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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十九話。螺旋

(出来た⁉︎)

右手に当たった感触に戸惑いながらも、俺は全身全霊の力を込めて立ちふさがる。
避けるという選択肢は最初からない。避ければ後ろにいる音央に当たってしまう。それにこれを避けたら俺はアリサや理亜とはもう、真正面から対峙出来なくなる。本気でかかってきた相手には本気で挑まなければ顔向けできない。彼女達のような美少女が全力で挑んできたんだ。なら、『男』の俺が避けるなんて選択できるわけない。
それに、俺にはなんとなく理解出来ていた。
例え、俺に『(エネイブル)』の能力なんかなくったって、俺の『全て』を『塗り潰す』ことなんかできやしないってことを!

「なっ、お前さんどうやって……?」

五体満足でいる俺に、アリサは初めて動揺した姿をみせた。俺はその姿を見てほっとしてしまう。初めてこの魔女(アリサ)が動揺する姿を見ることが出来たからな。

「諦めなかったからだ。……君は言ったよね?
俺の『死の予兆』が見えるって。だったらもういっぺんよく見てみなよ。そして、もう一度撃てばいい。ただし、これだけは言っておくよ。
『予兆』なんかじゃ、俺は殺すことは出来ない、ってね」

俺がそう宣言すると、アリサは大きく見開く。
そして絶句した表情を戻して俺に問いかける。

「……確かにお前さんの『死の予兆』は限りなく低くなって、今やほぼ0になりやがったが……どうやったんだ?」

俺がどうやって、アリサの『死の予兆』を攻略したのかは『魔女』である彼女にはわからないみたいだな。
どんな予兆をも把握出来るが故に、『予兆』を覆されたら理解ができなくなる。
そこらへんはやっぱり『魔女』だな、なんて思う。

「可能性がなくなる時って、どんな時か解るか?」

アリサに逆に問いかける。
すぐに首を横に振ったアリサを見て『してやったぜ』、という気になる。
かつて、キリカとの戦いで、一之江が言っていた『魔女』の弱点。『自分の予想を超えられること』。


「それは『諦めた時』だ! 諦めなければ可能性は限りなく0に近くても『ある』んだよ!」

『結果論』かもしれないが、『結果』を出す前に諦めたら、その結果は出せない。

「俺に放たれたのはあくまでも『妖精の神隠し(チェンジリング)』の『対抗神話』だったからな。だから、『(エネイブル)』の能力である『削除(デリート)』で『対抗神話』を打ち消しただけだよ」

まあ、理亜が『妖精の神隠し(チェンジリング)』の『夜話』を装填していたから、思いついた方法なんだけどな。つまり『夜話』を理亜が語って、それをアリサが『アゾット剣』に装填して発射するのなら、語られる物語(夜話)の対象を無効なものに差し替えてしまえば、『対抗神話』は弱まるのではないか。
つまり、『夜話』を『ムダ撃ち』させること。それが俺が思いついた方法だ。アリサが魔術を使う以上、その魔術には代償が必要なはずだからな。
しかし、『(エネイブル)』の能力である消去がどれくらいの範囲を無効にできるのかは把握出来ていなかったからそこは心配なところだったが、今ので自身の身体が届く範囲内なら問題なく打ち消せるってのは解った。これなら『夜話』を放たれても対抗出来る!

「なるほどなぁ、確かにリアの語る『夜話』は一つだけだ。同時に複数の『夜話』を『朗読』することなんて流石に出来ないからな。だが、それをバラしてもいいのか?」

「構わないさ。全力の理亜の一撃を攻略しないと、本当の覚悟なんか示せないからね」

「ちなみに言っとくが、私に魔術を使わせて代償で自滅させる気なら意味ないぜ?
なぜなら、この『アゾット剣』には『悪魔がいる』っていう噂があるからな。その悪魔が私の代わりに魔力を使ってくれるから私は代償を支払わなくていいわけだ」

「へー」

何故か、アリサの味方であるスナオちゃんがよくわかってなさそうに返事をしたが……なるほど。そんな方法もあるのか。それならキリカの代償を肩代わりするってのもできそうだな。
ん? まてよ。肩代わり……かぁ。
ヒステリアモードの俺はある方法を思いついた。

「どうかした?」

考え込む俺に音央が尋ねてくる。

「いや、ちょっと思いついたんだが……」

確かに今思いついたこの方法ならアリサの破天荒な力もなんとか出来る気がする。
だが、余りに危険過ぎる。俺一人ならいいが、後ろにいる音央を巻き込むのは許容出来ない。
だから、それは副案にして先に思いついたあの方法(・・・・)を試すことにする。

「音央、もう少しだけ俺から離れていてくれ。これから使う技は全身(・・)を使うから、きっと音央もタダじゃ済まないかもしれないから……」

「わ、解ったわ……」

頷いて音央はより後ろに羽ばたいていく。
そして、俺に指摘された理亜は……。

『______その男性には未来を変える力が備わっていました______』

理亜が静かに『朗読』を始める。
と、同時に______俺の体から、魂から力が抜けていく感覚を感じた。
ああ、やっぱり解ってたのか。

『世界がどんな風に変化していくのか。まるでゲームの選択肢のように脳内で解るのです。その選択肢を選べばどんな風に物事が進んでいくか。どんな結末を歩んでいくか。手に取るように。自分自身が思い描いた未来へと導くことも出来たのです。そして、その力を持った男性はその力で様々な、絶対に出来ない(不可能)と言われていた出来事を出来ること(可能)へと変えていきました』

理亜が語る度に、俺は力が削がれていくのを感じていた。頭の中、奥からは強い動悸を感じている。
これが『不可能を可能にする男(エネイブル)』の『対抗神話』。

『そして、男性は理解しました。自分には不可能な事なんか、出来ないことなんて何もないと。どんな無理難題でも必ず可能に出来るのだ、と』

「うぐっ……ぐあああぁぁぁ‼︎」

頭の中が真っ白になった。

『だから男性は行動しました。不可能をなくすことで皆が幸せになれるように。だから男性は戦いました。不可能な状況をひっくり返して、誰も死なないように。だから男性は訴えました。自分ならどんな状況になろうとも、必ずより良い未来へと導くことができるのだ、と______』

「うがぁぁぁああああ‼︎」

もう止めてくれ。もう語らないでくれ!
今すぐ、その口を閉じてくれー!
そう俺が思ったその時。
俺の体をギュッと、温かいものが包み込んだ。
柔らかい感触、そして甘い匂い。それらを感じた俺は落ち着きを取り戻す。
と、同時に体の芯に向かって血が強く流れていくのが解る。
ああ、これはアウトだ。血流は止まらない、止められない。
だが、そのおかげで冷静さを取り戻せた。
そして、俺を抱き抱えたまま、ぐーんと空高く上昇していった。
この高さなら理亜の『夜話』は届かない。
チラッと背後を振り返ると、音央が俺の体にしがみついていた。

「ぐっ、馬鹿音央! 離れていろって……」

「バカはあんたでしょう! さっき言ったこと、もう忘れたの?
あんただけを苦しませない、あんただけを戦わせない。私も戦える!
そう言ったの、聞いてたでしょ!」

音央が声を張り上げて主張した。
確かに言っていたが、俺は音央に戦ってほしくない。それは音央を信用していないから、というわけではなく、ただ単に危ない目に遭わせたくないからだ。音央はロアとはいえ、長い間普通の人間として暮らしてきた一般人。『妖精の神隠し』という存在が発覚したが、それがなんだ! 普通の生活を送って、普通に生きる。そんな『普通』の暮らしを送っていい存在なんだ。
だから俺は彼女の提案を受けない気でいた。

「確かに言っていたけど、音央はロアとの戦いに慣れてないだろう? それに理亜との戦いで受けたダメージが残ってるはずだ。あとで音央にはやってもらいたいことがあるから今は体を休めることに集中していてくれ……」

「でも! 私も何かしたいの! もう、誰かに任せっきりなのは嫌なの! あたしだって、戦える。あたしだって……誰かの役に立ちたい。お願いだから、一人で抱え込まないで……」

一人で抱え込むな、か。
まさかそれを音央に指摘されるなんてな。人一倍気が強くて、誰よりも責任を感じやすくて、考えるより行動してしまう……そんな音央に諭されるなんてな。

「……悪いな、音央。そして、ありがとうな。君のおかげで気付けたよ。大切なこと」

『仲間を信じて戦う』……そんな当たり前のことを見失うところだった。

「……モンジ」

「だけど、やっぱり今は俺だけにやらせてくれ! 理亜とアリサは強い。正直、勝てるかはわからない。だけど……今だけは俺を信じてくれ!
音央の力はあとで必ず必要になるから。だから、今は……」

「……解ったわよ。昔から、あんたは一度言い出したら聞かないんだから」

呆れたように溜息を音央は吐く。
そして、俺を抱えたまま、音央はアリサ達の方を見る。

「……あたしの協力を断った以上、必ず勝ちなさいよ」

「ああ、約束するよ。心配しなくても必ず勝つさ。なんせ俺には『勝利の女神』様が2人も付いてるからね」

「2人?」

首を傾げる音央に言ってあげたい。一人は君だよ、と。まあ、言ったら言ったであとが大変なことになりそうだから言わないけどね。

「じゃあ、近寄るわよ?」

「ああ、けど近づき過ぎないように気をつけてね?
……ここで止まってくれ。この距離ならギリギリ『夜話』は届かない」

「おや、もう逃げるのは止めるのかい?」

「ああ、戦略的後進は終わりだ。理亜、そしてアリサ! 『千の夜話』を込めた『死の予兆』を今度こそ、攻略してみせるぜ!」

「へえー。さっきまで消えそうになってたのに、随分と余裕そうだなぁ」

「俺には勝利の女神様が付いてるからな。だから、今回も真正面から挑ませてもらうぜ!」

「ふむ。私はいいが……リアもいいか?」

「はい。私もいつでもいけます」

「そんじゃ、今度こそ正真正銘の最期の戦いだ。
『お前さん、もうすぐ死ぬぜ?』」

アリサが不敵な笑みを浮かべて呟き。

「『夜話』の装填始めます」

理亜がアゾット剣に片手を当てて、ブツブツと呟き始める。途端に、アゾット剣は青白く光輝いてその周りに巨大な魔法陣が浮かび上がる。
理亜はゆっくりと、丁寧に、淡々と『夜話』を語っていく。
理亜の声に鼓動するかのように、理亜が語る度に青白い光は膨れ上がっていく。
やがて______どのくらいの時間が経ったのか正確な時間はわからないが、やがて______その光は一つの巨大な渦となった。
まるで某国民的アニメの元◯玉のような、巨大な光る球体。
それが今すぐにでも、アゾット剣の砲口から放たれようとしている。

「それが理亜達の本気か?」

「ああ、間違いなく本気の『死の一撃』だぜ? なあ、リア」

「はい。『不可能を可能にする男(エネイブル)』の『対抗神話』を込めた紛れもなく全力の一撃です!」

「そっか。それを聞けて安心したよ。俺も全力を出せるからね」

「よーし、それじゃ、行くぜー!
全ての可能性を塗り潰せ‼︎『絶死の結末(デッドエンド)』ーっ‼︎」

さっきの砲撃よりもさらに巨大な光が俺を塗り潰さんと襲いかかってきた。
俺はその光に対して、さっきと同じように右手を突き出し消し去……ろうとして、異変に気付く。
さっきの砲撃は手に触れた瞬間に一気に『消失』していく感覚があったが、今は徐々に消していってる感覚しかない。
このままでは全てを消し去る前に塗り潰される。
そう判断した俺は、右手をそのままに、左手を突き出して掌で右手同様消し去るイメージをしながら、身体全体を大きく捻った。
(この技の原型は……スカイツリーの戦いで、ワトソン相手にやった『螺旋(トルネード)』、それに相模湾上空高度1,000メートルでキンゾーとの戦いで出した『絶牢(ぜつろう)』、そして……ヒルダ戦で生み出した『銃弾返し(カタパルト)』。
それを組み合わせれば……出来る、はずだ!)

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

俺は、後ろに吹き飛ばされそうになるのに耐えながら。

______ヒューン!

全身をくまなく動かす!

「⁉︎」

「ひぅ、あ、危なかったわ」

「……と、危なかったぜ。まさか、光弾を跳ね返されるとは思わなかったぜ」

跳ね返った光弾を空中で回避した理亜、スナオ、アリサはそれぞれ違った『今、私の目の前で何が起きたんですか?』という反応。『何か飛んできたわねー? 不思議よねー』的な反応、『返されるとは思わなかったぜ! どうやったんだ?』という予想外の出来事に興奮しているような反応をしてくれた。
今のは自分でも驚いている。技の原理は簡単だ。右手と左手で光弾を挟み込むイメージのまま、突き出した両手で光弾を消そうとして、消えなかったから威力を落として干渉することで光弾自体を掴み、全身を回転扉のように大きく捻って溜めを作って『絶牢』と『螺旋(トルネード)』を組み合わせた構えを取り、さらに大きく捻じ曲げた体を反転させて……からの銃弾返し(カタパルト)を放った。
言ってしまえば『不可能を可能にする男(エネイブル)』の『消去』と『干渉』の能力を利用した合体技。
名付けて『光弾返し(カタパルトII)』!
(エネイブル)』の能力とこれまで編み出してきた技術を組み合わせることで光弾を180度Uターンさせるという荒技をやってのけたのだ。

「はぁ、はぁ……二度とやりたくない大技だな」

しかし、俺が二度とやりたくない、というと何故かやらないといけなくなるのは……これも世界が歪んでるせいか? 確か世界の歪みが原因でロアは発生するとか、かつて一之江は言ってたが。
だったらもしかして、ロアの能力で歪みを矯正することも出来るのか? だとしたら世界に認識された逸般人という評価を俺の能力なら覆すことも出来るのかも……試してみる価値はあるかもな。
問題はどうやって世界の歪みとやらを見つけるか、だが。
それもなんとなくなんとかなる気がする。いつも厄介事は向こうからやってくるからな。そのうち『世界のロア』とか、『歪みの管理者』とか出てくる気がする。
……なーんてな。さすがにそんなロアが出てくるはずないよな。ハハハッ! ……頼むから絶対出てくんなよ。絶対だぞ!
そんなことを思っていると。

「まさか、『死の予兆』をそのまま返されるとは思わなかったぜ? だが、私達はまだやられたわけじゃないんだぜ」

そう言ったアリサの後ろで、理亜がその口を開こうとしているのが見えた。
『夜話』を語る気か⁉︎

「音央!」

「うん! 『茨姫の檻(スリーピングビューティー)』‼︎」

音央の声が響き渡り、そして感じる浮遊感。
俺の体を音央が抱き締め、そして空高く上昇していく。
『夜話を語られたら逃げる』。
音央には理亜が『朗読』始めたら逃げるように、と指示を出したおかげか、『千の夜話(アルフ・ライラ)』対策は万全だ。
そして、距離が離れたらアゾット剣で近寄ってくるから、先に茨の蔦で縛ってしまえば動きは封じられ、そしたらアリサ達は……。

「当然、そうくるよな!」

「行くぜー」

直後、青白い光線が放たれた。
俺は、その光線を敢えて受ける。
今回は逸らすことも、弾くことも、消すことすらしない。
しなくても俺は消えない自信があるからだ。
そして、青白い光線が直撃し、俺の意識は真っ白になった。
迷いも、恐怖も、勇気も、信頼も、全てが消えていく純白の世界。
ただひたすら『無』に帰す為にあるかのような居場所。そこは体や意志というものがなんの意味も持たない単なる『概念』となっていた。
『可能性』や『希望』みたいなものですら、一瞬で塗り潰されてしまった。
苦痛ではない。むしろ『安息』という感覚でいられる。
そして、この世界では『恐ろしい』といった感覚すらなくなって。
全て、頭の中は真っ白に。きっと、身も心もまっさらに塗り潰されるだろうな。
これが『死ぬ』というのなら、それは『安息』を受け入れるということ。
これがアリサが放つ結末なのだ。


だけど。


これが『信頼』というのなら、俺は絶対的に信用しているものがある。
これだけは絶対に塗り潰されないし、消されない。
俺が『主人公』になる前から決まっていた、絶対の理。
それだけは俺に何があっても変わらないもの。
一種の『女難』と言っていいもの。
『約束の場所』。
そこがある限り、俺の『全て』は……。

「俺の全てを塗り潰すことなんて出来ないんだぁぁぁあああ‼︎」 
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