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嫌われの忌み子あれば拾われる鬼子あり

作者:時雨日和
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第1章 第3話 最強は鬼の足元

赤子が1人中央の祭壇に置かれている。角の短い忌み子とし、目は未だに開かず泣き声も出産の直後しか聞いていない。

「こんな忌み子は生かしてはいけない。いずれ災いをもたらす災厄の子だ」

鬼の一族にも文献がある。それはとてもありきたりなものだ。角が1本であったり短かったり欠けていたりしている通常とは違く生まれた子は忌み子として扱われ、その者の歳が10を超える時災厄が訪れる。

「儂が処罰を下す」

と、一族の長が拳を握りながらその忌み子に近づく。そして拳を振り下ろした。その一撃はその忌み子を捉えず、祭壇に登ってきた子供に受け止められていた。

「長様の一撃を受け止めたぞ」
「何者だ?あの子供は」

「お主……」

その子供はただ一言こう言った。

「俺の弟に手を出すな」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「……僕は何をしているんだろうか…」

目覚めた一言目に出たのがそれだった。せっかく屋敷の人達のお陰で信頼出来る人達に出会えた、精神状態も安定してた、何も心配する事はなかったはずなのに…

「だ、大丈夫……ですか?」

「あ……」

僕の寝ている寝台の隣にオドオドとしているが心配そうな顔をしたマリーがいた。

「マリー…ごめん、ごめんなさい」

「い、いえルイス君が謝ることじゃないと…思います…」

「でも、せっかく屋敷の人達が自己紹介していたのに…倒れて」

「仕方ない…事だと思います……誰だって、そんな事もあると思いますし…」

恥ずかしがり屋なマリーがつっかかりながらもここまで僕と話してくれた事に嬉しい反面、とても罪悪感が増してしまう。

「慰めてくれてありがとうマリー。もう大丈夫だよ、精神も安定してるし、何より屋敷の仕事をしないとないし」

「あ、それなら心配しないで下さい…他の皆さんでほとんど終わらせてありますので。ルイス君の看病も…交代で行っていたものなので…」

また罪悪感に打ちのめされていた時勢い良く扉が開かれた。

「よお、目ぇ覚めたかよ」

執事服を身に着けた黒髪の碧眼の男性、身長はさほど大きくはないが、その口調とリクよりも鋭い目つきが僕に向けられる。

「鬼ってぇのは初めて見るな。おっと、名乗ってなかったな。俺はクリストファルス・J・ラッセル、元々貴族の出だったんだが已むに已まれぬ事情があってな今じゃ主に拾われ、ここで執事をしてるって訳だ。歳は22、得意な魔法は紅の魔法だ」

この人も見かけに寄らずとても好意的な人だった。目つきは鋭いがその目に悪意というのは無い、ただ、角をとても興味深そうに見るのは少し気になる。

「まあ、俺の事はクリスと呼んでくれ。クリストファルスじゃ長いしみんなそう呼んでるしな、よろしく頼むよ。ええと…?」

「ルイス、僕はルイスだよ。家名はないんだ…ここの皆さんはどうして鬼に対してそんなに友好的になれるか…」

「何でってそりゃ…何もして来ねぇ奴に勝手にこっちの事情で暴力振るったり、暴言吐いたりとかしねぇよ。少なくとも主含めたここにいる奴らはな、信じられねぇなら後で全員の前で聞いてみりゃいいしな」

「うん…でも、信じるよ」

「おう!」

と、良い笑顔をしサムズアップして返事をした。とても安心出来ると感じるのはその口調と仕草が兄さんに似ているからだろう…

「それで、何でさっき倒れたんだ?何かメルがやけに落ち込んでたぞ」

「それは…悪い事をした。後でメルには謝っておく……倒れた理由は、後で皆さんが集まっている時に話すよ」

「そうか、なんか訳あり見たいだな。なら待ってるよ夕食時がちょうどいいと思うぜ」

「うん…」

少し重い空気が流れた所で寝台から降りようとした時、部屋の外からエントランスの扉。つまりは玄関の扉を勢いよく叩かれる音がした。

「ん?何だよ喧しいな。もう少し優しく叩けよな壊れちまうだろうが」

とボヤきながらクリスは部屋を出て行く、それに続き僕とマリーも出ていく。エントランスには既にエグルさんが扉を開けて対応していた。白銀に輝いた立派な鎧を身に纏っていた人達…兵士達がいた。僕達が居たのは二階の客間だが、吹き抜けとなっている階段の所からはその話声が聞こえる。要件はこうだ。

「鬼を出せ」

どうやら村の方から街の方へ通達があったようだ。

「鬼がいるから退治してくれ」

と、

「お引き取り下さい。その申し出を受ける事は出来ません」

「どうしてですか?」

「彼は何もしてはおりません。彼はただ村で異変がある事に気づき善意で助けようとしただけです。むしろ何もしていない彼に対し蹂躙したのは村の方々です。謝罪される事はあれど謝罪する事はありません」

「しかし、村の人々は鬼が暴れたなど言っておられる」

「何度も言うようですが彼は何者だしていません。彼が言うのですそれは本当のこと」

「その鬼が嘘をついているという可能性は無いんですか?」

「鬼は嘘を吐か無いのです。それは気高い信念を持った鬼の逸話です」

「鬼だからといって例外はあるでしょう。もしかしたら彼が嘘つきな鬼かもしれないという事は考えられないんですか?」

と、周りにいる兵士とは雰囲気の違うおそらく隊長格の兵士が悪態をつきながら扉から入ってくる。

「私が彼の言葉を信じるのは鬼だから嘘を吐かないというだけではありません。彼は最初に来た頃とても怯えながら主人に連れられて来ました。怯えながらも顔を上げたその目はとてもまっすぐでした。私にはこのような彼は嘘など、増しては村で暴れるなど信じられないのです」

「まったく…あなたはどこまでお人好しなのでしょうかね?そうですあなたは鬼の暗示にかけられているんですよ。だから鬼を庇うような態度が取れるんだ」

「何を…」

「さっきから聞いていれば確認もせずにネチネチネチネチと文句タレやがって!あいつはそんな奴じゃねぇんだよ!!」

クリスが二階の吹き抜けから下に飛び降りその隊長の目の前に降り立つ。

「またぞろぞろと、こちらも暇では無いんですよ。別に私共も捕まえたからすぐに殺すという訳では無いんですよ?流石に取り調べ位はします」

「そんなの信じられるわけねぇだろ」

「本当ですよ。我が称号に誓います。この国王軍最強の一角に連ねられる、星雄の騎士に誓ってね」

「星雄の騎士……」

「そう、おとなしく鬼を渡してくれれば危害は加えません約束しますよ、ええ」

「でも俺はそんなものには屈し…」

「もういいですよ」

全員の視線が声のする方…階段から降りてくる僕に集まった。

「何で来たんだ」

「ほう、君が件の鬼ですか」

「そのようですね。僕が大人しく従えばこの屋敷には…屋敷の人達には手を出さないんですね?」

「ええ、約束しますよ」

「そうですか、ならどうぞ連れて行ってください」

手枷をかけられそのまま連れていかれる。

「何を言ってんだ!そんなの」

「安心してよクリス。僕は大丈夫だ」

「そんな訳ねぇ!お前だってわかっているだろ!!」

「何のことかな、僕にはただ事情を話して信じてもらえるまで我慢する事しかわからないよ」

「ルイス君…」

「大丈夫ですエグルさん。もう最初に来た時の怯えていた僕ではありませんから……ではどうぞ」

「ええ、言われなくても……すぐに君を殺すよ」

放たれた言葉は裏切りの言葉。約束を破り、人を騙し、称号すらも裏切った騎士。その一閃は僕の喉に吸い込まれるように放たれそのまま心臓へと深々と剣が突き刺された。

夥しい血液が隊長へと降り注ぐ。剣が心臓から抜かれそのまま僕の体はそのまま地面に落ちた地の海へと落ちていった。

「ル…ルイス……」

「ルイス…君」

「鬼ってのもあっけないものだったな。これなら俺もすぐに新しいタロットの騎士になるのも時間の問題だな」

タロットの騎士……ああ、22枚のタロットの恩賞を受けた22人の騎士。そう、鬼の一族を滅ぼした騎士達だ……

「てめぇ!!!!」

クリスが激昴する。拳を固め、その拳には紅の魔法の特徴、炎が生み出されていた。
それを隊長目掛けて打ち出そうとした瞬間。

「78……」

「!?」

そこにいた全員の動きが止まった。声の出処はわかっている。だけど信じられないという考えしか持てないような顔をしている。

「ル……ルイ…ス?」

そう呟いたクリスがルイスの方に目をやると先の攻撃により絶命したと思われていたルイスが立ち上がろうとしていた。
あまりの出来事に頭が回らず全員が動けないでいる。

「人は…死ぬ瞬間、魂と共に恨みが出る……それはやがて怨霊へと変わり…僕の元へと集まってくる……」

完全に立ち上がるルイスの首と心臓付近の傷は完治していた。そして血塗れのルイスの顔には…いや目には青白い光で覆われていた。明らかにルイスの雰囲気とは別物だと感じざるを得ないオーラがルイスから感じられる。それはどんなに格下の兵士だろうと、どんなに弱いただの人間だろうと感じ取れるほど強大で凶悪だった。

「死にぞこないが…」

「死にぞこないというのは少し違うな……」

ルイスが言葉を発した瞬間、それと同時にルイスは右足で床を踏みしめた。その瞬間隊長以外の全員が倒れる。

「貴様…何を…」

「何…このままの姿では、我が弟のこれからに関わるからな少し眠ってもらう」

「口調が…」

「本当は優しい弟の口調のままにしたかったんだがな、俺にはそれは合わない」

「何を言っている」

「気づかないか?俺はルイスとは違う。俺は殺されたルイスの兄だ」

「二重人格か…」

「そうだな、今回は無理やり出させて貰った。優しいあいつだ殺したお前にだろうが見逃すだろうからな…俺が始末する」

「何を……ちっ、だがな俺だって王国軍最強の一角を担っているんだ。たかが鬼ごときに遅れを取るわけが」

言葉を放った瞬間隊長の首を絞める。苦痛に歪んだ表情でルイスの方を見る。そのままルイスは言葉を繋げる。

「御託は要らねぇんだよ。それにてめぇ如きにたかが鬼ごとき…何て言われる筋合い何てねぇんだよ」


そのまま首をかけていた手の力を強める。グシャッという音が響き隊長は絶命する。

「79」

そして、ルイスは隊長の剣を持ち寝ている他の兵士5名の首を切り落とした。

「84」

喉を潰された隊長と首を切り落とされた兵士の死体はもの飛ばしの魔法でそのまま王国軍へと飛ばした。
そこにある血とともに。何事も無かったかのような、前の綺麗な状態へと戻っていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「……………」

少女は見てしまっていた。生まれついて持っていた恩賞の力でルイスの眠りの魔法は弾かれたからだ。そしてあの残忍で残虐で無慈悲なルイスを……

「あれ…が、ルイス…君?」

震えた。震えていた。あの姿を見て、あの表情を見て、あの行動を見て震えていた。

「……かっこいい……」

恥ずかしがり屋な彼女が、自分の意見を持たない彼女が初めて歪んだ感情を持った瞬間だった。 
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