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偉大な母

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第二章

 とかく子沢山だった、それでだ。
 いつもシェーンブルンの中で政務の合間に夫である皇帝と共に自分と皇帝の間の子供達を見てだ、侍女達に満面の笑みを浮かべて言っていた。
「私はこれ以上はなく幸せです」
「ご子息、ご息女にですね」
「これだけ恵まれているので」
「だからですね」
「幸せだと言われるのです」
「そうです、皇后としてです」
 あくまで夫を立てて言う。
「よき国と民を持ち、妻として」
「皇帝陛下ですね」
「あの方がおられ」
「そしてですね」
「はい、そしてです」
 今度はこう言うのだった。
「これだけの子供達がいるのですから」
「ご母堂としてもですか」
「多くお子様方がおられる」
「そのこともですか」
「幸せだと」
「そうです、子供は幾らいても過ぎるということはありません」
 まさにというのだ。
「ですから」
「それでは、ですね」
「これからもですね」
「皇后陛下はお子様方をですね」
「愛されていかれますね」
「勿論です」
 白く整った髪と見事な青い目を持つふくよかになった顔での言葉だ、面長で鼻が高く見れば下顎が少しだけ出ているがさして気にならない。
「夫と共に」
「ですか、それでは」
「またご懐妊ですが」
「もうそろそろ」
「用意をされては」
「いえ、政務があります」
 ごく当然にという返事だった。
「ですから」
「お休みになられず」
「そのままですか」
「政務を執られますか」
「そうされますか」
「そうです」
 これまで通りというのだ。
「そうします」
「わかりました、では」
「今日もお励み下さい」
「その様に」
「そうします」
 侍女達にこう言って実際にだ、皇后いや女帝は政務を続けた。そうして遂にその時が来たが。
 皇帝が共にいる部屋の中で出産をした、しかし。
 一時間半程休んだ、するとすぐに周囲にこう言った。
「では今からです」
「はい、これよりですね」
「ご政務にですね」
「励まれますね」
「そうします」
 こう言って実際にだ、女帝は政務に戻った。そうして国家の全てを取り仕切るのだった。
 その女帝をだ、オーストリアの民達は心から賞賛して言った。
「素晴らしい」
「見事な方だ」
「いつもそうして政務を執られるとは」
「尚且つ皇帝陛下も立てられる」
「ご夫君として」
「しかもごぼ母堂としてな」
「常に教育も忘れておられない」
「国の主として奥方としてご母堂として」
「あそこまでの方が俺達の主なんてな」
「素晴らしい話だな」
 こう言うのだった、そして。
 皇帝はまただ、友人に言うのだった。
「だからね」
「あれだけの方だからですか」
「私はとても及ばないよ」
「極めて偉大な方だからですか」
「私には過ぎたる妻だ」
 ただ家柄がいいだけではなく、というのだ。
「まさにね」
「そこまでの方だからこそ」
「妻が家の全ても取り仕切っているんだ」
 妻として母としてというのだ。
「それでは私はね」
「余所者ですか」
「如何にも。私は子供を授けるだけだよ」
 あくまで、というのだ。 
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