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トラベル・トラベル・ポケモン世界

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14話目 漆黒の者(前)

 
前書き
状況説明のための解説図が挿絵としてあります。
挿絵表示をONにすることをお勧めします。
 

 



 グレイが旅を始めてから、はやくも4ヶ月が経過した。
 エレナと2回目のバトルをして、その後ヒトツシティのジムリーダーからジムバッジを手に入れた時期が、グレイが旅立ってから約1ヶ月後の事であったので、あれからは約3ヶ月が経過していることになる。
 グレイは、打倒エレナを目指してポケモンを鍛えるべく、数多くのトレーナーと積極的にバトルしている。もはや、ギャラドスの戦闘欲求を満たすノルマなど自然に達成できてしまう程である。
 繰り返されるバトルにより、グレイのポケモンはさらに強く成長した。
 ちなみに、エレナと2回目のバトルをしてから今日までの約3ヶ月間、グレイは何回かエレナにバトルを挑んだが1回も勝てていない。2回目にバトルした時には互角に戦えていたハズなのだが、グレイとエレナの実力差は存外に大きいらしい。
 決してグレイとポケモンが成長していない訳ではない。その証拠に、グレイは約1ヶ月前にフッタツシティのジムリーダーに勝利し、2つ目のジムバッジを手に入れている。しかし成長しているのはグレイだけではない。エレナも日々成長しており、中々に追いつけないのである。



 現在グレイは、山奥にあるポケモンの保護施設『幸運の家』に滞在している。
 幸運の家は、捨てられたり虐待を受けたポケモンの心の傷を癒す場所である。
 人間の補佐として、ラッキーというポケモンが多く働いていることが、幸運の家の名前の由来であろう。
 ラッキー、たまごポケモン。ピンク色で、たまごのような丸っこい体に、小さな手足がある。お腹にはカンガルーのようにポケットがあり、たまごが入っている。幸せを運ぶと言われているポケモンで、弱った者にたまごを分けてあげる心優しいポケモンである。
 幸運の家は保護施設であり、本来は旅人の宿泊施設ではないのだが、道に迷ったグレイを快く受け入れてくれたのである。
 幸運の家があるビライ山は、普段は比較的安全な山であり普通は迷うことはないが、ごく(まれ)に深い霧が発生することがある山である。グレイは運悪く深い霧と遭遇し、いつの間にか登山道を外れて獣道を歩いていたのである。
 登山道が存在する山で迷った場合、頂上を目指すのが良いと一般的に言われている。グレイは一般論に従って頂上を目指し、そして幸運の家に辿りついたのだ。
 グレイは今まで知らなかったが、この幸運の家は業界では有名な施設であり、数多くのポケモンの心の傷を癒して更生させた実績をもつという。

 グレイがこの施設に辿り着いてから2日が経った。この施設に漂う優しい雰囲気はグレイにとって居心地が良く、最近はバトルばかりしていたグレイの心を安らかにしていた。
 しかし、いつまでもここに居ることはできない。施設の人に迷惑をかけ続ける訳にはいかず、戦闘狂のギャラドスのストレスをためる訳にもいかない。この辺りに生息する野生のポケモンは弱い者ばかりで、ギャラドスが満足できる相手など皆無だった。



 イスに座りながら、グレイはぼーっとしていた。
(今日中には絶対に出ていこう。ただ……今はこの平和な空間を満喫したい……)
 グレイがそんな風に考えていると、1体のラッキーがグレイの方へ歩みより、グレイの前に座った。
「おお、どうした? 仕事は終わったのか?」
 そう言いながら、グレイは目の前のラッキーを撫でてやる。グレイの手がフワフワした感覚に包まれた。
 グレイに撫でられて、ラッキーは嬉しそうな表情をした。
「ずいぶんと、そのコに気に入られているみたいだね」
 1人の男がそう言いながら、グレイに近づいてきた。男の名前はゼン。この施設の長である。ゼンが続けて話しかける。
「普段は人に甘えるようなコじゃないんだがねえ、どちらかと言うと、面倒見がよくて、しっかり者で、ラッキー達の中ではリーダーのような存在なのだが、何故か君には甘えるんだねえ」
 目の前のラッキーが施設の人間たちに『(ねえ)さん』というニックネームで呼ばれている場面を、グレイは何度か目撃している。
(なんか、気が合うんだよな……このラッキー)
 グレイは、施設で働くラッキーの個体を見分ける事はできない。しかし、目の前の撫でている個体だけは、なんとなく他のラッキーとは区別がついた。
(ラッキーを撫でてると、なんか幸せな気持ちになれるな……)
 そんな事を考えながら、グレイは平和な時間を満喫していた。
 そんな平和な空間を乱す事件は、突然に起こるのである。



 ビライ山の中腹で、森が開けた場所に建つ幸運の家。
 静寂に包まれるその場所の上空に、轟音と共に突如として巨大なヘリコプターが数機現れた。幸運の家の上空で静止したヘリから、次々と黒い服の者たちが降り立ち、1人1体のポケモンを出して幸運の家へと向かってくる。
「なんだなんだ!?」
 突然の轟音に驚いて外に出たグレイは、こちらに向かってくる黒い服の集団とポケモンを見て、そう声をあげた。
 グレイの隣には、様子を見にきた施設の長と、さっきまでグレイが撫でていた『(ねえ)さん』と呼ばれているラッキーもいる。
「君たち、いったい何者だね? この施設に何の用かね?」
 施設長のゼンが、黒の者たちに向かって問いかけた。
「我々はライフ団! 生命の力について研究する者だ!」
 ライフ――つまり、命。
 『命』と聞いて、何色を想像するだろうか? ハートの形を連想し、赤色やピンク色を思い起こすだろうか? 植物を連想し、緑色を想像するだろうか?
 想像には個人差はあるだろう。しかし、命と聞いて黒色を連想する者は少数派だと思われる。
 グレイの目の前にいるライフ団を名乗った者たちは全員、漆黒色の制服を着ている。漆黒色は死を連想させる色である。
 命を名乗りながら、死を連想させるその姿。その不一致さを見たグレイは直観的に、目の前の者が善悪で言えば悪側であると思った。そしてその直観は、ライフ団と名乗る者の次の言葉で確かなものとなる。
「我々ライフ団は、生きる力を分け与えるというこの施設のラッキーに興味がある。おとなしくラッキーを渡してもらおうか」
 つまりは強盗の宣言である。ライフ団の発言により、その場を緊張感が包んだ。
 ゼンがグレイに真剣な表情で声をかけてくる。
「なんの冗談かは分からんが……グレイくん、君はトレーナーなんだろう? 頼む! 一時的でもいいから、あいつらを()めてくれんか? 私たちの活動にラッキーは必要不可欠な存在なんだ。ラッキーを失う訳にはいかないんだ」
「分かりました。飯と寝床の恩がありますしね」
 グレイはゼンの願いを聞き入れた。
 目の前に広がるライフ団と多数のポケモン。一般的なトレーナーならば、これらを相手に1人で戦うなど不可能な話である。しかし、トラベル地方のジムバッジを2つも所持しているグレイは、一般的なトレーナーの側の人間ではなかった。
「私は警察と連絡を取る。応援が来るまで、何とか頼むよグレイくん!」
 ゼンはそうグレイに言い残し、建物に入っていく。
 ラッキーがグレイに心配そうな表情を見せた。
「大丈夫だ! なんとかなる!」
 グレイの言葉を聞いて、ラッキーもゼンと共に建物の中に入った。

「ビビ! KK! レパ! 頼むぞ!」
 グレイはそう言って、ビビヨン、ギャラドス、レパルダス、を出した。
 お察しの通り、ビビはビビヨン、KKはギャラドス、レパはレパルダス、のそれぞれのニックネームである。戦闘中に名前を呼びやすいように、グレイは自分のポケモンに短いニックネームをつけたのだ。
 戦う意思を見せるグレイに、ライフ団の団員が声をかけてくる。
「お前1人で戦うつもりか? 子供1人とて容赦はせんぞ!」
 その言葉を合図に、相手が一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「KK! レパ! 突っ込め! ビビはここから狙撃だ!」
 グレイの指示で、まずギャラドスが相手の集団の真ん中に突っ込み、遅れてレパルダスが続く。ビビヨンはその場で“むしのていこう”や“サイケこうせん”などの特殊攻撃技を使って遠距離攻撃をする。
 激しい戦いが始まった。



「我々が……こんな子供相手に……」
 ライフ団の1人がそうつぶやいた。
 グレイとライフ団の間には惨状が広がっていた。
 ビビヨンに狙撃されたポケモン……レパルダスに一瞬でやられたポケモン……ギャラドスに絞められたポケモン……ギャラドスに投げられたポケモン……ギャラドスに埋められたポケモン……ギャラドスに突き落とされたポケモン……などの多くのポケモンが戦闘不能となって倒れていた。
 相手は集団で、個々でもそれなりの力をもったポケモンであった。しかし、それなりの力程度ではグレイのポケモン、特にグレイのギャラドスには勝つことはできない。
 グレイのポケモンは、ジムリーダーのゴンに勝った時よりもさらに大きな力をつけているのだ。
「なんだあ? 幸運の家にガードマンなんかいないって話じゃなかったのか?」
 そう言いながら、ヘリから新たに男が1人降りて来た。男の年齢はグレイよりも少し上のように見える。
 グレイは直観的に、降りて来た男が強いトレーナーであると感じた。
 男がグレイに声をかけてくる。
「随分と好きにやってくれたな? だが、それもここまでだ」
 一呼吸おいて、男が続ける。
「俺は、ライフ団所属の戦闘員アーク。これ以上に俺達を邪魔するつもりなら、俺は全力でお前を消さなきゃなんねえ。どうだ? おとなしく引き下がるつもりはないか?」
 アークと名乗った男の忠告に対し、グレイは強気に言葉を返す。
「この惨状をよく見ろよ。オレのポケモンの強さが分かるだろ? それにオレはジムバッジを2つ持っている。子供と思って甘く見るなよ」
 グレイの言葉を聞き、アークは笑いだした。
「惨状だあ? 笑わせんなよ、そのぐらい俺にもできるさ! ジムバッジ2つ? それがどうした? ライフ団の戦闘員である俺を、ジムバッジ2つ程度の実力で()められると思ってんのか?」
 そう言い終わると、アークは素早くモンスターボールを5個取り出し、まず3つのボールからポケモンを繰り出した。
 アークの前に3体のポケモンが現れた。

 短足4本で歩行し、体は緑色、背中に巨大な葉と花をのせている、という外見。草タイプかつ毒タイプで、たねポケモンの『フシギバナ』。

 黒い犬ドーベルマンのような姿で、(つの)や尻尾の形が悪魔を連想させる外見。悪タイプかつ炎タイプで、ダークポケモンの『ヘルガー』。

 ゼリー状の緑の体をもつスライムのような姿で、大きな両手が体から生えている。エスパータイプで、ぞうふくポケモンの『ランクルス』。

 さらにアークは残り2つのボールからもポケモンを繰り出す。2つのボールからは同じポケモンが現れた。
 スターミーが2体、地面に立った。
 スターミー。五芒星の形のヒトデを2つ重ね合わせたような外見。水タイプかつエスパータイプで、なぞのポケモン。

 こうして、ライフ団のアークの前には5体のポケモンが現れた。
 アークの出したポケモンを、グレイは注意深く観察する。
(巨大生花フシギバナ、黒犬ヘルガー、緑液体ランクルス……そして、五芒星スターミーが2体か。どれも強そうだが……まさか1人で5体のポケモンを同時に指示なんかできないだろ? 他の奴に指示を分担するのか?)
 そう考えたグレイだが、アークは他の団員を下がらせている。どうやらグレイの予想とは違うらしい。

「ビビ! 攻撃開始! KKとレパはまだ待て!」
 先手必勝。アークが他の団員を下がらせている隙に、グレイは遠距離攻撃ができるビビヨンにだけ攻撃指示を出した。待ての指示にギャラドスは不満そうである。
 ビビヨンの特殊攻撃技“むしのていこう”が遠距離の相手に放たれた。
「なっ!? テメエ! フシギバナ受け止めろ!」
 ビビヨンの放った“むしのていこう”は、敵の巨大生花フシギバナが全て受け止めた。巨大生花フシギバナはダメージを受けてよろめいた。
「フシギバナ! いつも通り“やどりぎのタネ”だ!」
 “やどりぎのタネ”とは、相手の体にタネを植えて、時間が経つごとに相手の体力を奪う技である。“やどりぎのタネ”が命中したポケモンは、モンスターボールに戻すまで永続的に体力を奪われ続ける。
(“やどりぎのタネ”だと? あんな遠距離からここまで届くはずないだろ?)
 相手の指示を聞いたグレイはそう思った。
 しかし、巨大生花フシギバナの“やどりぎのタネ”は、グレイのポケモンにではなく、緑液体ランクルスと2体いる五芒星スターミーに向かって放たれた。
 緑液体ランクルスと2体の五芒星スターミーは、体中に植物の(つる)が巻きつき、巨大生花フシギバナに体力を奪われる。
 3体のポケモンから体力が供給される巨大生花フシギバナは、ビビヨンから受けたダメージをあっという間に無かったことにする。
 目の前の光景をグレイは分析する。
(なるほど、1人で5体も同時に指示出せる訳ないとは思ってたが、要するにランクルスと2体のスターミーは、フシギバナの体力供給機ってことか……あの供給機の破壊が優先だな)
 ライフ団のアークが新たな指示を出す。
「ランクルス“めいそう”! ヘルガーとフシギバナは相手に突撃!」
 緑液体ランクルスは、自分の特殊攻撃力と特殊防御力を上げる技“めいそう”を使った。
 そして5体いる敵ポケモンの内、巨大生花フシギバナと黒犬ヘルガーの2体が、グレイのギャラドスとレパルダスに迫る。
「レパ“ねこだまし”と“みだれひっかき”! KKは“たきのぼり”!」
 ビビヨンは狙撃手として使うためにその場に残し、ギャラドスとレパルダスに突撃命令を下した。















 ギャラドスとレパルダスが攻撃の姿勢を見せると、突如相手の黒犬ヘルガーは巨大生花フシギバナを盾にして後ろに隠れた。それにより、ギャラドスとレパルダスの攻撃は全て巨大生花フシギバナが受ける。
 レパルダスは“ねこだまし”で相手を怯ませ、その隙に“みだれひっかき”の連撃をする。その後遅れて、ギャラドスの水をまとった突撃技“たきのぼり”が直撃する。
「ヘルガー“あくのはどう”!」
 盾にされた巨大生花フシギバナはその場によろめく。その後ろから無傷の黒犬ヘルガーが顔を出し、“あくのはどう”をギャラドスとレパルダスに放つ。
「ビビ“むしのていこう”! あのランクルスとスターミーに!」
 黒犬ヘルガーにギャラドスとレパルダスが吹っ飛ばされている時、グレイはガラ空きになった体力供給機である、緑液体ランクルスと2体の五芒星スターミーに攻撃するために、ビビヨンに狙撃を命じた。















 ビビヨンは、無防備と思われる体力供給機たちに攻撃を開始した。しかし、
「ランクルス“サイコキネシス”」
 ビビヨンの狙撃は、緑液体ランクルスの“サイコキネシス”に防がれる。しかも、それだけではなかった。
 なんと、ただの体力供給機と思われていた緑液体ランクルスの“サイコキネシス”は圧倒的な威力でビビヨンの狙撃を打ち消してビビヨン自身にまでダメージを与えた。
(マジかい! 遠距離戦でビビが勝てないのかよ!?)
 すぐさま作戦を切り替えたグレイは、前衛で戦う者たちに指示を出す。
「KKはそのまま戦え! レパは相手をすり抜けて奥へ行け! ランクルスを攻撃しろ!」
「ヘルガー“あくのはどう”! フシギバナ“ギガドレイン”」
 巨大生花フシギバナは、ギャラドスの“たきのぼり”を受け止め、レパルダスを奥に行かせないように草タイプの特殊攻撃技“ギガドレイン”を放って妨害する。
 レパルダスは“ギガドレイン”を避けるが、盾の影から姿を現した黒犬ヘルガーの“あくのはどう”をくらってしまう。一瞬怯んだレパルダスに、黒犬ヘルガーと巨大生花フシギバナの攻撃が迫る。
 しかしギャラドスの“たきのぼり”が相手2体の攻撃からレパルダスを守った。レパルダスはそのまま緑液体ランクルスがいる方向へ進む。
「ビビ“むしのていこう”」
「ランクルス“サイコキネシス”! フシギバナ“ギガドレイン”! ヘルガー“あくのはどう”!」
 巨大生花フシギバナと黒犬ヘルガーは、ギャラドスが1体で食い止めている。
 緑液体ランクルスに対して、今度はビビヨンとレパルダスの2体がかりで攻撃する。近くにいる2体いる五芒星スターミーが、水タイプの特殊攻撃技“ハイドロポンプ”を放ってレパルダスに攻撃するが、レパルダスに簡単にそれを避ける。
 五芒星スターミーの攻撃はとても雑で、攻撃の訓練がされているように見えない。どうやら五芒星スターミーは、本当に体力供給機としての存在のようだ。
 緑液体ランクルスが“サイコキネシス”を遠くのビビヨンに放つが、レパルダスがそれを受け止める。タイプ相性的にレパルダスには“サイコキネシス”は全く効かない。
「ランクルス! “サイコキネシス”は止めて“シャドーボール”で攻撃しろ!」
 緑液体ランクルスは、ゴーストタイプの特殊攻撃技“シャドーボール”での攻撃に切り替える。これによりレパルダスに攻撃できるようになったが、得意技でない“サイコキネシス”を封印したことで、今度はビビヨンとの遠距離攻撃の撃ち合いで勝てなくなる。















「レパ! ランクルスよりも無防備なスターミーを狙え!」
「スターミー! “リフレクター”と“ひかりのかべ”!」
 2体の五芒星スターミーは、1体が物理攻撃の威力を半減する技“リフレクター”を、もう1体が特殊攻撃の威力を半減する技“ひかりのかべ”を、それぞれ発動した。
 五芒星スターミーに攻撃するレパルダスだが、“リフレクター”の効果で攻撃は威力が半減する。
 さらに、遠くからビビヨンが放つ特殊攻撃も“ひかりのかべ”で威力が半減される。
「レパ! 構わず攻撃!」
 いくら半減されようとも、攻撃し続ければいつか倒せる。そう考えたグレイは攻撃の続行を指示したのだが……
「スターミー! ランクルス! “じこさいせい”だ!」
 ライフ団のアークの指示により、緑液体ランクルスと2体の五芒星スターミーは、自分の体力を回復させる技“じこさいせい”を使った。レパルダスとビビヨンから攻撃された分、そして巨大生花フシギバナに提供した分、失った体力を全て回復した。
(マジかよ! だが1回“じこさいせい”を使うと、しばらくの間は使えないはずだ! 次に“じこさいせい”が使えるようになる前に一気に殺す!)
 そう考え、グレイは指示する。
「レパ! スターミーに全力攻撃!」
 しかし、
「スターミー! “まもる”!」
 次にアークが下した指示は、またしてもグレイには都合の悪いものであった。
 2体いる五芒星スターミーは、“まもる”によって無敵状態になった。無敵状態が解除されるまでは、少し時間がかかる。
「くそっ! レパ! ランクルスに攻撃! ビビも援護!」
「ランクルス! レパルダスに“シャドーボール”だ! ビビヨンの攻撃は無視しろ! そしてスターミーも“ハイドロポンプ”!だ 狙いは適当でいい!」
 緑液体ランクルスは、レパルダスに攻撃を開始する。さらに無敵状態の五芒星スターミーも“ハイドロポンプ”で援護する。
 五芒星スターミーの“ハイドロポンプ”の命中精度はとても低く、レパルダスも緑液体ランクルスも関係なく両者にダメージを与える。しかし、回復技がある緑液体ランクルスと、回復技が無いレパルダスでは、ダメージを受けることの意味の大きさが全く異なる。
(このままじゃ負けだ! どこか戦況を動かさないと……)
 グレイは戦況を分析する。















 現在の状況。ポケモンは大きく分けて3つの地点で戦っている。

 まずはグレイの近く。ここにはビビヨンがいる。
 ビビヨン:遠くにいる緑液体ランクルスに向けて“むしのていこう”で攻撃している状況である。
 ビビヨンを攻撃する者は今はいない。

 次に真ん中。ここにはギャラドス、巨大生花フシギバナ、黒犬ヘルガー、の3体が戦っている。
 黒犬ヘルガー:巨大生花フシギバナを盾にしながら、ギャラドスに攻撃している。盾のおかげで無傷である。
巨大生花フシギバナ:何度もギャラドスの攻撃を受けているが、先ほどの“やどりぎのタネ”により緑液体ランクルスと2体の五芒星スターミーから体力が供給されるため、ダメージはほとんど溜っていない。ギャラドスへの攻撃もしている。
 ギャラドス:2体から攻撃を受け続けて体力が減っている。
 総括的に見れば、体力供給がある巨大生花フシギバナを倒すことは不可能で、ギャラドスが倒れるのは時間の問題である、と言える。

 それからアークの近く。ここにはレパルダス、緑液体ランクルス、2体の五芒星スターミー、の合計4体が戦っている。
 2体の五芒星スターミー:“まもる”の効果で現在無敵状態である。また、レパルダスと緑液体ランクルスに無差別に攻撃している。さらに、“やどりぎのタネ”の効果で、巨大生花フシギバナに体力を供給している。
 緑液体ランクルス:主にレパルダスと戦っている。遠くのビビヨン、さらに味方の五芒星スターミーから攻撃を受けている。しかし、“リフレクター”、“ひかりのかべ”、“めいそう”の効果で受けるダメージを少なくしている。また、巨大生花フシギバナに体力を供給している。
 レパルダス:主にランクルスと戦っている。近くの2体の五芒星スターミーからも攻撃を受けている。攻撃され、体力が減っている。
 総括的に見れば、レパルダスと緑液体ランクルスで体力比べをすれば、先に倒れる方はレパルダスである、と言える。

(戦力は相手の方が上だ。1点集中で確実に相手の戦力を減らした方がいいな)
 グレイは結論を出し、指示を始める。
「レパ! そこは諦めて、真ん中の戦いに参加しろ! ビビは相手のランクルスを攻撃して牽制!」
 グレイの指示により、レパルダスは真ん中の戦場へと引き返した。レパルダスと戦っていた相手の緑液体ランクルスは、遠距離のビビヨンに向けて再び“サイコキネシス”を放つ。
「ビビ! まともに撃ち合うな! 回避が優先!」
 ビビヨンと緑液体ランクルス。攻撃の威力が高いのは相手側であるのは先の小競り合いで分かっていることなので、逃げ気味に撃ち合うようにグレイは指示した。
 両者の遠距離攻撃の撃ち合いが再開されるが、ビビヨンが戦いから逃げるので、お互い攻撃がほとんど当たらない。
 その間に、レパルダスが真ん中の戦場に到着した。
 再び、ギャラドス&レパルダスVS巨大生花フシギバナ&黒犬ヘルガー、の戦いが始まる。
「ビビ! お前も真ん中の戦場を援護!」
 グレイの指示により、グレイのポケモンは3体全員が真ん中の戦場に攻撃することになった。
「ランクルス! お前も真ん中を狙え!」
 アークの指示により、緑液体ランクルスも真ん中の戦場に攻撃を放つ。真ん中の戦場は、4体のポケモンが戦いながら、さらに外側の2方向から遠距離攻撃が飛来するという激戦地区となった。
 しかし、これはグレイにとっては都合の良い状況であった。グレイの狙いは、まず攻撃能力が圧倒的に高い黒犬ヘルガーを倒すことであった。戦場が混沌とすれば、黒犬ヘルガーにダメージを与えやすくなる。
 グレイの狙い通り、あらゆる攻撃があらゆる方向から黒犬ヘルガーに飛来する。攻撃の全てを巨大生花フシギバナを盾にして防ぐ事が難しくなり、黒犬ヘルガーは少しずつダメージを受けていく。
(このままいけばヘルガーを倒せる! まずは1体だ!)
 作戦が当たったことに、グレイは内心で喜んでいた。しかし、
「フシギバナ! “ねむりごな”」
 アークは、相手を眠らせる技“ねむりごな”を指示した。
「避けろ! KK! レパ!」
 グレイは慌てて指示するが、混沌とした戦場で回避指示は意味がない。
 相手の“ねむりごな”はギャラドスに命中した。ギャラドスは眠ってしまった。
「レパ、お前だけじゃ勝てん! 逃げろ!」
「逃がさねえよ! フシギバナ! ヘルガー! 全力でレパルダスを攻撃!」
 ギャラドスが眠った事により、真ん中の戦場の戦力は完全にアーク側に傾いた。
 ビビヨンも遠くから攻撃し続ける。しかし相手は、ビビヨンの攻撃の直撃も気にせずに2体とも全力でレパルダスを攻撃する。
 圧倒的な敵の暴力を受け、レパルダスはなす術なく戦闘不能となって倒れた。
「おい! 奥のビビヨンに攻撃しろ!」
 アークがそう指示を出した。
 眠っているギャラドスを放置し、巨大生花フシギバナと黒犬ヘルガーが、ビビヨンの方に向かってくる。緑液体ランクルスも、ビビヨンへの遠距離攻撃を再開した。
(マジかよ! これ、どうすればいいんだ……?)
 一気に不利な状況となったグレイは、体中から冷や汗が出るのを感じた。頭はいつになく冷静で、冴えわたる感覚がするのに、何も打開策は思いつかない。
 頭が真っ白になる、とは、意外にも冷静な時に起こる現象なのかもしれない。















 今、グレイが戦っている相手。ライフ団は、施設のラッキーを強奪しようと行動している。彼らは間違いなく裏世界の人間である。
 この戦いは、ポケモンバトルではなく、ポケモンによる武力行使である。この戦いに敗れた者に、次の機会は存在しないのである。

 迫りくる巨大生花フシギバナと黒犬ヘルガー。
 ビビヨンが、黒犬ヘルガーに“むしのていこう”を放つが、黒犬ヘルガーは巨大生花フシギバナを盾にする。
 攻撃を受けた巨大生花フシギバナは、3体のポケモンからの体力供給により、あっという間に体力を回復した。
(KKはまだ起きないのか?)
 グレイはギャラドスの方を見るが、ギャラドスは今も眠り続けている。
 敵はさらに距離を詰めた。
 それに加え、緑液体ランクルスが、“サイコキネシス”を放ってビビヨンの上空への逃げ道を塞いだ。
 アークが、ビビヨンにとどめを刺すべく指示を出す。
「ヘルガー“れんごく”!」
 炎タイプの技は、虫タイプであるビビヨンには効果抜群である。さらに“れんごく”は、炎タイプの中でも威力が高い技である。当たればビビヨンは耐えられないだろう。
 凄まじい威力をもつ炎タイプの特殊攻撃技“れんごく”が、ビビヨンに向かって容赦なく放たれた。

 
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