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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第60話:悪い事は出来ない……悪いと思わなければ出来る。

(グランバニア城・地下金庫室前)
ウルフSIDE

俺とリュカさんの前には、半開きの金庫と絶望感を浮かべたマオさんが存在する。
今後の事を想像し、恐怖を全身に纏ってる。
申し訳ないが、その表情が可愛い……きっと俺等の慰み者にされる妄想でもしてるんだろう。

「へ、陛下……じ、実はですね……怪しい奴を見かけて後を追ったら、此処で見失いまして……」
「マオさん……アンタその言い訳通じると思ってるの?」
あまりの言い訳に俺もリュカさんも失笑が溢れる。

「うぐっ……わ、解ってるわよ! 苦しすぎる言い訳なのは解ってるわよ、生意気な金髪野郎ねアンタ!」
「正体を現したよ。あんなに清楚で可憐な気の利くメイドさんだったのに」
「リュカさん……女って怖いっすね(笑)」

「ムカつくわねアンタ達……殺しなさいよ! 国宝に手を出そうとしたんだから、どうせ死刑なんでしょ!? さっさと殺せば良いじゃない!」
逆ギレしやがった、面倒臭ー女だな。

「殺さないよぉ……メモに書いたでしょ。ヘッポコ女泥棒に1万(ゴールド)恵んでやるって書いたでしょ」
「こ、これを書いたのはお前か!? 馬鹿にしやがって!」
マオさんはリュカさん直筆のメモを振り回して怒ってる。

「メモを書いたのは僕だけど、裏の絵はウルフが描いたんだ。盗む予定だった王家の証だよ。本物はあげられないけど、ウルフの絵で満足してよ……1万(ゴールド)もお情けでくれてやるからさ」
リュカさんは以前からマオさんがプライド高い女だと言ってたが、本当にそうみたいだ。『恵む』とか『お情け』とか『くれてやる』等の言葉に酷く反応してる。

「くっそ~……で、でも如何して私が王家の証を盗むと解ったんだ!?」
「違う違う。『盗むと解った』訳じゃなく、盗むように仕向けたんだ。ヘッポコ女泥棒さん、君は僕等の掌の上で踊ってたんだよ、最初からね」

「さ、最初から!? 最初からって何時からよ!」
「君がグランバニアに入国した時からだよ。ラインハットから到着した船を降りる君を見た時から、ヘッポコ女泥棒が我が国に来たとワクワクしてたんだ(笑)」

「嘘吐くなハッタリ国王! 初見だけで為人を理解できる訳ないだろ」
「初見じゃないしぃー! 君がラインハットでラーの鏡を盗む前に、すれ違ってるしぃー」
「す、すれ違った? た、確かにラインハット城ですれ違った記憶は有るけど……」
「一度会った女を忘れる訳ないだろ、僕が!」

「か、仮に……出会ったことを憶えてたとしても、私が大泥棒である事とは無関係だろ! 『すれ違った記憶があったから、泥棒だと思った』等と、誰が信じるか!?」
「案外アホだなマオさんは。アンタがラインハットから消えてから直ぐに、ヘンリー陛下がリュカさんに土下座しに来たんだよ……『ラーの鏡を盗まれてしまった!』ってね」

「あの鏡は元々ラインハットに伝わってきた物だけど、あの国が動乱に見舞われた時に、窮地を救った由緒正しき一品なんだ。でも、あの鏡を手に入れた立役者は僕だったから、盗まれたことを内緒にしておいちゃ拙いと思ったんだね。まぁ根が小心者の真面目野郎だからねヘンリーは(笑)」

「地味なメイドが一人居なくなって、国宝が盗まれたことが知れ渡り、その女が自国にメイドとして現れれば、それが何を意味するのか推理するのは難しくない。とは言っても俺は正直、半信半疑だったけどね……そんな泥棒がしれっとグランバニアに現れるなんてさ」

「……お前(ウルフ)は私が泥棒だと決めつけてなかったのか、先刻(さっき)まで?」
「いや……アンタがオジロン閣下から体を使って暗証番号を聞き出したことで、リュカさんの言い分が正解だと解った」

「あの禿大臣の? ……どういう事よ!?」
「アンタさぁ……オジロン閣下から暗証番号を聞き出した後、直ぐに金庫を開けに来ただろ。でも正しい開け方を知らなかったから、3つのダイヤルに1つずつ番号を入れて失敗しただろ」

「……そ、それが何よ!?」
「俺達さぁ、この部屋に時折来るんだけど、その都度金庫のダイヤルが0に合ってることを確認してからこの部屋を出るんだよね。でもさぁ……オジロン閣下の番号が放置されたままの時があったんだ。意味解る?」

「し、しまった……ガセネタを掴まされたと思って慌てていたわ」
俺達の目の前で可愛いメイド服を着た女が、膝から崩れ落ちて嘆いてる。
いいねぇ……その格好だと胸の谷間が丸見えだ。

「まぁそんな訳で、別に価値なんて無い王家の証を、国宝だと噂流して誘き寄せたんだよ。色々調べたら、君は各地で盗みを働く時、金目の物の他にその家(王家)の重要な宝を盗んでるからね……売ったら足が付くし、戦利品として自己満足に浸ってるんだろ?」

「でもさ、まさかオジロン閣下を落とすとは思わなかったねリュカさん。俺が狙われると思ってたよ……若いから。それとも爺が好みなの?」
「うるさい! 私だってあんな爺は願い下げだったわよ! でも陛下に迫ったら上級メイドの資格を失うし、お前は生意気でムカつくんだよ!」

「吃驚なのはオジロンだよ。あんなに僕の事を非難してたくせに、いざ若い女に迫られたら、ホイホイ体を許しちゃうんだもん。……で、如何だった僕の叔父は? 一応同じ血筋だし、凄いモノ持ってたんじゃねぇ?」

「変なこと聞いてんじゃねぇよ! でも傑作でしたよね……オジロン閣下は懸命にマオさんとの仲を周囲に隠してましたからね。やっぱり気まずかったんですかね?」
「あれ隠してたの? むしろ目立ってたと思うけど……」
確かに……マオさんは常に平静を保ってたけど、オジロン閣下は近くにマオさんが居ると挙動不審だったもんな(笑)

「……で、私を如何するつもりよ!? どうせオモチャにでもするんでしょ……」
「お前、何度言いわせんだ? 捕まえねぇって言ってんだろ!」
そう、捕まえない。でも利用はする。

「そうだよマオ。君の選択肢は3つ有る。まず1つめは、金庫に用意しておいた1万(ゴールド)を盗って(グランバニア)を出る。その場合は、見事盗みに失敗した間抜け女泥棒として世界中に噂と似顔絵を撒き散らす……お情けで金を恵んでもらったヘッポコとしてね」
「そんな選択肢を選ぶなら死んだ方がマシだ!」

「そう? じゃぁ2つめの選択肢は、1万(ゴールド)を盗らずに金庫を閉めて、明日から本気で従順なメイドに生まれ変わり、何事も無かったかのように勤め続ける。この場合はオジロンとの関係も続けてあげてね……男の虚栄心は愛人の質で大きくも小さくもなるから」
「……お前等皆死ね!」
この女……本当は凄く性格悪いんだな。

「そうか、では3つめの選択肢だが……グランバニアの為に泥棒のスキルとメイドのスキルを生かして働いて欲しい。その契約金代わりに1万(ゴールド)を支払おう」
「……スキルを生かす? 具体的には何をするの?」

「それはこの場では言えない。明日の朝、普段通りに出勤してくれ。応接室で待ってる……あぁ、ラーの鏡を持ってきてね。ヘンリーに返すから」
リュカさんは全ての選択肢を提示して出入り口への道を譲る。俺もそれに習い道を空けた。

マオさんは俺等の行動を疑いながら暫く観察して、徐に1万(ゴールド)を掴むと大股で歩き部屋から出て行った。
これで2番目の選択肢は消えた。従順なメイドとして働く気は無いって事だ。

「あの女、明日来ますかね? 1万(ゴールド)もあるんだから、そのままトンズラじゃないですか?」
「来るね、絶対に。プライド高いから……」
俺なら逃げるな。3年間も弄ばれてたんだ……この事実は心を折る。

「リュカさんはマオさんが逃げないって自信あるんですか?」
「あるよ。だってあの女が盗んだラーの鏡は、僕が盗み返したからね、先刻(さっき)。如何やったか聞かないと気が済まないさ」

そうなのだ……マオさんが自室を出て、金庫(のダミー)を開けるまでの間に、俺とリュカさんは彼女の部屋に侵入して、隠し金庫からラーの鏡を盗んでおいたんだ。
それなのに明日返せと言う、ハンパない嫌がらせ。

因みに盗んだ方法だけど、至極簡単。
過去の世界から持ち帰った最後の鍵を使って部屋に侵入し、レミラーマを使って隠し金庫を見つけ出し、もう一回最後の鍵を使って金庫を開ける。これにて盗み完了。蛇足だけど、この国には最後の鍵が2本ある、もう1本はアルル所有

金庫の鍵だが、鍵穴の形状を見る限り凄く特殊な鍵であろう事が推測される。
きっとマオさんが肌身離さず持ち歩いてるに違いないと思う。
鍵が何なのか解らないけどね。

「さてと……明日になったらマオに仕事を頼むけど、もしかしたら必要経費として金をせびられるかもしれないから、5万(ゴールド)ほど用意しとこうか」
「リュカさんにお任せしますよ」

開けっ放しのダミー金庫を眺めながらリュカさんが同意を求めてきた。
反対する理由もないし、決定権は国王陛下にあるから同意する。
そんな俺の反応を見たリュカさんは、苦笑いしながら金庫へと近付く。

そして扉を閉めると、マオさんが使用した青のダイヤルを0の位置へ戻し、中央のハンドルを勢いよく反時計回りに元の位置へ戻すと、黄色いダイヤルに俺の暗証番号・青のダイヤルに自分の暗証番号・赤のダイヤルにオジロン閣下の暗証番号を順番に入れて、中央のハンドルを力任せに反時計回りに3周させる。

全ての作業が終わり、金庫の扉全体から“ガチャン!!”と大きな音がすると、ハンドルを掴んで向かって右に扉をスライドさせる。
するとダミー金庫全体が動き、その奥に本物の金庫室がお目見えした。

「ホント性格悪いっすよね。泥棒にダミー金庫を破らせて、失敗したと心を挫き、本物の金庫はその奥に存在する。しかも開け方だって、全ての情報が嘘だった訳じゃ無いんだから……再度金庫の開け方の情報を集めても、大半が騙された情報と同じだから、信じることが出来なくなる」

「そんなに褒めるなよ、照れるだろ」
「どっちかと言えば褒めて無いっす。『性格悪い』って貶してるッス」
俺の言葉にケラケラ笑いながらリュカさんは金庫室へと入っていった。

さてと……
明日はまた忙しくなりそうだし、今日は早く帰って寝よう。
マリーとリューノは“疲れてる”と言って無視だな。

でもリュカさんは頑張るんだろうなぁ……

ウルフSIDE END



 
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