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ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~

作者:???
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2-4 前に進むために

「米田司令。帝国華撃団・花組、全員集合しました」
「うむ、ご苦労」
その頃、隊員服に着替えた花組のメンバーたちは、米田と風組三人娘たちが先に待っていた司令室に集合した。
「さきほど、帝都郊外の長屋の3番地区にて、脇侍の出現を確認しました」
「前回と同じ無人機で、蒸気演算式ではない、未知のシステムで稼動しています」
椿と由里がレーダー上のマップと、巨大モニターに写る、長屋のエリア一帯を示すマップ上に表示された、脇侍の位置を示す点を見ながら報告する。
「お前ら、前回の戦いの影響で光武は、稼動はするが、さくらの機体以外はまだ修理が十分な状態じゃない。よって今回の作戦は、陸軍との合同作戦とする。陸軍の援護を受けつつ、花組は現地の脇侍を撃退してもらう」
米田が、集まってきた花組の隊員…マリア、すみれ、アイリス、そしてさくらの4名に向かって命令を下した。
「了解しました」
「あのときの降魔…あの赤い巨人に倒されてなお、忌々しいことですわね。光武をボロボロにしてくれて…」
隊長であるマリアは承諾する仲、すみれは前回の戦いでデビルアロンにこてんぱんにされ、自分の愛器である光武を壊されたことに憤りを覚えた。
彼女たちの武器である兵器『光武』だが、新隊員のさくらの機体はともかく、すみれとマリアの機体は、前回の戦いでデビルアロンに食らわされた酷いダメージが災いして、修理が間に合わなかったのだ。さらにアイリスの分はまだ完成しておらず、今回もアイリスは待機組みだ。戦力が理想の形から程遠かった。米田は陸軍に協力を要請して少しでも穴を埋めようと考えていた。
すると、かすみが米田たちのほうを振り返って、あまりよくない報告を入れてきた。
「司令、さきほど軍に援護を申し込んだ件についてですが…陸軍から出動を拒否されてしまいました」
「何ぃ?」
「どうも、賢人機関からの命令によって出動停止になったそうです」
「ちっ…商売が絡みやがったってことか」
「どういうことですか、米田支配人!?」
さくらが米田に問いただす。その答えは、さくらにとって許しがたい内容だった。
「今回の脇侍が出現した地点は、第4次帝都開発計画の候補地になってんだ。寧ろ脇侍による被害は、開発計画を推進する連中にとって好都合って訳だ」
「そんな!」
それじゃあ、長屋のエリアたちは見捨てられたも同然ではないか。いくら帝都の発展を目的とした開発のためだからって、それでは長屋の辺りに住んでいた人たちからすれば、故郷から無理やり引き剥がされたも同じだ。
「ですがこのまま長屋の方へ向かった方が、奴が身動きを取れなくなり、帝都の中心街に被害が及びにくくなるでしょう。このまま長屋の狭い路地の中に追い込めば…」
マリアが冷静に、敵を確実にしとめるための案を考える。しかしそれもまた、勝利を得て被害を食い止めるためのものとはいえ、長屋のことを深く考慮しなかったものだった。冷酷にも取れる判断に、さくらが反発した。
「マリアさん、本気で言ってるんですか!?あそこにもたくさんの人々が住んでいるんですよ!その人たちを守るために、あたしたち帝国華撃団がいるんじゃないんですか!?」
「さくら…」
「アイリスもさくらに賛成!長屋の人たちも、アイリスたちの公演を見に来てる人たちがきっといるよ!怪我でもしちゃったら見に来るどころじゃなくなっちゃう!」
アイリスもさくらの意見に激しく同意を示した。
「ふふ、一本撮られたわね。マリア」
その一言に反応し、司令室内にいた全員が、入り口の方に注目する。
「副指令…」
入ってきたのはあやめと、本来ここに来るはずではないジンの二人だった。
「あ、あやめさん!どうしてここにジンさんまで連れてきたのですの!?」
すみれは納得しがたい様子であやめに抗議するが、対するあやめはやんわりとかわしてきた。
「彼も、この帝劇で一緒に働いている身よ。あなたたちの戦いを見る権限はあると思うけど、変かしら?」
「そ、それはそうかもしれませんが…」
彼は花組の隊員でもなければ整備班でもない。モギリといった雑用係を担当しているただの一般職員だ。
すると、さくらはあやめの姿を見て、目を見開く。
「あなたは…!」
「あなたが『真宮寺さん』の娘さんね?」
「は、はい!真宮寺さくらです!父が、お世話になりました」
「いえ、世話になったのは私の方よ」
あやめはさくらに、首を横に振りながらそう言うと、今度はマリアがあやめに話しかけた。
「副司令がここに来られたということは、花やしき支部での出向任務を終えられたのですか?」
「ええ、今から帝劇に復帰します。紅蘭も、現在開発中の兵器が完成したら後に続いてくる予定よ」
「きゃは!紅蘭がもうすぐ帰って来るんだ!」
現在、紅蘭はまだ花やしき支部での仕事が残っていて、あやめよりも一歩後に来る予定のようだ。だが、もうすぐ彼女もこの帝劇に来ることになったと聞いて、アイリスは喜んだ。
一方で、すみれもあやめに尋ねてきた。
「『カンナ』さんは…いないのですね?」
「…ええ」
「そうですか…」
「ふふ、心配かしら?」
「だ、誰がですの!あのような品性のない野蛮な女のことなんか…」
それを聞いてあやめが微笑みながら尋ね返すと、すみれは顔を赤くしてそっぽを向いた。それが、普段の高飛車な態度とは打って変わって余計にかわいらしくも見えて、あやめはさらにくすくすと笑ってしまう。
「あの、『カンナ』さんって?」
ジンは、アイリスに近づき、すれみの口から聞いた誰かの名前について彼女の耳元で尋ねた。
「カンナはね、紅蘭とおんなじで、花組の一員なんだよ。でも、どこにいっちゃったのかな…」
最初はそのカンナという女性のことを誇らしげに語っていたアイリスだが、最後のあたりで寂しげに呟いた。察するに、もしや行方をくらましたというのか?
「大丈夫よアイリス、きっとそのカンナって人も戻ってくるわ」
そんな寂しそうなアイリスを見かねて、さくらは元気付けようと暖かなことばっをむける。
「会ったことないのに、どうして分かるの?」
「分かるわよ。アイリスが心配するくらいなら、きっとみんなから慕われているってことだから」
「…うん!」
さくらの言葉で、アイリスも元気を出してくれたところで、あやめはマリアに言った。
「さて、少し話が長くなってしまったわね…隊長。復唱は?」
「はい。帝国華撃団・花組、出動!」
「「了解!」」
マリアの号令に答え、さくらとすみれの両隊員が敬礼し、花組はアイリスを除いて出撃した。




長屋…。
「くっくっく…やっぱりいいねぇ。人間共の恐怖に満ちた叫びと顔は…」
少年はその様子を、心から楽しんでいるらしく、下卑た笑みを積み隠さずに浮かべていた。
「刹那」
そんな彼の元に、一人の男が現れる。問屋町にデビルアロンを放った、青い装束を着た銀髪の男だった、
「あまりことを荒立てるなと言ったはずだ。予定ではまだ我らが表舞台に立つのは早かったはずだ」
銀髪の男は、自分が刹那と呼んだその少年を見下ろしながら言った。
「だって、あいつらがうるさかったんだ。ギャーギャーわめいてさ。それを恐怖の顔と叫びで塗りつぶす…どうせ殺すんだから、その前に好きにしたっていいじゃないか」
全く詫びれもなく言い切る少年…刹那だが、銀髪の男はさらに視線を鋭くする。
「…あまりつまらん理由で勝手をするなら、『あの方』に申告させてもらうぞ」
「…っち。わかったよ…『叉丹』」
あの方、という言葉に刹那は反応を示し、刹那は渋々聞き入れた。
「む…来たか」
ふと、叉丹と呼ばれた男は空を見上げて、何かを感じ取った。何かの、力の塊がいくつかここに近づいてくる。その直後だった。帝都の方角から数機の、脇侍より少し大きな影がこちらに向かってきていた。
その影は桜色の残像を残しながら、脇侍とすれ違い様に一太刀浴びせた。さくらの乗る光武だ。


「ええええええいやああああ!!」
桜色の光武に乗るさくらは、全速力で駆け抜けた。
かつて、父が降魔戦争で米田と共に命がけで守り抜いた帝都。それを荒らす非道な怪蒸気。そんな奴らを野放しにするわけにいかない。父譲りの剣術と正義感をフルに発揮しながら、彼女は光武の腕に握り締めた刀を脇侍に叩き込む。刹那がつれてきていた脇侍の一機が、その一太刀で切り倒され、機能を停止した。
その直後。すみれ機も後に続いて現れる。
「ぺーぺーの新人なのに、目立ちすぎですわよ!」
そう言って彼女の光武は、高く飛び上がって、頭上に振り上げた長刀を、もう一機の脇侍に向けて振りかざし、頭から縦方向に真っ二つに切り伏せた。
「ふふん、修理が間に合わなかったといいますが…この程度なら問題ありませんわね」
「さすがすみれさんですね」
余裕をこいて、光武の中で髪を靡かせるすみれ。そんな彼女をさくらは素直に讃えるが、まだもう一機残っていた脇侍が現れ、二人に向けて…今度は銃を向けてきた。背後をうまく突く一撃をいつでも与えられる。脇侍が二人を打ち抜こうとしたときに、ようやくすみれとさくらの二人は背後を振り返る。しまった!背後を取られたか!そう思ったときだった。
バン!
一発の弾丸の音が鳴り響き、二人を背後からうとうとした脇侍は腹を撃ちぬかれ機能を停止した。
「二人とも、背中ががら空きよ。背後にも注意して」
マリアからの鋭い指摘に、さくらとすみれはう…と息を詰まらせた。


「あの太刀筋は…」
『叉丹』を呼ばれた男は、さくらの光武の太刀筋を見て、奇妙な興味を惹かれた。始めてみるはずのあの剣さばきに、どこか見覚えがあった。
だが、すかさず長刀を持ったすみれの光武が続いて、もう一機の脇侍を立て一直線に切り伏せ、マリア機のその後方から脇侍を撃ち抜いた。
「あいつら?帝国華撃団ってのは」
刹那が叉丹に尋ねると、叉丹は頷いた。
「我らの、あの方の野望を阻む邪魔者共だ。早い内に排除するに越したことはない」
「じゃあ、僕に奴らの相手をさせてくれるかい?」
自分の赤く染められた長いつめを、ペロリと舐める刹那。すぐにでもさくらたちを苦しめたがっているのが伺える。だが、叉丹はそれを許さなかった。
「だめだ。まだお前の手を煩わせる機会ではない。お前の『魔装機兵』の改良もまだ済ませておらぬからな」
「ちぇ、つまんないな。じゃあ僕、先に帰るよ。もうあの方からの仕事は終わったし」
「俺はもうしばらく奴らの動向を探る」
「わかった。あんたもさっさと帰ってくるんだね」
刹那は適当に言うと、街の闇の中にヒュウ…と風のように姿を消していった。
彼が立ち去ったのを見ると、叉丹は再び脇侍と交戦する
「この雑魚共が生きているとすれば、『奴』もおそらく生きているだろう。ならば…」
叉丹は、前回と同じように、両手で印を結ぶ。すると、彼の足元に奇怪な光を放つ魔法陣のような円陣が形成される。
「こいつらを餌に、奴をおびき寄せて今度こそ殺さねば」
もう少し駒を増やしてぶつけてみようか。叉丹が円陣を通して、大地に邪悪な思念を送りつける。すると、地面の中からぬぅぅ…と、何体もの脇侍たちがホラー映画のゾンビのように這い出てきた。


「今のところは問題は無さそうだな」
司令室の大型モニターから、現場の状況と花組の戦闘力を見て、米田は呟く。
さくら、すみれ、マリア。三人のそれぞれの力は脇侍などものともしなかった。
「これなら、長屋を守り抜けそうですね」
ジンが期待を寄せながら、花組の勝利を予想したが、あやめの口から否定的な言動が飛び出した。
「本当にそう思う?」
「え?」
「あの子達の動きをよく見てちょうだい」
モニターに指を指しながら、あやめはジンに言った。ジンも彼女がの言うとおり、モニターの向こうの花組メンバーたちの動きを改めて観察した。


脇侍はわずか3機。前回のダメージでスペックダウンした光武でもまだ十分い太刀打ちできるレベルだった。
何事もなく
「これでは少々張り合いがありませんわね」
何事もなくすんだことが一番いいが、すみれとしてはまだ物足りなかった。
「さくら、光武の調子はどう?」
マリアが、さくら機にのるさくらに声をかける。今回彼女は花組として初陣を果たしたが、光武は初めての人間にはなかなか難しい。実際訓練においても、彼女は光武をうまく動かしきれないときもあった。
「はい。頭の中の方がもっと動けたような気がしますけど…」
「そう、困ったことがあったら言いなさい。今回のようないい動きがいつでもできるようにしておかないと、この先生きていられないわよ」
「はい!」
『た、大変です!』
すると、三期の光武に乗る花組メンバーたちに、本部のかすみからの通信が入り込んだ。
「どうしたの?」
『脇侍が新たに出現!その数は…10体!?』
なんと、勝利したと思いきや、ここにきて新たな脇侍が出現したというのだ。彼女の驚きに呼応するように、叉丹によって新たに出現した脇侍たち10体が、さくらたちを取り囲んだ。
「どうやらまだ、暴れていられそうよ。すみれ」
「暴れるだなんて野蛮な表現はお止めくださいな、マリアさん。私は華麗に美しく戦うのが信条なんですのよ」
改めて長刀を構えなおすすみれ機と、銃を構えなおすマリア機。さくら機も刀を構えなおして、目の前の脇侍たちに集した。
「雑魚が何体かかろうと同じことですわ!」
「すみれ、待ちなさい!迂闊に前に出ては…」
すみれは張り切って長刀をぶん回し、マリアの声に耳を貸さず脇侍に向かって行く。脇時たちは向かってくるすみれに対し、迎撃体制をとる。それを見て、すみれはふ、と余裕の笑みを浮かべる。たとえ防御陣形を組まれても、自分の攻撃が奴らに通る絶対の自信があった。
「受けなさい、神崎風塵流…」
すみれ機は長刀を風車のように回し始める。すると、彼女の持つ長刀の刀身が、炎に包まれ始めた。すみれ機が三体の脇時の中心に立ち、長刀を振りかざした。
「〈胡蝶の舞〉!」
降り下ろされた長刀の刀身から、炎がさらに激しく燃え上がり、まさに秋の紅葉のように美しく戦場を彩る。脇時たちは炎をまとった太刀のもと、燃やし尽くされた。
「すごい…」
さくらはすみれの必殺技の威力に感動を覚えるほどだった。
「この程度の敵相手なら、私一人でも行けますわよ!」
得意気になるすみれはまだまだ行ける様子だ。


「ふむ、やるな」
叉丹もまた、すみれの必殺技を見て、感心を寄せた。だが、余裕の姿勢は全く崩れていない。これくらいは想定の範囲内ということなのかもしれない。
「低性能の脇侍程度では止まらんと言うわけか。あの男もいい駒を揃えているようだな。だが!」
叉丹はニヤッと笑みを浮かべ、円陣に更なる邪気を解き放つ。その力は、前回のデビルアロンのような圧倒的な邪悪な力を放出していた。



叉丹の邪悪な力の放出に伴い、長屋の周囲に地響きが起こり始める。
「きゃ!じ、地震!?」
「な、なんですの!?」
驚くさくらたちのもとに、本部のかすみから通信が入った。
『気を付けてください!強力な妖力反応が、皆さんのすぐ近くから発生しています!』
「さくら、すみれ!一度ここから離れて!」
マリアが危機を感じ、二人に一時退避を下す。
それと同時だった。地面が掘り起こされ、地中より巨大な影が姿を現した。
「うそ…」
絶句するさくら。マリアとすみれも、突如現れた新手を見て、苦しげに顔を歪める。
地面から現れたのは、デビルアロンにも匹敵するほどの大きさを誇る、巨大な降魔だった。


「クックッ…」
叉丹は自分の手によって呼び出した巨大な降魔を見て不敵に笑った。
「次はこの『デビルテレスドン』だ。さあ、貴様も早く来い。でなければ、あの小娘共がただの肉片になってしまうぞ?」
非情で残酷な笑みは、刹那以上だった。また『彼』がここへ来るのをまちのぞみながら、叉丹はさくらたちの方に視線を戻した。



新たに出現した巨大な降魔『地底魔獣デビルテレスドン』。
その巨体と凶悪な外見がセットとなり、見る者全てに対して恐怖をもたらした。
「また巨大降魔出現するなんて…」
できれば、遭遇したくなかった手合いである。光武の修理がまだ済んでいない状態での無理な出動、これ以上戦闘を続けると光武にガタが来てしまう。
「このまま戦うのは危険だわ。住民の安全を考えて動きましょう」
「はい…」
さくらマリアの命令に合意した。正面から戦うにはどう考えてもきつい。例えマリアとすみれの光武が万全でも、このままぶつかり合えば自分達もそうだし、長屋に更なる被害が及ぶことが容易に想像できる。だが、すみれは違っていた。
「いえ、ここは先手必勝、一気に全力で当たって攻撃し手傷を追わせるべきですわ」
「あ!すみれさん!」
「ダメよすみれ、勝手な行動は!」
「勝てばよろしいんです!」
やられる前に、やる。前回のようにやられっぱなしに終わった悔しさからだろうか、すれみはマリアの指示を無視して飛び出してしまう。一理あることは言っているが、すみれが独断専行したことに変わりない。
デビルテレスドンが、長屋を破壊しながら暴れまわり始める。その暴れように、すみれはきっ!と表情を強張らせる。
「こんな野蛮な獣なんかに、私が敗れるなんて…」
花組の隊員として、神崎風塵流免許皆伝者として、これ以上の失態は避けておきたい。すみれはテレスドンに向かって駆け出しながら、そう思った。
すると、テレスドンが近づいてきたすみれ機に向かって、口から炎を吐き出してきた。
「なに…!」
「すみれさん、避けて!」
驚愕するマリアと、すぐにすみれに回避を促すさくら。
「これくらいで…!!」
言われるまでもない。自分も霊力を用いて炎を操ることもできるのだ。炎使いが炎に焼かれては格好がつかない。
すみれは、テレスドンの炎が自分の光武に当たる寸でのところでぐいっ!と体をひねると、彼女の光武もまた機体を左方向にひねらせ、間一髪テレスドンの炎を回避した。
見切れさえすれば、どんなに強烈な技も無意味だ。
「今度はあなたにお見舞いしてあげますわ!〈胡蝶の舞〉!!」
高く飛び上がり、四つんばいに地を張っているテレスドンの頭上に降り立つすみれ機。殺気の脇侍たちを一層した時のように、炎をまとった長刀をテレスドンの頭に突き刺した。瞬間、突き刺した箇所から火柱が立ち上った。
「ガアアアアア!!!」
頭上にて熱々の火柱が立ち上ったことで、デビルテレスドンは激しくもだえた。ぶんぶんと頭を振り回して頭の上に乗っているすみれ機を振り落とそうとする。その際に、口から火球がテレスドンの意図と関係なく放たれ、さくらたちや長屋の方に飛んできてしまう。結果、長屋周辺の一部に火災が発生してしまった。
「きゃあああ!!」
その一発がさくらの近くの地面で直撃、暴発したことで、さくらの光武がひっくり返ってしまう。
「く!」
このままではすみれが危険と感じたマリアは、前に出て銃口をテレスドンに向ける。
「鳴り響け…白夜の鐘…」
そう呟くと、彼女の光武の周囲に、冷たい真冬のような風がふぶき始める。それが彼女の銃口に集まっていき、一つの弾丸となって放たれた。
「〈Снегурочка(スネグーラチカ)〉!!」
銃口から放たれた氷の礫が、女神の形を成してテレスドンの顔に直撃した。その一発が、テレスドンの顔に氷の膜を作り出して固まっていくが、その際にテレスドンの頭の上に乗っていた
「ち、ちょっとマリアさん!私まで凍らせるおつもり!?冷え性は女の敵でしてよ!?」
「す、すまない…」
焦り過ぎて、かえってすみれを巻き込みかけてしまった。すみれに諫言すべきだったはずの自分が、逆に指摘を受けてしまうとは。自分の隊長としての未熟さを痛感せざるを得なかった。



「さくら機、敵の火球でダメージ!さらにすみれ機もマリア機の攻撃の余波で、破損箇所が増えました!!」
米田のほうを振り返って、由里が現状の花組の機体について報告する。
「あ~あ~!だからだめだって!ばらばらに戦っちまったら勝てる戦にも勝てなくなっちまうって!もっと陣形を大切にして…だから…あああああくそぉ!!」
突然の事態に、陣形を立てることができず、圧倒的な力を持つ敵を相手に的確なチームワークをくみ上げることができない花組は、前回よりも明らかに苦戦する羽目になってしまった。司令室モニターからそれを見ていた米田はかなり困り果てた様子だった。
「よ、米田のおじちゃん、落ち着いて~…」
アイリスがなんとか米田をなだめようとする。
「司令、ここはやはり…」
あやめが背後から米田に、何かを言おうとすると、米田が「あぁ」と頭を抱えながら返事した。
「例の話…だな。マリアに代わる新隊長の件」
「新隊長?」
ジンはそれを聞いて首を傾げる。花組の隊長はマリアだが、彼女ではいけないというのだろうか。疑問を抱くジンに、あやめが説明する。
「ええ…確かに花組のメンバーたちは優秀な素質と高い霊力を備えているわ。でも、それだけじゃだめなの。あの子達はアイリスも含めて、個性が強い女の子同士。そうなると意見のぶつかり合いやいがみ合いが起こって、任務どころじゃなくなってしまうことが多いの。だから、前から提案していたことがあったの」
「それが、マリアさんに代わる新しい隊長ってこと…ですか?」
「ええ、私としては…新たに若い男の隊長を軍から抜擢するつもりよ」
「まさか女だらけの部隊に男を入れるなんて、ちと気が進まねぇからまだ見送っていたところなんだ。けど、こんな状態じゃ背に腹は変えられねぇな…」
今の花組のバラつきだらけの状態を見て、米田は今まであやめの、新隊長抜擢の件を流してきてしまったが、もうこうなってはあやめの案を実践してみるしかない。だがその前に、あの巨大な降魔をなんとかしなければならなかった。といっても、今の花組にはそれができるだけの力も統率力もなかった。つまり…完全にお手上げ、王手を仕掛けられてしまったも同然だった。現に、モニター上の花組はもう逆転できるような様子は欠片も見当たらなかった。
「……ジン君、ちょっと来て」
「え?あの…ちょ!?」
すると、あやめはジンの方を見て、彼の手を引き始める。
「あやめおねえちゃん、どこに行くの?」
アイリスが振り返ってあやめに尋ねるものの、あやめはその質問に答えることなく、司令室から廊下に出てしまった。
「お、おいあやめ君!待て!」
「あ、司令!」
何かを予感したのか、米田は風組の惹きとめる声を無視してあやめを追って行ってしまう。
「ど、どうしよう…このままじゃマリアさんたちが…!」
司令官とその代行である二人まで離れてしまったことに、椿が困惑してしまう。
「司令たちまでここを離れるなんて…」
噂好きな性格もあるが、由里も二人が現場を離れてしまったことに動揺している。だが、風組の中で一番の年長者でもあるかすみが二人に向かって言った。
「落ち着いて二人とも。とにかく今は、私たちにできることをしましょう」
「は、はい!」
「さくら、マリア、すみれ…」
アイリスは光武が用意されていないため、戦うこともできない。ただモニターを眺めながらさくらたちの無事を祈ることしかできなかった。



廊下に出たあやめは、引っ張ってきたジンの方に振り返った。それに続いて米田も追いついてきた。
「あやめさん、お話とは…?」
ジンがあやめに尋ねると、米田が先を読んだようにあやめに言い出した。
「あやめ君、待ってくれ!もうジンは…!」
「えぇ、理解しています。今の彼が私たちの事を覚えていないことも…」
「そんなことじゃねぇんだ!もうジンはあの時十分戦った!もう休ませてやりてぇんだ…」
米田は、もはや軍人としての姿勢を保っていなかった。必死にわが子を守ろうとする、一人の親として、あやめに懇願する。
「米田さん…」
ジンは米田の姿に、困惑するばかりだった。どうも彼は、自分をなにかから庇おうとしているように見える。
そんな上官に、あやめは辛そうな顔を浮かべつつも、首を横に振った。
「今の花組の力ではあの巨大な降魔を相手にするのは不可能です。たとえ、光武の修繕が完全なものであっても変わらないでしょう。
私たちは帝国華撃団の司令と、副司令でもあります。軍人として、今の状況を最も最善な結果に導くには、自分たちの持つ手段の中で最も確実な選択をしなければならないはずです。情のために選択を誤るべきではありません」
「……」
「お気持ちは分かります、司令。あなたとも彼とも、ずっと長い付き合いですから。
ですが、私の知っている司令なら…こんなときこう仰るはずです。

『最初からしくじることを考えたら、何も始まらない』と」

その一言が、米田の胸に突き刺さり、米田は口を開くことができなくなってしまった。
「あやめさん、米田さん…」
ジンは、あやめの方に振り返る。
「あなたたちは、僕を知っていたんですね?」
「えぇ。昔からよく知っているわ。あなたはかつて、私たちと共に戦った、賭けがないのない戦友でもあった」
「ッ!」
「でも、ごめんなさい。できればここで全てを話したいけど、あなたも見た通り、あの子達は危機に陥っていて、話すどころじゃないの」
米田のように、状況に関係なく彼に、記憶をなくす前の彼のことを話しておきたいと思った。だが、長い世間話ができるほど余裕名状況では決してないのはジンも理解していた。
「あの降魔はいずれこの帝都だけじゃない。日本から海を渡って世界中にも侵攻し、多くの人たちを苦しめることになる。
それだけじゃないわ。私たちは降魔だけでなく、世界中のあらゆる魔の存在と向き合い、戦わなくてはならない。
でも、今の私たち人間の力だけでは、今の花組の子達のようにどうしようもない状況に陥ることにもなる。だから…」
そういって、あやめは軍服のポケットからあるものを取り出し、ジンの手に握らせた。

「お願い、ジン君。あなたにこの世界を救って欲しいの」

その手に握られたのは、赤く照り輝くゴーグルだった。
不思議だった。握っているだけで力が溢れそうな、それでいて懐かしい感じがする。
けど…。
「わからない…僕は何を信じればいいんだ?何をすれば、いいんですか…?」
米田からは覚悟ができていないのに首を突っ込むなと釘を刺された。実際、自分はまだ自分の持つ力にどのようにして向き合えばいいのか、不安ばかりでわからなくなっている。
すると、あやめはジンの瞳をまっすぐ覗き込むように見据え、問いかけた。
「ならジン君、あなたはどうしたいの?」
「どうって…」
「私は今、過去のあなたとか、そんなの関係ない。今のあなたはどうしたのか、それを聞いているの」
それは、ジンの望みと覚悟の両方を問いただしてきたものだった。
自分の望み?
ジンの脳裏に、帝劇で目覚めてからの日々が蘇ってくる。雑用の仕事が多かったが、その分彼女たちの舞台が成功したのを見届けると、やりきった思いが強く感じ取れた。心地よくて、嬉しいという気持ちがこみ上げていた。
自分の心に従って答えを見つけたら、どんな答えが出ても、きっと後悔はしない。さくらはそう教えてくれた。
今の自分の望みは…!
「僕は、この帝劇でみんなによくしてもらいました。身寄りがなく、記憶さえもないみんなにお世話になってもらった。素敵な舞台と、それを支える楽しさも教えてもらった。
けど、今はその人たちが困っている。危機にさらされている。だから…」
もしこのまま彼女たちが殺されるのを黙ってみていれば、彼女たちの舞台を心待ちにしている帝都の人たちの笑顔が奪われることになる。さらに、彼女たちにもきっとやりたいことがまだまだたくさんある。それを果たせないまま、若い内に死なせるなんて残酷なことが、
あってたまるものか!!

「助けたい!彼女たちを守りたいです!」

ジンの目から、迷いが消え去った。
そうだ、迷うことなんてなかった。助けたかったら、そのためにできることを何でもいいから、まずはやってみればよかったのだ。
「ジン、お前…」
戦うことを決断したジンを、米田はただ見つめていた。
「すみなせん、米田さん。僕はずっと考えていました。自分でも恐怖さえ覚えるこの力とどう向き合うべきなのか…けど、やはり一つしか答えは出ませんでした」
改めてジンは、米田のほうを振り返った。
「…行かせてください。僕は、米田さんたちが大切に思う、帝劇のみんなを守りたい」
もう迷いを振り切った彼に、米田は後でどれだけ引き止めても無駄なのだろうと思った。
「お前は、記憶をなくしても変わねぇんだな…」
顔を挙げ、さっきの辛気臭いとも取れる表情から一転して、米田は笑みを浮かべてジンに言った。
「あやめ君の言うとおりだな。なのに俺は…」


降魔戦争…あの時米田は、ある部隊を率いて降魔の群れと戦っていた。
あやめと、自分と、二人の若い男と…

今と変わらぬ姿で、ともに戦っていたジンだった。


だが、あの戦いは失ったものが多すぎた。それが彼の心に影を落とした。

それを恐れるあまり、判断を誤って花組の若い少女たちを死なせるところだった。しかもあの中に、降魔戦争で自分たちと一緒に戦っていた戦友の娘がいると言うのに…


「…勝手を承知で、帝国華撃団の司令として、お前に頼みたい。
行ってこい、ジン。花組のみんなを…俺の娘同然のあの子達を、守ってくれ」
「ジン君。詳しいことは、私の口から後で伝えるわ。そのためにも、生きて戻ってきて頂戴。そして…花組のみんなを、私を、米田さんを…信じて」
「はい!では…行って来ます!」
あやめから託された眼鏡を握り締め、ジンは駆け出した。
廊下の突き当りから姿が見えなくなったところで、あやめは米田に向けて口を開いた。
「…やはり、ジン君は変わりませんね」
「あぁ。やっぱあいつは、あの頃と同じなんだ。ずっと…」

なぁ、一馬、山崎…


帝劇の外、夜の帝都に出たジンは、あやめから託された赤い眼鏡を見つめる。
使い方は、おそらくこれをかけるだけ。
もう自分の力にいちいちビビったりなんかしない。ただ、自分が助けたいと願う人たちを守るためにこの力を振るう。
ジンは、赤い眼鏡『ウルトラアイ』を装着した。
すると、問屋町に現れた巨大降魔と対峙したあのときと同じように、自分の体から強大な力がみなぎるのを感じた。
次第にジンの姿は、ウルトラアイを装着しスパークする両目を中心に、頭から姿を変えていった。


自分のもうひとつの姿である、あの赤い巨人に…
 
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