に登場。ギャバンのコンバットスーツやアランのバトルスーツとも違う、身体に密着した戦闘用スーツ。女性用なのか、かなり女性的でセクシーなラインで作られている。銀河連邦警察の捜査官ミネルバが装着した。 
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