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ワーグナーの魔力

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第二章

「あの作品はね」
「そうなんですね、他に代表作は」
「やっぱりリングだね」
 シュツルムは確かな声でこう言った。
「代表作は」
「十五時間の上演時間の」
「四日かけて上演されるね」
「あれですか」
「代表作といえばね」
「そんな作品他にないですよね」
「歌劇のジャンルではね」
 そう呼ばれる作品の中ではというのだ。
「あの作品だけだね」
「そうなんですね」
「とにかくワーグナーの作風は壮大でね」
 リング、即ちニーベルングの指輪に代表される様にだ。
「音楽も独特な神秘的というか」
「あのローエングリンの曲みたいに」
「それまでの作曲家とは全然違うんだ」
「モーツァルトやベートーベンよりもですね」
「モーツァルトで音楽は一旦変わったんだ」
 ミューズの子とまで言われた天才の音楽によってというのだ。
「大きくね、そしてね」
「ベートーベンでまた変わって」
「ワーグナーでもなんだよ」
「変わったんですね」
「それも大きくね」
「モーツァルトやベートーベンに匹敵する作曲家ですか」
「しかも自分の作品だけを上演する劇場まで造った」
 シュツルムはプロホヴィッツにこのことも話した。
「そうした人だよ」
「バイロイトにですね」
「これを成し遂げたのもワーグナーだけだよ」
「本当に凄い人なんですね」
「まさに音楽の歴史に名を残す巨人だよ」
「その巨人の音楽が」
「そう、ワーグナーでね」
 そしてというのだった。
「彼の音楽はローエングリンやリングだけでないんだ」
「あの、他の曲を聴いてもいいですよね」
 シュツルムの話にこれまで以上に興味を覚えてだ、プロホヴィッツは言った。
「そうしても」
「勿論だよ、誰がどんな音楽を聴いてもね」
「いいんですね」
「音楽は万民が聴くものだから」
 それ故にというのだ。
「ワーグナーもだよ」
「それじゃあ」
「ワーグナーの作品のことに詳しい本を持ってるけれど」
「その本をですか」
「よかったら貸すよ」
 穏やかな笑みでプロホヴィッツに言った。
「どうかな」
「お願いします」
 即座にだった、プロホヴィッツは答えた。
「是非読んで」
「そして勉強してだね」
「ワーグナーの曲を聴きます」
「そうするんだね」
「はい、そうします」
 必ずと言ってだ、そしてだった。
 プロホヴィッツは実際にだった、シュツルムからその本を借りてだった。
 まずはワーグナーの本を読んでだ、それからだった。
 ワーグナーの音楽を聴いた、図書館に全曲があり時間を見付けて視聴した。フルトヴェングラーやベーム、カラヤンの指揮するそうした作品を。
 バイロイトで上演する作品も初期の作品も全て聴いた、かなりの時間をかけて。
 そしてだ、シュツルムに恍惚とした声で話した。 
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