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第三章

 こうした状況が続いた、とかくだ。 
 ドイツ空軍の航空機は航続距離が短くだ、どうしてもだった。
 ベルリンのゲーリングもだ、側近であるケッセルリンクやミルヒ達の報告を聞いて苦々しい顔になって言った。
「つまりだな」
「はい、航続距離の問題で」
「特に戦闘機隊が満足に戦えていません」
 ケッセルリンクとミルヒがそれぞれゲーリングに言う。
「そうした状況が続き」
「戦果は思う様に上がっていません」
「こちらの損害ばかりが増えています」
「戦闘機が帰還する時、戦闘機の護衛がなくなった爆撃機が攻撃されています」
「双発の戦闘機を爆撃機の護衛につけましても」 
 今度はグライムがゲーリング、航空相そして国家元帥の席に白い特注の軍服を着て座っている彼に話した。
「それでもです」
「そちらは航続距離があるがな」
 メッサーシュミット110はとだ、ゲーリングも応える。
「しかしだな」
「はい、こちらは機動力がなく」
「イギリスの戦闘機達に撃墜されているか」
「そうです」
「何ということだ」
 その太った顔を歪ませてだ、ゲーリングは歯噛みした。
「こうなるとはな」
「はい、まさかです」
「想像していませんでした」
 ケッセルリンクとグライムが言う。
「このままではです」
「作戦が停滞してです」
「我が軍の損害ばかりが増えていきます」
「制空権の確保どころか」
「閣下、ここはです」
 ミルヒは冷徹とさえ思わる淡々とした口調で彼の上司に言った。
「ご決断もです」
「するしかないか」
「はい、総統はソ連との戦争を考えておられますね」
「その話はここから外に出してはならない」 
 ゲーリングはミルヒを睨む様にして見て答えた。
「まだ諸君等と私だけの話だ」
「空軍においては」
「そうとだけ言っておく」
 これがゲーリングの返答だった、ソ連についての。
「いいな」
「わかりました」
「しかしだ」
 ゲーリングはあらためて言った。
「確かにそのこともある」
「では」
「私としては空軍でまず何とかしたいが」
 彼の取り仕切るその軍でだ。
「この状況ではな」
「戦いは次が正念場です」
「そうだ、総統の書かれた本にもある通りな」
 我が闘争、この時のドイツにおけるもう一つの聖書にだ。
「次にかかっている」
「それでは」
「空軍はその時に多くの戦力を投入する」
 陸軍と同じくだ。
「だからだな」
「この状況が続けば」
「そうするしかないか」
 苦い顔のままでだ、ゲーリングは言った。
「イギリスを何とかしておきたいが」
「お気持ちはわかりますが」
「そうだな、これではどうしようもない」
 ゲーリングは決断を迫られていた、それはヒトラーも同じでだ。
 遂に決断を下してイギリス上空での戦いを止めた、そこに向けていた空軍の主力を東部ソ連の方に向けた。
 その顛末を見てだ、源田は大西に言った。 
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