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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-42

 


 翌日。
 IS学園の第一アリーナのAピットには織斑千冬を中心に精鋭たちが集まっていた。もちろん、専用機持ちも戦力として数えられている。それらが精鋭であるかはまた別な話にして。


 集まっている人たちは以下の通りである。
 まずは織斑千冬。言わずと知れた第一回モンド・グロッソのブリュンヒルデであり、今回ここにいる人をまとめる立場にある。
 そしてその弟である織斑一夏。特筆すべきことはないが、ただ専用機持ちであることだけでこの場にいると言っても過言ではない。もちろんそのことは一夏も理解しているし、このままでいるわけにはいかないとばかりにやる気と向上心に溢れている。
 そして、篠ノ之箒。だが、彼女の視線の先には織斑一夏の姿だけしか写していない。そしてその目に宿るのは復讐の炎。その矛先は実の姉である篠ノ之束に。


 代表候補生の面々はセシリア・オルコットを中心にして整然と整列済み。ちなみに彼女が中心なのは一番最初に来ただけである。
 セシリアは本国から連絡を受けて、略取されたサイレント・ゼフィルスを奪還するために訓練を積み重ね、実力は入学当初よりも格段に伸びている。
 シャルロット・デュノア。一夏を守りたい。ただそれだけで本国からの招集を断り、IS学園に残った。本国フランスからは売国奴とかいわれているらしいが、彼女にとっては細事であって、自分の本心にまっすぐ生きていくことにしたのだ。
 そして……ラウラ・ボーデヴィッヒ。もうすでにドイツ国籍を剥奪され、戸籍上では存在しない人となってしまっているが、彼女も学園の優秀な戦力の1人だった。亡国機業に所属していたとされるが、本人の記憶が全くないことと、それでいて千冬にはよく懐いていることがあって、事実上のお咎めなし。無論問題視はされていたが、千冬自身が監視しつつ世話を焼くこともあって表立った問題は起こらなかった。


 そして水色の髪の姉妹。更識楯無と更識簪。
 楯無は自分が思いを寄せていた相手が実は相手にしなければならない組織の中心人物であり、大きなショックを受けていたが、なんとか立て直して更識家という暗部で陣頭指揮を執っていた。
 簪は姉との溝を埋めたことで、IS制作について手伝いを求めることができていた。その結果、専用機である打鉄弐式を完成させることに成功していた。その上、自身の性格に若干の改善の兆しが見え始めている。簪本人も変わろうとしている証でもあった。
 他に二年と三年の代表候補生に加えて、山田真耶といった教師たちも集まっていた。


「さて、すでに話は伝わっているであろうが、改めて状況の整理もかねて説明する。……山田先生」
「は、はい。現在、亡国機業と名乗る組織は中国を落とし、IS委員会の本部を襲撃しました。この襲撃で委員会幹部は3人亡くなり、委員会本体もほとんどその機能を失っています。またアフリカでクーデターの動きも見られ、このすべての動きが後ろで亡国機業が操作しているとみられます」
「ちなみにこのクーデターの動きは各アフリカ政府とイギリス、フランス、ドイツの三ヶ国が軍隊を派遣して鎮圧させるそうよ。向こう側にISは確認されず、たとえ所持していたとしても一機か二機。それぐらいであれば各個撃破を目的とすれば問題ないらしいわ」
「……続けます。亡国機業が占領したとみられる中国については政府メンバーが数名入れ替わっただけで、そのまま変わらないようです。そして、これらの実行犯と思われる者はこちらになります」


 スクリーンに映し出されたのは五名の顔写真付きのプロフィール。その中には一夏たちにとって見慣れた顔が含まれていた。


「……っ」
「つい先日のIS委員会本部襲撃事件についてはこの織斑マドカ、御袰衣麗菜、スコール・ミューゼルの三名。中国襲撃についてはスコール・ミューゼル、凰鈴音の二名が確認が取れ、また現場に銀の福音がいたことからおそらく操縦者はナターシャ・ファイルス。黒兎部隊の隊員も確認されています。これについては元隊長であるラウラさんから確認を取っているので間違いはないかと、以上です」


 真耶の説明に楯無が補足する形で説明がなされ、今彼女たちが置かれた状況についてその場にいる人たちは理解を示した。何が起こっているのか今ひとつ理解でいなかった者も場の空気に流されて形だけ理解したふりをした。それを読み取ったのか千冬はため息を一つついてざっくりと解説した。――――そんなときである、千冬の携帯に電話がかかってきたのは。
 電源を確かに落としたはずなのにかかってきたことに首をかしげる。そして画面を見て非通知であることにさらに首をかしげる。


「もしも――――っ!」


 千冬が固まる。それを見て周りは疑問に思う。動き出した千冬は真耶の耳元でささやいた。彼女はそれに答えるようにスクリーンに映し出した。ノイズが走る通信画面を。いきなり光が走るとそこに映し出されていたのは。


「やあやあ、ちーちゃん、いっくん、箒ちゃん、元気にしていたかな?」


 人なつっこい笑顔を浮かべた希代の天才、篠ノ之束だった。


 ○


「……いったい何のようでここに連絡してきた」
「えー、ひどぉーい。私とちーちゃんの仲じゃん。別にかけてきたって良いんじゃないのかな?」
「……おまえは亡国機業所属だろうが。つまりおまえとは敵同士だ」


 千冬のその言葉を聞いた束の表情はなくなった。先ほどまで浮かべていた人を馬鹿にするような笑みが一瞬にして消えて、顔にも目にも何も宿らない。あるとしたら無だけの顔。
 千冬の背筋を寒気が襲う。初めて見た親友ともいえた人が浮かべる者ではなかったから。


「なぁーんだ、もう知ってるんだ。そうだよ、私が、私たちがこのお遊びを始めたんだよ」
「お遊びだと……! ふざけるなっ! おまえのいう『お遊び』でいったい何人の人が死んだと思っているんだ!?」
「へ……? 何で私がそんなこと気にしなくちゃイケないの? 別に誰が死んだって変わらずに世界は動いているんだよ。……でも、さすがにやり過ぎたって思わないことはないんだけどね」


 千冬が束に噛みつくなか、A-ピットにいた他の面々は驚きと恐怖を感じていた。特に篠ノ之束の妹である篠ノ之箒に顕著に現れている。
 肩の震えが止まらず、自らの両手で体を抱きしめるが、全く効果はなく、むしろ震えは増すばかり。


 束の狂気に当てられたかのように体が動かない一夏。あんな束を見るのは初めてだった。以前、臨海学校の時に対峙したときには、あんな雰囲気ではなかった。こちらを馬鹿にするような、呆れ混じりの同情だった。だが、今はどうだろうか。
 路肩の石ころを見るような、視界に収まっているはずなのにいない者として扱っている。まるでおまえなんかすぐにどうとでもできると言いたげに。


「今日はね、宣戦布告しに来たよ。三日後にIS学園に行く。私たちの決着をつけるために。ちーちゃん、もちろん受けてくれるよね?」
「待て! 決着って何のことだ!」


 ため息をついた。分からないのと言いたげに。そして、唐突に切り出す。


「……ねえ、ち-ちゃん。覚えてる? 私がISを武力で世界に知らしめようとしたときにちーちゃんは止めてくれたよね。でも、私は強行した。その結果が今の世界だよ。ISは道具として使われて、次々とコアは分解されて……。どのコアも私が一つ一つ時間をかけて、精魂込めて作ったのに……。」
「……それは仕方ない。証明の仕方が悪かったんだ」
「そうだよ! 仕方がなかったんだ! あのときの私はそれしか方法が思いつかなくて、結果それが私のコアを苦しめることになった。……私は間違ってたんだよ、ちーちゃん。だから、やり直すんだ」
「……どうやって」
「それが決着につながるんだよ」


 束は笑った。
 それもいつもの誰かを馬鹿にしているようなものではなくて、心からの笑顔を浮かべたのだ。千冬も箒も一夏も見たことのない笑顔を。


「私たちの我儘で始めたからね。終わるときも私たちの勝手だよ。……三日後、亡国機業が保持するIS、全三十二機。全機でIS学園に行くよ。そこですべての決着をつけよう。戦いを望むのは、十二機。だから十二対十二の戦いをしよう。邪魔はさせない。どっちかが死ぬか、負けを認めるまで戦い続けるの」
「殺し合いをするのか……!? そんなこと認められない!」
「別に良いよ、ちーちゃんから認められなくても、私たちは勝手にやるだけだから。それにこれが終わったときに生きてても、待ってるのは地獄だからね。死んだ方がましだよ」


 重い空気が一夏たちにのしかかる。これが本物の戦い。勝たねば死ぬだけの、命をかけた戦い。そんなこと体験したことない彼らは、理解することに時間がかかった。しかし、教師陣に代表候補生はまとう雰囲気を変えていた。


「あ、そうそう。アメリカの国家代表、呼んどいてね。ナターシャ・ファイルスが戦いたがってたから」
「彼女は生きているのか!? そうか、やはり……」
「あと、ちーちゃんの暮桜、万全に調整しておいたから。私との戦いにもけりつけようね」
「……ああ」


 ○


「これでいいの?」
「ああ、というより、最初からこうすればよかったんだよ」


 通話を切った束は、近くにいた蓮に結果を伝えた。
 変に回り道していた。最初から自分たちが望んだやり方でやればよかったのだ。そうすれば、中国を落とすこともなかったし、IS委員会本部を襲撃させることもなかった。アフリカで変に裏工作する必要もなかったんだ。


 蓮はクロエにメンバーの招集をかけるように言った。それから椅子に体を預けるように深く座り、もたれる。その後ろでは束はうつむいたままである。


「……不安か?」
「……とっても不安。何があるか分からない。もしかしたら私かれんくんのどっちかが死ぬかもしれない。クーちゃんが死ぬかもしれない。みんな死ぬかもしれない……。ううん、分かってるの。私が間違ってたんだよね」
「束……」


 先ほどまで電話で飄々としていたのは、どうやら彼女の演技であった。内心は不安で押しつぶされそうで怖かったのだ。
 それを見た蓮は、立ち上がって束の元まで近づくと彼女の手を握った。震える右手で右手を取った。


「……っ! れんくん……」
「俺だって怖いんだ。いつだって戦うことは怖い。それはみんな同じなんだ。それでも前に進むために戦う。それがどんなに自己満足であったって、我儘だって、関係ない」
「……ふふっ、ありがとね、れんくん」


 彼女の笑顔には何回でも見惚れてしまう。それほどに魅力的であった。





 
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