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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第28話 「山彦市での出会い」

 
前書き
 今回から数話は、DEMさんが書かれている『魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~』の舞台である山彦市で書かせていただいています。 

 
 空には今日も煩わしいほどの光を放つ太陽が輝いている。
 施設内や交通機関の中などは空調が効いていて快適ではあるが、それでも外に出れば日光を浴びる時間は確実に存在する。
 それだけに夏に外出するのはどうしても必要以上に気力が必要になってしまう。きっとそれは俺だけでなく多くの者が近い考えを抱くはずだ。予報によれば今日は夜になっても気温が20度後半を維持するらしいので実に外出はしたくない……したくないのだが。

「ショウ、次の駅で降りますので置き忘れに気を付けてください」
「心配するほどの荷物は持ってないから安心しろ」

 この会話から分かるだろうが、俺は今電車に乗って移動している。
 隣に座っているのは、涼しげな色合いのワンピースを着たシュテルである。最近は割かしコンタクトばかり付けている印象があったのだが、今日は長時間外出することを想定してメガネを使用している。
 それほど視力が悪いわけではないと聞いているので、裸眼でもいいのではないかと思ったりもするが……シュテルの性格からしてリスク軽減のためにそれはしないだろう。
 ……するにしても現状で考えれば確実に俺を巻き込むはずだ。例えば必要以上に俺に引っ付いてきたり、よく見えないからといつも以上に接近して話そうとしたりとか。俺とシュテルの関係を疑う人間は割かし存在するため実に避けたいことである。
 他よりも距離感が近く、またこうしてふたりで出かけることもあるだけに努力するだけ無駄なのではないかとも思ってしまうのだが。……まあ俺の精神的な疲労を軽減するためには必要な努力なので全くの無駄ではないだろう。
 話を戻すが、向かっている先は海鳴市から数駅離れた山彦市というところだ。
 理由としてはまだ見ぬデュエリストと戦うためというのが真っ先に挙げられる。以前にシュテルと交わした約束を果たそうとしているのだ。まあ開発側に関わりがある身なので、海鳴市以外のブレイブデュエルの稼働状況を知るというのも理由に入っている。

「やれやれ……今に始まったことではないですが、もう少し可愛げのある返事をしたらどうですか」

 人の事を散々からかう奴が何を言っているのだろうか。
 感情があまり表に出る方ではないので可愛げなないと言われるのはまあ良しとしよう。その点は自分も理解している。下手したら俺よりも感情が表に出ないシュテルに言われたくないという気持ちはあるが。
 ただこの点を置いておくとしても……年齢で言えばシュテルは俺よりも下だ。飛び級しているので同学年ではあるが、これを踏まえて考えるとシュテルの方がマセていると言えるだろう。故に

「あのなシュテル、可愛げのなさで言えばお前の方が上だと思うんだが?」
「何を言っているのですか。私はナノハにも劣らない可愛らしい外見をしているんですよ。可愛げなら十分にあるはずです」
「俺が言ってるのは外見の可愛げじゃなくて内面の可愛げだ。ここでそういう返しをしてくるお前は高町と比べると格段に可愛げはない」

 格段という言葉を用いたものの高町とシュテルの性格を考えると比較するのも悪いような気さえする。容姿に関しては似ていると言われるふたりだが、大雑把に言ってしまえば性格は真逆なのだから。
 それにも関わらず、シュテルは気分を害したのか顔を背けてしまう。本気で拗ねているわけではないのだろうが、こういうところが時々面倒に思う。
 だからといって構わないで放置しておくと目でアピールしてきたり、遠回しな言い方で構えと促してくる。それはそれで面倒なので……結論だけ述べればレヴィとは違った意味で面倒な子なのである。シュテルとレヴィの面倒を見ているディアーチェは尊敬に値する。見方を変えるとふたりに玩具にされているとも言えるのだが。

「……チラ」
「…………」
「…………チラ……チラ」

 チラチラとチラチラ言いながらこっちを見るな。簡潔に言って鬱陶しい。
 これがシュテルではなく高町だったならば、恥ずかしがったりして顔を赤らめモジモジしていそうなので可愛らしく思えるだろう。しかし、現在俺の視界に映っているのは表情の乏しい顔でアピールしてきているシュテルだ。
 構ってオーラのようなものは感じるが、ぼんやりとした顔でこちらを見てくるだけに沸々と胸の内に湧いてくるものがある。仮にデュエル時に見せるような凛とした顔だったとしても、おそらく似たような感情は抱きそうではあるが……ドヤ顔のように思えてならないし。

「あのな……構ってほしいならもう少し別のベクトルでしてくれ。そのやり方だと余計に突き放したくなる」
「そんな……そんなことを言われてしまってはもっとやりたくなるではありませんか」
「何でそうなる?」
「男子は好きな子には意地悪をしてしまうと聞きますし、あなたもそのタイプだと小耳に挟みましたので」

 確かに素直になれない奴はちょっかいを出して気を引くような真似をするが、別にそれは男子に限った話じゃないと思うんだが。というか、誰が俺は好きな相手には意地悪をするだなんて言っているんだ。言いそうな知り合いは小さなヒヨコかタヌキあたりしかいないけれども。

「誰から聞いたかは知らないが鵜呑みにするな。お前への対応は基本的に素だ。意地悪でやっていることなんてほぼない」
「ショウ、あなたは分かっていませんね。今のような発言をするから意地悪と思われるのですよ」
「何でだよ?」
「やれやれ……仕方がありません、説明してあげましょう。いいですか? 付き合い始めて日の浅いナノハ達は除外するにしても、ここ最近のあなたはディアーチェ達と比較すると私に対して冷たい気がします」
「……あのさシュテル、それについてはまあ否定できない部分はある。が、それは単純にお前の俺への接し方が他よりも悪いからだぞ」
「おや? 電車が駅に着いたようですね。ショウ、さっさと降りるとしましょう」

 颯爽と歩き始めるシュテルに対して俺は大きく一度ため息を吐いた。今みたいな言動をするから必然的に俺の対応が冷たくなっているのだと理解できないのだろうか。性格的に理解してやっている部分はありそうだが、正直俺が許容できる範囲を見極めているだけに性質が悪い。
 まあ……俺がこいつに対して本気で怒れないだけなんだろうけど。
 シュテルに対して面倒だとか鬱陶しいと思ったりすることはあれど、俺は子供の頃から彼女と付き合いがある。昔は今ほど茶目っ気がなかったし、無口ではあったが気になったことなどは素直に言う可愛い奴だった。
 今でも照れたりしたときはあの頃の可愛さが表に出るだけに心の底から嫌いになれるはずもない。
 こういうことを思っても口には出さない。故に人からもう少し素直になれだの言われるのだろうが、今のようなことを素直に言うのもそれはそれで良くないだろう。
 そんなことを考えているなんて知らないシュテルは、俺に早く来いと言わんばかりに立ち止まってこちらを見ている。
 しかし、俺達はまだ電車から降りたばかりである。この場には行き交う人がそれなりに存在しているだ。その中には急いでいる人もおかしくないわけで……たまたまシュテルにぶつかってしまうこともありえる。今まさに目の前で起きているように

「……っ!?」
「おっと……」

 一連の流れが見えていただけに俺はすかさず倒れるシュテルの手を握った。線が細いなどと言われることがある俺だが別に非力ということはない。自分よりも小柄な女子を助けようとして自分まで転倒する、なんてことは起こらないわけだ。レヴィがたまにやるようなタックルのような愛情表現の場合は別だが。

「大丈夫か?」
「は、はい……すみません」
「別にいいさ」

 そう言って俺達は歩き始める。
 電車という快適空間から出てしまっただけに、言うまでもないだろうが再び熱せられている空気が触れてしまっているわけだ。俺はシャツがへばりつく感覚が好きという物好きではないため、1秒でも早く目的地であるゲームセンター《ステーションアズール》に行きたいのだ。

「…………あ、あの」
「ん、どうした?」
「どうしたもこうしたも……いつまでこうしているつもりなのですか?」

 こうしている、というのは……おそらくいつまで手を繋いだままでいるのかということだろう。
 何故手を繋いでいるかというと、思った以上に人が多かったことに加え、また人にぶつかられたりして転びそうになるのも困るからだ。単純にはぐれてしまうのを防ぐという意味合いもある。シュテルならばレヴィと違ってその心配はない気もするので移動速度を速める意味合いの方が強いかもしれないが。

「最悪……目的地に着くまでだな。予想よりも人が多いし」
「先ほどのこともあるので理由は理解しますが……そこで最悪という言葉を選ぶのはどうかと思うのですが。別にあなたの言っている意味を間違って解釈しているわけではないですが、何というか癪に障ります。というか、この前からあなたは少しおかしいです。私に対してその……スキンシップの取り過ぎというか、距離感を間違ってませんか」

 俺の記憶が正しいならばさっきまでこいつは自分に構えとアピールしていた気がする。今の発言が本音ならば本末転倒もいいところだ。
 とはいえ、俺も馬鹿ではない。シュテルの発言の理由に見当はついている。
 こいつは自分から触れたりするのは問題ないけど、相手からされるのはレヴィとか以外には慣れてないからな。しかも昔から付き合いがあるとはいえ一応男である俺と触れているわけだ。頬に赤みが差していることから考えても照れているんだろう。
 小さい頃は兄妹のような感じだったが、一般的に女子は男子よりも早熟であると言う。これに加えて、シュテルは飛び級している秀才だ。俺と話が合う時点で精神年齢は実年齢よりも上だろう。
 ディアーチェも昔とは違った反応をするようになってるし、あいつは場合によってはアミタ達よりも女の子らしい反応をするからな。シュテルにも恋愛面で見られるような女の子らしい部分が芽生えていてもおかしくはない。
 それだけにここはすんなりと手を放すべきだろう。日頃からかわれる身としては仕返しで続けたい気持ちはありはするが、下手をすると口を利いてくれない状態になったりと面倒な展開になるかもしれない。それを考えると無難な選択をするべきだ。

「それもそうだな。こんなクソ暑い日に手を繋いでるのもあれだし、お前はレヴィみたいに迷子になったりはしなさそうだからな」
「……レヴィと出かけると時は未だに手を繋いでるのですか?」
「最近はふたりで出かけたりしてないが、出かけることがあれば多分繋ぐだろうな。あいつは昔からすぐ引っ付いてくるし、落ち着きがない。そのうえ身体能力が高いから追いかけるのも一苦労だ。挙句に迷子になったりするとすぐに取り乱して最悪泣く……繋いでる方がこっちとしても気が楽だ」

 周囲から見た場合はあれこれと疑われるかもしれないが、ただシュテルやディアーチェに比べればレヴィは面倒を見ているだけと思われることが多い。シュテル達とは別の意味で学校では有名なだけにレヴィの性格は割と知られているから。
 俺としては今の内に必要以上にスキンシップを取るのはやめてほしいのだが。今はまだいいけど、確実に女らしい体つきに変わっていってるみたいだし……数年後には確実に男子にとってよろしくない体になるだろう。ただ性格は変わりそうにないだけに非常に不安だ。

「まあ昔よりはマシにはなってるけどな……なあシュテル」
「何ですか?」
「手を放すんじゃなかったのか?」

 俺はすっかり手から力を抜いているのだが、俺とシュテルの手は繋がれたままだ。恥ずかしいから放してくれと訴えていたはずなのに。

「いえ、大した意味はありません。ただ……あなたに迷子になられては困りますので」
「俺が迷子になるように見えるか?」
「細かいことを気にしないでください。そんなことより早く目的地へ向かいましょう。このままでは無駄に汗を掻いてしまうだけです」

 目的地に向かうことは賛成だが……気にするなと言われて、はいそうですかと納得できる展開でもないのだが。これがまだ他の人物だったなら心境を推測することも出来るのだが、シュテルだと考えられる可能性が人よりも多すぎて確信めいた答えが出ない。
 普段はからかわれたりしているとしても、ここぞというときはシュテルにちゃんと言うことを利かせられるディアーチェはやはり尊敬に値する。

「……何ていうか、お前とふたりで居るとディアーチェの凄さを改めて実感するな」
「どういう経緯でそのような発言に至ったのかは確信がないので追求しませんが、改めて実感する必要もないでしょう。彼女は我らの王なのですから」
「まあ……」

 それもそうだが、と言おうとしてふと気が付いた。今シュテルはディアーチェを我らの王と言わなかっただろうか。ここに居るのが俺ではなくレヴィやユーリならば特に問題はないだろう。
 しかし……俺はダークマテリアルズに所属しているわけでもないし、ディアーチェとの関係性も主従的なものはない対等のようなものだ。シュテル達と同じ括りにされるのはおかしいだろう。
 自分の気持ちに従って指摘しようと思った矢先、タイミング悪く曲がり角から人影が現れ前を歩いていたシュテルが衝突してしまう。
 激しい接触ではなかったが、相手の方が背丈があったようでシュテルの方が飛ばされる。背後に俺が居たこともあり受け止めることには成功したものの、彼女のブレイブホルダーが落下してしまい地面にカードが広がってしまった。

「平気か?」
「はい、大したことでは……」
「紗耶、大丈夫か?」
「う、うん……私は、大丈夫」

 視線をシュテルから前に戻すと、そこには1組の男女の姿があった。長い黒髪の女性は白いワンピースを着ているが、男性の方は上下とも真っ黒……それに加えて同色のサングラスをしている。
 俺自身も黒系統の服装を好みのであれこれと言いたくはないのだが、それでもこのクソ暑い時期に長袖はない。もしかすると肌が弱いので人並み以上に日焼け予防をしているだけもしれないが……だとしても見ている側が熱くなる格好だ。

「あの、申し訳ありません」
「い、え……わ、私の方こそご、ごめんなさ、い! あ……カ、カードが……、すぐ拾うか、ら!」」

 長い黒髪の女性は慌てながらしゃがんで散らばったカードを拾い始める。高校生くらいの年代に思えるが、目元が前髪で隠れているので定かではない。ただ男性の方の背丈や雰囲気からして、少なくとも俺達よりも年上なのは間違いないだろう。
 ちなみに余談になるが、シュテルはブレイブデュエルに関することは人一倍熱くなるところがある。故にカードを傷つけるような真似も傷つけられることも許しはしない。今回の場合はシュテルにも責任があるので問題なかったが、もしもわざとそのようなことをする人間と出会っていたら実に面倒くさいことになっていただろう。

「いえお気遣いなく。私の連れと一緒に拾いますので」
「さらりと人を使う奴だな」
「そういうことを言っても拾ってくれるのがあなたでしょう?」

 まあ……それは否定しない。
 俺がシュテルの連れであることは間違いないし、相手側だけが悪いわけではないのだ。何もしないで見ているだけというのは逆に嫌になる。きっとそれは相手側の男性も同じなのだろう。そうでなければ同じタイミングで腰を下ろしたりはしないはずだ。
 散らばったカードはそこそこ数があるのだが4人がかりで拾えば瞬く間に回収できるものだ。だが残り数枚となったとき、不意に黒髪の女性が動きを止めた。

「こ……こここのカ、カード!?」

 どうやらシュテルが愛用しているアバターカードが動きを止めた理由のようだ。この反応や落ちたものがカードだと分かってすぐさま拾うとしたことから推測するに彼女もブレイブデュエルをやっているのかもしれない。
 そう考えればシュテルのカードを見て動きを止めるのも納得が出来るのだ。何故ならシュテルは全国1位の実力者であるのと同時に最強チームに所属している。知名度でいえばデュエリストの中ではトップに等しいだろう。むしろデュエリストで知らない人間はそうそういないのではないだろうか。

「え、え……うううそ、な……何でシュシュシュ、シュテルさんがこここここんなところ、に!?」
「お、おい紗耶! とりあえず落ち着け……って、おい紗耶!」

 シュテルのカードを持ったまま失神気味になってしまった女性に俺とシュテルは固まってしまう。熱中症にでもなってしまったのだろうか……と考えるのが妥当なのだろうが、状況が状況なだけに太陽にやられたのか、はたまたシュテルという存在を目にしてしまった故にやられたのかは分からない。
 だがしかし、これだけははっきりと分かる。これからの流れが予定していたものとは別のものになるのだと。


 
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