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スリラ、スリラ、スリラ

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拾う(ひろう)

20xx年、世界は突如として混沌の渦に落とされた。即ち殭屍の大発生である。火葬がデフォルトとされてきた我らが日本国では殭屍被害は少ない傾向にあったが、殭屍にビジネスチャンスを見出す会社も多く、日本経済には殭屍が大きく影響を及ぼしていた。
殭屍退治用の呪符や護符と云った商品は、日本製であると云うだけで飛ぶように売れる。この物語は、今や急成長の末に世界経済の3割を占めるようになった日本の会社、『屍株式会社』に於ける大事件と其れに関わった人々の記録である。

橘カイナ。屍株式会社の女性社員である彼女は頗る頭を悩ませていた。その手には、『極秘』と書かれた書類。如何してこのような物を手に入れたのか。それはほんの1分前に遡る。簡潔に云うと、印刷室でシュレッダーを使おうとしたら、何かがヒラリと落ちて来たので拾った事が原因だ。其処で内容に目を通さずに近くに置いて仕舞えばよかった。他人に無関心なカイナが珍しく興味を持って、中身をちらと見てしまったのは失敗であった。或いは恐る可き必然であった。其処にあったのは『極秘』『開発部』の文字。
「開発部…?何で開発部の極秘資料がこんなシュレッダーの近くに置いてあるのよ」
困ったのは其の拾った資料を如何するか。カイナは見て見ぬふりをあまり好かない。殭屍に関する資料なのは解ったが、途中まで読んだ文章はきちんと最後まで読まないと気が済まないのだ。
「…おぉい、橘さぁん」
不意に背後から現れた其の声に、心臓が口から吐き出そうになる。此の軽い調子…間違い無い、部長だ。
「…部長」
「如何したの?君にしては仕事が遅いから心配になって見に来たよ」
慌てて資料を後ろ手に隠す。資料はシュレッダーとカイナの間にある、部長からは見えていないだろう。
「あ、いえ。機械の調子が悪くて…」
「嗚呼、そう。じゃあ僕は戻るよ。心配して損したー」
勝手に心配して置いて何と云う言い草だろう。部長はひらひらと手を振って去って行った。
「…危なかった。あと少しで見つかる処だった」
ほっと胸を撫で下ろし、カイナは改めて其の書類をまじむじと見詰めた。見れば見るほど、精緻に作られた資料だ。併し、剰りにも…物騒な話だ。
「…殭屍ウイルス…?」 
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